言い出しっぺが花より団子
獣舎からの帰り道、王都を流れるダーチェ河の川縁を寄り道して帰ることになった。
この時期にしか見られない、王都名物があるとか。
お迎えに来たパウルに教えてもらったのだが、そーなると見ない訳にはいかない!
とゆーことで、寄り道をお願いしたのだ。
ちなみに、執事見習いのパウルですが、最近私の専属みたいな扱いになってます。
何か申し訳ない。
馬車に揺られてしばらくすると、河に沿って伸びる道に出た。
そこには、正に春が来たと告げる花が満開だった。
クレシスチェリーとゆー、桜にそっくりな樹は色とりどりな花を咲かせている。
創世の神が娘のクレシオールのために創った樹とされていて、名前の由来もそこからきている。
この樹の変わっている所は、精霊の力を蓄えること。それ故に、花弁は属性の色に染まる。
樹々にも力の相性があるので、火の属性だけだったり、また火と水とゆー相反する属性を蓄えるものもある。
パウルは物知りだねー。ほんと、家の使用人はみんな優秀です!
クレシスチェリーが両岸に並ぶ河は、虹色に輝いていた。水面に映る花の色が、ダーチェ河を虹の様に見せている。
橋の上で馬車を停めてもらい、欄干から身を乗り出して眺めた。
「きれー!!」
「ネマお嬢様、危ないですから」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
いつまでも見ていたい風景だけど、さすがに通行の邪魔になりそーだ。
ほんと、何でこの世界にはカメラがないんだろー。
…そーだ!!
お花見すればいいんだ!!
お家に帰って、早速パパンにおねだりしみる。
「おとー様っ!おねがいがあります!」
王宮から戻ったばかりのパパンに飛びつき、ただいまの挨拶もそここに本題を切り出す。
「今度はどんな頼み事かな?」
パパンは私をしっかりと抱きとめると、おねだりが嬉しいとばかりの笑顔で言う。
「あのね、おうちのみんなでおはなみがしたいの」
「お花見?」
「そう!おはなみ!!ダーチェ河のところでおべんとーもって、おはなを見ながらたべるのー」
「それは楽しそうだな。お母様と相談してみよう」
おっと、そーでした。
先にママンを攻略しておくんだった!
「私からもおかー様におねがいする!おとー様、今からいっしょにおねがいしにいこー?」
パパンが味方なら、ママンもいいってゆってくれるかなー?
パパンに抱っこされたまま、ママンのお部屋に向かう。
「あら、二人揃ってどうしたの?」
パパンに下ろしてもらい、今度はママンに膝抱っこをねだる。
「ダーチェ河で、みんなでおはなみしたいの!おかー様、だめ?」
「お花見?」
「クラシスチェリーがとってもきれーだったから、もっとみたくて…。おうちのみんなといっしょだと、きっとたのしーの!」
つーか、こっちってお花見文化ないの?
何てもったいない!!
あんなの綺麗なのに、遠くからしか見ないとか、花も可哀相だよ!
とか言っちゃって、ママンを説得してみる。
「そうね。近くで見るクレシスチェリーはとても綺麗だものね。では、明後日にしましょう。ラルフもカーナもお休みですし、デールもお仕事休んでも大丈夫でしょう?」
「あぁ、頑張って休みをもぎ取ってくるよ!」
「やったー!!」
やっほい!花見だ花見!!
パパンの仕事はほいほい休んで大丈夫なのか不安だが、まぁ遠出するわけでもないし、居場所さえ明確にしておけば問題ないと信じよう。
家令のマージェスにお願いして、お花見の準備に取り掛かる。
使用人たちも参加するので、お仕事を前倒しで終わらせてもらい、侍女たちは一番忙しくなった厨房を手伝ってもらう。
だって、美味しいお弁当は何としてでも持って行かなければ!
