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プロパガンダ漫画映画「忍者少年ホワイトハウス討ち入り」

太平洋戦争中に、国民の戦意高揚のために様々なプロパガンダ映画が制作されました。


その中で、子供向きの戦意高揚のアニメ映画(当時は漫画映画と呼ばれた)が制作されたのは、ご存知でしょうか?


「桃太郎の海鷲」「桃太郎 海の神兵」などが有名です。


それらにくらべるとマイナーなため一部マニアにしか知られていない漫画映画「忍者少年ホワイトハウス討ち入り」を筆者が紹介しましょう。





人里離れた山奥にある忍者の里で厳しい修行をしている主人公の十歳の忍者少年。


両親はすでに亡くなり海軍軍人である兄忍者が唯一の肉親であった。


忍者少年は海軍軍人である兄を誇りに思い、武運長久を願っていました。


ところが、日米開戦して、しばらく後、兄忍者が戦場で米軍の捕虜になり、アメリカ本土の捕虜収容所いるという知らせが届いたのでした。


当時は「生きて虜囚の辱めを受けず」という東條首相の出した戦陣訓により、「敵の捕虜になるぐらいなら自決せよ」という考えが一般的だったのです。


忍者少年は事の真偽を確かめるためにアメリカ本土に行くことにしました。


先祖伝来の秘伝の巻物を口にくわえると、海の生き物を使役できる忍法を使い、鯨の背中に乗って、太平洋を渡りアメリカ西海岸を目指すのでした。


ここからしばらく映画はのどかな描写が続きます。


鯨の背に乗った忍者少年が初めてみる外洋に感激したり、釣った魚を忍者刀で刺身にして食べたり、イルカと競争したりと戦時中とは思えない穏やかな日々が続きます。


しかし、穏やかな日々は長くは続きません。


日本の潜水艦とアメリカの駆逐艦が一対一で戦っているところに忍者少年は遭遇したのでした。


忍者少年は鯨を米駆逐艦に体当たりさせようとしますが、巻物の忍法では鯨が自分の生命が危険になる行動はさせられないのでした。


忍者少年がやきもきしている内に日本の潜水艦と米駆逐艦は相討ちとなってしまい双方とも生存者は無しでした。


子供向きの漫画映画なので直接の遺体の描写はありませんが、忍者少年が日米双方の将兵たちの遺体が海に浮かぶのを見て動揺する場面があります。


(この場面は『子供たちの戦意を損なう』という理由で検閲により戦争中上映された時はカットされました)


そのような体験をしながら忍者少年はアメリカ西海岸にたどり着きました。


忍者少年は人里離れた海岸に上陸し、乗せてくれた鯨に別れを告げると、忍法で白人の少年に変装して兄忍者を探すためにアメリカを旅するのでした。


旅の途中、忍者少年はアメリカの街が戦争中ながら日本より遥かに食料・日用品があふれていて、軍需工場では大量の兵器が生産されているのに驚きます。


(『アメリカの贅沢な生活や物量を強調し過ぎている』という理由で検閲により、この場面もカットされました)


