The ビッグイヤー
とても珍しい、春の嵐がガシェ王国周辺を襲うとゆー情報が入ってきた。
情報ソースはヴィだから、間違いはないと思う。精霊発信のラース君経由で知ったんだろね。
とゆーことで、只今ガシェ王国には災害警報危険度3が発令されてまーす!
多分、日本の台風レベルかな?
皆様、外出は控えましょー!!飛ばされちゃうぞー!!
飛ばされると言えば、クレシスチェリーの花も散ってしまうな…。
んー、名残惜しいっ!
ま、今日はお家で大人しくしときますかね。
人間よりも動物たちの方が敏感だから、遊び相手もみんな巣に帰っちゃったし。
ディーとリビングでゴロゴロしよーっと。
「ネマお嬢様っ!」
どったんばったんと慌ただしく駆け寄って来たのは、庭師のアイル。
幼い頃より、我が家の筆頭庭師のケービィーに弟子入りし、今ではガシェ王国若手No,1の庭師…らしいよ?
「どーしたの?」
「ネマお嬢様のお力を貸して下さいっ!!」
私の力?
…私、権限とか何も持ってないよー?
「鳥が、そこまで来ているんですっ!」
…あーね。
アイル、バードウォッチャーでしたね。
お庭に遊びに来る子たちも怖いくらいにガン見してたり、休みをとって珍しい鳥を探しに行ったり。
似たよーなこと、アメリカとかで大会としてやってたよーな…。一年間で何種類の鳥を見たか競ってた気がする。
「とりがくるの?」
「はい!悪天候で飛べない渡り鳥たちが、避難のために下りて来るんですよ!!」
テンションたけぇーな、おい。
嵐が来るんだから、お家で大人しくしてよーよ。
「その渡り鳥たちを、この庭に呼んでいただけませんか?」
何ですと!?
ヒッチ○ックの鳥をリアルで再現しろと!!
その場合の被害者は私だけじゃねーか!
数羽だけならまだしも、何百羽ってなると…考えただけで鳥肌もんだわ!
「やだ」
「そこを何とかっ」
「やーだー」
大体、渡り鳥たちをここに呼んだら、せっかくアイルたちが造ってくれたお庭もめちゃくちゃになっちゃうよ。
「この時期しか目撃されない、ディアグロリスがいるかもしれないんですよ!?ロルニスや北に向かうニーゲルやナーリスも!!」
わー、全然わかんない。
鳥類はあんまし詳しくはないんだけどなー。
でも、珍しい生き物には惹かれるよね!
んー、どーしよっかなー?
「お願いします。何十年に一度しかない機会なんです!」
うー、そー言われると、何十年に一度しか見られない鳥を見たくなってくるな…。
「じゃあ、おにわにめいろつくるのいっしょにせっとくしてくれる?」
王宮の中庭にある迷路、すっごく面白かったんだよね!
まさにアスレチックなんだよー。
まぁ、結局迷子になって、ラース君に迎えに来てもらったんだけどね。
それを是非とも我が家にも欲しい!
「わかりましたっ!旦那様と奥様を説得してみせますっ!!」
あと、君のお師匠様のケービィーもね。
風が強くなりだし、空には重たい雲が一面に広がっている。
そんな空をたくさんの鳥たちが、羽を休める場所を求めて飛んで行く。
結構上空を飛んでるけど、気づいてくれるかな?
「お嬢様!いましたっ!ニーゲルですっ!!」
Vの字の編隊飛行している鳥の姿が。
ここからだと、どんな鳥なのかわかんないな。
ま、やってみますか。
「ニーゲルのみんなーーっ!!」
大きな声で呼び、大きく手を振る。
気付いてくれるかな?
ギャーーー
あ、返事した。
すっげー、聴こえたんだ、私の声。
お、方向転換した。
…ものスゴい勢いで、こっちに来るな…。ちゃんと止まるんだろーな…。
「ぎゃーーーっ」
余りの怖さにアイルを盾にして、我が身を守る。
「俺の胸に飛び込んで来いっ!…ぐうぇっ…」
………。
アイルの思考回路ってどーなってんだ?
アイルに激突した鳥はすぐに態勢を整えて、私のことをロックオン!
ギャーー
い、意外にデカいな、お前…。
ニーゲルの体高は私と同じくらいだから、1mくらいか?
