ダルマへ向けて
以前は初めて見たのでそれ程恐怖していなかったけど、今は少し違う。あの大きな恐竜を集団で襲い解体していたのを見た後だと、あの集団は恐ろしい分かる。ラティはそのまま荒れ地を左に寄りながら走りつつ、適当な場所で馬を止めて下りる。そしてラティは荷物から弓と矢筒を取り出し身に着ける。
「援護はお任せくださいまし。やはり鞭では後ろから援護出来ませんから」
照れた様に笑うラティ。隠れて色々考えながら練習してくれていたのだと思うと嬉しくて僕も照れ笑いを浮かべてしまう。
「そういうのは後に致せ!」
斬久郎さんはそう怒鳴って先に出る。僕らは溜め息を吐いてその後を追う。何とか馬を守りながら砂漠オオカミを退けなきゃならない。そして荒れ地の凸凹した地形を把握して、上から襲われないように刳り貫いた場所へと誘導する。砂漠オオカミたちは僕らを迷わず追ってきてくれる。警戒しながらなので襲い掛かるような速さではなく、速度を落としつつも逃げられないよう横に広がりながら。
普段僕らは狩りをしている側だけど、今は逆の立場になっている。そうして見ると砂漠オオカミたちの統率の取れた動きはとても綺麗でちょっと見蕩れてしまう。これがあの恐竜を倒したんだと感心もしていまった。
「暢気なのは良いがな、来るぞ」
刳り貫いた場所で砂漠オオカミたちと相対する為斬久郎さんは呆れた様に吐き捨てて僕らに背を向けたので急いでその横まで行って構え、ラティは後ろで弓を構える。それをゆっくりと見つつ横に広げた態勢を崩さず距離を適度に取ったところで止まった。後はいつどうやって戦いを開始するのか。息を呑むのさえ怖い緊張感に包まれた。
ただ少しすると僕自身落ち着いて見れるようになった。彼らは歯を剥き出しにして唸ったりはしておらず、こちらをジッと見ているだけだった。勿論斬りかかれば飛び掛かるだろうけど。何が狙いなんだろうか……。
「フン……」
斬久郎さんは腰を低くし構えていたけど、それを解いて壁の近くへ行くともたれて腕を組み目を閉じて俯いた。僕に用があるんじゃないかと思ってくれたのだろう。てっきり斬りかかるのかと思ったから意外な行動で驚いた。
ただそうは言っても僕には彼らと会話する術が無い。どうしたものかと構えを説いて右手で頭を擦っていると、ラティが弓を下ろして前に出てきた。そしてリーダーっぽい大きな一匹のオオカミの近くまで行って腰を落とし目を合わせた。それに対して僕と斬久郎さんは少し驚いて顔を見合わせた後、何か遭った時の為に近寄り警戒する。
暫くすると言葉なのか何なのか僕らには分からない感じで意思疎通をし始めた。これにも僕と斬久郎さんは驚き目を丸くして顔を見合わせてしまう。斬久郎さんからしたら僕が驚くなよと思うだろうけど、僕だってオオカミと会話出来るなんて知らなかったから仕方ない。
「終わりましたわ」
暫くしてラティは立ち上がり、砂漠オオカミの群れは散開していった。ラティ曰く砂漠オオカミは以前僕が黒鎧を遠くから狙撃したのを知っているし、またあの変なヒトデ形の生き物の住処に突撃したのも知っていてどんな奴なのか知りたくて追ってきたようだ。で、ラティが説明をしたところ納得して下がってくれたとの話だ。
「要するに縄張りに干渉しないなら良いという話なのだな?」
「ええ。それも以前協力的でありまた恐竜? の件でも世話になったと言ってました」
え、恐竜の件? あの銀髪メガネたちとのやり取りを知ってるのかな? でも奴らが恐竜を誘導していて僕が引き付けたのでコントロールが切れて彷徨ったってのも分かってるのかな。だとしたらあのオオカミは一体……。ひょっとすると僕が思う以上に動物って色々分かってるのだろうか。いや分かってたにしても凄すぎない!? 出来れば色々聞いて見たかったけどもう姿は無い。今度ラティと一緒に彼らに会う機会があれば聞いてみたいなぁ。僕が知らない話も知ってるだろうし。
「フン、ラッキーだったな貴様ら」
