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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
春の襲撃編

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首都へ向けて旅立ちの朝

 翌朝地面の上で猫に舐められて目が覚める。寝返りを打てずずっと右側を向いていたみたいで右側が痛い。とても寝覚めが悪い。ただ風邪も引いてないみたいで、体の痛さだけだった。この世界に来て大分強くなったんだなぁ。前までなら布団でお気に入りの枕にタオルケットが先ず無いと寝れなかったのに。そういやあれが母親に記憶にある限り直接貰った最初で最後のプレゼントだった。


こんな温室育ちの日本人である僕でも郷に入っては郷に従えで逞しく生きられた。その国やその国の人間に文句を言う暇があるならどうにかして稼いで生き残らないと。この世界には僕の国でもなければ僕の人権を守って働かなくてもお金をくれる制度も無い。祖父ちゃん祖母ちゃんには感謝しかないな……。老後にお邪魔しちゃってさ。その上恩返しもしないまま訳の分からん世界に来ちゃって。


「後悔先に立たずってね」


 体を起き上がらせて胡坐を掻き溜め息を吐く。顔を舐めて来た猫は僕の膝の上に乗って前を見ている。今日もお空が綺麗だなぁ……なんて言ってられないわ。御飯食べれなくなっちゃう。僕は猫を下ろした後ストレッチを軽くして家へ向かう。


「ホントすんませんした!」


 玄関に皆さんいらっしゃったので目の前まで進んだ後、流れるように土下座する。これ以外無い。一心不乱のDOGEZA! 焼くほうは準備出来ないので精一杯御凸を地面に擦り付ける。割とレベルの高い綺麗な形で出来たと思うんすけどね! そう自信満々な僕を尻目に一旦会話は止まったものの、スルーして会話は再開された。居ないものとして扱われる哀しさ。いやだがしかしラティの怒りに比べればこれくらい大したもんじゃない! 怒りを何とか納めて頂ければその為に幾ら時間を使おうが構わない、そう覚悟している次第!


「うむ、構わんぞ? 許そう」


 まぁ間違える訳も無い。元々イラついてたのもあってこれまた流れるように立ち上がり鳩尾に一撃入れて素早く元の形に戻る。よくもまぁ偉そうに言えたもんだよな。一瞬視界に移った時いつもの格好でこの前の動きで避けられるかと思ったけど、完全に油断してたからなのかすんなり鳩尾を貫けてびっくりした。


「ワシもそれしようかな……」

「し、師匠!?」


 声に驚いて左横を見ると、なんと師匠が居た。そして膝を突き正座をしたのを見て目を丸くする。


「いや、師匠。これはこちらの問題でして」

「リベリから聞いておる。御前に御使いを頼んでしまったと。それでラティが怒っておるんじゃろ?」


「なら私もそれをしよう」

「リ、リベリさんまで……」


 流れるように右横にリベリさんが現れ膝をつき正座をしてしまった。これはこれで凄い絵面だ。ギルド長とゴールド帯最強の男とラティのご機嫌取りの為に土下座とは……。いやそれよりもリベリさん話してないよねまさか。そう思ってリベリさんを見るとウインクしてきた。ストーカーだって知らなくても怖いな男のウインクは。


「……分かった、分かりましたわ。今回の件は多めに見ましょう」

「マジっすか!? 有り難てぇ! 有り難てぇ!」


 ラティは仕方ないという感じの顔をしてそう言ってくれた。何とか矛を収めて頂けた! しかし僕一人の土下座では足りなかったというのは大分二人旅を楽しみにしてくれていたに違いない……。


「この埋め合わせは必ず……」

「期待せずに待っていますわ」


「金二十枚は使い果たしても良いんじゃ……」

「斬久郎も使いつぶしてくれ……」


「怖いのでお断りします!」


 ラティが師匠とリベリさんの提案を慌てて拒否すると、ドッと笑いが起きて和やかな雰囲気に満ち溢れる。何とか旅立ちを良い雰囲気の中で迎えられそうだ。


「ふざけるな貴様!」

「ほいっ!」


 我が家の軒下を破壊して吹っ飛んだ人物が短刀より少し長い刀を両手に突っ込んで来た。で、右で薙いで来たので下がって避け、左の振り下ろしに対して左側に体を移動させ避けて背後に回り羽交い絞めにした。


