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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
ダルマ編

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再試験

「たのもー糞ジジイ!」


 一歩一歩法陣砦に近付くにつれ怒りのゲージが溜まっていき、それでも周りの人には丁寧に接して奥まで進む。前回と同じ場所まで辿り着くや否や腹の底からデカイ声で叫んでしまった。ゲージMAX状態である。


「よく来たな小僧。お前みたいな馬鹿みたいに真っ直ぐ進むしか能のない奴を相手にするのはつまらないがこれも仕事のうち。存分に力を出しつくしたまえよ」


 その言葉の終わりを待たず飛ぶように間合いを詰める。当然のように避けられるも即着地して体をエンカク様に向けて動かす。そしてこれまた当然のように相手の右拳が迫っているけど、一回その拳を見ていれば恐怖はまったくない。彼の言葉通り存分に力を出させてもらう。


拳を半身で避けると同時に手首の辺りに左拳で一撃加えてカチ上げる。その間に左拳が来るも更に小さく体を動かして避ける。小さく細かくスピーディに円を描くように動く。それに合わせてリズミカルに拳を叩き込む。


肩甲骨の直ぐ下や肋骨の隙間、そういった部分に拳骨が当たるように突いていく。鍛え上げられた体は引き締まっているけど、それだけにどこに骨があるとかないとかが分かる。その骨の無い部分を全て鍛えるのは無理があると思っている。


まぁ思っているだけでこういう人はやってのけそうな気がするけどねぇ……。


「中々蝿のように五月蝿いな」


 一撃当たれば当たり前のように吹き飛ぶであろう拳を避けながら変わらないスピードで動き叩き込んでいく。なんとか体力くらいはチートの欠片があるようで有り難い。ラティとの鍛錬でも避け続ける中で最後の日は少し力を入れないで済む瞬間を見出していた。その習得の御陰か全力で避けてはいないので体力の減りも思ったほどではない。エンカク様もそうなんだろうけど。


「へぇやるじゃん」

「凄いね」


 お子たちも現れて見ている。女の子の方が凄いねと言った後しまった、という顔をして手を抑えたのを見て微笑ましくなる。


「余裕だな余所見か?」

「ジジイが本気を出さないので」


 視線を戻して笑顔でそう答えると、青筋が立って速度が上がる。そしてフェイントも織り交ぜてきたけど、二回目ともなれば何となくタイミングが読めてきた。そのフェイントも透かす目的のものならその隙に二打叩き込む。僕の頭の中ではHPが無限大レベルのボスで、長いこと削らないと数字が出てこない感じを想定している。長期戦の予測の元地道に削りを続けている。


「おいおいお嬢ちゃん。話が違うな」

「何がです?」


 僕と対しながらもエンカク様はお子たちと一緒にいるラティと会話し始めた。まだまだ余裕があるんだろうなぁ。数字が見えるまで遠そうだ。


「真っ直ぐな単調馬鹿ではないじゃないか」

「いいえ、そのものじゃないですか。ねぇ?」


 お子たちに同意を求めても首を傾げられる。まぁ良いけどね出来れば真っ赤にゲージがなるまで侮っていて欲しいし。その間に僕はエンカク様に打ち込みながら感覚を覚える。ここに打ち込んでも意味が無い、ここは響いている蓄積されて動きが変わる、と。


「こいつ俺の体をバラしているぞ」

「お兄様は真っ直ぐなんですよ。貴方の言うように馬鹿なんです間違いなくね」


 拳が風を切る。怒りも入り混じったそれは喰らえば御終いなのを理解しつつも、何だか楽しくなってきた。ランナーズハイの状態なのかも。なるべく掛かり過ぎないように気をつけつつも、ギリギリのタイミングで多く叩き込み更に足の方にまで叩き込む。これで動きそのものが鈍くなるはず。


「体格が小さいのも必ずしも振りじゃねぇって話だなこれは」

「ですわよ。同じ力と持久力があるなら小回りが利く方が有利である場合がある。エンカク様の戦い方は推測ですけど集団での戦ってきた方の見につけた戦い方。お兄様は一対一が多いですし、妙な方や生き物にも好かれますからね」


「シッ!」


 胃と肋骨の境目に一撃、脇腹の筋と臍に腰骨の直ぐ脇締めに顎を狙って避けさせて肘を最初に一撃入れた場所に正確に再度叩き込んでよろめかせて距離を取らせた。避けて翻弄し手玉には取れた。だけど僕の目的はもう一つある。それは師匠に貰ったあの技を完成に一歩でも近付けるというものが。その為にわざと距離を開けさせた。


