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滅神創世記by幼稚園児

作者: 天羽ひのわ

天羽の書いた初めての小説なので至らない点が御座いましたらご忠告お願いします(>д<)

あともしかしたら苦手な方にはグロく思われるかもしれません…ιご注意ください(o_ _)o

月が輝きだした高層ビル街。中でも一際高いビルの屋上に、満月を背にした人影が2つ。一人は男のようだ。黒髪に黒いスーツ。黒いネクタイに黒い革靴。よく磨かれているようでツヤがある。


――フー……



紫煙を吐き、空を見上げる。目が片方、前髪で隠されていた。



「遊馬ァ、見つけたぜェ」

隣から声がした。



「……どっちだ?」



目線をそらすことなく答える。



「あっちだァ。えェーっとォ、右。」

「………」

指さした方へ目をやる。5つ向こうのビルの横を、歩いて行く人がいる。



「ありゃァ憑かれてからそう経ってねェなァ。まだ眼が生きてるぜェ。」



男の腰ほどの背丈もない相方が話を続ける。


()の場所は腹のド真ん中だァ。まだ間に合うんだからァ、殺さねェようにしろよォ?」


「……了解」


友人の忠告を一通り聞き終え、素直に承諾の意を伝える。煙草の灰を落として、今だ指さしたままの相方にチラと目を向け言った。




「………言いたいことはわかったが、お前がさっきから指さしてンのは右じゃなくて左だ。阿呆。」




言い終わってニヤリと笑うと、遊馬と呼ばれたスーツの男は、ターゲットを追い掛けて行った。

























***********


「………チッ」




ここのところずっとイライラしている。今日も残って補習だった。昨日も。その前もだ。

教師はたいして偉くもないクセに人を見下す。あの脂ぎった顔を向けられると吐気がする。

気にくわない学校。

学校だけじゃない。

家庭だって気にくわない。

周りの人間の、なんでもない仕草に無性に腹がたつ。


―――いったい俺はどうしたんだ―――――――


ついこの前まではなんともなかった。父は面白いし、母は優しい。教師だって、尊敬していた。

だが、この頃はそれらを壊したくて仕方ない。


―――――――――――――殺したくて、仕方ない。




――――だめだ。さっきから、人を見る度どうやって殺そうか考える。頭の中では、血しぶきと断末魔の悲鳴だけがこだまする。俺はどうかしてる。とにかく、人を見たらだめだ。



人混みを避けて路地裏に入り込む。







………………!!!



しまった。誰もいないつもりで入ったが、人影がある。しかも一人。背丈からして子供のようだ。


なんでこんな時間に子供が?……――そう思う前に、頭はひとつの考えで埋まってしまった。






















―――――――――――

格 好 ノ 餌 食 ダ 。

―――――――――――






満月が、高校生男子と子供を照らす。子供は、幼稚園の制服を着ていた。紺のリボンが巻かれた青い帽子をかぶり、胸には ドリアン幼稚園すみれ組 相沢はるき と書かれたワッペンをつけている。形はチューリップのようだ。


小さな影に優しく微笑みかけ、一歩近付いた。



――――怖がらせてはいけない。逃がすわけにはいかない―――




微笑みを崩さず、また一歩。子供は逃げる様子を見せない。



――――大丈夫だ。いける。あと十歩―――――五歩――三歩―二歩――――




少年の手が園児の首にのびる。頭の中は子供の発するであろう悲鳴だけが鳴り響く。もはや良心の葛藤などない。



細く白い首に手をかけ、両の親指で思いきり押し潰した。




――――――悲鳴が、ない。




予想してたハズの甘美な喜びも、ない。




子供の目が見開かれ、少年を見つめる。手にさらに力を込めると、半開きだった口がゆっくりと鮮やかに弧を描いた。


「――――お兄ちゃん――――――――――――――――――――――最後の審判が――――――――下されたぜェ???」



―――ドスッ!!!


…………!!!!?




――――刺さっているのは――――刀?



――――しかも、俺の―――腹に、だ。




後ろを振り返る。黒スーツの男が、眉ひとつ動かさずに俺を見る。手に握った刀には、ゆっくりと血が伝い始めていた。




――――葬儀屋みたいだな。



なんだかおかしくなって、笑った。




黒スーツの葬儀屋も、血溜りを作る俺を見て、笑って言った。




「……お前は有罪だ。阿呆。」







―――――――――――――――――――――――――――………………どこだ?………ここは……




先ほど襲われていたちょっぴり不良な高校生、佐藤幹彦(みきひこ)は重たい瞼を開いた。




「………お?起きたか。」



顔の前にはいつぞや見た葬儀屋。葬儀屋の台詞に答えてあどけない声がする。



「起きただァ?なんだよォ、予定より早いぜェ?遊馬ァ、動かれちゃァうぜェから押さえとって〜♪」



どうやら俺は横向きで寝かされてるようだ。黒スーツは顔の前にいるが、俺の腹の辺りで何かしているらしい園児のすがたは見えない。


――――――俺は生きてるのか?なんだか腹が痛い。


―――――あれ?腹?ちょっと待って、腹って

「おぉ〜し、じゃ面倒くさいけど押さえとくから。動くなよ?」――――え?待って?あれ?え?え?――――――――――――――――ブチィィッ!!!!



