表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界狩猟物語  作者: 田島久護
カーマ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

159/675

行く人残る人

「見え透いた嘘だな」

「それはどうしてだい? クロノ」


 目を閉じ少し俯き小さく笑った後、見下ろす様に顎を上げてニヤつきながら言うクアッドベル。斬久郎さんの養父母の事件を明かしてもどうにもならない自信があるのか? 寧ろあの感じからして罠に掛かったと思ったのかもしれない。となるとこれは受けちゃ駄目だ。


この町は愛を謳い罪を問わない。欲しいものは限度はあれど与えるのがルール。兵士に囚われるのもルールを破った疑いがあるからだ。クアッドベルは容疑に関して具体的な話はしていない。ただ信徒を集めて金を配ったとだけしか。


お互い分かってはいるから口には出さないんだろうけど、やっぱ口には出すべきだなあちこちに人が居るし。


「そりゃ信用出来ないですよねぇ? 僕らが騒ぎを起こしたってのが信徒の方々を集めてお金を配っただけなら何の罪があるんです? で、その集めていた信徒たちは何処に? その人たちが僕らが騒ぎを起こせと言ったと? 具体的にどんな騒ぎで?」


 僕はほぼ分からない振りをして純粋に聞いてみた。するとクアッドベルは、スンと無表情になりスルーしてきた。何だよ僕は構わないってのか失礼な。まぁ良いよそうなら追撃しよう。


「例えば道を迷って変なところに出たとしたら僕たちは何のルールを破ったんですか? 罪だとすれば問わないのがここのルール。ましてや人質など愛という言葉とは全く縁遠いもの。それを統治局の主と自称する方が言われるとは思いませなんだぁ?」


 無表情スルーするクアッドベルが斬久郎さんにやったような感じの態度をやって見たけど、どうとっても悪役にしか見えない……これは主人公がやってはいけない奴だ。物凄く感じ悪いっていうか悪の幹部そのものだ。


「小僧は黙ってろ。私はコイツと話をしている。御前には関係ない」

「だったら一人置いていけとなればこの子を置いていくんですけどそれでどうやって両親を探したら良いんで? クアッドベルの旦那ぁ…ゲヘヘヘヘ、いって!」


 止めようかと思ったけどどうやら効いているらしく、吐き捨てるように言って来た。それならと下衆さ百%で手をスリスリしながらやっていると、後ろからケツを蹴り上げられた。振り向くとラティが膝を上げている何でだ。めっちゃあのイケメンに効いてるのに。声を出さず顔や動きでアピールするも今度はラティがスルーしてくる何故。


いまいち納得いかなかったけど埒が明かないので向き直る。するとクアッドベルは分かり易く深呼吸をした後僕を一睨みして、再度斬久郎さんに視線を向けた。


「で、どうするんだ?」

「嘘に付き合う気は無いと言ったぞ? 御前が真実を語るという保証は無い。仮に語れるとして俺の養父母が殺された理由に矛盾が生じれば貴様の首を撥ねるぞ?」


「良いぞ?」

「やはり罠だな断る」


 そりゃそうだよなぁ……何でこんな自信満々なのか分からないけど、バラしたところで明らかに向こうにとって有利なのは揺るがないんだろう。それか嘘とも付かないもので騙すのか。斬久郎さんはマクシミリアンにも騙されて僕を敵視してたし、ツンツンしてるけど付き合いが長くなると信頼を置いてくれるから、騙そうと言う人間からしたら引っ掛けやすいのかもしれないな。


クアッドベルの感じからして付き合いが長いだろうから、斬久郎さんの扱いにも慣れているはず。やはりここは強引にでも突破するしかないか。僕はそう覚悟を決めて何時でも素早く動けるよう気を張り始める。


「分かりましたわ。私がここに残りましょう」

「「え!?」」


 クアッドベルと斬久郎さんにチャップマン、それに僕は驚きの声を上げる。何でクアッドベルまで? と思ったけどそれどころじゃない! 何で人質になるなんて。僕があわあわしつつも問い掛けようと詰め寄ると掌で顔を抑えつけられた。


「五月蝿いですわよお兄様。このままでは埒が明きませんから私が残るのです。それで宜しくて?」

「え? えぇ……」


 何か想定と違うのかうろたえるクアッドベル。恐れ戦く様に足はそのままで身を引きつつ言う。しっかりしろ統治局の主! 御前が言わずしてどうするのかっ!


「いやいやいやラティよ何を言っているんだ? これは俺とクアッドベルの問題だ」

「ですからその俺とクアッドベルの問題が埒が明かないって言ってるんですのよ? 私たちは用事があるのです。ここに長居する気はありませんわ」


「で、ですがラティ様……ラティさんを残してなんて行けません」

「行きなさい」


 腕を組みつつ仁王立ちで勇ましくチャップマンに言うラティ。チャップマンは消え去りそうな声ですいません……と言って俯き撃沈した。頑張れ少年! 諦めたら終了だ!


「い、いやぁ君が残らずとも、そこの間抜け面が、残れば、良いではないか?」

「おいそこの面白みの無いイケメン、今足で僕のこと指したか?」


 可笑しな区切り方で喋りつつ体ガチガチにしつつも僕を足でシッシとやりながら指した。コイツ今どんだけみっとも無く怯んでるか理解してないのか? 最後上ずってたし。ブッ飛ばすぞ?


「五月蝿いんですのよ貴方も。これ以上喚くならこの町ぶっ壊しますわ」

「ひぃいいいい……」


 何でラティにそんな怯えてるのか分からんけどいい加減にして欲しい。さっき辛うじて喋れたのに今はアイアンクローみたいにされててふがふがしか言えない僕の身になるべきだ! 暫く沈黙が続いた後、僕はぺいっと放り投げられて道端にぼとりと落ちる酷い。


「ああっ康久さん!」

「取り合えずこの茶番をさっさと終わらせて下さいまし。それと貴方、彼らが帰ってくる間三食お菓子付き紅茶は最高級のものを所望します」


 ぼとりと落ちた僕のところにクアッドベルも集まってくるなんでだ離れろ。標的にされる。


「さっさと行け」

「はぃぃ~」


 目を赤く光らせ縦に細長い瞳孔が少し大きくなったラティの低い声に、僕らは狼に怯えるウサギのように身を寄せ合い震える体を起こしあってその場からぺこぺこしつつ逃走する。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