翼を開くと、私が両手を拡げたよりも長いな。
羽毛は灰色がかった青で、珍しいのは脚にも羽毛があること。
首、嘴、脚が長いことから、肉食系ってとこか。
魚だけじゃなく、陸の小動物とかもパクッといってそーだな。
ギャーー
リーダーっぽいニーゲルが大きく一鳴き。
「あらしがすぎるまで、ここにいればいいよ」
呼んだの私だしね。
何だったらご飯もあげよう!ノックス用のお肉でも大丈夫だよね?
喉元を撫でてみる。
グゥーとゆー甘えた声。見た目はゴツいが、いい子だねー。
ただ、羽毛はもうちょっとフワフワしてた方が好みだな。
何か、帽子とか羽ペンに使えそーな、固めの感触。やっぱ、鳥は冬毛が一番!
「あーーっ!お嬢様!ロルニスを発見しました!!」
うっさいよ、もぅ。
私はこの子たちと遊ぶんだよ。
ギャーー
って、お前がロルニスを呼ぶんかいっ!
お前ら、ちょっと下りてこいよ!面白いもんがいるぜー!
ってゆーアテレコが聴こえるー。
ピピッチチッとゆー鳴き声が徐々に大きくなってくる。
いやいやいや、ちょっと数がハンパないですよ?
って、何百羽いるんだよー!!
やっぱりキターーー。
ヒッチコッ○まんまじゃねーか!
お前ら、ちっさいから、激突死んだりするなよ!
死んだらニーゲルがパクンといっちゃうぞ!
…お、落ち着けー。まず、私が落ち着けー。
スーハーと深呼吸して、意識をロルニスに合わせる。
ー突撃やめっ!木々に散開!!
そー強く念じると、ロルニスたちは庭の木々に散りじりに止まり始めた。
何だ、ニーゲルの時もこーすればよかったんだ。
数羽だけ呼んで、近くで観察してみる。
大きさはスズメくらいなんだが、顔付が猛禽類だった…。なんつーギャップ!可愛さと凛々しさが共存だと!?
誰得だ?………ん?私だ!!
「お嬢様、知ってますか?ロルニスの雄は頭がいいんですよ!」
「どーゆーこと?」
「繁殖期になると、雄は巣の近くに罠を作るんです。罠っていうのが、トカゲやヘビを枝で串刺しにして、その屍骸に集る虫を捕食するんです」
……確かに頭いいな。
だけど、串刺しにされたトカゲ、それに群がる虫、影から狙う小さなタカ…。シュールだ…。
これから、南の方で繁殖期を迎えるらしいが、串刺しにされたトカゲを見かけたら、近よるのやめよー。
ピピピピ、チチチチ、ギャーギャー。
大分賑やかになり出したな、お庭。
糞の始末とか大変そー。
それから来るわ来るわ。
ガンみたいな水鳥やツバメみたいな飛行タイプ。ルリビタキの様に鮮やかな青い鳥もいた。
水鳥たちは庭の小さな池に集まり、茂みの中や小屋の付近など、思い思いの場所で雨風をしのいでいる。
ってゆーかさー。そろそろ限界じゃね?
流石に風も強くなってきたし、雨もザーザー降りだし。
ソルに雨風の影響を受けない様に、私は魔法かけてもらったけどさ。
私だけって気が引けるわー。
びしょ濡れアイルさんはテンションあげあげで、気にならないんだろーね。
「そろそろおうちにもどろーよ」
「………」
ムシかいっ!
そんな空ばっか見上げてると、首痛めるぞ!!
「…き…き…」
「きぃ??」
「きたーーーーっっっ!!!」
アイルが興奮しつつも指を差した方に目を向けると…。
えーっと、あれが珍しい鳥なんですか?
「ディアグロリスですっ!!」
うんうん。私にとっては違うな。
あれは白色レグホンだ!!つまりはニワトリだ!!たまごをいっぱい産む採卵用のニワトリにしか見えねーよっっ!!
ツッコミ所満載すぎるよ!
何でニワトリが渡れるんだ!?何でダチョウ並みにデッカいんだ!?そして、その鶏冠おかしいだろぉぉぉ!?
細長い風船みたいなやつやハートの形は百歩譲っても、立方体はないだろ!
円錐形の鶏冠って、鶏冠じゃねーよ!!
あぁ、大声でツッコミたい!