ギャアァアァァァァァァッッッ!!!




「おぃコラ、動くなって

「『おぃ』じゃねぇぇぇぇ!!!!てめっコラ!!!ブチィィッってなんだコラ!!!俺から何を抜いた!???『ブチッ』ギャアァアァァァァァァッッッ!!!!!だからやめろって!!!ブチはやめろって!!!何してんだって!ちょ、見せてみろコラ!!!!」

「おぃ遊馬ァ、ちゃんと押さえてろって

「イヤァァァァァァ!!!まだ刺さってンじゃん!!!まだ刀残ってンじゃん!!!貫通してンじゃん!!!!」


「おいおいだからお前動くなって

『あァ〜うぜェ。まじうぜェ。なんかァボクもう腹立ってきちゃったァ。』………ブチブチブチピチッブッチィィッ!!!!



アギャァァァァァァァ!!!!




***********************



「いぃかァ?俺たちはてめェを助けようとしてたんだぜェ?はっきり言ってェ、お前あのままだとピンチだったんだよォ。」




俺は今、仁王立ちしてる幼稚園児の前に正座させられている。刀はさっき抜いてもらったのだが(別に痛みはなかった)、まだなんか刺さってるような感覚に落ちいってしまう。無意識に腹を撫でさすりながら言い返した。


「危なかったって………刀刺してたのはあんたらだろ?俺を人生最大のピンチにしたのはあんたらだ。」




「いやいやいやいやァ。ちげーよォ。危なかったのは刀じゃなくってェ、俺がブチッてやったヤツの方だぜェ?」




「……は?え……っと……

「はるき だよォ。相沢はるきィ。んでェ、こっちのおっさんが 遊馬 だぜェ。」




須藤遊馬(すどう ゆうま)だ。ちなみにまだおっさんじゃない。」



横から声がした。見てみると、黒スーツが刀についた血を拭きとっているところだった。



「………俺は佐藤幹彦。で、ブチッてやったヤツの方が危なかったってどういうことだ?はるき君」



…………………………………………あれ?返事がない。…………………………………………黒スーツの遊馬さんが青ざめた顔でこっち見てる。


「……あの、はるきく『俺様を君づけで呼ぶたァどォいう了見だァ?幹彦クンよォ。』




「…え?」




かわいい五歳児の顔に青筋が浮き、半分ほどに影ができてる。

背中に変な汗がつたい、遊馬さんに助けを求める。



「え…ちょ…あの、はるき君?どういうこと?えっ?待って?そのハンマーどっから出したの?なんかでかくない?つか、笑わないで?ね?お願いだから、ニヤニヤしないで?……待って待って待って!!!ちょ!!!振り上げないでぇぇぇぇ!!!遊馬さんっっ!助けて!!!ちょっとこのバイオレンス園児止めて!?つか、はるきく…はるき様もやめて!!!お願いだからピコピコハンマーで我慢して!!!!………イヤァァァァァァ!!!!」




…………………………………………こ……ひこ……みきひこ………………………………………………あれは…………じいちゃん…………じいちゃんだ………………………………………………幹彦…………鼻血が出たときは……………………首の後ろを叩いちゃ…………いかんぞ………………


…………………!?????



ガバッッ



「じいちゃぁぁぁぁぁん!!!!」




「うるさい」バシッ


うぉぉ!?首の後ろを叩かれた!!



「何すんだ!せっかくの死んだじいちゃんのアドバイスを…………って俺鼻血出してねぇぇぇ!!じいちゃん意味ねぇじゃん!!!!」



そうやって俺が一人ジタバタしていると、



「ほらよ」



コトンッ



「……なんスか?これ……」




刀を拭き終わったらしい遊馬さんが、俺の方へ丸い物を転がした。全体に茶色がかっていて、真ん中にうっすらと瞼?らしきものがある。閉じた瞼を、縦に刀傷が貫いていた。


「エデンの林檎」


遊馬さんがぶっきらぼうに答える。


「???????」



いまいちわからない。


「てめェ高校生だろォ?『創成記』くれェ知ってンよなァ?」



何の反応も示さない俺を見かねて、(クソ)はるき様がしゃべりだした。



「エデンの林檎ってのァなァ、言ってみりゃァ『創成記』の『善悪の知識の実』なんだァ。」



「それって『アダムとイブ』の……」



「そォ。あの喰ったらダメよ〜♪って神様に言われてた実さァ。」


「………ここにその実がある意味もわかりませんけど……その実のどこがヤバイんスか?」




いまいち納得しないながらも、聞いてみる。



「それはァ………………………………………なんかもうボク説明すんのダルくなっちゃったァ♪遊馬ァ〜代わってェ〜」




「…はぁ?ι」こんなときばかり5歳に戻るとは……ι

ホントわがままなガキンチョ………いやいやおぼっちゃまだ☆………………これでいいっスか?………そろそろ青筋ひっこめてください。




なにはともあれ、遊馬さんが説明しだす。



「……この実は、人間に寄生する。体に根をはっちまうんだ。寄生された人間は、殺人願望や、破壊衝動、人間不信とか、まぁいろいろよろしくない症状が出る。実は、人間のそんな負の部分を好み、そこから栄養を得る………」



