僕らの話
「取り合えず色々確認出来たし今回はこれで帰るわ」
「えらいあっさり帰りますね女神様」
僕がぶっ倒れていた時間も入れると中々長い時間現界していたと思うから影響を考えて退散するんだろうか。そりゃ神様がホイホイ人間たちのところに降りてきたらバランスが崩れるだろうし。てかそもそも降りてきちゃ行けないとは思うけど、月読命の件や今回はリベリさんまで彼女らの一派だったのが判明して苦戦してたのを助けて貰ったのはあるんだけど随分と殊勝な……。いや、人間思いの女神様だ。それでこそ僕が慕う女神様だ間違いない。なんだかんだで今回も間一髪助けて貰ったんだからウルド様の隠している一面なんだなこれは。シャイだなぁウルド様ってば。
「心の中で言い訳するな。アタシの今のこの体なら周りに影響は無いのよ。威光も無いし後光もないでしょ?」
「大分配慮してるんすね。ならゆっくりしていけばいいのに」
元々無いなんて言葉は出ず、それよりもう少し居るように勧めるなんて僕やるなぁ。ウルド様なら特に子供形態だったらついうっかり秘密を漏らしても可笑しくない。ここは少しでもここに留まらせて御飯やラティたちとの女子会、それにデラウンの名物の温泉もあるしうっかりしないはずがない! 圧倒的じゃないか僕は! と思った時視線に気付きハッとなる。勿論ウルド様がジト目で見ていた。
「相変わらず進歩の無いやつ」
「心の中を覗かないでください。てか女神だからってそれは駄目なんじゃないんすか?」
少しムッとしながら食い気味に言っても、ウルド様はそれに対して特に気にしない感じでゆらゆらソファに座りながら揺れている。細かいところを気にしなさすぎるのは悪い部分あるなぁと思いながらも、個人的にはちょっと憧れている。僕自身今まで細かいところを気にしすぎたきらいはあって。それで病んだりしたって誰も助けてくれないし、周りに迷惑を掛けてしまう。それなら思うように豪快に生きた方がまだ良い、と最近思っている。勿論豪快すぎるのは困るとも思ってるけど。
「何でもかんでも覗ける訳ないでしょ? アンタと心で会話してるのも常時じゃないのは私がそのチャンネルを繋げてるし、アンタも構わないと思っているから繋がるのよ。人間は私たちが作った訳じゃないから不可侵な部分がちゃんとあるのよ。月読命はその部分を犯そうとしてるからそろそろヤバイけどね」
「じゃあ何で分かったんです? それに僕そのチャンネルの拒否の仕方が分からないんすけど」
常時聞かれている訳じゃないのは意外だったし安心した。神様だからって何でもかんでも聞けたら精神的に辛いよなぁそう考えると。そこまで考えが及ばないのが僕の至らない点だなぁ。そういうのもあって今も何言ってんだみたいな顔してるウルド様。確かに僕の勘違いが悪いんすけどね。ちょっとイラッとするわ。もっと考えないと、とは思うけども、ゆとり世代を舐めないで頂きたい! そんなのが前から出来てたなら引き篭もりでニートなんてやってませんから! ……いや最悪だな僕。何偉そうに阿呆な発言を頭の中で繰り広げてるんだ。
「……アンタめっちゃ分かり易いのよ。アタシはあの子らより付き合いが長いし濃いから尚更読める。戦う時呼吸を合わせて死闘を打ち勝ったのも大きいわね。だからこそアンタもアタシを他より理解できてる訳。うちの妹たちほどじゃないけど」
妹……多分最初に僕に対して名乗ってたヴェルダンディっていう人が妹さんなんだろう。なんでまた妹の名前を? 元々ヴェルダンディさんがこの星の神様になる予定だったのかなぁ。それとも自分はガラじゃないから妹の名前を使ったとか。ある意味神様らしい神様だと思うけどなぁウルド様は。言い方悪いけど付き合いやすいし。ちょっと身近過ぎて言いすぎちゃうのが問題なんだよなぁ気をつけないと。
「有り難いような……何か変な感じっすね」
「まぁ気にしない気にしない。アタシとアンタで共闘するのは今回も変わらない。相手がまさかあんなに山ほど隠し凶器を持ってたとは思わなかったけどねぇ」
神様すら驚くほどのヒールっぷりとは月読命一派って凄いなぁ感心しちゃう。僕にはああは多分なれない……明らかに相手が有利になるものを徹底的に潰して、それで改めて蹂躙する。戦に勝つ手段としては当然何だろうけど、僕にとっては理不尽しか感じない。それで見下して偉そうな言葉を吐かれたらキレるわ流石に。
「となると今後はその体を使って多く降臨されるんですか?」
「降臨ていうか現界ね。神様として来るわけじゃないから、あくまでも一プレイヤーとしてね。どうやってもアタシの魂は捕らえられないけど、あまり長く居ると縛られる可能性があるからそれは出来ないけど」
プレイヤー……? プレイヤーってなんだ? ゲームの話? 確かにこの世界は僕のいた世界の現実とは掛け離れている。だけど砂漠の町、その前に助けてくれた御爺さんも目の前で死んだ。それがゲームの話だっていうのか?
