沈み行く太陽
竜神教とは違い主義主張が同じでもその主義主張が荒っぽいし裏技であの力を得ているからなのか気性が激しい。味方に突き飛ばされたりすれば突き飛ばし返したり、刺されようものなら別の仲間が刺したりと地獄のような展開だ。彼らは今自分たちが何と戦っているのかすら忘れてる気がする。
大規模戦なんて初めてだろうしいつも圧勝で戦いらしいものもしていなかっただろうというのが手に取るようにわかる。
「面白いかね? 康久君、いや神の使途よ」
その言葉の主は例の別方向から来た金色のプレートアーマーだった。羽も陰険銀髪メガネとは違い鳥の羽で一見するとあっちが神の使途って感じだ。
「面白くは無いですよ人間の愚かさを見せつけられているようでね」
そう答えると相手は顔を上に向け声を上げて笑う。僕は敵を倒しつつ注視する。リベリさんと見た目が同じ感じだからこの人も確実に陰険銀髪メガネより上だろう。こちらが隙を見せたらすぐさまそこを突いてくるに違いない。
「その通りだね。あっと……手が滑った。皆も手が滑っても仕方ないぞ? こんな乱戦ではどうしようもないのだから」
そう言いながら銀色のプレートアーマーを豪華装飾が施された金色の剣で鎧ごと突き刺し打ち捨てた。それを見た他の金色のプレートアーマーたちは僕に向かってきつつもその途中に居た銀色のプレートアーマーを切り付け始める。
「な、何をするだァーツ! イスカリオテ! 乱心したか!」
「乱心? 乱心などしておらぬよマウロ。お前が常日頃言っていたように無能な奴は敵でも味方でも処理するのが正しい。我らが覇道に虫は要らん」
陰険銀髪メガネことマウロの銀プレ軍団とは違いイスカリオテの金色軍団は統率が取れていた。それ故に迷いなく処理を慣行、それを見て恐怖した銀プレ軍団は潮が引くように下がっていく。
「流石に命は惜しいのか。敵を倒すのが目的なのに我らに名誉まで譲ってくれるとはマウロたちはお優しいなぁ皆」
僕と女神様、そして金色軍団が綺麗に右左に分かれて対峙する。間の穴からは悲鳴が聞こえていたけど、彼らは悠々と構えていた。最終的に勝てばお構いなし。いよいよ本体が出て来たかって感じだ。乱戦で楽できた今までとは違う。気を引き締めて行かないと。
「くそぉおおお!」
「危ないぞ? 康久君」
背後から突進してきたマウロに対して迎撃しようとした一瞬の隙を突いてイスカリオテは僕の背後に居た。やられた! と思った僕はその後素早く相手に反撃する為に構えていたけどイスカリオテは僕を通り過ぎマウロの頭部へ突進飛び膝蹴りを食らわせた後、転がるマウロの腹部を更に蹴り上げて空の彼方へ飛ばしてしまった。圧倒的じゃないか……。金のものを身に着けるのが怖くなってくる。実力も品格も伴わなければ田舎のヤンキーと変わらないっていうのをまざまざと見せつけられた。
「何をしているのです? イスカリオテ」
「これはこれはお母様まで何をお言いになられるのか。戦場を乱す虫を排除したまで。あれが動いては何れ私に切っ先を向けてきましょう」
「ならば相応の働きを。このままでは我らの領域が壊れてしまう」
「心得ておりますとも。ですが母上、そろそろ五頭竜を呼ばれた方が宜しいのでは? 彼らは常軌を逸している。我らも相当の力を頂き能力は上回れても不死の兵と戦い続けるのは至難の業」
「私に意見するな……虫けらが!」
月読命は目を真っ赤にし見開き更に牙に覆われた口を開きつつイスカリオテに対し激高する。それを聞いてイスカリオテはやれやれというポーズをした後僕たちに向き直る。
「どうやら私の忠告は聞き入れてもらえないようだ。なら仕方ない君たちは私たちがお相手致そう」
「その必要はないよ」
女神様が食い気味でそう言う。僕が視線を向けると悪そうな顔をして微笑んでいる。何をする気なんだ?
「愚かな女……気でも違えたのかえ?」
「お前じゃねーんだからそんな訳ないだろ?」
「イスカリオテ早くこの女を黙らせろ……!」
見下すように言ってみたものの思いっきり返されてブチキレる月読命。それを見て女神様は高らかに笑う。数的にもこっちが劣勢なのに相変わらず強気だなぁと呆れつつも頼もしさを感じてしまう。
「別にそう急がなくても黙りますことよ? もうアタシの仕事は完了した。アンタとも顔を合わせなくて済むと思うと清々する」
「どういう意味だ女神ウルド。負け惜しみにしても笑えない」
「芸人じゃないんだから笑わせようとしてないし……康久、悪いけど頼むね。これ以外の方法を思いつかない。前にも言ったけどアンタは心が死ななければ何度でも蘇られる。但しそれには激痛が伴う死ぬのと同じね。だから気付かない内にその疲労疲弊を溜め込んでいる。体だけでなく心も癒すのが重要だと覚えておきなさい。後チート能力上手く与えてあげられなくて御免ね」
まるで遺言のような言葉に嫌な予感しかしない。胸がざわざわするけど言葉が出ない。何か伝えなきゃいけないのに。今までの出来事が急に頭に流れ始めそれを振り払うように頭を振る。
「じゃあね……女神の劫火!」
優しく微笑む女神様。こんな時だけ女神様とは……遺言が優しい笑顔なんて最悪だ。地面が強い振動を起こし女神様が太陽を落としたクレーターの中心からマグマが吹き上がる。直ぐに地面はひび割れマグマに飲み込まれていく。僕は沈みゆく女神様の手を掴みたかったけどそんな間もなく消えていった。
「何をしているのかね?」
「何をやってんだ!」




