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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
ダルマ編
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法陣の居場所

 一抹の不安を感じつつ法陣と呼ばれる人たちが居るところを探す。町を歩く人たちはインドのお坊さんみたいに袈裟を着て裸足で歩いている。違う点と言えば鉢金と呼ばれる日本で戦国時代に合戦の時に用いられていた鉢巻きに鉄板が額の所に付いている物をつけているのと、……筋骨隆々な点だ。


勿論体の関係で細い方も居るけど皆贅肉が全く無いのが一目で分かる。それなのに食堂やお土産屋さんはカラフルだし肉も多い。精進料理を食べてる訳ではないのだろうか。


「お兄様、そんな険しい顔をしてダルマの方たちを見ないでくださいましな」

「いや、でもさぁ。女性の方も皆こう……引き締まった全く贅肉が無い感じで、皆強そうじゃない?」


 若干オドオドしている僕を見ながらラティはゲンナリした顔で溜め息を吐く。


「いい加減にしてくださいお兄様。別にどこでも襲われる訳じゃないんですから、かえってそう言うのは襲われる元ですわよ?」

「そ、そそそうかな。最近襲撃されるのが多くてつい警戒しちゃうんだよね強そうな人。老若男女関係なく」


「まさか子供まで襲って来そうとか言いませんわよね」


 ラティは空を見上げながらまた溜め息を吐いた。そりゃ色々話せないのがあるからそういう感じになるのは分かるよ? でもさぁいきなり前日までとても良い感じの人が急に狂気を帯びて襲い掛かってきたらビックリするじゃん? 特にこっからは全然知らない場所になるんだしそういう人が山ほど居ても可笑しくないじゃん? 


と言いたかったけど言わない。言えないのもそうだけどこれ以上呆れ果てられても困るし。

途中で良さそうなお茶屋さんがあったので二人で入り、これからの旅の話とかしつつお団子を頂いた後で店員さんに法陣の人たちの場所を尋ねると、あっさり教えてくれた。町の真ん中にあるらしい。


「旦那さんも挑戦者?」

「……違います」


 女性の店員さんは薄いピンク色の袈裟を着て鉢金を着けていて、更に他の人より体を鍛えているように見えた。でも僕はパッと見そう見えないと思うんだけど。めっちゃ強いって有名な人たちらしいから挑戦したくないし。


「あら信徒以外にもそういうのは大丈夫ですの?」

「ええ、今の法陣の長であるエンカク様は心の広いお方です。信徒以外にも武に覚えあるものの挑戦は受けると。奥様の旦那さんはその篭手からしてデラウンのギルド長様のお弟子さんではないですか?」


 心が広いってか武を競いたいだけなんじゃ……って何で僕がデラウンのギルド長の弟子だって分かったんだ!? この篭手有名なのかな? 色々あちこち視線を移して考えた後店員さんを見ると、何やらラティが詰め寄っていた。


「い、今なんと?」

「え、ああエンカク様は」


「違います! その、私たちの関係を!」

「あ、ああ! 御夫婦ですよね? とても御二人で並ぶ姿が自然過ぎて。違いますか?」


「あー、僕」

「そうです!」


 笑顔で説明しようとする僕を蹴飛ばしてラティは店員さんの手を取りそう告げる。な、何なんだ一体。僕は縁台からずり落ちたのをまた座り直し、ラティが一生懸命今までの話をした上で感謝を述べチップを渡し終えるまでゆっくりお茶を飲んだ。


……どう考えても碌な目に遭わないのは分かってたんだけどなぁ。師匠のお使いだし今更無かった話には出来ないんだよなぁ嫌だなぁ行くの。


「さ、行きますわよ貴方」


 そう僕に声を掛けて御茶屋さんから出て行くラティは、しゃなりしゃなりと御機嫌宜しい感じ丸出しの歩きでピンクの髪をバサバサさせながら先導して行く。御機嫌麗しゅうなられたのなら結構。今回はスタートから色々あって申し訳無い気分だったので良かった。


にしても行きたくないなあの真ん中のタージマハールみたいな建物。真っ赤にしかみえないんだけど。中の人の燃え滾る闘志で燃えて見えるとかじゃないよねあれ。


暫く歩いて法陣の人たちが居るという建物の門に着き、師匠からのお手紙を渡すと慌てた様子で中に飛んでいった。何も言わずに行っちゃったんだけど、ここで待ってた方が良いんだよね? がらんとしてしまった門の前でボーッとしていると、小さなポニーテールの女の子と坊主男の子が御揃いの袈裟を着て現れる。二人ともジッと僕らを見るだけで何も言わない。そして二人とも同時に右に首を傾けた。


