戻る日常と持ちつ持たれつ
「兎に角今はセオリの仕事場を整える為の資金と雪解け前に雪専門の仕事で高値の仕事をガンガン請けて行きましょう」
「そうだね早速行きますか」
「私も行っていい!?」
「雪の中歩くの大変だけど良いのか?」
そう言うとふふんと鼻を鳴らして外へ歩いていく。家の入り口に立つと手招きするので、ラティと共に行くと、そこにはデラウントナカイとソリがあった。
「ど、どうしたんですの!?」
「私だってただの居候するつもりはないのよ? それに警備隊の屯所でもちゃんと仕事してたしお給金も出てるんだから!」
隊長の妹だからと甘やかされた所も多い、というかほぼそうだけど仕事に関してはちゃんとしてたからこそ言い辛い状況が生まれていて未だに逆らえないという地獄が屯所にあったのだと思うと、なんだか涙が出てきた。そうなると僕は警備隊の救世主……いやだなぁまたこれで冒険者の方が良いなんて人が増えたら。警備隊の人たちが居るからこそ冒険者なんて好き勝手やれるのに。今度警備隊の慰問でもしようかな……。
「さぁさ! 乗って頂戴!」
「乗って頂戴ってセオリ運転できるの?」
と聞きつつも僕は乗り込む。ラティが何も言わずにセオリの隣に座ったので、僕は後部座席へ。抗議しないのは覚悟からで、信じるのも大事という話なんだろう。そう一人納得した。
「行くよ!」
手綱を思い切りひっぱたいて爆速で行くのかと思いきや、めっちゃ優しくぺちってやっただけでデラウントナカイはゆっくりと前進していく。まさかこのペースで行くんじゃ? と思ったけど、次は少し強めに手綱を引きと徐々に強くしていった。車のギアチェンジみたいだなぁ。
「はい到着」
めちゃくちゃ丁寧で的確で素早くギルドの前に着き、僕らを降ろすとギルドの裏手の駐車場に止めて戻ってきた。
「車輪は止めて来ました?」
「勿論だよ。あれ結構するから盗まれた困るし」
なんつーか肝が据わってるなぁラティは。正直着くまで内心冷や冷やしっぱなしだったんだけど。今も安心出来ない。長距離になったらどうなるか。
「お兄様、行きますわよ?」
「早く早く!」
人の気も知らないで……と思いつつ二人の後に続きギルドに入る。何だか視線を感じるけどスルーする。
「いらっしゃい三人とも。書類は読んだかしら?」
「勿論ですわ。早速私たち向けの依頼を見せて欲しいのですけど」
「良いわよ。今のところ指名は無いわ。何れ指名が入った場合はそちらを優先して出すわね」
ミレーユさんはそう言いながらカウンターの下から紙を五枚出してくれた。見ると雪山が三件他は荒れ地が二件。荒れ地はいつもの警備と警備の夜番だ。雪山は遊牧地方面の見回り、生物の観察とサンプルの採取、雪掻きの三つ。
「雪掻きが重労働ですわね……」
「その分報酬は高いわよ? 一日で終えるものじゃないから継続依頼になるけど」
この雪掻きは勿論ブロンズ帯にもある。けどシルバー帯に来る依頼は当然山の奥の方でモンスターや肉食動物、更に恐竜と出くわす危険もある。ゴールド帯もあり、この時期専門でうちに来る人たちも居るらしい。会ってみたい気はするけどなぁ。
「僕たちは雪山の見回りと生物の観察、サンプルの採取で行きます。セオリの初依頼でもあるし」
「それなら賢明ね。解体場を整備するって言う話を本格化させるのね」
「流石耳が早い」
「いえいえセオリが貴方達が居ない間ここに来て私に教えてくれたのよ」
マジでか……あの篭もってたセオリが好んで外に出るなんて! まぁミレーユさんが良い人だっていうのをキチンと理解して絡んでいるんだろうけど、大分進歩したなぁ。……となるとここに入ってきた時の視線はその所為か?
「なるほど皆さん御仕事が欲しいんですのね?」
「そういう話ね。雪解けまでまだ間があるし、仕事はあればあるほど良いじゃない? 是非当ギルドをご利用ください。下水を引くのも専門の人が居るし、家を建てた時の人たちも良い仕事するわよ?」
仕事を貰いに来たのに逆に営業を掛けられてしまった。持ちつ持たれつだなぁ。視線をずらすと、荒くれさんたちが手を振っていた。僕も手を振って返す。こりゃ早く稼がないといけなくなった。
「じゃあ早速行って来ます」
「お願いね。資料に具体的な採取する物とか書いてあるし、見回りは特に何も無ければそれで良いから。定期的にこっちが見てるぞっていうのをそれも高ランク帯の人がやるのに意味があるわ。特に貴方達のような新進気鋭の人がやると更にね」
僕たちは資料を受け取りギルドを後にした。




