雪解けに向けて
依頼の品と観察記録を提出し、僕たちはそのまま家に戻る。こういう依頼の場合ギルド職員のチェックが入りオッケーとなれば報酬が支払われるので数日タイムラグがある。それをただ待っている訳にもいかないので次の依頼を当然受ける訳だけど、昨日の依頼もそうだけどキツイか簡単な依頼しか僕らには残されていない。シルバーランクに上がったばかりで新人状態だから仕方ないんだけどね。
ただシルバーになるとブロンズよりも出来るものがあった。それは営業だ。割とブロンズ帯では受け身だったけど、シルバー帯からは仕事を取ってこれる。ギルドに集まってくる仕事は、相手から依頼されるものもあれば、ギルド職員が営業を掛けているものもあり中には冒険者からギルド職員に転職した人もいたりする。
「やはり解体場を建設する為にはしっかりと稼げる仕事が良いですわね」
「うーんでもさぁそう言うのって特にこの時期皆優先して取っちゃうから私たちに降りてこなくない?」
「そうなるとデラウントナカイをもう一頭欲しいし、ここはコネと貸しを使おうか気が進まないけど」
何となく嫌な予感がしたんだけど、僕らは翌日警備隊の屯所へと向かう。出勤したばかりのリュクスさんと丁度入り口で会い、そのまま隊長室へと通された。
「ああそんな話か。だったら直ぐに町長に書類に判を貰って来るから待っててくれ」
「え!? そんな簡単に!?」
あまりの話の進み具合に驚く僕をリュクスさんは不思議そうな顔をして見ていた腹立つ。何か裏があるんじゃないのか?
「君はイマイチ理解していないようだけど、貢献度を考えればこんなものは貸しを返したうちにも入らない。ただの申請だ。勿論申請する相手によって速さはある、こっちも人間だからね。君がもし我々に貸しを返してほしいというなら、デラウントナカイの一括飼育でも申し出てくれたら考えるよ」
そのまま受け取るなら僕が凄過ぎてちょっと自分の話だけど引くわ。
「何より個人的に私たちは君に借りが多くてね。いつ返させてもらえるか毎日冷や冷やしてるくらいだよ。……誰か!」
書類を書きつつ肩を窄めるリュクスさん。確かに借りっぱなしは気分がいいもんじゃないなぁ。だけど何か話が上手く行き過ぎじゃないか?
「はっ!」
「これを町役場へ。私から急用だと伝えて町長宛に渡してくれ。書類が返ってくるまで町役場でお茶でもして来なさい」
一人の十代後半のブロンズヘアの兵士が入ってきてリュクスさんの机の横に立つと、書類と小銭を受け取り、僕らとリュクスさんに敬礼して急ぎ足で出て行く。目がキラキラしてる! 眩しっ! 何を期待されているのだろうか。
「で、後は何か申請するものがあるんじゃないのか?」
「そうなのお兄様。康久の家の庭に解体場が欲しくて、その下水とか」
「もう準備は出来てる」
セオリの猫撫で声に動じずにサッと机の引き出しから書類を取り出すリュクスさん。シスコン恐るべし。
「後は君らの資金の都合だ。そちらがオッケーになったらいつでも言ってくれていい。何だったらとなりの土地も押さえたら?」
「そんなお金はありませんわ?」
「君らなら銀行でお金貸してくれるよ? 知名度に将来性を考えればこの町で一番借り易いと思うけど」
「気軽に言いますね。借りたら返さなきゃならないでしょう?」
「勿論だとも。ただこの解体場を建てる為の資金なら喜んで出すと思うけどなぁ。スポンサーが必要ならうちが付いても良い」
マジか警備隊がスポンサーって。そうなると町の関連施設になるし税金も安く済むに違いない……って上手い話し過ぎじゃなかろうか。
「君も分かってると思うけど、首都からの人が増えて森はそのままにと考えると荒れ地を整地して土地にし住居などを建設する話がもう出ていて、春先から工事が始まる。そうなると冒険者も多くかり出されるし工事で人が入ってくるのもある。となると解体場も町のだけでは足りなくなる」
「わぁっ! そうなると私の解体場が民営初の解体場になるのね!?」
リュクスさんが笑顔で頷く。なるほど妹の為だから余計に借りを返したにはならないって話だな。なんなら借りが増えたと思ってそう。
「嫌なら私個人がスポンサーになる。妹の晴れ舞台だ。なるべく協力させて欲しい」