「……小僧良くぞここまで俺をコケにしてくれたな。適当にあしらって追い出そうと思ったが話が変わったよ。御前をもう一度寝込ませてやる」


 僕はそれに対して笑顔で答え左足と左拳を前に突き出し、右拳を左拳と同じ縦軸で構えつつ臍に肘を当てて構える。それを見てエンカク様は青筋が全身に立ってた。めっちゃ怖い。


「良いだろうお望み通りぶっ倒してやる……剛力陀!」


 前回よりも素早くそして腰の回転もコンパクト、腕の振りも最短距離。でも僕もそれがしっかり見えている。


「ここだ!」


 足に力を入れて踏ん張り力を全身に入れる。そして拳を動かす瞬間一瞬力を抜き自分の後ろから風が来て押されるイメージで体を前に出し右拳を突き出しつつ左肘を臍に当てつつ右足を少し上げて前へ。エンカク様の拳との接触の瞬間、右足で全力を込めて大地を踏み抜き拳に力を込めて全身の力を叩き込む。


「風神拳!」


 気合を更に入れる為叫ぶ。拮抗した一瞬の後、エンカク様の体が少し浮いたのを見逃さない。


「うぉおおあああああ!」


 声を張り上げ拳を押し込む。風よ起これ背中を押せと念じながら。


「馬鹿な……」


 エンカク様は拳を突き出したまま後方へ吹き飛んでいった。そしてそう一言呟きながら地面に腰を突く。でもまだ駄目だ……これは完成じゃない。師匠が繰り出した風神拳はこんなもんじゃなかった。相手に粘らせず有無も言わさず飛ばした。そして


「まだまだ全然駄目だぁ……」


 こんなに全身の力が抜け制御出来なくなっては居ない。あの技の後の師匠の勇ましい姿が目に焼きついていた。あれには遠く及ばない。カッコ良いなぁあれ。あんなになりたいなぁ、と思いながら気を失う。


それから目を覚ましたのはやはり宿。ラティが運んでくれた。怪我は全く無いものの、力が入らない。この状態から回復するまで三日。ベッドでラティの看病を受けた。全く持って駄目駄目である。


お見舞いに来たエンカク様にもお褒めの言葉を頂いたものの、相手を飛ばしても気を失ったり力が入らなければ負けるとも言われてしまった。


「負け惜しみに聞こえるかも知らんが、御前の負けだ」

「でしょうね。でもエンカク様に腰を突かせたから上出来でしょう。僕よりも多く鍛錬を積んでいるんだから」


 そう言うと苦笑いをされた。上等も良いところだ。師匠クラスの人にそうさせただけでも今回の鍛錬は収穫があった。実戦だったらダメだけど。そうなったら変身する以外ない。その変身した時しっかりと相手を倒せるように、生身の鍛錬を重要視している。リベリさんに勝つ為には変身を頭に入れていたら勝てない。何しろこないだのは片鱗を見せたのかも怪しいレベルでリベリさんの底は見えない。


そんな相手に勝つ為には自分も同じくらい深い底を作らなければならない。その為にも先ずは生身で強くならないと話しにならない。


「フン、まぁ良い。今回は合格としてやる。いつでも好きな時に旅に立て」

「良いんですか?」


「良いよ。お前はショウの弟子だしこの町の信徒でもない。挑戦は失敗だがその実力を認めて出してやる。良い旅になるのを祈っておいてやるから、帰りにも寄るようにな? どこまで実力が上がったか直々に確かめてやる。もし軟弱になって帰ってきてみろ……?」


 目をギラつかせて右拳を自分の左掌にパンパン打ちつけながら言うエンカク様怖い。


「あらあら楽しみですわねお兄様。是が非でも強くならないと今度こそここから出られなくなりますわよ?」

「えぇ!?」


 僕の素っ頓狂な声にエンカク様とラティは吹き出し、僕も釣られて笑った。こうしてここダルマでの日々を終えて次の町に旅立つ。ちなみに斬久郎さんはというと、こちらも今回は特別に免除され帰りに再チェックされる運びとなった良かった道連れが居て。


僕たちは僕の体調が万全になった次の日にダルマを旅立つ。次の町には何が待ち受けているのか。楽しみなような怖いような……。良い出来事があるよう祈りつつ馬車は走る。

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