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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

そのスイーツなお花畑は僕の片割れです。

作者: 月瀬凛咲

携帯で気軽に書きました。気軽に呼んでいただけると嬉しいです。短編です。

「おーい!浦島太郎!これ、やるわ」


そう言って友達―石川吾郎が投げてきたのは、あるアイドルをミニチュア化したキーホルダーだった。今時キーホルダーかよ。それより――。


「俺の名前は浦島太一だっつうの!」

俺はかわりに給食でカビたパンをそいつにぶつける。

この高校―万歳南高校というふざけた名前の俺の母校―母校っていう言い方も変なのか? はなぜか高校にもなって給食制である。意図は働いている親御さんの負担を減らすため――っつったって弁当の一つや二つ…、一人殺すも二人殺すも同じ―ではないのか。まあ本当の意図はよくわからないが、この万歳高は給食制である。

そして俺はよくアイツ―石川吾郎こと石川五右衛門(石川という名字持ちなら必ず通る道らしい)と、もうひとりの敵のために必ず腐れパンのストックを欠かさない。


「あー知ってる。わざとだ」


あいつはニヤニヤしながら机にどっかりと座り、椅子を足でキイキイ、ナナメ椅子をし始めた。


全く、躾のなってない男だ。


俺は石川から受け取った好きでもないアイドルのキーホルダーを、机の奥に突っ込んだ。

その時カエルが潰れたような感触と「ぐえっ」という声がした気がしたが俺は気のせいだと思った。

「所でお前の似てない名前の片割れちゃんはまだ来ないのか?」

石川はカビたパンを足蹴にして言った。

ちゃんと捨てろよ。あ、悪いのは俺か。

「名前が似てないのは俺のせいじゃねぇ。名前で呼んでやれ。浦島――」

「おっはよーん!」

威勢のいいモーニングハローを声を大にして教室に入ってきたのは、俺の双子の妹――浦島彩だった。

「出た!うらめしや!」

うらしまあや→うらめしやあ

ニアミスである。ニアでもないか??

まったく名付けのセンスの無い両親にわら人形用のわらをどこから調達しようかと考えあぐねていると、彩がぷうっと頬を膨らませた。


 「そんなにバカにすると、この本バラまくわよ」

そう言って取り出したのはコピー紙にホッチキスで止めた本。

 石川がムンクの叫びよろしく叫び声をあげた。

目の前にちらつかされたのは――

「イケナイ石川君と堀内君の危ない放課後(はぁと)

危ないのはお前の頭だと言いたかったがこれで一万回以上言ったせりふなのでやめておいた。

男と男とバラがひしめく表紙のそれを見せつけられ石川は「それだけはやめて!」と叫んだ。

あれをクラス全員分せっせと毎晩宿題も 放り出して作っているのだから呆れる。もちろん百合モノも豊富に。

 豊富なのはわが妹の脳内細菌だろうと突っ込みたかったがそれも二万回以上言っているのでやめておく。

 彩は中身はコワレテいるけれど、見た目は抜群の美少女だった。

 背中までかかる赤みがかった茶髪は地毛だ。奇しくも俺も同じ色。俺の場合は誰もほめてくれないけれど。

髪の両側の少しの毛だけをくるっと丸くツインにまとめ、ピンク色のリボンでまとめている。

パンツが見えそうなミニスカートに白のニーハイソックスが眩しい。

ちなみにパンツはいちごで見せパンである。パンツはいちごという彼女の中のきまりがあり、無駄に一点いちご柄、いちごストライプ、いちごまぶし柄、いちごといちごの花などいちごにこだわって――母の命令で洗濯干しを命じられた事があるのだが、ことにパンツを溜め込む妹の、いちごのパンツばかり干させられた時は、ベランダから見えた女子大生がヘンな目で俺をみたのはこたえたが。――穿いている。しかも男子生徒にチラチラちらつかせながらいるもんだから男子生徒は彩のとりこである。

持論「いちごパンツは見せるもの」

はいはい。そうですか。兄はそんなパンツ作戦には動じない。だって家で干してるんだもん。

「じゃあ、私のことはかわいいアヤちゃんって呼んでね」

ちらっ。

「はっ、はいぃ」

パンツで脅すなよ。

その時、何かの羽虫がぴゅんと飛んで俺の顔にべたり。とくっついた。

「うわ!なんだ!?これ!」

俺は羽虫を顔から引き剥がし、べっ、とその辺に捨てた。

「あっ!おにいちゃん!」

その時彩が、叫んだ。

「何だよ」

「それ、妖精さんよ」

はぁ?

「お前……頭がおかしいとは思ってたがまさか真性の……」

俺が彩の額に手を当てようとすると彩が身じろぎした。

そして羽虫の落ちたあたりにしゃがみこみ、何かを拾った。

それはまぎれもなく、さっき石川が投げて寄越した、アイドルのキーホルダーだった。

これが、妖精?