「……成長するってことっスか?」



「そうだ。成長しきったら、体中にめぐらした根で人を操って悪戯に殺しを繰り返す。なかには、体突き破って別の人間に乗りかえるヤツもあるがな。」




「…んな、そんなこと信じられるわけないじゃないっスか…。」


どう考えたって、この実にそんな力があるなんて思えない。それに、そんな危険な実が存在するなら国が放っとくワケがない。

「信じるも信じないもォ、この実はさっきまでてめェの腹に張り付いてたんだぜェ?根だって深くまではってたさァ。だからァ遊馬はァこの実を殺すためにてめェごと刺したンだよォ。」



自分の腹を見てみる。刀傷はあるが、実が張り付いてたような痕はどこにもない。




「……あんたら頭がおかしいんじゃ…『よォく思い出してみろォ。遊馬に刺される前、てめェは俺様に何をしようとしてたァ?』

…………!!!!!




そうだ………






「俺は……あんたの………首…絞めて………殺そうと………」




「てめェのその行動がなによりの証拠さァ。いろんなヤツを殺したいと思ったろォ?実に取り憑かれたらァどんなヤツだって気が狂った殺人鬼になっちまわァ。」




「でも……じゃあなんでこんな物がこの世界にあるんだよ!??」




「……『ゲーム』だ。……人間を餌にした、な。」



遊馬さんが淡々と言った。

「なぜ神がアダムとイブに『決して食べてはならない』知識の実をわざわざ授けたのか。……お前はおかしいと思わないか?それも同じ理由さ。神が考えた暇潰しのゲームなんだよ…。創成記で神はアダムとイブが実を食わないかどうか、もし食ったら、その後どうなるか。それを眺めて楽しんだんだ。今も、神は上から眺めて楽しんでるはずだ、誰が実に取り憑かれるか、取り憑かれたヤツが誰を殺すか、どんな殺し方をするか、な。」



「……そんな……」




「確かに俺達人間を作ったのは神だ。でも、だから神が人間の味方だなんて思わない方がいい。結局、俺達を作ったのも、時々奇跡を起こしたり、天罰を下したりするのもみんなヤツの気まぐれ、そもそもこの地球自体がおもちゃなんだよ。」




「…………なんで他の人は気づかないんだ……?」



「見えねェからさァ、この実がなァ。俺や遊馬は特別なんだよォ。……人間じゃねェんだ。この姿だって作ってるだけさァ。

まァ、なんだァ、言ってみりゃァ……ゲームの駒だァ。俺みてェなヤツが何人も実と一緒に送り込まれたんだよォ。俺みてェな、エデンの林檎を主食とするヤツらがなァ。林檎を食わなきゃ生きていけねェ、実を食うためにゃァ取り憑かれた人間と闘って奪わなきゃならねェ。神にとっちゃァそれもまた一興ってヤツよォ。」




「……じゃあ遊馬さんも?」「俺は違う。人間だ。」



「少々普通じゃァねェけどなァ。まァ、そこが気に入って俺様の下僕にしてやったんだがねェ♪」




……下僕ぅぅぅぅぅぅ!?



「えぇぇぇ!?なんか力関係おかしくない!?どう見たって保護者じゃん!!!つかそもそもなんではるき様は幼稚園児なのぉ!??」



「決まってるだろう。このくらいの年頃が一番かわいいからだ。」


遊馬さんんんんんん!!!?



えっ!??そんな趣味ぃ!??



「なんなんだお前ぇぇぇ!!!いかにも硬派ですみたいなナリしやがってぇぇぇぇ!!!!さっきまでの緊張感返せ!!!」



「ぎゃァぎゃァうるせェ。」



ズビシッ



「いてぇ!…ってぅぉおおおぃ!!!はるき様ぁ!??何投げてんの!??投げていいの!?エデンの林檎は投げてOKなものなの!???……………………………………って…………おい!!!コレまだ動いてる!!!」




「「…………!!?」」



「離れろ幹彦!!!」



――――チャキ



遊馬さんが刀を構える。あわてて実から離れようとするが――――


シュルシュルシュル




「…あ、足が!足捕まれた!!!」



無造作に転がっていたはずの実から、何十本もの根が伸びてきて、俺の足をからみとった。………ヌルヌルして気持ち悪い。



「ちィっ……おい遊馬ァ!!!あの馬鹿実から切り放せェェ!!!」



タタタッ――――スパンッ




走ってきた遊馬さんの刀が根を切り払う。


ビチャビチャッピチャッ


緑の汁が飛び、俺の足にかかった。

遊馬さんが俺を抱え、怯んでいる根から飛び退いた。



それと同時に、はるき様が実に殴りかかる――――ハンマーで。



――ズッドォォォン!!!


避けられたが、それでよりテンションが上がったらしい。



「ヒャハハハハハァッッ!!!俺様から逃げるつもりかよォ??グッチャグッチャに叩き潰してやらァァ!!!」



まだ逃げようとする実の根を踏みつけて、自分の体ほどもあるハンマーを力いっぱい振り上げた。



「くらえオラァァァァァァァ!!!」


ブンッッ


「―――はるき!!!メッ!!!」



―――ピタァッッ!!!!




