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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
カーマ編

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カーマという町

「結局俺は何も出来ずに出てきてしまった……」


 ダルマを出て暫く森を進んでいると、斬久郎さんは突然そう言って嘆いた。まぁ確かにこれからって時に出て行って良いと言われてしまったからそう言いたいのも分かる。エンカク様曰く、リベリさんから頼まれて実力を見ただけだそうだ。挑戦者でもなく自分の実力を思い知らせる為だけ。そう言われて愕然とする斬久郎さん。


「まぁ良いじゃありませんか。何処でも修行は出来ますから。それに次の町では冒険者稼業も出来るでしょうし」

「そうだな……そこで更に腕を磨かねばリベリさんに呆れられてしまう……酒も飲んでしまったし」


 体育座りのまま頭を抱える斬久郎さん。それを僕とラティは小さく笑って見合う。斬久郎さんに危険は無くなったし、地図を見ながら誘導する役目も必要なので僕は荷台から助手席に移動した。ダルマでも地図と方位磁石を買って次の町までなるべく回り道せず行けるようにしてある。ただ一日では辿り着ける距離ではないので、野宿したり村を訪ねて宿を求めようと考えている。


「……それについては問題無かろう」


 斬久郎さんにルート説明と宿の話をすると、言葉少なにそう答え胡坐を掻いて腕を組み目を閉じて俯いてしまった。何やら事情は話せないけど宿の当てがあるのだろうか。僕はそう考えてそれ以上追及するのは止めた。僕にもラティにもそれ以上追及されても答えられないものがあるし。


ダルマの町から北に森を進み小川を渡って草原に出たところで日が沈んできた。草原のど真ん中で馬車を止めるのはオオカミ対策でも宜しくないので何とか次の森まで移動し、近くにあった小さな洞穴の中で野宿する。深くも無く本当に馬車一台入るくらいの大きさの洞穴で、斬久郎さん曰く旅人が度々利用しているから何も寄り付かないのかもと言う話だ。その証拠に動物臭さは無くそんなに汚くも無かった。


見張りは僕と斬久郎さんで交代交代取る。最初に斬久郎さんが寝て、僕が後。ラティは何か遭った時の為に荷台で寝てもらう。敵が来た時そこから飛び出して攻撃してくれれば虚を突けるし。


「さぁ行こうか」


 斬久郎さんに肩を揺すられそう声を掛けられる。特に何も無く朝を向かえ柔軟体操をした後に川がある場所まで馬車を走らせた。そこで顔を洗ったり体を拭いたりした後でダルマで購入した精進料理を頂く。


「流石にそろそろ飽きてきたな……」

「ッスね……」


「やはり出てきて正解だったでしょう? 一週間二週間は良くても!」


 僕と斬久郎さんはゲンナリした顔で見合い頷く。町を出歩けたラティは良いかも知れないけど僕らは寝込まされて病院食を食べて過ごした期間があるから余計にキツイ。急いで薄味の精進料理を食べ終えて出発する。


「やはり春の差し掛かっているから動物たちも虫たちも多く見受けられるな。ただまだ冬眠開けのようだから大人しい」

「だから何も無く進めているんですね」


 斬久郎さんはダルマの件が吹っ切れたのか明るくこの辺りの話をしてくれた。比較的森も多く大人しい動物が多いものの、やはりモンスターは凶暴でゴブリンなどがうろついているようだ。動物とゴブリンは敵対しており、また村には属さないもののボブゴブリンとは必要があれば町とは取引などで交流しているとの話だ。うちの近くにはそう言ったのがあまり居なかったので少し興味がある。


斬久郎さんはゴブリンの村を討伐で訪れた後数日間食べ物が食べられなかったと語る。それくらい酷い状態の村だと聞いてドン引きするとラティはクスクスと笑った。いやそんな惨状の村行きたくないでしょ普通。


「もう少し暖かさが増してくると、それこそ冒険者ギルドの出番になる」


 それまで軽快に話していた斬久郎さんの顔が曇り言葉が止まる。それを不思議に思ってラティと見合う。


「次の町はカーマでしたわね」

「そうだ……二人とも驚くかもしれない。ちょっと変わってるからあの町は」


 苦虫を噛み潰したような顔をする斬久郎さん。僕は聞いても良いかどうか迷ったけど、駄目元で聞いて見る。


「斬久郎さん、カーマ生まれですか?」

「な、何故そう思う!? ……等と聞く方がヤボだな。二人とも俺の違和感に気付いたのにそのままにしてくれた。気を使わせて申し訳ないな。確かに俺は生まれも育ちもカーマだ。だがデラウンのギルドに所属しゴールド帯を目指している。他から聞けば何故と問われる話だ。通常なら生まれ故郷でゴールド帯を目指すのだが……」


