僕にはきっとねぇ……チート能力なんて無いんだぁ
「ラティ!」
扉をこじ開けて入るとそこは塵埃一つない無菌室のような白以外の色も見当たらない部屋というより空間と言った方が正しいような場所だった。こんなところに一日居たら落ち着かないだろうなぁと思いつつ部屋の中を見回していると窓際に人が居た。急いで駆け寄るとその人物が振り返る。
「あら貴方誰?」
そこに居たのは白い寝間着を着た見知らぬ少女だった。髪の色はピンクで背丈も似ているけど顔立ちは童顔でほわんとした感じの柔らかい感じで目が垂れ目のぼうっとした表情をしていた。風邪とかじゃなくて常時こんな感じっぽい気がする。僕がまじまじと見ているとおでこを右人差し指でなぞり始めた。暫くするとおでこの中央が赤く光り僕は身の危険を感じて咄嗟に体をずらした。
元居た位置には穴が開き少女のおでこを見ると何か紋章のようなものが浮かび上がっていた。
「ど、どうもすいません突然お邪魔をしてしまって。自分は野上康久と申します……」
どうしたものか分からず取り合えず体をずらしたまま硬直し挨拶してみると、少女はくすくすと笑い始めた。まぁ笑われても全く問題ない寧ろ良かったかもとすら思っている。僕も釣られて笑い始めて少し経つと足音が聞こえて来た。反射的に即近くの物陰に隠れてしまった。
「大司教様突然失礼いたします。ここに怪しい男は参りませんでしたか!?」
入ってきた人物が少女に問いかける。少女は一瞬僕に視線を送った後ニヤリとして下を指さした。これは終わったなと思って乱戦を覚悟したけど
「下に行くって出て行ったわよ」
そう答えたのを聞いて足音はここから急いで去っていった。僕は緊張が解けて一息吐き改めて兵士の言葉を思い出す。大司教とか言ってたような……?
「こんにちは貴方が康久ね。初めまして私はパルヴァっていうの。一応竜神教の大司教をしているわ」
この見た目で大司教……大司教ってめっちゃ位階が高いんじゃなかったっけか? 容姿で判断してはいけないけど肩書に驚きを隠せずにいる。
「あの、僕をご存じで?」
「勿論。ラティ様から話は聞いているわ。でも今は逃げなさい。例え貴方でもゴールド帯で統一された騎士団相手に切り抜けられない」
ラティと話したのか。となるとまだここに居るんだな。僕はそれが分かってほっとすると同時に立ち上がる。
「ご忠告感謝します大司教。だけど僕はそうする訳にはいかないんですよ。彼女といるのは僕の大事な生きる意味の一つなので」
そういって立ち去ろうとしたけど袖を掴まれる。あまりここに時間を掛けられないんだけど何か話があるのだろうか。
「ぼやかしはダメね……ハッキリ言うわ。今の貴方では助けられないのよ。ラティ様の周りには特大の結界が張られている。この星のエネルギーを利用し太古の魔法陣を利用して組まれた檻。貴方はそれをどうにか出来る? 理屈も仕組みも分からずに」
その話を聞いて師匠が首都へ行き調べて来いと言った意味をまた知れた。首都ではデラウンでは思いもしないような技術が開発されているようだ。何より聞き捨てならないのは星のエネルギーを利用ししかも魔術まで使っているという点だ。
月読命によってこの星の魔術粒子は消滅している。だけどその文献やらはあっても可笑しくない。となると星のエネルギーで代用して魔法を使っているのか。そうなると僕のチート能力もやっと日の目を見るんじゃないか? 僕は魔法を無効化出来る。それで魔法陣を突破して崩せば。
「過信は身を亡ぼすわ。魔法陣の仕組みも分からずゴールド帯で揃った騎士団相手に単騎で挑むなんて」
「御忠告どうも。それでもねやらなきゃならない時があるんすよ」
ここは引けないところだ。何回でも死ねるなら一人に対して一回死ぬって感じでならいけるだろう。
「……聞きしに勝る馬鹿だなお前」
「え!?」
「え!? じゃねーよ馬鹿かお前は。リベリ相手に全く歯が立たなかったって聞いたぞ? 一人一人はリベリに敵わなくともそれに近い実力者が五十は今ここに居る。ラティ様の周りはその中でも指折りの実力者を揃えてる。何よりデュマスに手玉に取られてる奴がどうやって抜けるんだ? あ!?」
人が変わったように乱暴な口調で詰め寄ってくる大司教様。怖すぎるよこの童顔ヤンキー。
「ちっ口で言って分からないなら……」
大司教が両手を僕に向けて突き出した。その掌が光ると僕の周りに網が現れる。これは……魔法!? あっけに取られた後、僕は恐る恐るそれに触れてみる。だけどやはり僕には効かない。ニヤリとして大司教を見ると目を座らせた。マジで怖いよこの童顔ヤンキー大司教って本当なのか?
「バーカ!」
捨て台詞を吐かれた後、僕は何故か空に居た。理屈が全く分からない吹っ飛ばされた? 何で!? あの駄女神めまた嘘か! 耐性に全振りしたとかいって効いてるじゃないか! これはもうチート能力なんてゼロだったと認めるべきだし訴えたら勝訴確定案件に違いない! 二番じゃダメなんでしょうか? って言いそうだあの駄女神最悪だ。
――ダメなんでしょうか――
ダメに決まってんだろチートの意味を考えて駄女神! 魔術魔法に耐性にチート能力を掛けてるけど効くって意味分からないからね? チート能力を全部振ったのに効くってそれチートじゃねーから!
――……お前タダで済むと思うなよ? それ以上駄女神って言ったら果てまで吹っ飛ばすパンチをお見舞いするぞ?――
うっせバーカバーカ! 畜生……史上ここまで不遇の異世界人が居ただろうか? いや居ない。死ぬほど痛いけど死なないしか取り柄が無くて他全部上を行かれるとかどうなってんだ!? 最強では全くない!
「そんなの今言ってる場合じゃない……ここどこだ!?」
周りを見渡しても見覚えがない……マジかよ町すら見えないんだけど!