「…あの子たち、あたまおかしいよ!!」
アイルがいては、これが限界か…。
「ディアグロリスの鶏冠は求愛行動の時に膨らむんです。大きさで優劣を決めるみたいですよ?」
鶏冠についての豆知識はいらないよ。何故あんな奇抜な形に進化したのか、それを説明してくれ!
コケー?
ガックシ…。やっぱり朝になると、コケコッコーって鳴くのか。
ま、いいや。
とりあえず、その鶏冠に触らせてくれ!
「さわってもいーい?」
そー聞くと、一羽のディアグロリスが頭を下げてくれた。
いざ!
ぽよよーん…ぽよんーーー
まさに衝撃が走る感触だった。
水風船より柔らかいのに、何故立体を保てるのだ!!
例えるならプリンの様な、溶けかけのアイスの様な…。とにかく、今まで触ったことのない感触だ。
ふよふよぽよーん…ぽよんぽよんーーー
やべぇ…これは面白いぞ!
「お嬢様…何て羨ましいっ!」
あー。アイルが触ろうとすると、ディアグロリス威嚇してくるもんね。
んじゃ、アイルの分まで鶏冠を堪能しとくよ!
ディアグロリスと遊んでいると、突然強風が吹き荒れた。
「うわぁっ!」
その風で、物の見事にアイルが吹っ飛んだ。
ロルニス他、体の小さな子たちにも被害が出ている。
ーソル、もぅ一個お願いしていーい?
ーどうしたのだ?
ー家の敷地全部に、雨風を弱める魔法かけれる?
防ぐんじゃなくて、突風がなくなる程度でいいんだよ。
この嵐も珍しいとは言えど、自然の摂理だからね。庭の植物たちにとっては恵みでもあるんだし。
ーそれぐらいならば、精霊に頼めばよかろう。
ー私、精霊は見えないよ?
ー見えなくとも、お主の周りには常に精霊が付いておるぞ。我を慕ってくれている火の精霊や、お主が懐いている天虎を慕う風の精霊が。
な・ん・で・す・とぉぉぉぉ!!!
そーゆーことはもっと早く言ってよー!
今まで随分と損してたじゃん!
しかもソルさん、私にじゃなくて、私が懐いているなんですね。
…間違っちゃいないけどさ。間違ってはいないけど、何か納得いかなーい!
その辺は後でじーっくりと話し合おーか、ソルさん。
「かぜのせーれーさん!とりさんたちがとばされないよーにしてほしーんだけど!」
姿を見ることは出来ないし、声も聞くことは出来ないので、通じているのかよくわからないが、風が優しくなった様な気がする。
多分だけど、精霊たちはソルやラース君のために私についてくれてるんだよね。ってゆーことは、精霊の力を当てにするのは良くないな。
神様に精霊が見えるよーにしてもらっておけばよかったー!
結局、渡り鳥たちに安全かつ私がいると認識された我が家は、鳥の溜まり場になった。
お願いしよーと思ってた迷路も、やむおえず庭の池の拡張になったのは痛かった。
渡りの季節はもちろんのこと、普段でも遊びに来る鳥が増え、アイルが嬉しそーに実がなる木々を移植して、我が家の庭はとても賑やかになった。
ついでに、招かれざる客もいたらしいが、私は遭遇したことは未だかつてない。
この後、『精霊に守られた庭』や『渡り鳥の憩いの場』と呼ばれる様になるが、オスフェ家の伝説の一つにすぎない。
また、あるマニアな人々がオスフェ家の庭に忍び込んだり、覗き見をしたりすることが増え、ついにカーナディアが…。
「貴方たち、うっとおしいのよ!正々堂々と玄関から入って来なさい!!」
と、キレた。
それ以降、庭に忍び込もうとしたり、覗こうとしたりする者には様々なアクシデントが襲うようになる。
それは、カーナディアが余りにも恐ろしく、また美しいと、彼女を気に入った精霊たちの仕業であったという。
大人になったネフェルティマがその事実を知らされた時、大いにふてくされ、精霊たちを慌てさせ、ガシェ王国に天災が起きたという話は極一部の人しか知らない。
サブタイトルは作中に出てきた、鳥を何種類見たかという大会から取ってみました。
ビッグイヤーは映画にもなっているので、知っている人もいるかなーと(笑)
サッカーのビッグイヤーではありませんよ!




