カーマへ侵入その二
カーマの町は見た目は全く変わらないものの、路地などには竜騎士団の兵士たちがぽつぽつと要所を抑えて立っていた。これなら見逃さないという盤石な配置にこれを指揮した人間の用心深さが窺える。これで打つ手無しならマクシミリアンの諜報能力は凄くないんだけど、彼は人の家の扉を開けて入り込んだ。突然の行動に驚くも騒ぎになると不味いので急いで後を追って入る。家主の男性はとても驚いていた当たり前だけど。
「突然申し訳ない。私たちは地方から首都へ巡礼に来た者なのですが、初めて見る兵士の方々や町の異様さに驚いてしまい不躾ながら飛び込んでしまった次第。どうかお許しください」
めっちゃそれらしい設定で丁寧に謝って許しを請う。だけど冷静に考えればいきなりカギを開けて家に入ってこれられてそうですかとはならないだろうと突っ込みたい気持ちで一杯だった。
「そ、それはそれは遠いところをご苦労様です。どうぞお掛けになってください」
それを聞いて膝が落ちそうになった。びっくりするわそんなん。デラウンでやったら刺されても可笑しくない状況なのに。混乱して判断が鈍ったところに身内だ宗教だと畳みかけて相手に可笑しくないと思わせるとは。マクシミリアンは諜報活動より詐欺の方が上手いんじゃないかと思い始める。斬久郎さんも引っ掛けられたし。
マクシミリアン以外は頭にはてなマークを出したまま席に着く。するとマクシミリアンはやおらお題目のようなものを唱え始めると、家主もそれに合わせて手を組みテーブルの上に肘を乗せて目を瞑り僕も真似する。暫くして声が途切れると同時に目を開けると家主も開けていて有難い有難い言ってた。宗教に入る機会は無かったので分からないけど、皆純粋なんだなぁと思った。これなら物言わぬ兵士を作るのも楽だろうとも思った。
「先ほどの話ですが外にいるのは竜騎士団第十騎士団です。今日は何やら統治局で会談があるとかで有り得ませんが万が一に備えて町を警備してくださっているのです」
家主の説明にマクシミリアンは笑顔で頷く。そこから家主は第十騎士団の説明をしてくれた。なんでも第十騎士団は新設された団でその団長はとても信仰が厚い人物がなり、今までに無い画期的な方法で抜擢されたので教団内は盛り上がっているという。マクシミリアンが家主にもチャンスがありそうだと言うと照れ笑いをした。
これを見る限り本当に画期的な抜擢なんだろう。普通の信者にもチャンスがあると。第十騎士団団長のデュマスは一般信者の希望の星なのかもしれない。それを倒すとなると胸が痛むなぁ。何かの間違いで仲良くなれないかな。強い弱いじゃなくて面倒だしこれ以上ストーカー増やしたくない。前の世界じゃ僕がストーカーになりそうとか言われ濡れ衣を着せられたのに、こっちに来たらストーカーが出来たとかギャグでしかないししかも男とか辛すぎるわ。
「もし宜しければ統治局まで御一緒しましょうか? この町の者でしたら怪しまれたりしませんから」
一通り話が終わると家主がそう切り出した。個人的には巻き込みたくないのでお断りしようとすると、マクシミリアンが遮りお願いしますと言う。あまりに都合が良すぎて怪しさ満点なんだけど。いざとなったら逃げれば良いんだろうけど怖すぎる。そう思って僕は敢えて申し訳ないのでとお断りすると家主はこれも善行になるからと笑顔で却下された。そこを持ち出されると断れない。一応信者の設定なので仕方なく受け入れ家を出る。
家を出る瞬間ふと視線が気になって家主の家の二階窓を見た。一瞬人影のようなものを見た気がしたけど二人に呼びかけられ急いで後に続いた。出来ればしっかり確認したかったなぁと思いつつ僕らは統治局がある場所へと歩き始める。途中第十騎士団の人間に聞かれたけど、家主の説明に納得したのか簡単に通してもらえた。
気になったのは他の人間は結構長めに質問されていた。この町の者じゃない道端に寝ている人だからかもしれないけど何か引っ掛かる。疑いだしたらキリがないけど誰一人信じられないと言う状況がここまで混乱させるんだと再認識した。一人でも信用信頼出来る人が居る状況の如何に有難い状況だったか身に染みて分かる。
引きこもりの頃は例え一人になっても生きていけるだろうととんでもない楽観視をしていたけど有り得ないのがこの世界に来て痛いほど理解した。チートや師匠による修行が無ければ無限に死んでいた可能性が高い。何より今も人に頼って目的を達成しようとしている。多勢に無勢では単騎ではどうしようもないからだ。
難しいけど信頼信用出来る人は沢山居た方が楽だ。相手に求めるんだから自分もそうで無きゃならないのは大前提としてある。人嫌いで人と関わりたくないと思っていた僕がそう改めるんだから、異世界に来て良かったんだと思う死ねないけど。そう考えるとマクシミリアンは相手に信用させ自分も相手を信用するってのが出来てるのかなと思う。こういう点では僕はマクシミリアンに敵わない。




