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異世界狩猟物語  作者: 田島久護
銀世界

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釣り糸を躍らせる

「有難う。これで貴方は自由だ」


 僕はそう言って縛りを解く。解かれた黒鎧は急いで距離を取るもこちらを向いたままだ。


「安心して良い、貴方は今回は追跡しない」


 言葉に反応しない。信用出来ないよな。でも信じるほか無いのは他の黒鎧を見れば分かるはずだ。


「うあああああ!」


 少し間があった後叫びながら関所の方へと逃げていく。


「関所に誰か協力者が居るのかね」

「あの町の兵も居ますものね」


 こっちでも掛かったのか。町同士の抗争になり兼ねないけど後は上の人同士の判断だな。穏便な方法なら幾らでもあっただろうし、オリババはヘタを打っただけだ。上手く行けばオリババの儲けはデカかったんだから。


「さて、私たちはお兄様を追いましょうかねぇ」


 セオリはリュックに手を突っ込んで何かを出して手に持って僕に見せる。


「これは?」

「めっちゃ見え辛いけど、凄く細くて頑強な糸なの。これをお兄様のソリに括り付けてあるから、これを辿って行けば……」


 流石首都に居ただけあってここら辺では手に入らない素材についても明るい。


「セオリを初めて見直しましたわ!」

「それほどでもぉ!」


 胸を張って後頭部を掻きながら鼻息荒くするセオリ。全然褒めてないのにね。


「さぁさっさと行こう。リュクスさんが負けるなんて有り得ないだろうけど援軍は多いほうが良い」

「そりゃそうよお兄様が欲しいのは証人であって援軍じゃないのよ」


「リュクス隊長は御強いんですのね」

「当たり前じゃない。でなきゃこんな大きな町の隊長なんて勤まらないのよ? ギルド長とも対等に話せるわけないんだから弱かったらさ」


 それを聞いて納得した。決して兄馬鹿ではなく理由があっての話しだし。隊長だから師匠と対等に話せるんじゃなくて実力を認められているからなんだな。


「さぁ要らない子呼ばわりされる前に追いつきましょ」


 僕たちは黒鎧の馬を二頭拝借し、セオリとラティは相乗りでオリババを目指す。走っているとオリババが直ぐ見えてきた。流石連中の馬だけあって頑丈で足も速い。で、そのオリババだけど昼間なのに出入り口が封鎖されてる。僕らは林を抜ける手前で馬を下り、茂みの中をゆっくりと進んで出入り口付近へと近付く。


 ある程度まで近付くと、そこは乱雑にトラバサミなどの罠が巻かれていて迂闊に近寄れなくなっていた。ただこっちもある程度慣れたものでラティと僕は自分のリュックから樹液で作ったボールを取り出しトラバサミに噛ませて行く。こうすると音も無く解除出来る。結構な数を使ったのでこれも後で請求しないと。


何とか処理を終えて塀に近付けるようになった。ただ兵士は間隔を空けてはいるものの頻繁に見回りには来ている。穏便に進入という訳にはいかないようだ。セオリの糸は確実にこの中へと続いている。入らない選択肢も無い。


「それじゃ行くね」


 僕はロープを貰ってから急いで塀をよじ登り兵士を一人倒してからロープを下に垂らす。ラティはセオリの手を引きロープを片手に一気によじ登ってきた。僕はラティを片手で抱えて引っ張り上げる。三人で塀の上でハイタッチした後、そのまま矢倉の方角へと走る。そこには兵士が数人居たものの、あっさり撃退。そこから下へと降りるも兵士が沢山。奇襲だから何とかなってるだけだ。これ以上は無理と判断し矢倉の下から抜け出し街中へ。セオリの糸を頼りに移動を開始する。何食わぬ顔をしていれば暫くは誤魔化せる。


「こないだ荷物を下ろしたのは恐らくここですわね」


 町側から建物を見ていないので分からなかったけど、うちが持ってきた鉱石が無造作に外から見える場所に置いてあったので間違いないと思う。


「でも今はここには居ないみたいね」


 セオリは糸を引っ張っると一旦ここを通過し更に先の方へと続いていた。そう簡単には見つけさせてもらえないらしい。


「旦那、お困りですかい?」


 僕らの背後から聞き覚えのある声がしたので振り返ると、マドランさんが居た。


「タイミングが良いですね」

「そりゃもう。旦那たちが賑やかで出てきちまいましたよ。それよりお早く。向こうも表立って暴れられないから早いうちにやっちまわないと」


 マドランさんの後に続いて移動する。あの言い方からすると町が全てこの話を知っている訳ではないと聞こえるけど果たしてそうなのだろうか。

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