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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
春の襲撃編

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力への執着

 何か気に障ったらしく、そのまま師匠に連行されて夕方までみっちり雪解けしたばかりの山で鍛えられた。良かったのは体が慣れたのか僕の感覚が追いついたのか足元がぐだつかず最後までみっともない動きをせずに居られたのは嬉しかった。


「チーがしっかり鍛えた成果が出たようじゃな」

「はい! チーさんがしっかり教えてくれた御蔭でこんなにも早く自分の感覚が追いつけました」


 師匠と湯に浸かりながら今日の反省会を始める。師匠曰く戦いながら修正しているのであまり長い時間は要らないという理由で最近は湯船で反省会をしていた。僕らがここに来る時間はあまり人が居ないので奥の方ならのんびりできるし、師匠は人気者だから特に高齢の方は師匠と話したがって寄って来るのでこの時間が良いらしい。僕はその話が面白くて勉強になるので好きで聞いているけど、師匠としては何回も同じ話をするのでくたびれるからちょっと辛いと言っていた。


「あやつもワシの元で鍛えて大分経つ。そろそろ弟子を持って鍛えても良さそうじゃなと思って御主を預けてみた」

「チーさんならきっと優秀な人を一杯育てられるでしょうね」


 元居た世界の日本ならクレームを言ってくる人間も居たかもしれないけど、この世界でチーさんのように何だかんだ言いつつもしっかり導いてくれて、いざと言う時まで見守ってくれるような親切な人は居ない。弱肉強食だし席を奪い合っている状況だから当然だと思う。僕が弟弟子だから面倒を見てくれているのであって、誰でもそうなわけじゃない。


だから彼女は指導者に向いていると思う。誰にも優しいと自分の弟子にすら手が回らなくなるだろう。師匠も直接指導をしている人は弟子に限っている。ギルド長としてアドバイスはしても、弟子でなければそれ以上はしない。なので僕は弟子にしてもらって運が良い。師匠についてから腕は上がったし、そう簡単に死なずに済んでいる。


「ワシもチーそう思うよ。本人はゴールドになりきれないから嫌がっとるが、育てる者が必ずしも最強でなければならない、なんてのはないからの」

「そうだと思うんですけど、自分ならやっぱり強くありたいなぁって思っちゃうのでチーさんの気持ち、分かります。力が無いと……」


 吸血鬼やネルトリゲル、月読命たちやブラックスワン……星の意思の元へ辿り着く為にはそれらを退ける力が無ければダメだ。皆が皆、自分の信念などに命を懸けている。言葉や行動だけじゃ譲れる訳が無い。だからもっと力を付けないと。チート能力だけじゃ全く足りない。


「御主の成長は著しい。ただ最近思っているんじゃが」


 師匠が夜空を見上げながらそう呟いたので頷き言葉を待つも、静寂が続く。そんなに言い辛いのかな。


「何でしょう」


 堪らず問いかけてみる。すると小さく息を吐いた後、トンでもない言葉を口にした。


「どうもタイプ的にハオと同じ気がしてならんのじゃよな」

「え!?」


 僕は驚きのあまりひっくり返り湯船に潜ってしまったので、直ぐに起き上がり顔からお湯を拭って紙をオールバックにした。


「え、ど、どこがですか!? 具体的に!」

「脳筋なところ」


 その言葉に今度は前のめりになって湯に突っ込んだ。即起き上がりお湯を顔から掃い髪も後ろへと流す。


「御主基本的に考えてないんじゃよな。どれもこれも他人発案を受け入れて流れておる」

「……そう言われるとそうかもしれないです」


 改めて思い返すと自分発の物は一体どれくらいあるんだろうかと考えてしまうレベルだ。


「勿論全てにおいてハオと同じではない。が、あれは御主の進化系というか行き着く先っぽいんじゃよな。あれも最初の頃は何一つ定まらない男じゃったが、ある時を境に”力”に目覚めてな」

「”力”」


「そう、ハオの信念は力そのものじゃ。力こそがあらゆるものを叶える苗床であり、それなくしては夢も見れぬと信じて生きている」

「正しいですね。特にこの世界では力が無ければ明日すら見れない、そう思います今は」


 あの恐竜を見た後じゃハオさんの信念は当たり前すぎて何故それに疑問を抱くのか分からない。この世界で力が無ければ人間は食われてしまう。警察も軍隊も無い。更に悪いのは人間同士ですら上前を撥ねあっている。抑止力としての力を持っていなきゃダメだと僕も思う。


「誰もが行き着く先とも言える。じゃからこそ冒険者の最高クラスであるゴールドでありその中でも最強の者だけが得られる称号、プラチナを得ている。じゃがそこに辿り着きたくても着けぬ者も居る……いや大多数がそうじゃろう? 挫折したり諦めざるを得なかったり。あやつは恵まれた肉体など才があるが故にそれを提唱している」

「弱き者は滅びても良いって感じですか?」


「そうじゃ。デラウンだけは自分の力で生かせても他は知らん、と。依頼を受けて世界中動き回っているのも自らの”力”を更に磨く為の手段に過ぎん。足りないから移動しているだけじゃ。その足りなさをここで補えるならここにずっと居たいと思っているじゃろうな」

「ハオさんにとってはここが全てなんですね」


ここまでの話を聞いている限り”力”にのみ執着する人かと思ったけど、そうじゃなくここを守る為っていうのは意外だなぁ……何があるんだろうか。


「ここにはあやつの守りたい物が全てあるからの。じゃから政治家たちは戦々恐々としとるわ。例のデラウントナカイの話も耳に入っていての。暴れそうになったので別の依頼を回してセオリも付けた。その間に解決せねばならん」


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