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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
ダルマ編

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試練の扉

「おのれ化け物め……」


 結局病院生活のような状態で一週間も過ごす羽目になった。死ななかったくらいしか良い点が無いレベルの高ダメージを受けていて、医者が驚いたレベルだ。基本ここの病院は信徒たちが利用していて挑戦者は入院は出来ないものの診てはくれる。流石に挑戦してる人間を税金で面倒見たりはしないという話しで。薬代とか診察代は情けで負担を軽くしてくれている。


高過ぎて払えない場合、ここからは逃げられない。ラティによると逃げようとした人を見かけたらしいけど、その後肉の塊にかまくら状態にされ圧縮され連行されたと聞いた。流石と言えば流石。基本ここの人たちは贅肉は一切無い。それもどこを見ても誰を見ても。それこそ生まれたばかりの赤ちゃんか小学生前の子くらいしか付いていない。


あの玄関で遭遇した子たちなんてある筈も無かった。それにしっかりとした筋肉が付いていて痩せているというのでもない。かなりしっかりした栄養管理がされていると見た。自らを鍛えるという点に全力を注いでいるのが分かる。ただ売っているものはとても贅肉を増やしそうな美味しそうな御菓子がズラリと並んでいた。よく子供があれを我慢できるなぁ。


「よくもまぁまた来たな小僧!」

「御前が言うな!」


 今回は斬久郎さんの付き添いできた。吹っ飛ばされた際に受け止める役で。ある程度飛ばさせて落下するくらいの時に受け止めると受け止めやすい、と斬久郎さんから丁寧な説明があった。この一週間斬久郎さんは鍛錬に励むべくここの修練場を間借りして鍛えていたらしい。斬久郎さんに妙な真似はしてないだろうな! と聞かれたので妙な真似とは何かと聞いたところ、男女のなんとかかんとかとか言い始めたので即答して無いと答えた。そこは相変わらずなんだよなぁ斬久郎さん。


「一週間も掛かるなんて軟弱」

「うっせバーカ!」


 ニヤニヤしている双子か兄妹か分からん子供二人につい暴言を吐いてしまう僕。斬久郎さんは澄ましているが米神に青筋が立っているのが見える。そして僕はここで秘密兵器を懐から取り出す。それに子供二人の視線が映る。僕は見逃さなかった。二人の目が一瞬驚き丸くなるも直ぐに戻して何も無かったように振舞ったのを……。


何を隠そう僕が手にしたのは御茶屋さんで売っていた、餡子たっぷりパリ皮饅頭二十個入り。味見で頂いたがこれは悪魔の食べ物だ。お金があれば毎日食べたい程の凄いアイテムでラティは今現在それを食べているその御茶屋で興味が無いと言って来ずに。


「フフ……どうだ? 食べたいだろう?」


「何が?」

「意味不明」


 ニヤニヤしながら顎を引きつつそのパッケージを見せびらかす様に顔の横に立て問う僕に対し、お子たちは至って冷静に振舞っている。が、見逃さないぞ? 掌を握っては開いたのを。


「じゃあ僕が食べるね。ああ美味い!」


 ピリッピリリッと梱包を丁寧に剥がし折りたたみ、現れた木箱を開け徐に一つ手に取ると先ずは一口齧る。パリッという音が静かな建物に響く。斬久郎さんも喉を鳴らしたので、僕は箱を向ける。


「真顔で口を半開きにして俺に向けるな……頂くから」


 それに対して高速で頷く僕にイラッとしたみたいだけど、饅頭をパリッとさせて咀嚼し飲み込むと笑顔になる。僕はそれを見てお子たちにも真顔のまま箱を向けるも無視された。のでそのまま口に一つ丸ごと入れてバリバリ音を立てて食べる。これはかなり効いているらしく、顔はそのままだけど子供らしく足を少しバタつかせた。


まだまだとばかりに僕はもう一口食べ斬久郎さんも同じように食べる。二人してバリバリと真顔で食べながらお子たちを見た。……あれ、僕ら何しに来たんだっけ?


