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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
春の襲撃編

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ギルドは世紀末

「頼もぉおおおお!」


 少し間が開いてそこを狙ったかのような絶叫が外から飛び込んで来た。距離があるはずなのに耳が痛いし家が震えてるんだけど……。師匠とチーさんを見るとげんなりした顔をしていた。二人とも知り合いなのかなこの声デカの人と。


「来たね」

「来ちゃったのぅ……」


 苦笑いしながら顔を見合わせている二人を見ると、どうやら知ってるらしい。でも行きたくないのか声を殺してヒソヒソしている。二人のこんな姿初めて見るなぁ。


「来ねばこちらからゆくぞぉ!」


 その言葉に師匠とチーさんは目を見開いて口を全開に開いた後、急いで玄関へと走る。チーさんまで走るなんてよっぽどだ。僕とラティは見合うと直ぐに玄関へ向かった二人を追う。


「よぉ! 久方振りであるな!」


 分かり易い質実剛健な人が玄関の前に立っていた。白い胴着に髪はドレッドヘア、ムキッとした顔に歯を見せながら笑顔で腰に手をやっている。これは理屈も力で捻じ伏せるタイプの人だきっと。


「久方振りじゃのに他人の家を壊そうてか」


 眩暈がしたのかよろける様な足取りで階段を下りる師匠とそれを支えるチーさん。芝居なのか本気なのか疑いたくなる……あのいつだって笑顔で動揺などあまりしない師匠がよろけるなんて。


「他人の家? 我が弟弟子の家なら他人な訳があるまい? それになんだこの貧相な家は。我が一門の者がこんな家に住んでいたのでは品格が問われよう!」


 お構いなしと言わんばかりに声を張り上げる質実剛健な人。声だけでうち壊されるのかな……最新式の建築も太刀打ち出来ないとか台風より凄い。


「品格って御前が言うとそこらの野糞レベルに思えてならんわ」

「あぁ!?」


 もう全部の言葉一つ一つに気合が入りすぎて耳パーンてなるよこれ。抑えて喋れないのかなこの方。しかも最後のあぁ!? だけで今階段から上がった所の手摺にヒビが入ったんだけども……。


「……そういうなら話が早い……ここでその野糞レベルの品格をお見せしよう」

「止せ!」


 ニヤリと笑うとその質実剛健さんは拳を引いて腰を落とし身構えた。師匠は僕をチーさんはラティを抱えて玄関から離れる。ああ……僕の新居が……。離れていく家が走馬灯を見るようなスピードでゆっくりと僕の目に映る。何でこんな目に……。


「食らえぃ!」

「うっさい馬鹿ッ!」


 拳を突き出そうとした瞬間、家の中から寝巻き姿のセオリが出てきて枕を質実剛健さんに投げつけべちゃっと倒れこんだ。セオリも寝てたのか今まで。よくあの音で飛び起きなかったなぁ感心するわ。そのセオリの様子を見ていた質実剛健さんは直ぐに構えを解き、セオリを抱きかかえて一旦僕の家の中に入った後出て来て直ぐ僕の胸倉を掴んだ。


「貴様……幾ら弟弟子とはいえ話によってはここで貴様をミンチにせねばならん」


 血管が浮き出るほど笑顔のまま力みつつも、さっきより小さな声で喋る質実剛健さん。唾は飛んでるけども。


「良いから離れんか馬鹿者! 話が聞きたいならギルドで教えてやるからこい! 康久はまだ家で養生するように! 治りかけが大事じゃ。ラティに薬は渡してあるでな!」

「な、何をするか! 離せ! 離さんかっ!」


 あっという間に拘束を解いてくれて師匠とチーさんは質実剛健さんを連行して去っていった。それから数日間僕らの耳は若干耳鳴りが残るも、体調が完全に回復した頃には何とか無くなっていた。セオリとラティは僕が療養中はギルドに出向いて手伝いをしつつセオリのランク上げをしていた。ラティ曰くずっと巨体が物陰から監視していたと聞き、二人で飲み込んで消化して話題に出さないようにした。


そして体も完全に回復し師匠との鍛錬も徐々にいつも通りになってきたので、ギルドに顔を出す。体が違和感なく動いてくれる幸せを噛み締めながらスキップしつつ向かう僕を尻目にラティとセオリは無表情。連日寝込んでいて二人の紐状態になってしまっていたので今後頑張って借りを返さないとな、と意気込んでいるうちにギルドがあった場所へと近付いて行く。


「え、何ここ」


 すると前までの若干ほのぼのした雰囲気のギルドは何処へやら、某世紀末みたいな状態で枯れ草がガサガサと風に流されて来そうな雰囲気に変わってる! それに人の気配が山ほどするのに音一つしないってなんの地獄なの!? 不吉なオーラが外へ流れ出てるような気がするのは気のせい!?


「入れば分かるわよ」

「ですわね」


 え、なんで二人とも悟った感じなの? 賢者にでも転職したの? 戸惑ってる僕を放置して二人ともギルドに入っていく。背中が非常にたくましく見える不思議。とか言ってる場合じゃないので急いで二人の後を追う。


「おおいらっしゃい! 康久治ったのか!」


 アロウさんがデカイ声でカウンターから声を掛けてくれた。普段ならホッとするけど、今は視線が全部こっちに来てて何してんの!? って叫びたい気持ちで一杯だ。それを見ないフリをしてカウンターへと何とか進む。


「ど、どうも? 何か仕事は……」

「おぉおぉ! 君になら仕事が山ほど来ているぞ? 何しろ今期最初の恐竜を撃退した人間だからな。指名が多く来ている選り取り見取りといっても過言ではない!」


 うるっさ……とは思ったけど、こんな環境がずっと続いてたら顔見知りでも来てくれただけで心が救われるだろうな、と思い至った。そしてよく見るとアロウさんは若干涙目である。横に居る二人を見ると無表情。申し訳ない気持ちになって来た。

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