「ほっほ! やるもんじゃの」

「見た感じあれくらいはしてもらわないと……新進気鋭ですし?」


 リベリさんは自分とやりあったのだから、と言う感じだったのを直ぐに付け加えてやり過ごした。ただまぁリベリさんの剣筋を見たからこそ対応出来たのは間違いない。前だったら気圧されてただけだけど今は違う。刀の柄を逆さにしたので急いで突き飛ばして距離を取る。ボーッとしてたら太腿とか脇腹刺されてたわ危なっ。


「取り合えずそこまでにしろ斬久郎」

「ですが!」

 

 食って掛かる斬久郎さんに対して右手を突き出し押し止めると、少し力みながら震えた後力無く刀を下ろした。凄いなぁこれが尊敬して慕ってる人への態度なのか? 訳が分からんなこの人も。


「御前が悪いのは一目瞭然だ。私の頼みとは言え御前が同行させてもらうのに何故あのような態度を取る? お前も共に謝るべきなのを私が頼んだが故に御前の無礼も含めて謝罪したのだ。それ以上やるなら私は康久に詫びる為腹を切らねばならんのだが?」

「な、何故!?」


 何故も何も無いんだけど……話聞いて理解出来てないようなので心配になる。これで一緒に旅をするとなると先が思いやられる。こりゃ軽率に細かい話をするのは止めよう。捕まったらあっさりとばらしそうだ僕が気に入らないという理由で。


「リベリよ、大丈夫か?」

「はい……大丈夫だな?」


 リベリさんが睨みを聞かせるとそれに対して泣きそうな顔になりつつ俯き暫くして頷いた。子供かな? 全く持って納得してないし大丈夫じゃない感じなんだけど。これ町出たらキレてきそう。


「康久、すまないが彼がもし私との約束を反古にしたらその時は処理を頼む。君の御使いに無理いって同行させてもらうのに刃を向けたとなれば話にならない。戦場で味方討ちほどの重罪は無い。斬久郎はそれを十分知っているはずだから構わないでやってくれ」


 気楽に言うけどそりゃ無理な相談だわ。顔見知りをやれなんて凄い台詞だなぁ。本人は全く茶化してないし何ならやられるなよ? って顔してるし。


「分かりましたわ。必ずそうさせて頂きます。その際はどこかへ送ります?」

「同士討ちなら気にしないで放置してくれ」


 笑顔で恐ろしい言葉を交わすラティとリベリさん。怖いなぁこの二人を色々知ってるだけに怖すぎる。旅が無事終わって帰れるよう祈る他無い。こうして皆に見守られながら不安な旅立ちとなる。うちの馬車を使い出発したんだけど、何されるか分からないから荷台に斬久郎さんと横に並んで座った。間にはラティが準備してくれていた荷物を幾つか置いて。


斬久郎さんの荷物は小さなリュック一つだけ。中身を聞くのもめっちゃ怖いのでスルーしている。相変わらず機嫌が悪いのか落ち込んでいるのか両方なのか分からない。てかほぼ嫌な会話しかしてないのにどうすりゃ良いんだろうか。


「ちょっと……何時まで黙っている気ですの?」


 運転しながらラティが僕らの方を向く。ラティの立場なら不気味で仕方ないよなぁ。気配がするのに黙って見られている気がして怖いだろう。僕としても会話しようと思うんだけど何を話したものか。


「そ、そうだね。斬久郎さんは僕らに同行してどちらに?」

「気にしないでくれ……」


 会話が成立しませんでした……。ラティの黒いオーラを感じて気を取り直して質問をするもほぼ同じような感じで答えて来て、ラティの黒いオーラが大きくなるだけで何一つ良い感じにならない。そしてリベリさんの言葉も理解してないのが発覚した。どうすんべこれ。


「いやぁ今日は空も澄んでて旅立ちにはもってこいの天気ですなぁ!」

「そうですわね」


 ラティは大きな溜め息を吐く。そりゃそうだよねぇでもそんな話くらいしか振りようが無いのよね。


「そう言えば荒れ地は今のところ平和だね。砂漠オオカミでも出て来やしないか心配してたんだけど何事も無くて何より」


 そう辺りを見回しながら言うと、何故かラティと斬久郎さんの二人に同時に顔を見られる。


「え、どうしたの?」

「フラグを立てないでくださいます?」


「右斜め前方」


 斬久郎さんはそう言うと荷台から立ち上がり剣を構える。そしてその方向を見ると、砂漠オオカミが群れていた。マジかよ僕がフラグ建築したのか!? もっと良い話で立って欲しかったフラグ建築! などと心の中で叫びながらも師匠がくれた篭手をしっかりはめ直し構える。

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