「馬鹿者が!」


 後ろから爆速で突っ込んできた法陣の長であるムキマッチョスキンヘッド髭御爺さんことエンカク様。それを見て僕は饅頭をお子たちに投げて渡した後、二人を抱えて下がり斬久郎さんが一歩前に出て突っ込んできたエンカク様に備える。


「斬り捨て御免!」


 怒りを露にして突っ込んできたエンカク様に対し斬久郎さんは二振りの刀、ではなく木刀を素早く斬りつける。それを掴もうとする手を避けて二撃、肩と脇腹に叩き込むと更に追撃を狙って打ち込んでいく。それに対して筋肉で体をガードしてきたけど、幾ら筋肉で厚くしてもツボがある以上そこを突かれれば崩れる。


斬久郎さんは勿論それを狙って攻撃を繰り出すも常に正面に攻撃を受けるようにしている為、ツボは突けない。それでも両腕を立ててガードしている隙間を突こうとする斬久郎さん。だけどそれすら予測し隙間に入ってもバックステップで逃げられ鳩尾までも届かない。


筋肉で動きが鈍くなるどころか素早くて捕らえられない気がするのは目の錯覚なんだろうか……やば過ぎるこの人。


「フフン、この程度で驚いておるから一週間も寝る羽目になるのだ小僧。そのような鍛錬とは”一撃”のショウの名が泣こう」

「いやぁ世の中広くて勉強になってますよ」


 師匠の名が泣くって言いたいんだろうけど、こんなもん僕に今すぐどうこう出来るとは思えないし師匠も思ってないから気にもならない。それどころかこの煽りを真に受ければ勝つまでそれは有効になる。デバフ効果を期待したものだというのは分かっている。この人が頭が悪い訳が無い。


子供にまで食事制限や鍛錬を課しているのは、元の世界の日本であれば虐待と言うだろう。だけど日本以外の途上国やこの世界のように人間の人口が他よりも少ない状態であれば、そんな寝言は言ってられない。叫んでも喚いても陽は照りつけ植物は枯れ明日をも知れない状態で動物も襲い掛かってくる。それが分からないからそんなのを言っていられるのだろう。


「ツァッ!」


 一瞬エンカク様の視線がこちらに向いたのを見逃さずに高速の斬撃を叩き込む斬久郎さん。ただそれも読んでいたようで一、二撃目を刀の腹を押されて逸らされたので急ぎ距離を取る。


「無駄だな」


 僕はその言葉を聞いて即町へ向けてダッシュする。この町もある程度察してか街中の真ん中の通路に物は無いし人も殆ど通っていない。通っていたとしても僕みたいなのが来れば直ぐに道を開けてくれる。慣れすぎだろ。


御茶屋さんでのんびり饅頭に舌鼓を打っているラティを流し見しつつ、近くの家の屋根に飛び上がり、さっきまで居た建物を見る。急いで呼吸を整えて準備をして待っていると、建物を突き破る轟音と共に黒い塊が飛び出てくる。そして少し上空へ飛んだ後落下してきたので、改めて落下位置の屋根まで屋根伝いに移動し待機し受け止めた。


「む、無念……」


 そう言い残し斬久郎さんは目を閉じ気を失った。ホントマジであのジジイ可笑しいわ。ゴールド帯ですら勝てそうに無い感じなんだけど、僕はが勝つにはどうしたら良いんだ? ……まぁ僕の場合は風神拳を会得しないと全く持って勝ち目がないのは分かる。てか多分それが目的なんだろう師匠の。恐らくこれ以外にも技があるんだろうから、しっかり会得して次に繋げないと。


斬久郎さんを負ぶって医者のところへ行く。そして内服薬と塗り薬などを貰って宿へと帰る。まだまだ資金に余裕はあるけど、思っていたより減っている。今後まだ二つも町を抜けていくとなるとやっぱりギルドで多少は稼いだ方が良いんだろうなぁと思ってしまう。


宿に着くと宿の人たちが任せてと言うので薬を預けてお願いした。そういう料金も込みでの値段らしい。どんだけ他から来る人間はあの人に挑んでいるのか。ただ帰れている感じからしてあの人の合格点というのがあるんだろうけど、それを僕らが取るまでどれくらいかかるのかちょっと不安だ。


「で、どうします?」

「うーん……どうしよう」


 次の日の朝、朝食後に斬久郎さんの様子を見た後に僕とラティはいつもの御茶屋さんに居た。ここではギルドの仕事、というかギルド自体が存在していないのでしようがない。かと言って黙っていればここから出るのも叶わない。となればもう鍛えるほか無い。何より早く鍛えないとお使いの目的も果たせずお金を浪費するだけになってしまう。


「おや、そこな御仁! 何かお困りかな?」


 声に視線を向けると、御揃いのベレー帽とサングラスを掛け明らかに変装したエンカク様とお子たちが居た。何をしに着たんだこいつら。僕が忌々しいと思いながら視線を向けてもお構いなしでヘイヘーイみたいなノリでポーズを取っている。


「困ってますけど何か?」


 ラティはそれら一切を無視してお子たちを手招きすると、饅頭を千切っては口の中に放り込んでいく。イルカショーか!? と思うほど放る方も口に入れる方も綺麗に動いていていつの間にか人だかりが出来てしまう。

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