新たなる冒険の序章
「黒竜だ! 黒竜が来たぞーーー!」
けたたましい金の音と叫び声で目を覚ます。布団に突っ伏し寝ていたようだ。窓の外を見ると、真っ暗な町に明かりが灯っていた。だけどその声と音に反応して皆明かりを消し始める。僕は恐らく重くて払いのけたであろう、床に落ちているグレートボウガンと筒を抱えて下へと降りる。
カウンターや椅子には誰もいない。この騒ぎで出て行ったのだろう。僕も生活の拠点がここだし他の街は知らないから迎撃しないと。先ずは敵を視認しようと思い僕も外へと出る。
街は必要最低限の人しか居らず、家に居るようだ。空を見上げて目を細めると、綺麗な星の瞬きを塗り潰す様に物体が動いている。あの高度だとこの位置から撃ったところで弾は重力に負けて届く前に落ちるから意味は無い。
筒の中を見ると、弾はまだ詰まっている。取り合えず追い払うくらい出来たらそれで良い。だけどあの竜の目的は何だ? 餌を求めに着たのかそれとも気に入らないから襲いに来たのか。意思疎通が出来れば良いけど流石にそれは無理だろう。前に戦った竜もそうだし。
「家から出るな! 中へ入るんだ!」
僕に鎧を来た人物が声を掛けて来た瞬間、例の白い建物に火の玉が落ちて来て破壊音がした。
「助けに行かないんですか?」
「あそこは我々には手は出せない」
「人が死ぬかもしれないのに?」
問いに兵士は目を逸らす。僕は彼を無視して火の玉が落ちた白い建物へと向かう。
「ああ……」
建物の屋根が壊れ火の玉が落ちたであろう場所から炎が吹き上がっていた。中で生活している人が居ただろうから、油もあっただろうしひょっとするとガスもあったかもしれない。ただ誰一人として建物から出てきた人が居ない。
「全く」
僕はグレードボウガンと筒を背負いオアシスの泉へ飛び込んだ後、建物へと入る。中は当然火があちこちに移っている。壁は石でも天井や梁は木材だ。このまま行くと壁と床以外何も残らなくなる。
「何をしてるんだ! 早く外へ!」
「ああ見知らぬ人夜分に我が教会を訪れるとは。何に迷われていますか? 我が教団に」
火に包まれながら歩いている人に声を掛けローブを脱がそうとしたけど避けられた。更に自分が火に包まれているのが分からないかのような言葉を発していた。だけど火は全身に燃え広がって呼吸が止まったのか倒れこんだ。
「なんて根性してるんだ」
見ればあちこちで火が燃え移ったり燃え広がる中で膝を付いて祈りを捧げていた。一体何の為に祈るのか。命を失っても良い祈りなんてあるのか。
「誰か! 誰か居ないか!?」
声を掛けても返事も無い。ただ何か勘がこの奥へ進めと言っている。瓦礫を吹っ飛ばして奥へと進む。一瞬気を失っただけで大分基礎能力が上がったらしい。ただ火が燃え広がり酸素を奪うのは変わりないようだ。
「ったく!」
僕はグレートボウガンを下ろし玉を込めて地面に置き、足を掛けて手で引いて天井へ向かって放つ。天井が破壊され篭もるのを多少改善した。ただ気休めも良いところだ。
「これは」
一番奥の荘厳な白い扉を蹴り破ると、その奥のレースのカーテンの更に奥に誰かが横になっているのが見えた。ここだけ別世界のようだ。
「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」
声を掛けながらレースのカーテンを開けベッドを見ると、タオルケット一枚だけ掛けて横たわるピンクの髪の色をした白いワンピースを着た少女が居た。喉と右肩の付け根、それに目に包帯を巻いている。血が滲んでいたけど、どうやらそれは前のようで今は止まっているらしい。
「声が出ないのか」
僕の声にびくりと反応し、上半身を起こした後後ずさる。
「悪いけど外は火事で火の手が迫ってる。ここに居ても竜の火は届かなさそうか?」
言葉は理解出来るらしく、首を横に振る。
「なら今は命が優先だ。ご丁寧に手を引いてられないから悪いけど」
そう言いながら近付き、タオルケットを巻いてそのまま抱きかかえ
「どっせえええええい!」
壁へ向かって体当たりをかまし突き破って外へ出る。
「グォオオオオオオ!」
「嘘だろ……?」
さっきまで上空に居た奴が目の前で待ち構えていた。




