夜明け前
十五人くらい二足歩行の獣の顔した人など人間とは違う種族の混じった集団がたちが思い思いの武器を携えてこっちに掛けてきた。嫌だなぁもう誰とも接触したくないのに……。
「悪い悪い。別にアンタの功績を横取りするつもりはないよ。遠くから村の全員がみてたから、横取りしようにも出来ないしな」
……あんな事があったのに何もせず見てたのか。お爺さんは心配で見に来たのに……。
だから人間なんて嫌いなんだ。中にはお爺さんよりも背が高く筋骨隆々な若い人もいる。それでも出てこなかったのか。
「放っておいてくれ」
「そうはいかねぇよ。あんなものが村に来たら、村が壊滅しちまう」
「関係無い」
本気でそう思った。さっきの黒鎧もそうだけど結局のところ自分の都合の善し悪しで人に善悪を押しつけるクソでしかない。
「アンタは随分勇気があるようだけど、おら達はそうじゃない。家庭も家族もあって護るもんもある」
「お爺さんには無かったのか?」
僕は顔も見ず言ってきた相手に言い返した。一々言い訳がましい事を言うなんてどこの世界も一緒だ。クソでしかない。
ここもクソな世界なんだろう。女神からしてクソなのだからそうに違いない。
「別に竜を倒したいなら倒したらいい。僕は関係ないから行かせてもらう」
僕は何か後ろで言っている連中を無視して歩きだす。林の向こうもクソのようだ。吐き気がする。どこへ行こうか……どこへ行っても同じだけど。
暫く歩いていると後ろの方から轟音が響く。どうやら竜がお怒りで何かしたらしい。凄い風が後ろから吹いてきて僕を吹き飛ばした。
起き上がり後ろを見ると、燃えていた。いつだったかニュースで見た化学工場での爆発事故映像のように。
僕はそれを見て手を合わせお爺さんの冥福のみを祈りまた歩き出す。見渡しても砂漠。何か見えたりもしない。
無心のまま歩き続けていると、上空をバサバサと飛ぶ音がする。十中八九あれしかない。だが通り過ぎていく。旋回して戻ってくるのかもと期待したが、行ってしまった。
そりゃそうか。あっちからすれば僕なんて微生物レベル。気にする事も無いんだ。それに欲を出して来た連中に対して全力で怒りを叩きつけたようだし満足したんだろう。
気分はまた最初のころに逆戻り。なんだか三歩進んで三歩下がる位酷いなぁ。ホントなら来た者達と協力して退けるなりした方が良いんだろう。テンプレな勇者ならそれが正解だと思う。
だけど僕は善人じゃない。お爺さんを忘れて仲良くやりましょうなんて出来る筈がない。お爺さんが来なければ僕は永遠に死を繰り返していたんだから。
さてどうしよう。干し肉はあるし肌寒いけど凍え死ぬって程ではないし、取り敢えずこのまま歩き続けてみよう。
ボーッと何も考えずに対して変化の無い砂漠を歩く。このまま歩き続けたらエンディングに辿り着かないかな、などと埒の無い事を考えて始める。
どれくらい歩いたか解らないが何やら遠くに建物らしきものが見えている。こんな砂漠のど真ん中に街か。夜は入れないだろうから朝になるまで近くで寝ていよう。そう考えて近付いて行く。
しかし近付けば近付くほどその街が明るいのに気付く。こんな夜も深そうな時間に火を幾つも高い塀に間隔を空けて置いていた。カジノ的な物でもあるのだろうか。
速度を落とさず近付いていくと、後ろからドドドドドドドドという地鳴りが近付いてくる。これは多分馬だろう。という事はさっきの黒鎧の可能性もある訳か。
僕はそう考えて星空に手を伸ばし自分の上半身くらいの長さの剣、トゥーハンドソードを呼び出し手に取ると、立ち止まって剣が見えない様に、背中に手を当て隠す。
殺す気なんてないけどやるなら黙ってやられたりはもうしない。
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