オリババからの帰還その二
「そうですわよ? 自分の実力を測れるのも一流の条件ですのよ?」
ラティの口真似をしたセオリの言葉にイラッとはしたもののその通りだから何も言えない。自分の性格を全て把握しなくとも、戦う技術くらいは把握出来ないでどうやって相手と命の駆け引きをしようというのか。チート能力と不死という特典を貰っているからこそこんな状況で戦えていたのかもしれない。月読命たちとの戦いやブラックスワンたちとの戦いがこれから激化していけば何度死ぬか分からないし、自分だけならまだしも今は仲間が居る。そう気軽に死んでられない。
「ちょっと奥様めっちゃ悩んでますわよ?」
「貴女空気読みなさいよ失礼ね!」
「とーにーかーくっ! お前さんらの自覚の無さが今回の件を招いた。出資の件も内緒でされていたら不味い話になっていた。一応リュクスにも話して単独出資にならんよう、ワシも出資して折半する話が付いたから残り三分の一以上は御主らが稼ぐように! あくまで御主らの事業何じゃからな? 不味くなっても誰も助けたりはせん。そこを間違えないように!」
「え!? おじいちゃんも出資してくれるの!? ありがとう!」
セオリはちゃんと聞いていないのか師匠に抱きついた。げんなりしている師匠を見ながら苦笑いをするしかない。
「今日から葉っぱ類生活ですわね……」
「出来れば偶にお肉をお願いします……」
セオリが飛び上がった拍子にラティが僕の方に倒れこんで来たので受け止めつつ話した。緊縮緊縮かぁいつか豪遊できると言いなぁ。
「これから雪解けにもなるしそうなると忙しくなる。今回のデラウントナカイの件はギルドと町に預けて御主らは見回りなどの仕事に当面は従事するように。稼ぐのは雪解け後。それまでは良く食べよく鍛えておくように!」
「はーい!」
師匠の部屋から出て僕らがギルドカウンターに行くと、そこにはチーさんが居た。
「やっほやっほ。またやらかしたらしいね」
「もう伝わってるんですか!?」
「そりゃそうよ。冒険者は個人事業なんでね。身を守るのに早く情報を仕入れてる」
早過ぎる……って情報で思い出した。あいつを探さないと。
「あれを探そうとしても無駄よ。そう言うのが特技だからね。気配を消して動き回ってる。ただ僅かに出てる気を察知出来るようになれば簡単に見つけられるけど」
「良く分かりましたね」
「情報元だからね。あいつはタダじゃ起きないのさ。サクラダよりも悪い意味でね。康久が前にあいつに情けを掛けた話も聞いてるよ?」
相変わらず世知辛いなぁと思いつつ苦笑いする他無い。
「落ち込む必要は無いわよ。康久の人の良さを宣伝してるようなもんだからさ。情報屋の話は話半分くらいで丁度良いのよ。新人をああやって引っ掛けて私みたいなのがそれを教えるっていう通過儀礼のようなもんだし」
「もう康久はシルバーなんだけどねぇ」
セオリの指摘が胸に刺さる。ちょろいシルバー略してちょろシルとか言われそうで嫌過ぎるんだけど。
「以後気をつけて行けば良い話よ。信じるのは自分の目と耳と鼻から仕入れた情報のみ。私みたいな密林育ちは常識だけど、町育ちだとあっさり他人を信じるからより過酷な環境で生きてきた人間には楽な面もある」
益々立つ瀬が無い。久しぶりに引きこもりたい気持ちになってきたしここに来る前の状態を思い出して憂鬱になる。
「ちょっとちょっと、そろそろお兄様で遊ぶのは止めて下さいましな」
「ごめんごめん。ついつい虐めたくなっちゃった」
「わかるー」
「御前が分かるな」
セオリに突っ込みを入れるのが精々だ。同類の癖にさっきから妙に攻撃してくる。
「取り合えず明日から私と雪山で鍛錬ね。師匠にも少し面倒見るよう言われたし」
「え、それは申し訳なさ過ぎるんですけど」
「良い……っていうか今隣町と緊張状態になってるから山方面の仕事はストップしちゃったし、荒れ地側は警備隊の監視下に置かれてるからね」
……最早藪蛇を絵に描いたような状況である。一日中ギルド前で頭下げてた方が良いのかってレベルだ。
「まぁ遅かれ早かれよ。ぶっちゃけるとあっちが手を出してきてるのは皆知ってたわ。マドランがあっちと組んで誤情報を流して撹乱してた所為で面倒になっちゃってたから、手が出し辛かったのよ。康久の行動はお手柄だから落ち込まないように。寧ろ今は康久より前からここに居て更に上の階級の人間たちが白い目で見られてるくらいだし。師匠としてはそういう連中の話をするよりは、康久の今後の為に注意と自覚を促す方にしたって感じよ。師匠にとって弟子の未来の方が大事だし」




