竜騎士団(セフィロト)と黄金剣士
「そんなの分かるはずないだろ」
僕はそう言って竜騎士団の列に視線を戻す。今までよく竜騎士団は見逃してくれていたと思う。それともラティ自身が来るなと伝えていたのか。僕は頭を振る。ラティにまで疑いを向けたらダメだ。横に居て何も言わず尽くしてくれたラティを疑うなんてそんな……。
「いよぅ御両人、ここに居たのか」
眉を顰めてその声の方向を一応見た。音も無く近付いてきたけどその気だけで分かる。若干高揚しているのか好戦的な気を放つこんなシチュエーションが好きな人物。
「噂をすればなんとやらか。旦那よくここに来れましたね」
「フン。人に勝手に噂話をされるのは嫌いでね。それよりマクシミリアン、ここで油を売ってないでさっさとカーマを調べて来い。次くだらない真似をするならお前の家族を一寸刻みで処理していくぞ?」
そう言われてマクシミリアンは体を震わせ足早に僕の横をぶつかるかぶつからないかのギリギリで通り過ぎてカーマへと向かう。
「月読命一派のリベリさんと御呼びすれば良いのか竜騎士団のリベリさんと御呼びすれば良いのか」
「おいおい俺を知ってるお前さんがそんな呼称に拘るとはがっかりさせないでくれよ。俺は俺の目的を果たす為に日々生きているんだからな」
黄金色の鎧に身を包んだリベリさんがそう言いながら近くの木を音も無く切り倒し、倒れてきた幹を更に細切れにした後切り株に腰掛けながらやれやれといった顔をしつつ言った。
「知ってるのは一面だけですが」
「それが全てだ。それ以外何もない」
「竜騎士団では相手にならないと?」
「竜騎士団だから相手にならないし相手したい奴は上層部だから簡単に手は出せない。まぁ竜騎士団でも見どころのある下のやつらはギルドにスカウトして遠方に修行に出している。あんな組織に居ると自分自身が強いと勘違いする。その勘違いは武人にとって致命傷だ」
リベリさんの言葉に驚く。よくそれを知ってて竜騎士団は見逃してるなぁ。彼の人生そのものとも言える”強者”を求める目で選んだ人たちであれば当然凄い人物たちだろう。その行為は彼らの弱体化に繋がってるんじゃないのかな。
「竜騎士団はゴールド帯でも敵わないって聞きましたけど」
「十対一のゴールド同士の戦いならそりゃそうだろ」
強い相手を求めそれをねじ伏せるのを生甲斐とするリベリさんは呆れ果てたように吐き捨てる。それを聞いて僕は納得した。確かにそれなら敵う訳がない。多勢に無勢だ。ギルドのゴールド帯は基本群れたりはしない。個々に自らの武に自信があるからだ。
故にこないだの恐竜襲撃の際に集まった場は妙な雰囲気になっていたんだろう。僕の件もちょっとはあっただろうけど、結束力の無かったクラスの同窓会を急に催したみたいな居心地の悪さを皆が感じて言い出せなかったみたいな部分もあったと思う。その後空気に慣れて以前の話で盛り上がってたみたいだけど。
リベリさんはそうしてギルドの冒険者側の結束を高める活動もしていたんじゃないだろうか。十対一を十対五、何れは十対十にする為に。そう考えると良い行いに聞こえるけどその果てが生き残った奴と全力で殺しあう為ってなりそうなのがゲンナリする。
労力を惜しまずやってるっていうのはそれ目的だろうしね。
「そういうからくりとは……」
「まぁ戦争をするならそれが当然必勝の策ではあるし責められないベストな状態でもある。だがそれを勘違いして自分たちこそ最強だと謳う人間が今や大半だ。明らかな思考停止だしそういう連中は実に操りがいがあるだろう?」
その言葉の意味を僕は考える。思考停止……そう言えばカーマの町にもそういう人たちが居たな。あの鉄の扉の下にあるのは養成所か何かなのか? 考えるのを止め信仰以外を削ぎ落した人間を鍛え上げて集団を形成させる。何か歴史でも見た覚えのある展開だ。
「他国がこの国を責めないのも月読命一派が大々的に行動を起こさないのもひょっとしてここをベースに色々やってるんじゃ……」
「さぁな。だが俺から言えるのはただ一つ。そんな連中でも集団であれば国にとってとても都合のいい道具だって話だけかな」
言葉だけみると簡単だけどゴールド帯を育成して更に集団まで作れるという指導方法を見たいような見たくないような……。考えるだけで恐ろしい。この世界には機械は無いだろうけどきっと機械のような動きを竜騎士団に所属する一般兵とかは合図だけで行えるんじゃないだろうかと思うと考えたくなくなる。
「そう今から震え上がる必要はないさ。その最たる人間と対峙出来る」
ニヤリと嫌らしい笑みを浮かべるリベリさん。何かこれは企んでるな確実に。
「それより僕がお願いした件は?」
「俺はデラウンのギルド長になる気は毛の先ほども無い。忙しいのにそんなものは受けたくないし、これでも適当に流せるくらいの発言力や政治力はあるつもりだ」
自分の望みを叶える苗床は自分で守る、という話のようだ。それはとても信用出来るけど全員がリベリさんと同じじゃ無い。誰かがそれを出し抜くのだって考えられるはずだ。
「お前は俺を気さくなおじさんだと思ってただろうけど、今は違うと分かるな? 俺の苗床の栄養の中にはくだらない人間の血も交じってる。それを忘れずに育ってほしいものだ」
苦笑いで答える。ただそれでも不安は拭えない。リベリさんは上手くやっているけどそれを皆が気付いていないなんてのは無いだろうし、それを逆手にも取るはずだ。特にデラウンにはラティが居た。そう考えればあの町が放置されていたと見れる。
「リベリさんはラティについて何を知ってますか?」
その言葉にリベリさんが一瞬止まる。少しだけ不安と言うか薄気味悪く思っているような雰囲気を出したけど直ぐに引っ込めた。リベリさんがそんな雰囲気を出したのなんて初めて見る。
「正直に言う知らない。知ってるのは竜騎士団が隠しているという話だけだ。俺に対しては彼女に関する命令は一切出ていない。俺のような危険人物に手を出すなと言う命令が出ていないのが今とても気になっている。ここまで仰々しく竜騎士団が出てくる人物なのに」
隠しても仕方がないと諦めたのかリベリさんはそう言って空を見上げた。そりゃそうだよな下手したら僕との戦いでラティも巻き込んでいたのに何もないなんて。となるとあの強い師匠に対しては手を出すなという命令が出ていたのだろうか。




