デラウンの守護神
「き、貴様ら!?」
外へ出るとさっきの斧持ち黒鎧と共に用心棒で雇った冒険者たちを引き連れて、頭髪が寂しいけど口とか顎に髭を貯えた小太りのスーツを着た六十代くらいの小父さんが現れた。とても分かり易くて好感を持ってしまう。
「こんにちは町議員さん。お名前は存じ上げないが折角お会いしたばかりだけど退散させてもらおう」
リュクスさんのキラキラした感じとは対照的な町議員さんはぐぬぬとしている。分かるわぁこの高貴な感じ主人公ならリュクスさんに間違いないんだよなぁ見た目はさ。
「帰す訳無いだろう? 勝手に人の陣地に入ってきて」
「五月蝿いんだよ斧鎧。御爺さんを殺害した犯人の一味の御前が人の陣地がどうとか言えた義理か」
その言葉に対してケッと言うだけで御終いのようだ。理解しているだけ賢いな。
「やっちまえ!」
斧鎧は号令を掛けるも誰も動かない。彼らの中には一回痛い目を見てる者もいるだろうし、僕を冒険者なら恐らく少し知ってる感じだ。でもまぁそれを置いてもリュクスさんの高貴さに挑みたくないだろうなぁと思う。僕ならバレないように逃げる。割が悪いもんこんなの。
「お、お前ぇら!」
「一抜けた!」
リュクスさんの後ろに居た僕は、聞こえる程度の声で言ってみた。少しすると斧鎧の後ろの方から続々と人が去っていき、最終的には斧鎧とおじさんだけになっていた悲しい。
「さて貴公らどうするね。もう人数も私達の方が多いのだが」
「ぬかせ!」
斧鎧は獲物を構える。僕が捌こうと前に出ようとすると、リュクスさんに手で遮られ制止された。
「ここは私がお相手しよう」
「良いだろうキザ男。俺たちブラックスワンの力を思い知らせてやる!」
僕とラティは顔を見合わせる。黒鎧たちってブラックスワンて名前の集団だって初めて知った。これから探しやすくなって何よりだ。というかそのネーミングって僕らの世界でのブラックスワン理論を知ってて付けたのかなって疑いたくなるくらいバッチリ合ってて驚く。
「そうか、ならデラウンの警備隊長である私の相手にとって不足無しといったところかな」
「なっ!? デ、デラウンの警備隊長!?」
「そうだぞ? こっちにいるのがデラウンの新進気鋭の冒険者にして例のネルトリゲルの騒動を鎮圧した人物だ」
その言葉におじさんは恐れ戦き尻餅をついた。斧鎧は片手を空けて額の汗を拭う。ネルトリゲルの件はただボロ負けしただけなのに評価されたりすると非常に居心地が悪いんですが……誰に申し出たら良いんだろうかこれ。
「さぁさケリを付けようじゃないか。最早言葉は無用!」
リュクスさんは背中に背負っていたショートソードを腰に付け直し引き抜くと、斧鎧に向けて構えた。暫く見合い仕掛けてこないと見ると、リュクスさんは構えを解いて散歩でもする様に近付き一太刀浴びせた。その速さに反応するまもなく斧鎧は血を出しながらひっくり返った。
「ひ、ひぃいいいいい!」
尻餅を付いていたおじさんは這い蹲りながらも高速で逃げていった。凄い能力をもってるなぁ……町議員にもなるとああいうのを一つでも持ってるんだろうか。
「さて帰ろうか。こんなところに長居をしても意味は無い」
血を払う為に剣を一回振り下ろしてから鞘に収めこちらを向いて微笑むリュクスさん。これが本来の獲物なのだろうか。あの速さは僕には対処出来ないくらい速かった。どこかで管理職でしょと考えていたけどそれが間違いだというのを見せ付けられて恥ずかしい気持ちになる。
「デラウントナカイはどうするの?」
「業腹ながら今は彼らに与えよう。私たちは先を見据えて動かねばならない。デラウンの宝を盗んだ報いはとてつもない代償を払わされるという現実を見せる為にね」
そう言った時のリュクスさんの冷たい表情は後のオリババの運命を垣間見た気がして寒気がした。町で大切に育てている宝のようなものを奪ったのだから当然と言えば当然なんだろうけど、初めて見るリュクスさんの負の側面は中々強烈なインパクトがある。