「人間じゃない人が来た」

「人じゃない人の振りした者が来た」


 そう僕らを指差す糞ガキ……じゃない子供二人にちょっと雰囲気悪くなったけど、ラティと共に笑い合って空気を変える。僕も人間離れしてるから人じゃないと言われればそうなんだけど、それを人の振りしてるとか指差されて言われるのは感じ悪いなぁ。


「よう糞ガキ! 元気か?」


「糞ガキって何?」

「糞ガキって何だろう」


 つい口からストレートに出てしまった言葉に二人は左に顔を傾けて問う。煽ってる訳じゃないんだよなこれ。僕は咳払いして答える。


「糞ガキってのはね、糞可愛いガキの略だよ」


 そう笑顔で目線に合うようしゃがみながら言うと


「略す必要ある? それに嘘だよねあれ」

「略す必要ない長さだね。それに嘘だよあれ」


 眉を顰めて見合いながら全否定する子供二人。どうやら気に障ったらしいやったぜ……って大人気なさ過ぎるな。


「そうですね申し訳ない糞生意気なガキって意味で言いました」


 そう軽く頭を下げて二人に謝罪するとそれを見てまた首を傾げながら


「挨拶をしないのが生意気?」

「丁寧に接しなかったのが生意気?」


 そう聞いてきた。なんだこの二人は。でもまぁ良いやここまで来て隠すのも意味が無いのでそのまま答える。


「これから付き合う必要が無いと思っておざなりにしてるのが生意気。世間は狭いんだ。面と向かってあったら腹で何か思ってようが挨拶した方が賢い生き方だ」


「賢く生きてないくせに」

「賢さを語れるほどじゃないのに」


 あー分かったなるほど喧嘩を売ってるんだな? 子供だからって何もしないと踏んでやってる訳か。良いだろう少し驚かしてやろう。僕がスッと立ち上がるとラティに腕を掴まれた。


「止めなさいな大人気ない」

「ちょっとだけだから……さ!」


 僕が動くと分かってラティは腕から手を離す。僕は全速力で二人の前まで突っ込み直ぐに横へと飛んで後ろへ回り抱きかかえた。


「どうだ、驚いたか?」


 二人の間に顔を入れて言うと、二人は笑顔で僕の方を見た後右の男の子は右米神を左の女の子は顎を蹴って来た。直撃を食らうと不味いので手を離し避けると今度は着地して脛を蹴ってくる。


「甘いな」


 少し下がっただけで避けられたのでニヤニヤしながら言うと、二人は睨み合いその後僕に二人で襲い掛かってきた。左右から其々掛かってきたけど、二人とも子供とは思えない綺麗な形で拳を突いたり蹴りを出したりしている。


「へぇやるじゃないか! 頑張れ!」


 僕の煽りに真顔になって二人は見合うと一旦足を止めてゆっくりと僕の周りを回り始める。この二人凄いな何者なんだ? 綺麗なお稽古拳法なら適当に捌いて終わりなのに、この戦い方はあのオオカミに通じるものがある。ちょっと底を見たくなってきた!


「掛かって来い糞ガキ! 人間じゃない者だからって怯えたのか!? ママのところへ帰るが良い!」


 この素晴らしい敵役の台詞っぽい煽りはとても効いたらしく、掛け声を上げて飛び掛かって来た。慎重さがあるので足元を攻撃しつつ、防御で屈んだ時僕の下がった頭と顎を片方が狙い防御した隙を片方が突いてくる。


とても子供とは思えないコンビネーションプレイを見せられてワクワクしてしまった。こんな小さい頃から形が出来ているなんてこれからどれだけ凄くなるんだろう、僕なんかと違って未来は明るい。だからと言って負けてはやらないけど。


「そこまで!」


 暫く相手をしていると、奥からめっちゃデカイ声が飛び込んでくる。けどそれじゃ止まらない子供たちなので僕も止められない。良い突きや蹴りだけど綺麗な型を見に付けているところなのか、線がとても見え易いので二人とはいえ捌ききれる。


冷静に二人の動きを見ながらリズムに乗って捌いていると、不意に二人の姿が消えた。新しい技か!? と周囲を素早くぐるりと回転して見ると、ムッキムキ肌ツッヤツヤのスキンヘッドで白い口ひげをもわっと生やし紫色の袈裟を着た人が、二人を抱えて立っていた。

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