遊馬さんの声ではるき様が止まった。ハンマーと実の間には1cmもない。



ズコッ



遊馬さんが刀で床ごと実を突き刺した。


「――っっ止めんなよォ!遊馬ァ!!!しかも呼び捨てにすんじゃねェェェ!!!」




……そこぉぉぉぉぉ!???怒るとこそこぉぉぉぉぉ!???『メッ』に関してはおとがめなしなのぉ!???つか、なにあんたも『メッ』でとまっちゃってんの!???




「俺のことはァ!はるきちゃまって呼べって言ったろォ!?遊馬ァ!!!!」




ちゃまぁぁぁぁぁぁ!???え!?ちゃまぁぁぁぁぁぁ!???




「すんませんでした、はるきちゃま。」




てめぇも呼んでんじゃねぇぇぇ!!!!



「でもはるきちゃま、お前いつもそうやって潰しちゃあ『喰えねェェェι』って泣くじゃな

「あーもうなんなの!?お前ら!!!なんで俺こんなに疲れてンの!??つか、さっきの実なんで動いたの!???死んでたんじゃなかったの!??」




つっこみと大事な質問を同じノリで吐き出した後、俺は二人がさっきまでとはうってかわって深刻な表情をしているのに気がついた。



「………なに?どうしたんだよ………」




俺までなんだか不安になってくる。




俺が異様な雰囲気を感じとったのに気がついたのか、はるきちゃまがうつ向いたまま聞いてきた。




「………お前ェ、家族はいるかァ?」




「……?いるけど……それがどうした……?」




「……仲ァ、よかったかァ?」




「……ここんとこ話してなかったけど、悪くはなかったぜ?」


俺はここしばらく実に取り憑かれて人格が変わっていたせいで、親と全く言葉を交してななかった。



「………」


はるき様は、また深くうつ向いた。




「……おい、俺の家族がどうかしたのかよ?」



「実に取り憑かれてたお前をぶっ刺してここに連れて来たのが昨日の夜だ。んで、今日はあと少しで終わる。つまりまるまる一日経っちまったってことだ。……お前に憑いてた実、やけに侵蝕が早いと思ってたが、さっき見た通り耐久性までありやがった。普通のヤツなら、一回だけ目を刺したら死ぬはずなんだ。………あれは、レベル弐だ。」




「レベル弐?」



遊馬さんがはるき様の頭を撫でながら続ける。


「……レベル弐は小隊で行動する。一番強いヤツを中心に3匹でな。お前に憑いてたのが中心だ。」




「……じゃあ、俺に憑いてたってことは……」



「他の2匹がお前と近しいヤツに憑いてる可能性が高い。お前の場合は……………家族、だな。」



心臓が痛いほど鳴りだした。寒くもないのに手足が震える。口の中に急にわいてきた唾を飲み込みながら言った。



「……助けに、助けに行かなきゃ!!!なぁ頼むよ!!!あんたらなら実を倒せるんだろ!??」




必死に頼んでみるが、はるき様は相変わらずうつ向いたままで、遊馬さんはひどく冷たい目で俺を見た。


「……っ!なぁ!!!頼むからっ……!!」


「………無理だ。」




遊馬さんが言った。俺を真っ直ぐに見た目はそらさなかった。




「……え…なん……無理って…………どういうことだよ!!!なんで!!!俺のことは助けてくれただろ!???」




「時間が経ちすぎた。お前にあんなに深く根付いてたんだ……はるきちゃまが実を食べることは可能だが、媒体であるお前の家族は助からん。」




「………っ!!!」


助けにいかなきゃ……!!!俺だけでも!!!




………ダッ



そう思った俺は、ドアに向かって走り出した。




「待て!」




ッダンッッ!!!



「…ちょっ、何すんだよ遊馬さん!!!離せ!!!」



遊馬さんはドアノブにかかっていた俺の手を掴むと、壁に叩き付けた。




「……離せよ……早く行かないと………」




必死で抵抗してみるも、凄まじい力で両手首を押さえられていて動けない。前には遊馬さん、後ろは無機質な冷たい壁に阻まれている。




「…っ離せ『行くな。』




「………っなんでだよ!!!家族が危ねぇんだ!!!こんなとこでのんびりしてられるわけねぇだろぅっ…!!!……放……っせぇ!!!!」




「………!!!」



……ドカッッ



俺は無我夢中で遊馬さんの腹を蹴った。痛みか驚きかで少し緩んだ腕の拘束を振りほどき………




「………ッばっ!!!てめぇやめろ!!!」




自由になった手で遊馬さんの腰に差してある刀を奪った俺に、慌てたように遊馬さんが叫ぶ。それにかまわずに、俺は刀を振るった。


「……そこ、退けぇぇぇぇぇ!!!」




シュッ




とっさに飛びのいた遊馬さんのYシャツが切れた。完璧に拘束の取れた俺はダッシュでドアを開け部屋をでた。



ビルの階段を急いで降りきると、生暖かい風が頬を撫でる。さっきまで掴まれていた手首はまだジンジンしていた。




よく見るとそこは通いなれた通学路だった。俺が刺されたところからそう離れていないとこにあいつらの住みかはあったらしい。遊馬さんの刀を握りしめたまま、自分の家へと走った。
















きれいな満月に照らされて、灯りのすっかり消えてしまったマンションがボウッとうかびあがる。その102号室のドアを力いっぱい引っ張った。




――――ガンッ




鍵がかかっているようだ。本来なら真夜中だし当たり前のことだ。だが、無性に不安になって、チャイムを押しながら狂ったようにドアを引っ張りまくった。



……ガンッ!!ガンガンガン!!!ガンガンガンガンガンガッン!!!!!


