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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
ダルマ編

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自分の気付き

「何に困っておるのかね?」

「知ってらっしゃ……いえね? この町の傍若無人なスキンヘッドの御爺さんに困ってまして。まさか法を尊ぶお方が暴力で支配するなどと思いもしませんでしたから」


 ラティは相手のノリに付き合う振りをして思いっきり言葉でグサッとした。ただそれに対してエンカク様……じゃないサングラス御爺さんは動じない、ように見える。


「法とは深謀遠慮なもの。何れこの世界に広く敷かれる為には、一つ一つ積み重ね修正を加えていくのが必定。何より法無き世では力こそが正義なのだから、先ずは相手と同じ目線に立ち説く。その為にも必要な行為だと思うがね」

「確かに獣に対して最初から法を説いたところで無意味ですからね。ただそうなると説く方の倫理観、青臭く言えば正義は本当に正義なのでしょうか」


「正義などとは人によって千差万別。この無法が敷かれた大地ではそれ故に人が減り他が増えている。誰かが指針を示し人を護らねば増えぬ。それが今は大事だと思っているからそうしている」

「だからこそ正義の正義たる所以が必要なのではないでしょうか。一番基礎となる部分が雲や霧のようでは都合の良い解釈をされてしまうでしょう。それに一旦敷かれた後で間違いに気付いたところで利用したい者にとってはそれは受け入れられません。何より世に敷くと言いますが、この国の首都で貴方の思うまま受け入れられましょうか」


「首都で受け入れざるを得ないよう、この町での姿を見せている。この町を模範として敷けば人は幸せに暮らせる」


 その言葉に少し微笑んでしまう。知らないんだから無理も無い。分厚い法律の本と敵対要因を排除して人が住みやすく増えやすくしたところで、結局は人が人を相食み星を食いつぶす。それを月読命も見ていた筈だしこの世界を作った人も知っているだろう。その人の望みは環境を変えた人の行き着く先なのだろうか……。


「何やら君の相棒は達観しているようだねぇ」

「ですわね。少し特殊な人の形をした何かですから、ね?」


 饅頭が丁度終えて、以前お子たちに言われた言葉をラティは二人の肩に手を置いて微笑みながら言った。お子たちは怖くて御爺さんの側へ戻る。それを抱きとめた後、御爺さんはサングラスを外して僕らを見る。その目はいぶかしむでもなく純粋な目でジッと見ていた。


「君たちは人を滅ぼしに来たのかね? それとも滅ぼそうとしているのかね?」

「まさか。そんな気があったなら旅なんてしてませんよ」


 僕はそう言って微笑んで空を見る。今この状況ですら人は人を相食む。だけどそうでない人たちもまた居る。月読命たちは選別したと言うけど結局は元の木阿弥。人が人である以上彼らとしてはもう滅ぼすしかないと思い始めているのかもしれない。僅かな希望である自分たちと思想を同じくした仲間以外。


星はどう思っているのか。それを知りたいから旅に出ている。今更人の業について絶望したりはしない。呆れはするけど。月読命に閉じ込められている星の望みはどこにあるのか。


「確かに君の拳からはそんな物は微塵も感じなかった。あの剣士と違って何も纏わず突き出した拳は良かったと褒めておく」

「有難う御座います。それでも押し切れなかったですけどね」


 月日というのは大きい。それに僕の場合チートしているのはこの世界の普通の人たちには関係ない部分なので尚更鍛錬を積み重ねないと追いつきようも無い。こういう凄い人たちに会う度に思い知らされる。引き篭もりだった時間は大分勿体無かったなぁと。ほぼほぼオンラインゲームやソシャゲをやってただけだった。後に残ったのはただゲームをしていたというだけ。


勿論それで一番になれたりそこから絵を描いたり文章を書いたりとかして別の方向へ放出出来たら違ったんだろうけど、僕は自分に自信が無くてそれに自分じゃ幾らやっても駄目だって諦めてしまっていたから何にも成らなかった。


この世界に来てがむしゃらにやって来た。この積み重ねはいつか生きると思う。何よりどうして駄目だったかに気付けたのはとても自分にとって大きい点だ。


「そりゃそうだろ。俺がどれだけ研鑽を積んできたと思っているんだ。それと同じようにこの子たちも御前には敵うまいよ。何しろ拳に邪念が多すぎる」


 そう言って優しく両脇にいる子たちの頭を撫でた。二人ともしゅんとしょげてしまったのを見て豪快に笑うエンカク様。それを見て僕とラティは見合って笑う。僕のあのくらいの頃は体もぷよぷよしてたし動きもドン臭くてしょんぼりばかりしていた。それに比べたら二人はとても健康で良い顔をしている。めっちゃ羨ましい。