「日頃の行いですわよ? 腕に溺れず人と交流し相手も自分も尊重すれば自ずと繋がるもの。嫉ましいと睨め上げるように誰彼構わず見ていたら、誰も寄ってきませんわ。腕だけが全ての世界ではないと貴方も知っているでしょう?」
ラティの言葉に舌打ちをして馬車へと先に戻る斬久郎さん。何があったか分からないけど相変わらずだなぁ。僕らが居なかったら襲われてたかもしれないのに。恐竜の件で皆この一帯は殺気立っているとも砂漠オオカミは去り際に教えてくれて、警戒して進まないと不味いと知ったのは大きい。何しろこの荒れ地には何が居るのか完全には把握出来ていない。そしてこの先は初めて立ち入る場所だ。何が起こっても直ぐには対処出来ない。
馬車へ戻り元の位置へと座って出発する。出来れば陽がある内に抜けたい。夜になればこちらが相手を見つけ辛くなるので不利になるし、野宿するにもここは大分辛いと思う。寒さもそうだし殺気立っているのもそう。暫く地図を見ながら慎重に進んでいると、また斬久郎さんは舌打ちをする。クレーマーの客の相手をしている気分になったのも束の間、僕たちの地図を取り上げて進むよう言った。
で、ラティの運転で進んでいると斬久郎さんが指示を出す。その指示は短く的確で嫌な感じは全くしなかったのが驚きを隠せなかった。間違っても少し先で右に曲がるように、とか少し戻って丘に上がろうなど別人のように見えて僕は完全に驚き係になっている。今の僕は完全に御荷物でだけど二人の連携に入ると邪魔になるので隅っこで大人しくしていた。
「何とか着いたな」
途中馬の水休憩餌休憩はあったものの、それ以外はスムーズに荒れ地を越えていきやがて草原に差し掛かり暫くすると町が見えてきた。時は夕暮れが終わろうとする手前で検問所も閉じ掛けていた。紹介状を渡して荷物検査を受けると入場を許された。この際間に合わず外に居た人たちも居たけど、どうやらそのまま野宿らしい。
「斬久郎さんありがとうございます」
「自分の為だ」
言葉少なに言いつつも荷物を幾つか持ってくれた辺りひょっとしてツンデレというやつなのか? と思い始める。その後紹介状を持っていたので指定の宿へ案内され馬車を止めて部屋に荷物を置くと、三人で宿で教わった自慢の御飯屋さんへと足を向けた。
そこでは山で取れた山菜や豚や牛のお肉を焼いたもの、それに果物も出てきて僕らは匂いだけでも癒された。食事を始めると今回の功労者である斬久郎さんにお酒を勧めた。最初は断られたものの功労者だからと勧めると一口だけ、と僕がお酌したお酒を飲んだ。
地酒らしくとても上手いとこぼした斬久郎さん。僕とラティが微笑むのを見て咳払いをするも、頂いても良いかと尋ねられたのでどうぞと答えた。ラティは悪酔いしない程度にと嗜めると、申し訳なさそうに頭を掻いて頷く斬久郎さん。それを見て微笑む僕らと照れくさくなった斬久郎さんは声を上げて笑う。
こうして楽しく食事は始まり進み、斬久郎さんは悪酔いもせず良い酒だったと最後には閉めて宿へと戻り其々の部屋で眠った。翌朝、斬久郎さんはとても晴れやかな顔をして出てきた。何でもリベリさんに悪酔いするから旅の最中は酒を止めろとキツく言われていたのがちょっと答えたらしい。長旅でしかも僕となのに、と。それがお酒も飲めて楽しく過ごせたので嬉しかったらしい。
「御前を許した訳ではないがな……旅をしても良いとは思っている。私の悪い点は許せ」
そうぶっきらぼうに言う斬久郎さん。リベリさんの悪い奴ではない、というのを少し分かる気がする。それでも舌打ちは駄目なので、やさーしく注意はしていこうと思う。難しいけどやっぱ舌打ちって良くないしね。
「で、今日はどちらに?」
「師匠から法陣の偉い人に手紙を渡すよう頼まれてるんだよね……嫌な予感しかしないけど」
そう言うと斬久郎さんの足が明らかに遅くなる。そして振り返るくらい遅れると
「わ、悪いがちと用事を思い出した。宿で待つ」
そう言い残し逆走して行ってしまった。物凄く嫌な予感がする……師匠とは言えいきなり知らない相手に稽古を付けて欲しいなんて言わないと思いたい……。