「母さん!母さん開けて!!!俺だよ!!!ッ父さん!!いるんだろ!???開けてくれよ!!!」




―――――返事が、ない――――




…………寝てんだよ。……そうだ。何てったってこんな時間に起きてるわけがない………そうに決まってる…………さぁ、鍵を出すんだ、俺………ッカヤロウ……震えんじゃねぇよ…………ほら、いつも新聞受けに入れてあっただろう?……………俺が帰って来てない時は……………いつ………だっ……て………………






ない………ない………ない!!!………………………………………




「ぅぁあぁあぁぁぁぁぁぁああ!!!!!」




――――ザンッ!!!




力いっぱい扉に刀を振り下ろした。



鉄製の扉がいとも簡単に切れてしまった。一瞬驚いたが、今は親の命がかかってる。切ったことでなくなった扉の左上から中にとびこんだ。




「父さん!!!母さん!!!……………っ!!!?」




部屋が暗い。明かりがついてない。………いや、そこは別におかしくないんだ。




………俺の両親は、真っ暗なリビングにいた。二人してこっちに背中を向けてソファに座っている。両親のむこうがわには、ノイズ画面のテレビがザーザーいいながら光っていた。




…………パチンッ!




電気をつけたことを後悔した。

両親は、ノイズ画面のテレビなんか見ちゃいなかったんだ。

背中を向けて座っていたっていうのも半分間違い。

背中は確かにこっちに向けているが、顔もこっちを向いていた。暗がりの中で俺が後頭部だと思っていたのは、まるで血管のように、皮膚のすぐ下を緑の根がうめつくした両親の顔面だった。電気をつけた時にはもうこっちを向いていた。目もあっていた。俺の愛すべき両親は、あの暗がりの中、顔だけを180度後ろに向けて、ずっと俺を見てたんだ。


ソファに座っていた二人がゆっくりと立ち上がった。


―――ゴキョ―グキ―パキ――ピキピキピキ――――


動く度に、変にねじまげられた身体中の関節が鈍く泣く。


「……っ父さん!母さん!!俺だよ!!!わかってくれよ!!!」


両手を拡げて近づいてくる両親が、俺を抱き締めるつもりでないことは火を見るより明らかだった。




吐気がした。人間の顔じゃあなかった。胃の中のものを戻しそうになったが、出てきたのは涙だけだった。悲しかった。皮膚の下の根に無理矢理首を曲げられている母の口からは血がでていた。



「…ヒ……コ…ミキ……ヒコ……ミミミミミミキッヒコ……ヒコ……」


グチュッ…ゴリッ…


俺の名を呼び、近づいてくる。最早中身は両親ではない、わかっているのに動けない。怖いからじゃあない。武器だって持っている。遊馬さんの刀が俺の手の中で妖しく煌めいている。使え、と言われている気がする。


…………それでも、動けない。だって、俺を呼んでるんだ。声だって、昨日までと全然変わらないんだ。


父さんの手が、いや、手から皮膚を突き破って出てきた根が、俺の体を腕ごと縛り上げる。いつの間にか包丁を振り上げて笑う母さんの口の奥に、一つ目の茶色い実を見た。


―――殺されてもいい―――……俺はそう思った。いや、むしろそう望んだ。―――助けられないならせめて一緒に――――……




「幹彦ォォォオォオォォオ!!!!」


―――ッドオオォォン――ガンッ―ゴッシャァァァァン―――



玄関の扉が、廊下を通過して居間までふっとんできた。それと一緒に、ほとんど転がる様な形で二人もつれて飛込んできたのは……………




「ッッ遊馬さんッ!?はるき様!?」




居間を転がって通り過ぎていったはるき様が慌てて戻って来ながら叫ぶ。




「幹彦ォ!!!てめッばかやろォ!!!なんで抵抗しないんだよォ!!!遊馬の刀だって持ってンだろォォ!??」


心配してくれる時まで上から目線の小さな彼に、つい口元がほころんでしまう。


「………ごめんはるき様……俺もういいんだ………。父さんも母さんも救えない…俺だけ生きるなんてできないよ……。」


俺は穏やかに笑って答えてみせた。追い掛けてきてくれて嬉しかった、と、ありがとう、を込めて笑った。


「……フザケンじゃねェよォ!!!てめェの命は俺様が救ってやったんだァ!!!もォ俺様のもんなんだよォ!!!!………死ぬとかァ……ンなァ……俺様そんなん許さねェからなァァ!!!」


