星降りの町からの帰還
「いいえこれは私なりの恩返しです。必ずや素敵な世界を作って見せますわ」
恍惚の表情を見せるサクラダ。中身は月読命って人なんだろうけど、見た目がサクラダだから気持ちが悪い。
「酔ってるんじゃないよ。御前と御前の仲間にとっての素敵な世界が出来るだけであって他の者には全く違う世界だ。そんなものがしたいなら自分たちだけでやりな」
「だからやってるじゃないですか。それにね、あの隕石と因子は彼から私への贈り物」
悪役らしい笑みを見せるサクラダ。地震が始まった。
「なるほどあの糞野郎……仕込みは完全って訳か」
「貴女が余所見をしていたからよ。居れば隕石なんて落ちる筈無かったのにねぇ!?」
ゲラゲラ笑うサクラダ、そしてその背後の空間が歪みシュリーと同じような格好の人間たちが現れる。仮面を付けた者や大きなリボンを付けた者、骸骨を加工したようなものを被っている者、そして竜の顔をした二足歩行の者。
「因子は回収した。私の楽園は完成の為の基を手に入れた。貴女にはもう何も出来ない」
「ここでアタシとやりあうかい?」
「御冗談でしょう? 貴女も私も本体ではないし何より貴女を倒す価値は無い。その人間モドキの体を借りるしか現界出来ない貴女にもう用は無いんですよ? この者たちを呼んだのは鬼の回収の為」
歪みから現れたシュリーの仲間であろう者たちは、あれよというまにウルド様が倒した鬼たちを回収し歪みの中へと放り込んで行く。
「良く分かった御前は必ず殺す」
「楽しみにしてますよ。勿論私たちのところまで来れればね。あ、御土産に私たちが何処に居るかヒントだけ差し上げますね。秘境と呼ばれる場所ですよ」
「馬鹿かこの星に秘境なんて人間が住んでる所以外だろうに」
ウルド様の言葉に嬉しそうに微笑み小さく笑うサクラダ。そして歪みへと他の者たちと共に消えて行った。
「お兄様、大丈夫ですか?」
僕は気を失ったようで、気が付くと視界に空とラティが映っていた。体の痛さは無い。きっと激痛で死んだのだろう。焼けども無さそうだし回復したから目が覚めた。
「大丈夫かと言われるとなんと言って良いか……取り合えず今戻ったよ」
体を起こすと周りは戦いの後と焼け焦げた神社、そしてただ空を見上げるヒショウさんが居た。どうも声が掛け辛い。全部攫われてしまった。ひょっとするとヒショウさんと同化するのを月読命は待っていたのだろう。因子を貰ったというのは鬼だけじゃなく隕石の中に居た魔術師の体を手に入れたというのも含まれている筈だ。そしてサクラダは嵌められたのか元々組んでいたのか。
「これで終わりにはなりそうにありませんわね」
「だねぇ今回は僕の惨敗だ……いや蚊帳の外って感じ?」
結局ほぼ何も触れず気付けば今朝の状態に戻っただけだ。良いように漁夫の利をやられただけだった。
「取り合えず帰りましょうか」
「そうだね帰ろう」
ヒショウさんに一礼しその場を後にする。
「おめぇたち大丈夫か?」
神社の鳥居のところでヤグラさん夫婦が待っていたので全てを話し、数日のお礼を告げてデラウンへと旅立つ。実に気が重い帰路になった。偉そうな啖呵を切ったのにこの始末。ダサさが半端無い。道中ラティが気を使って色々話してくれたけど耳に入ってこない。チート能力を与えられたはずなのに……。
「おう、随分と飛ばして帰ってきたな」
真夜中、デラウンのギルドに辿り着くと師匠が待っていた。伝令を出した訳でもないのになんで分かったんだろうか。
「た、ただいま帰りました……」
「良い面構えだ」
「惨敗しましたが」
「だからこそ良い。負けを知らない内は半人前も良い所じゃよ。負けを知る、即ち己の足りない部分を知ったんじゃからな」
負けというか理不尽の極みみたいなのを味わった。勝利条件が全く分からない。
「更に強くなりたくなったんじゃないか?」
「そうですね、理不尽に負けないくらいには強くならないと、また同じ繰り返しですから」
今回みたいに蚊帳の外はゴメンだ。見てるだけしか出来ないなんて屈辱以外無い。