どうやら俺の妹はお花畑な上にコワレテいるようだ。 彩の手のひらの上に乗ったそれは確かに羽がついていた。

「きゅう……」

手のひらの上でつぶされてるソレ…

アイドル、皆峰圭織(みなみねかおり)のキーホルダーは、頭にキーチェーンをつけたまま、ハッ、と起き上がる。

「た、大変ですぅっ!!」

 圭織は彩の手のひらで訴えた。

「わ、わたしキーホルダーになっちゃったんですぅ!!」

「はぁ? 何言ってんだこの羽虫」

そういって俺は羽虫――圭織のキーホルダーをつまんだ。

もちろん妖精説も却下だ。

「どうしたの?」

いかにも良識がありそうに彩が聞く。

一番のお花畑のくせに。

「わたし、皆峰圭織です、あ、あの、アイドルしてますぅ…」

皆峰圭織はおどおどと喋った。

「そんな事信じられるか!」

「ほ、ほんとなんですぅ!」

俺が羽をつまむと皆峰圭織はジタバタと手足を動かした。

「証拠は?」

「新曲、君にアイラブユーが踊れますぅ」

「そんなの、証拠にならん!」

俺は羽虫をペッと窓から捨てた。

「おにいちゃんヒドい!」

「酷いですぅ!」

羽虫は思ったより早く戻ってきた。言っておくが俺はアイドルには興味がない。

石川は興味らんらんで皆峰圭織らしきモノを見ているが。

「それで、大丈夫なの?」

彩が妖精と喋っている。もう勝手にしろ。

「あのう…プロデューサーに逆らったら、こんな姿にされたんです…」

「はぁ!?」

「おぉ!そうかそうか、可哀想になぁ」

石川は可哀想がっておいおい泣いている。

彩も目が潤んでいる。

おいおい!おかしいだろ!

プロデューサーは魔法使いか何かか!?

誰かつっこめよ!!

「そんな話信じられるわけ……」

「ひどいプロデューサーねっ!!」

「ぐえっ」

彩のグーパンチが俺の顔にめり込む。

俺の顔は梅干しよろしく中心に線が集まった。

俺の意見は無視かよ。


「それは大変!どうやったら戻るの?」

「それは……」

皆峰圭織はうつむいた。

それから決意したようにきっ、と俺の方を睨んだ。 「そこの、浦島太郎っていう方が百点を取れば戻るそうです」

おいおい、ずいぶん特定してくれるじゃないか。

しかも俺は浦島太郎じゃないと何度言ったら……

「なんで俺なんだよ!」

俺は立派な被害者だ。被害の会を立ち上げてやろうかと悲鳴を上げたが、真剣になった石川と彩には通じなかった。


「そ、それは絶望的ね……」

彩が難しい顔になった。

石川も目を閉じて考え込む。

なぜなら、俺は彩とは違って……頭が悪いからだ!!

くっ、自分で自信を持って言うのもナンだかっ…!

「それよりお前は本当に皆峰圭織なのか?」

俺の頭が悪いのに触れられたくない俺は話題を変えた。

「はいですぅ!その証拠に同じグループの楠木みさちゃんは来月卒業するんですぅ!」

「何だって!?楠木みさちゃんが!!」

アイドルバカの石川が叫んだ。特に皆峰圭織より楠木みさの方が好きらしかった。

だから皆峰圭織のキーホルダーは投げてよこしたのだろう。

そんな事実は一々言うもんじゃないと悟った俺は何も言わなかった。

「お兄ちゃんが百点か…」

「のび太が百点とる方が簡単だぜ」

失礼な。確かに0点は男の丸い勲章だと思ってる。

例えAとBしか回答がなかったら必ず選ばなかった方が正解なのだ。

これは運の問題であるが、俺は自信を持って運がないと言える。

「そうだ!いい方法があるわ」

彩が頭に電球が灯ったように言い放った。

…ま、まさか。

俺はいやな予感がした。 初めてのミニスカート。

初めてのいちごぱんつ。

初めての女装。

俺は震えていた。 感動ではない。屈辱だ。

何も彩に扮するならぱ、ぱんつまで穿かなくてもいいのでは……

「それでは、テスト……」

テストを始めます、というハズの女教師が目を剥く。

「をはじめまーす」

無視かよ。

対して彩はばっさりとしたショートカットのウィッグを被ってふんふん鼻歌を歌いながらテストに挑んでいる。

こ、こんな屈辱許されるものか!!

ちなみに誰も俺が彩だなんて思っていない。上背が俺の方があるし彩は華奢だ。

でも彩は彩で、

「ショートカットもかわいい」

「男装も萌える」

などと大人気だ。

対して俺は、

「来ないでヘンタイ!」

「きゃーっ! 太郎君そんな趣味が!」

彩はいいのかよ。しかも太郎じゃなくて太一だと何度言えば……。


かくして皆黙認の末(誰かつっこめよ!!)浦島太一(彩)は100点をとったのだった。


「よかったですぅ~。これで成仏…じゃなかった元に戻れますぅ」

俺は成仏でもいいけどな。

「よかった!でも圭織ちゃんと知り合えるなんてスゴい!嬉しい!」

「俺も!」

石川と彩と圭織だけがキャアキャア言っている。

俺はこのミニスカートの怪から早く脱したい。

「ありがとうございました!」

そういって頭がボブの可愛らしい制服姿のキーホルダー(圭織)はふわりと宙に浮いて、ひと光すると消えた。

「良かったね、圭織ちゃん」

「ああ」

お前ら……

肝心の圭織も俺を無視だったような。

「兄及びクラスメートをないがしろにしすぎだろ!」

叫ぶと、あっ、と彩がゴソゴソ鞄を漁り始める。

「じゃーん!堀内君とイケナイお兄ちゃん」

い、いつの間にそんな本を!

しかも俺はご丁寧に女装姿だ。

それにしてもことあるごとに引き合いに出される堀内君とは脳内筋肉の猛々しい男で、妹によると、攻めがどうとか………

俺は受けかよ!!

はっ!いけない染まりかけた。

「あっ」

彩が何かを見つけたように窓の外を指差した。

「また、妖精さんだ~」

何だって!!

この頭がお花畑でホモスイーツな妹は俺の双子の妹です――。

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