ハンマーを無茶苦茶に振り回し、強がりきれない目に涙を浮かべて嫌がっている。それでも俺を助けようとしないのは、自分から助かることを望まない人間を助けたって意味がないのを()と戦ってきた中で知ってしまったからなのかもしれない。

見た目は子供なのに、命のやり取りの厳しさを知っている。誰よりも大人びなければならない。そうしないと、非情にならないと、はるき様は生きていけない。


それなのに泣きそうな顔をして人を助けようとするはるき様を見ていると、胸がチクりと痛んだ。




「……いて……」


はるき様より激しく転がっていってた遊馬さんがやっと戻って来た。俺とはるき様との状況にチラと目をやって、何も見なかったように煙草に火をつける。


その目が、俺の両親は助けられないと言った時の目と同じで、『お前も救えない』と言われてるようだった。



身勝手な寂しさに思わずうつ向いた俺に遊馬さんが言った。



「………死ぬつもりか。その化けもんと一緒に。」



「…あぁ」



うつ向いたまま、短く答えた。何の感情も込められていない声は、俺の鼻をツンとさせた。



「……ッゆぅまァァ……幹彦が……死ぬって……どうにかしろよォォ」



動けないでいたはるき様が、遊馬さんにすがる。



「いつも言ってるだろう。はるきちゃま、お前には非情さが足りない。生を捨てた瞬間、もうコイツは幹彦じゃない。……お前の餌だ。」


「「…………ッ!!」」



耳を疑った。遊馬さんは、はるき様に俺たちを喰わせようとしてる。



一瞬恐怖が襲ったが、すぐに考え直した。

―――仕方ない。はるき様だって食べなきゃ生きていけない。仕方ない。はるき様のタメだ。仕方ない。俺が死んだら、はるき様のタメになるし、一緒にいられるから両親だって喜ぶ。仕方ない。これが一番いいんだ。仕方ない。俺は犠牲になるけれど。仕方ない。



考え終わって、決意を固めた俺ははるき様と遊馬さんを見た。


『食べていいよ』の合図だった。



なにもかも受け入れた様な顔をした俺を見て、遊馬さんの顔が変わった。



――あれ?怒って―……

「ぃやだァァァァァァァァ!!!」



びっくりした。慌てて遊馬さんから視線をそらすと、はるき様が泣いていた。



「――うっ…ひ…く…なんで俺様がァ…幹彦…食べなきゃいけないんだよォ!!!……いやだよォ……幹彦…食べてまで…生きたくなんかないよォ!!!」



鼻を垂らしてグスグスいわせながら、はるき様は遊馬さんの足にしがみついた。


「……はるきちゃま、お前が喰わなきゃ幹彦はずっと人間襲い続ける化けもんになり下がるんだ。他にもいっぱい死ぬことになる。幹彦を喰うのはお前の役目だ。

決めたんだろ?『ただ実を喰らうために他の命を奪い続けるような化けもんにはなりたくない。

神のヤローのおもちゃにはなりたくない。

埋め込まれた殺しへの本能には負けたくない。神が殺すことを求めるなら、自分は救おう』ってな……。お前俺にそう言ったよなぁ?だから俺はここにいるんだ。お前の役目を果たす力になる。お前の甘さをカバーする非情な刀になる。お前が間違いそうになったら、自分の欲求に負けそうになったら、切り殺してでもとめてやる。」


「遊馬……」


はるき様が俺を見た。その目はまだ涙で濡れていたけど、確実に何かを決意した目だった。



ゆっくりとした足取りでこちらに近づくはるき様は、いつもの子供らしさも、エラソーな態度も、かわいらしい無邪気さも、何もなかった。決意を固めた力強い目をしてはいるが、その目は真っ暗だった。光なんか少しも入ってなくて、ただただ涙だけを流し続けていた。



……わかっている。

遊馬さんがさっき言ったセリフは、本当は俺に向けられてたってこと。

わかっている。

自分は今、自分の運命から、人生から、逃げ出そうとしていること。わかっている。俺がしようとしていることは、ひどくはるき様を傷付けること。わかっていた。自分がしなくちゃいけないこと。わかっていた。俺が一緒に死んだって、父さんも母さんも喜ばないこと。わかっていた―――俺がしなくちゃいけないことは――――……




「はるき様!!遊馬さんっ!!!やっぱ俺生きる!!俺も闘う!!!だから―――……ひとまず助けてぇぇぇぇぇぇ!!!」



力の限り叫んだ。そりゃぁもう、はるき様がびっくりして泣きやむくらい。



「……ハッ…かっこつかねぇヤツ…」


遊馬さんが煙草を揉み消しながら笑った。



「……ぐすっ…………違ェだろォ?!幹彦ォ!!…………『助けてください』だろォがァ!!!」



満面の笑みではるき様が叫ぶ。……鼻垂れてるけど。



「こら、はるきちゃま鼻水袖でふかない。……いぃんだな?幹彦」


「あぁ…」



今のは、『俺の両親を傷付けることになるがいいか』ってことだ。遊馬さんが親を助けに行こうとする俺を必死で止めた理由がわかった。実を殺すってことは、実に寄生された人間も殺さないといけない。



「父さんも母さんも、このままじゃ可哀想だ。……早く解放してあげたい。」



「……そうか」



俺の答えを聞くと、遊馬さんは顔をひきしめた。はるき様ももう鼻は垂らしてない。


「いくぞォォてめェらァァァァ!!!」



はるき様の雄叫びとともに、二人がつっこんできた。


「オラァァァっ!!」


ガキィン!!



