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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
カーマ編

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閣下と風のお戯れ

「その代償として片足頂いたんで良いですけどね」


 皮肉を言って見るもそれに対してにやりとする閣下。そして軽快にステップを踏みつつ壁まで走り駆け上がると天井から真っ逆様に落ち体を翻らせて着地した。平気なのをアピールしたいだけじゃなくその程度では何も問題無いってのも伝えたんだろうとても伝わりましたすいません。


なら手加減してよ等と言う言葉が通じる相手では全く無い。何故全力で叩き潰そうとしてくるのか理解に苦しむんだよなぁ何か盗もうとした訳でも支配しようとした訳でもないのに。強いやつに会いに行く理論なのだろうか……僕がそれに適うなら大変有り難い話だけど全力でお断りしたい。


「ぬおっ!」


 鋼の肉体を躍らせて風を巻きつつ来る閣下。拳を突き出せば風は遅れてやってくる。だけど何故か不思議でそれが怖くは無い。閣下自身は殺意バリバリで拳を唸らせてるんだけど、風とシンクロしているのかまるで当たる気がしないからなんだと思う。


やがて慣れてくると避けて直ぐ腕を取りに行きたくなり取ってみる。するとあっさり取れて投げに入ろうとした。だけど寸でのところで踏ん張られ投げきれない。投げ切れるイメージが沸かないからなのか。直ぐに距離を取り首を傾げてしまう。それを見てか閣下は邪悪な微笑みを浮かべて筋肉を更に隆起させる。


次々巻き起こる拳圧による風は部屋を流れて覆う。僕はそれに乗り踊るようにステップを踏む。閣下の攻撃を色んな形で避けていく。其々の位置で繋げやすいよう突きを出したり肘打ちしてみたりするもしっくりこない。もっとしっかり大きく隙を作らせたい。


「ちょこまかと……だがそれでも効かんぞ!」


 繋げる為の攻撃とは言え手を抜いたりはしていないし、抜いてたとしたらブッ飛ばされてるだろうと思う。なのでしっかり打ち込んではいるものの、篭手の御陰で拳は無事だけど無かったらこっちの拳が砕かれてそうなくらい強靭な肉体をしている閣下。これは魔法に近いんじゃないだろうか。代々の遺伝なのかなそれとも月読命たちの技術提供を受けているとか……? 


そうなると敵、と言った発言は納得が行くし僕を全力で潰そうとするのも頷ける。ただそれなら町を挙げて潰した方がらくだと思うけど、閣下の性格で直接対決を希望したのかもしれない。まぁ何にしてもここをどうにかしなきゃいけないのは変わらない。


今やるべきなのはドンピシャのタイミングで風神拳を打つ。今ならそれが可能な気がしている。後必要なのは何か。大きな隙を作る方法。これまで色々試して見たけど余裕がある感じでは隙を作れない。こちらも犠牲を払う他無い。


「覚悟は決まったか小僧!」


 攻撃を仕掛けつつそう問われ頷く。勝ちがあるとすれば風神拳の一撃が一番近いと思う。それ以外に明確な手が浮かぶまで閣下が遊んでくれる保証は無い。なら勝負に出る。僕は気合を入れて一度動きを止めて腰を落とし両拳を上下直線上に構えた後、閣下目掛けて突っ込む。拳が鼻の先に近付くまで見極めた後それを掻い潜り懐へ飛び込む。


待ってましたとばかりに左膝が飛んでくる。だけどこれは囮で次は右拳を側面から叩き込んでくる。左膝は僕に届く前に落ち大地を踏む。側面から飛んでくる右拳は見えている。だけどここがチャンスだ。ボディはがら空き! ここしかない!


「風神拳!」


 受ける覚悟で僕は右足で踏み込み踏み締め土台である下半身を安定させて右拳を鳩尾目掛けて一直線に突き出す。巻き起こる風と巻き起こす風が交差し風を掻き消し一瞬の静寂と時が止まる世界。惑わされず拳のみに意識を集中させ突き通す。


「見事」


 閣下はその言葉を残し体は宙に浮いた後吹き飛んで行く。本当に紙一重だった。風神拳が決まらなければ間違いなく僕は吹っ飛んでいたし無事ではなかった。それでも何とか生きている運が良かっただけだ。何しろ閣下は吹き飛んだところで物ともせず、僕が勝った余韻に浸っているのを嘲笑うかのように立ち上がり誇りを払った後、外の人間を呼んで掃除と後片付けそしてお茶の代わりを持ってくるよう命じた。めっちゃ事務的である。イベント戦闘なのかな? 僕は必死だったけれども。


「何をしている席に着くがいい」

「あ、はい」


 もう呆れてものも言えないレベルの超人である。魔法が無いだけでそれ以外はレベルが物凄く高い星なんだよそうに違いない何故チート能力をしっかりと与えられなかったのか毎日問い詰めたい。


「実に良い拳であった。危うくやられるところであったぞ」


 ニヒルに微笑みながら言う閣下。明らかな嘘でありどうでも良い近所の犬が初めてお手をしたのを見せられた際に感想を聞かれて言ったレベルのお言葉である。


「どもっす」

「何?」


「どうもありがとうございました」


 その強さにうんざりしたので適当に返事をするも喰い気味で突っ込まれ言い直す。そろそろ目的を聞きたいんだけど話してくれないかなぁ。このままだと無駄に撲殺されそうで怖い。


「貴様の存在は認めてやるそれだけだ」

「あ、はい」


「何?」

「え、ど、どうもありがとうございます?」


 話が進まないんだよなぁ全くもってさぁ。突っ込み役とか司会の人居ないの? こっちは引き摺り回されて訳が分からないんだが。閣下に恨みを買うような出来事は無かったはずだしぃ。

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