……そう言えば僕にも誰か居たような気がするな。誰だっけ。ここに来て大分前の世界での記憶が飛んでいる。それが戻って来ないのは何でだろう。切っ掛けがあれば思い出すんだろうか。何か大事な存在……いやとても気持ちの悪い感じもするけど優しい何かがあったような……。


感覚はあるんだけど思い出せないので意識するのを止める。目の前の二人と御爺さんには関係ないし。それより二人を慰めないと。僕はそう思い改めて二人を見た後御爺さんに言う。


「子供だから邪念があって当たり前じゃないですか。寧ろその年齢から無になってたら学びが何も無い。失敗して学んでいくものでしょう? 人って」

「御前の言う通りだ。で、ここに来たのは他でもない。俺に負けた失敗を学び勝つ為に研鑽を積みたくはないか?」


 そう言えば御爺さんは困ってないか、と声を掛けてきたのをすっかり忘れてた。話が随分難しくてややこしい方向に行ったけど、御爺さんは僕の人となりを知りたかったのかなと今は思う。こう切り出してくれたってなると認めてくれたんだろうか、一応害が無いって。


ただ研鑽を積むといってもここはこの人たち法陣たちの町。他所の者が優遇されるなんて無いだろうし……どういう提案なんだろうか。聞いてみよう。


「……それは勿論そう思いますけど、ここでは信徒以外に稽古を付けていないはず」

「そりゃそうだ。信徒だって誰でも教えられる訳が無い。人数も多いし挑戦も多い。だが俺の鍛錬を見るのはタダだ。誰でも見て良い。それにこの大地は皆のものだ。どこで何をしようと破壊しなければ問題無い」


「この世界の全てが稽古場、ですか」

「そうなると一生気が休まらないな!?」


 エンカク様と一緒になって笑う。ただ師匠も言っていた。どこでも出来るし相手も必要ない。しようと思えば小さな隙間ですら稽古できるって。なるほど今まで師匠の元に居たからその自由が具体的に分からなかった。まだ完全に外の世界にいるって頭の中の切り替えが出来てなかったらしい。


「エンカク様の教えに感謝します」

「いや饅頭のお礼だ。俺はいつも朝早くとお昼に夕方、法陣砦で稽古をしている。幹部もいるが、御前はいつ来ても良いぞ? あの糞ジジイの弟子だからな。一切手は抜かないがそれくらいは融通してやる」


 僕はその言葉に笑顔で答えて頭を深く下げる。エンカク様と子供たちはそのまま砦へと向かって歩いていった。


「とても有意義な時間でしたわね」

「そうだねぇ……」


 ラティをジッと見る。端から端まで見てもラティはこの世界に来て初めて見る人だ。記憶のどこかにひょっとしたら引っ掛かるものがあるのかも、と思ったけど無いらしい。


「ひょっとして私がお兄様の関係者だと?」


 僕の視線に対して目も合わせずに答える。そんなに分かり易かったかなぁ。


「残念ながら違いますわよ。私にはお兄様の隠しているものの全ては見えない。貴方の人となりは分かりますからそのうちその隠し事も分かるかもしれませんけどね」


 そう済ました顔で言うラティ。僕はそれを聞いて微笑む。思えば砂漠の町から出て以来随分時間が経ったけど、まだお互い隠しているものはあっても人となりは信じられる。それで十分な気もする。僕は生憎死ねないので何かあれば体を張ってラティを護る。


……そう言えばあの黒い竜は見ないけどどこへ行ったんだろうか。それにあの宗教も。大分長い時間経って放置してきたけど、デラウンでは問題なくても外で問題になったりしないだろうか。


「そう言えばラティの前居た施設」

竜神(ランシャラ)教の施設ですか?」


 竜神(ランシャラ)教……そう言えばそんな言葉を聞いた気がするあの町に最初行った時に。司教のサンダルさんて人が言ってた。僕が思い出していると、ラティは手を上に上げて組み背伸びをしていた。


「そのうち面白いものが見れますわよ。司教のサンダルも無事ですし」

「え!? お、面白いって楽しい方面だよね?」


 そう尋ねるもニヤリとしてるだけで具体的には何も教えてもらえず御茶屋を後にする。僕としては何だかもやもやして嫌な予感しかしないんだけどなぁ……。でもラティがこうやって笑っているってなると悪くは無いんだろうか。

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