旅の末、ついに忍者少年は兄忍者がいる捕虜収容所を突き止めたのでした。


その捕虜収容所にあるグラウンドでは、兄忍者が率いる日本人捕虜チームと見張りのアメリカ軍人チームが野球の試合をしていました。


忍者少年は兄忍者に対して激しい怒りに駆られました。


忍者少年の目には、兄忍者が敵であるアメリカ人と遊んでいるようにしか見えなかったのです。


深夜、忍者少年は捕虜収容所に忍び込むと、兄忍者を詰問しました。


そこで、兄忍者の深謀遠慮を知るのでした。


最初は捕虜の慰問として始めた日米野球だったのですが、日本チームが連戦連勝しているのです。


兄忍者が密かに忍法で日本軍捕虜を特訓していたからでした。


野球発祥の地であるプライドにかけてアメリカは勝つために、軍にいるメジャー・リーガーを集めたチームで次の試合するつもりでいました。


さらに、アメリカ政府や軍の高官までが観戦に来る予定でした。


それこそが兄忍者の狙いでした。


野球でアメリカに連戦連勝することで米政府か軍の高官を試合場に誘き出し、その場で暗殺するつもりなのでした。


赤穂浪士の大石内蔵助が茶屋遊びをすることで敵を油断させたように、野球をすることでアメリカを油断させたのでした。


兄忍者たちは自分たちを忠臣蔵の赤穂浪士になぞらえていました。


忍者少年は兄忍者たちの真意を知り、誤解したことを謝罪すると協力を申し出たのです。


忍者少年は試合に出られないので、捕虜収容所で不足している酒・タバコ・菓子などの嗜好品を街で手に入れて密かに運び込みました。


いよいよ、次の試合の日が来ました。


日本人捕虜たちには事前に知らされませんでしたが、試合場はホワイトハウスに特設されていて、ルーズベルト大統領が観戦に来ていました。


日本人捕虜たちは興奮しました。


敵の総大将が目の前にいるのです。


まさに吉良上野介を見つけた赤穂浪士の心境でした。


もちろん、ルーズベルトのいる特別席は厳重に警護されていて容易には近づけません。


兄忍者たちは試合をしながら機会をうかがうことにしました。


アメリカチームはメジャー・リーガーを揃えた強敵で試合は接戦になりました。


最初、安全のために最上段の席にいたルーズベルトも、近くで見ようと、下の席に降りて来ました。


その席はホームベースのすぐ後ろでした。


ついに絶好の機会が来たと判断した兄忍者は日本チームの攻撃で三塁ランナーになると、ホームスチールの振りをしてルーズベルトに目掛けて突撃しました。


次のシーンでは、夕日に照らされた兄忍者たち日本人捕虜チームは全員地面に倒れて死んでいます。


忍者少年も後を追いたかったのですが、祖国日本に戦果を報告することを兄忍者に託されていたので、涙をのんで夕日に向かって帰国のために走り出します。






ここで「漫画映画忍者少年ホワイトハウス討ち入り」は終わっています。


映画の中とはいえルーズベルト暗殺をしているため、戦後占領軍に戦犯として追求されるのを怖れた関係者がフィルムを焼却してしまったので、詳細については長い間不明の漫画映画でした。


最近、一本だけ保管されていたフィルムが見つかり、イベントで上映されました。


それを見た筆者は、単なる戦意高揚のプロパガンダ映画ではないものを感じました。


例えば、捕虜収容所で兄忍者が他の日本人捕虜たちに米軍から尋問されても、国際法により姓名階級以外を答える必要が無いことを教育するシーンがあります。


当時の日本軍では「敵の捕虜になるぐらいなら自決せよ」という風潮が蔓延していたので、このようなシーンがあることが異例です。


現実では、日本軍の士官はともかく徴兵された一般兵の大部分は国際法の存在そのものを知らず。捕虜になった場合にどうすればよいのか分からず。


米軍の尋問に簡単に軍事機密を話してしまうということがありました。


制作者は、子供向けの漫画映画の中に、子供と一緒に見に来る大人に向けて、このシーンを入れたのではないか?と筆者は思っています。


そして、映画のラストのルーズベルト大統領暗殺ですが、映画をよく見ると暗殺が成功したとも失敗したとも描かれていないのです。


兄忍者が全員倒れた後、忍者少年は帰国のため夕日に向かって走ります。


この映画が公開されたのは、昭和19年12月、日本の敗色が濃厚になっていた時期です。


このシーンは子供たちに日本の敗北を暗示していて、「戦後」に向けての心構えをするように遠回しに言っているのではないか?と筆者は思っています。


筆者の推測が正しいかどうかは、この漫画映画の制作者は全員亡くなっているため確認できません。


DVDやブルーレイになる予定はありませんが、イベントで上映されることはあるので、読者のみなさんは機会があれば見て何かを感じてください。

ご感想・評価をお待ちしております。


当たり前ですが、「忍者少年ホワイトハウス討ち入り」は、私の創作した架空の漫画映画です。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  いやあ、最後まで騙されてしまいました(笑)  ポパイがほうれん草を食べて日本人をぶちまわしていくアニメを見たことがあったので、「日本も同じようなアニメ作ってたんだ!?」と誤認しちゃいま…
[一言]  今回も参加ありがとうございます。まさかのアニメ映画ネタ。しかも内容も独創的で楽しめました。
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