はるき様の渾身の一撃が、母さんが持ってた包丁を吹っ飛ばした。包丁は刃の部分が粉々になったうえに、破片が全て壁につきささっている。


あまりの衝撃に母さんの体までが吹っ飛んだ。襖を突き破って和室に消えていく。



その様子に気を取られていたら、いつのまにか遊馬さんが近くまできていた。刀振りかざして。もうホンット近くまで。



「ぅぉおおお!?遊馬さん何でこっち来てんの?!え、俺?!狙い俺?!違うでしょ!?狙うは実でしょ!?」



ヤバイ!!!死ぬ!よりにもよって味方に殺される!!!…ってかさっき生きるって言ったばっかなのにこんなとこで死ねるか!!!すっげぇかっこ悪いじゃんか!!あぁぁなんかめっちゃ気合い入ってるよ!!?切る気満々だよ!??


「……ぬぉおおぉぉおぉおお!!!」



『ぬおお』じゃねぇぇぇ!!!



――ヤバイ殺られる!!!



「おらぁぁあぁあああああっ!!!」―――ブツッブチッブチッブチブチブチブチッッ



俺は渾身の力で体に巻き付いてた実の根をちぎった。寄生された父さんが慌てたふうに二、三歩よろける。



――――ザシュッ


その隙をついて遊馬さんが父さんの体を突き破ってのびた全ての根を切り払った。

――…なんだ、狙いは俺じゃなくて根だったのか……υホントびっくりしたυ殺されるかと………



「やればできるじゃねぇか」



刀をひと振りして緑の汁を落としながら遊馬さんが言った。ニヤリとした素敵笑顔つきで。



……ちくしょおぉぉぉ!!!


「ワザとやってたのか!?なんなんだあんた!!一体何がしたいんだ!!!つーかこんな緊迫した戦闘中にオチャメぶっこいてんじゃねェェェ!!!」


さらに無駄にかっこいい笑みが気にいらないんだよちくしょおぉぉぉ!!!ちょっとドキッとしちゃったなんて認めねぇぞ俺は!!!




俺が一人で悶えて(?)いると、遊馬さんが刀をよこしてきた。


「ん。」



「ん――って遊馬さん、コレを俺にどうしろと?」



赤みがかった綺麗な刀。切味もいい(ドア斬っちゃったし)。もういくつもの命をうばってきたハズなのに、不思議と汚れた感じも禍々しい感じもしない。


「戦うのは俺達じゃねぇよ。幹彦、こいつはお前の闘いだ。お前が自分の手で決着つけなきゃいけねぇ。貸してやる」



差し出された刀を受けとる。それはズッシリと重かった。いつのまにかはるき様も側に来ている。



「幹彦ォ、とりあえず()の根っこは全部千切っといてやったぜェ。これでもォあいつらが攻撃してくることは無ェ」



「……後は直接実を殺すだけだ。目を斬ればいい」


俺はゆっくりと後ろを見た。攻撃手段を無くしてオタオタしてる実がいた。



「……ありがとう」



俺は遊馬さん達に礼を言った。もう簡単に殺してしまえるハズなのに、俺に任してくれた。実の―――…いや、父さんと母さんの最期を、俺に委ねてくれた。



「……父さん、母さん…」


バケモノみたいになっちまった両親は、俺の呼び掛けに反応してこっちを見た。襲ってくることはなかった。穏やかな、顔をしているような気がした。







「……ごめん…」



















ザシュッ































***********



「……なー遊馬さん。」



俺達は、また遊馬さんの家に戻ってきた。

ちょっとしたケガの手当てをして、今はゆっくりくつろいでいる。


「……なんだ」



遊馬さんは俺に貸した刀を、また丁寧にふいていた。煙草の匂いが、いつものと違う。……少し、線香臭かった。



「……俺、行くとこないんだけど」



「……親戚にでも養ってもらえばいいだろう。」



遊馬さんは少しだけ刀を拭く手を止めて言った。



「……なんて言って養ってもらうんだよ。親が『エデンの林檎』に殺されましたって?……死体も無いのに…」



父さんも母さんも、遺体はない。実が死んだと同時に腐り落ちてしまった。後に残ったのは、酷い腐敗臭と実だけだった。悲しかった。俺ははるき様が実を喰って遊馬さんが根の後始末をしている間、ずっと目をつぶっていた。腐り落ちてしまった両親を覚えないように。実に寄生されてしまった両親を忘れるように。両親のことを考えた時は必ず、笑顔を真っ先に思い出せるように。