 そういったきり言葉は続かず僕らもそれ以上は追及せず馬車は進む。途中小さな湖に体はピンクで羽は黄色という珍しい鳥の大群が休んでいたので、それに驚きの声を上げつつ止まり暫く観察をした後でゆっくりと次の町へと進んで行く。


「今日はここで野宿しますか」

「そうですわね」


 暫く走ると森の隙間からぼんやりと塔のようなものが見えた。地図と方角からしてもカーマの町に間違いないと思う。そのまま進んでも余裕で夕方に着くんだけど、斬久郎さんも色々あるだろうから一呼吸おこうと考えてそうした。斬久郎さんは小さく頷いただけだったけど、少しホッとしたようにも見受けられる。


「……俺はあの町が好きではない」


 野宿の準備をして焚き火を起こし鉄のポットをそこに掛けながら三人で囲んでいると、斬久郎さんがそう切り出した。


「俺の生まれはカーマだ。とても良い町だと自慢の故郷だと思って育った。だが大きくなるにつれ違和感を感じ始めた。あの町は愛を謳い争いを嫌う。それ故にギルドはあっても情報のみで機能せず、基本この先のアルタから出張して貰ってシーズン毎の討伐などに当たって貰っている。しかしカーマには屈強な戦士も居たし統治宮には文官も武官も居た。自分たちで護れる筈なのに何故、と思ったんだが」


 その答えを凄惨な事件で知る。斬久郎さんの養父母がならず者に惨殺され金品を奪われた事件。斬久郎さんはその時剣術の稽古でアルタの町に居り難を逃れた。茫然自失の斬久郎さんに町の人から掛けられた言葉がその答えだった。


「人を愛する為に自ら差し出した立派な両親だと言われてね、愕然としたよ。愛を貫く為には相手に与えなければならない、というのが教えだったからな。アルタの冒険者ギルドからの出張はこの町の出身者が何も知らない子供たちを気の毒に思って派遣してくれていたと後で聞かされた。カーマの中央部はギルドも愛には妨げとアルタに譲渡し、更に町の護衛もアルタに。税はほぼアルタに与えほぼアルタの属領となっていた」

「よくそんな町が存在してられましたわね」


 呆れた顔で言うラティに僕も呆れて頷いて同意する。相手は自分の要求を言うだけ言って何も聞かない。無条件で相手を受け入れるのが本当に愛なのか? それは一方で相手を完全に駄目にしてしまい、それを別の相手に示した場合争いになるだろう。結局共倒れになる気がするんだけど。


「自分が被害者になって初めて思い知らされるその教えの恐ろしさに。死んでしまえば愛も何も伝えられないのにな」

「そうですね……ちょっと僕的にも理解出来ないし怖いんでアルタにそのまま直接行きます?」


「いや寄ろう。食料を調達しなければなるまい。アルタまでは四日は掛かると見た方が良いからこのままだとひもじいだろう」


 それ以上は僕らにも止められなかった。当の本人である斬久郎さんが行こうと言う以上、無理強いは出来ない。


「それにな、最近俺も独自に調べて分かった点がある。それを確かめたい。正直それもあって御前たちの旅に同行したのもある」

「それは一体……」


「愛を謳う町の本当の姿、裏の顔とも言うべきものだ。言うだろう? 美しいバラには棘があるってな」


 バラ……この世界にもバラはバラのまま存在していた。諺も同じようなものである。愛を謳い相手に全て与えて委ねる町カーマの裏の顔。その時ふとあの銀髪陰険メガネの顔が過り寒気がして震えてしまい、二人に心配を掛けてしまった。嫌だなぁあの銀髪陰険メガネとは出来れば後四半世紀程遭いたくないんだけどなぁ勘違いであって欲しいなぁ。


「斬久郎さんが言うならお手伝い致しますわ。お兄様もリベリさんに借りがあるようですし、出来れば借りより貸しが良いですものねぇ?」


 ゾクリとする顔で見られてまた震え上がってしまう。バレてる!? ヤバイよヤバイよ完全に爪の先まで見透かされてる気がしてならない恐怖! もうなんか諸々含めてあの町に行きたくない……。


「い、いやぁ何か寒気するんで自分、早退良いっすか?」


 でへへとなるべく愛嬌ある感じで後頭部を擦りながら笑顔で言うも、何故か真顔で口半開きの二人にやっぱ行きますっすと言うまで見つめられ頓挫する。ああああ嫌だなぁマジで嫌な予感がして止まらない。

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