「そんな怒らないの。アタシたち神様とこの星のあらゆる生き物は生きている、というか生まれた次元みたいなのが違うのよ。本来こういう形にはならない。この体だって言えない理由で特例みたいなもんなの。アンタに対して分かりやすく言うなら、ロボットに乗る感じに近い状態がこの体なのよ」
「めっちゃ分かりやすいっすね。ウルド様が僕の世界の知識を知ってるなんて意外だなぁ」
神様は皆全知全能なんだろうか。まさか別の世界の知識まで持ってるとは……。というか今気付いたけど、ウルド様の用事は終わったんだろうか。例の隕石や鬼、それにヒショウさんの中の人。急に色々出てきてなんだかウルド様をここに釘付けにしようとしている気がしてならない。
「まぁまぁ色々有るのよ。アタシが追ってるやつも色々居てね。ここだけに構えないのはそうなんだけど、手掛かりがなさ過ぎてさ。砂漠で小さな宝石を捜すレベルなのよ。なんで今は頭を切り替える時かな、とも思ってさ。アタシが考えすぎると碌な目に遭わないし、体動かしてる方がいい考えが浮かぶんじゃないかってね」
「それはそうですね。ジッと考えて良いアイディアが浮かぶときもあれば、体を動かしてた方が良い場合もありますし、色々やってみるのが良いですね」
「人生も神様の生も長いからねぇ。一呼吸置いただけで世界は滅びたりしないでしょう。何も味方がなくはないし連絡が取れないだけで」
例の末妹さんとシルフィードさんかな。連絡が取れないのは気掛かりだ確かに。便りが無いのは元気な証拠とも言うけど、この場合生存確認をしたくなる。何しろ神様が探し出してぶっ飛ばそうとしている相手なんだから、全くもって油断が出来ない。早く連絡を取れるようになるのを祈るばかりだ。
「さてっと……。そろそろ一旦帰還するわね。色々調整したり連絡が来てないか確認したいし」
「あ、はい。有難うございました、気をつけて帰ってくださいね」
「見てはいるし何かあったら直ぐ来るけど、気を付けてね。恐竜がここにだけ来るのは何も月読命たちの仕業だけじゃないのよ」
「というと月読命たちに協力している連中が居るって話ですか?」
「月読命にダイレクトに繋がってるパターンばかりじゃないわ。あの冒険者、リベリがそうよ。冒険者として紛れ込んで中から壊そうって奴もいる。それに前にも言ったように、この世界は恐竜たちのように人の力だけではどうにもならない外敵に対し、科学や工学が発展しつつあるの。それが実を結んでいる地域も出てきた。月読命たちはそれを見つけて利用しつつ潰して行ってるみたいだけど。兎に角気をつけて」
そう女神様は一気に早口で捲し立てると、光の粒子になって天井に吸い込まれていった。何でそんな急いで帰る必要があったんだろうか、と考えたけどその直ぐ後にラティたちが荷物を抱えて帰ってきた。恐らく色々聞かれるのが面倒だったから退散したんだろう。案の定その後僕はウルド様の話を根掘り葉掘り聞かれた。そこは記憶が無いで押し通す。
何しろ説明しようが無い。ウルド様はこの星の神で僕は他の世界からこの世界に来たなんて、逆の立場で聞いたら病院に放り込むレベルの話しだし。取り合えず男女の関係が無いのを納得してくれたら開放されたので万々歳である。