極力俺に見せないように実を処理してくれていたはるき様が足にしがみついてくるまで、俺は自分が泣いていることに気付かなかった。










「……遊馬さん……」


「………」


「……俺…俺をここに置いてくれ。役に立ってみせる。今は体力とかも無いけど…でも…でも俺………」



『役にはたてない』

それがわかった上でのワガママだ。ワガママだって気づいているから、言葉は段々と尻すぼみになってしまった。


「……だめだ」


遊馬さんは静かに、でもはっきりと答えた。


「……そんな!!『死んだお前の両親が一番に望むことは、お前が幸せであることだ。不自由なく暮らし、ちゃんと学校に行って、自分の力で働いて、心から一緒にいたいと思える女を見つけて、平凡でいい、ただ、暖かい家庭を持つことだ。命の危険のない、安全な場所で暮らすことだ』


「………」


「それは、俺たちと一緒にいたんじゃ得られないもんだ。幹彦……親孝行、してやれ」


遊馬さんが言うことはもっともだ。普通に生きて、親が安心して見ていられるように生きる。これが一番の親孝行だ。でも………



「……遊馬さん、俺は親孝行するに値する息子じゃないよ。俺が憑かれた実のせいで父さんたちまで巻き込んで……あげくの果てに俺が殺したんだ。」


遊馬さんやはるき様なら、あれは殺したのではなく救ったのだと言ってくれるだろう。そうするしかなかった。そうしなければならなかった、と。それでも、俺がこの手で命を奪った。その事実は変わらない。


「カタキをうちたいとか、そんなんじゃないんだ。そんなこと父さんたちは望んじゃいない。

ただ俺は、俺や父さんや母さんみたいな人をもう増やしたくないんだ。わけのわからないモノに、わけのわからないうちに殺されるなんてあっちゃいけない。操られて、大事な人を傷付けるなんて悲しいこと、あっちゃいけないんだよ。俺は知ってるんだ。エデンの林檎があること、絶対に防ぎようがない恐怖があること、今も…きっとどこかで襲われてる人がいること……。それを知らないふりして、自分だけ平和に暮らすなんてイヤなんだよ。そんな自分は誇れない。俺が俺を誇れないなら、父さんや母さんが誇れるような息子であるはずがないんだ。」

はるき様が静かだ。TVを見ているフリをしているが、俺の話に耳を傾けてくれているのがわかる。それに後押しされて、俺は続けた。


「俺が父さんや母さんの息子として自分を誇れないうちは、親孝行なんてできない。俺は俺のしなければならないと思ったことをやり通したい。ちゃんとやり通して、自分で納得してから、胸はって親孝行するよ。親孝行するまでは絶対に死なない。頼む遊馬さん、俺をここに置いて欲しい。俺に、遊馬さんとはるき様の闘いを手伝わせて欲しい。……お願いします。」



全部言い切って、頭を下げた。遊馬さんは刀を拭くのをやめて俺をみていた。


「……言っとくが…守ってもらおうだなんて思うな。こっちの世界に足踏み入れる以上自分の命はお前で守れ。死なないなんて軽々しく言うけどな…そんな甘い世界じゃねぇよ。誰にも絶対なんてない。俺にもはるきちゃまにもんなこと言えねぇ。………それでもいいなら勝手にしろ。」



「遊馬さん……ありが『ぃやったァァァ!!よかったなァ幹彦ォ!!』


神妙な雰囲気がぶっ壊れた。これだから子供は困る。まぁでも、俺がいることがそんなに嬉しいのかぁ…なんて思うと悪くない。つられて俺までテンションがあがった。



「なぁ遊馬さんっっ!!俺なんかやることねぇかな!?なんでも手伝うからさ!!」


「何いってんだ幹彦ォ!!てめェの仕事は俺様の遊び相手に決まってんだろぉ!??馬やれ馬ァ!!」


「えっ!ちょ…マジで!?手綱つけるとこから始めんの!?つか手に持ってんの何!?お兄さんに大きい声でいってごらん!?え、それ鞭だよね!?それ鞭だよねェェェェ!??しかも何脱がそうとしてんの!?あれか!?馬の分際で服なんか着れると思うなよ的なあれ!?」


「幹彦の分際で服なんか着れると思うなよ」


「そっちィィィィ!?俺!?俺自体がダメなの!?ってアァッ!!いたっ!!素肌に鞭は痛い!!ちょっとォォォォ!!!なにこの子楽しそうなんだけどォォォォ!?あああああああああ!!」



「…あぁ、あったぞ幹彦お前の仕事『遊馬さーん!!ちょっと待って見てこれこの状況見て!!お宅のお子さんヤバいってコレ!!痛いってコレ!!』


「お前の仕事は『もしもーし!!あれおかしいなぁ!!聞こえてないのかな!?もしもーし!!』あーもううるせぇよお前。はるきちゃま幹彦がウザいからやめなさい」


「幹彦てめェェェェウゼェんだよォォォォ!!」


「あーお前もウザいやめろ」


「グスッ…ひどいやひどいや遊馬のバカ…」


「幹彦お前の仕事だが『まさかのスルー!?』黙って聴け」


「あーあれだ。まずははるきちゃまに箸の持ち方を教えろ」



「「……え?」」




まぁ何はともあれにぎやかな毎日が始まりそうです。by幹彦


fin.

ここまで読んでくださった方ありがとうございます!大好きです!(オィ)


誤字脱字アドバイスなどありましたらよろしくお願いしますっ(>д<)

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