待ちに待ったお花見当日。
場所は王都の中心地より離れた河川敷。
その辺りで一番大きなクレシスチェリーの根元に大きな絨毯をビニールシートの様に敷き、その上に豪勢なお弁当をたくさん並べる。
無礼講だとゆーことを伝えていたので、執事組以外はみんなおシャレをした私服だ。
執事組は職務意識が高いね。
さて、陣取ったクレシスチェリーだが、その性質故に長生きなのか、それとも精霊に愛されているから長生きなのか不明だが、お兄ちゃんによると樹齢千年物だとか。
蓄えている精霊の力も全属性で、見事なグラデーションだ。
「きょうはさわがしいかもしれないけど、よろしくね」
場所を借りるのだから、挨拶はしておこう。樹齢千年といったら、ご神木と言っても過言ではない。女神様から罰が当たりませんよーに。なむなむ。
すると、風もないのにサワサワと枝が揺れた。
ふむ。やっぱり特別な樹でしたか。
もう一度、クレシスチェリーを見上げた。
サワサワと揺れる枝から、花弁が散る。その散り様も桜みたいで儚い。
そろそろ首が疲れてきたなーってゆー時だった。
ぽてっーーー
何かが私の顔面に着地した。
余り高くないお鼻にクリティカルヒットですよ。
地味に痛い。鼻が潰れたかもしれない!
冗談はさて置き。
降ってきた謎の物体Xを、ムギュっと掴む。
ミギャッーー
………。ナニコレ???
私の手の中で鳴いた物体Xは、まり○っこりだった。
いや、似ているけど目が違うな。まり○っこり+リトルグレイってことか?
つり目がちのぱっちりお目々。つか、目蓋ないね。
体長は10cmくらい。頭が大きい3頭身キャラ。感触はどんなもんかと、指で頭をグリグリしてみる。
指触りとしては、乾燥した苔?しっとり感があるのにザラついているみたいな…。まぁ、乾燥した苔とか触ったことないんだけど…。
みゅぅーー
グリグリしてると、止めてーとゆー風にちっちゃな丸手で私の指を外そうとしている。
あら、やだ。仕草が可愛い!
「おかー様!」
こーゆー不思議な物は、ママンが職業柄詳しいから聞いてみる。
「…ネマ、貴女って子は本当に…」
ママンがびっくりした後、何故か私を呆れた感じで見てきた。
私は何もしてないよ!!
「子霊が姿を見せるなんて、聞いたこともないわよ」
「しれー?」
「子霊はね、上級精霊の幼体ってとこかしら。何百年、何千年という年月をかけて成長し、いずれはこの大陸の精霊王になる可能性だってあるわ」
んーと、精霊のエリート候補ってこと?木霊とかグリーンマンとは違うのかな??
「おチビさん、すごいんだねー」
当のおチビさんは、周りからの視線が恥ずかしいのか、一生懸命隠れ様としている。
いやいや、手のひらの上なんて隠れるとこないから。
「いっしょにおはなみしよー?」
クレシスチェリーに住んでいると思われるこの子にとっては、お花は見飽きて…ってゆーか、当たり前の風景かもしれないけどね。
厨房の一人、ミュゲルに『美味しい水』を魔法で出してくれとお願いする。
『美味しい水』ーその名のとーり飲料用のお水で、ほんの少しだけ体力を回復する効果もある、下級の水魔法。
しかし、侮るなかれ。ミュゲルの魔法は料理に特化していて、料理に合わせた最高の水を出すことが出来る。
凄いのはミュゲルだけじゃなく、我が家の料理長は火力の達人とゆー二つ名を持っていて、料理人の世界では有名人だとか。
この世界の料理人たちは、殆どが下級魔法しか使えない。とゆーか、下級レベルが一番料理人に適してるらしい。
細やかで繊細な火や温度の調整は、パパンやお姉ちゃんには絶対真似できない職人技だ。
そんな人たちが作ったお弁当が美味しくないわけがないっ!!
おチビさんには一番小さなお皿を徳利みたいにして、美味しい水をおすそ分け。
もちろん、クレシスチェリーの根元にもお水をまいてあげる。
さて、準備は整った!
みんな、飲み物ちゃんと持ってるね?
「かんぱーいっ!!」
「「「乾杯っ!!」」」
おチビさんを見ると、おっかなびっくりにお水に口を付けよーとしていた。
そーっと一口含み、ゴックン。
すると、目を輝かせ、ゴクッゴキュッゴック…プハー。
おぉ、いい飲みっぷり!
おかわりを注いであげて、私はお弁当♪お弁当♪
何から食べようかなー?
クレシスチェリーに負けないくらいにカラフルなお弁当を覗き込み、迷う。
「ネマお嬢様、お取り致しますから、お座り下さい」
…てへっ。中腰でお弁当覗いてたら、パウルに言われちゃった。ニュアンス的に行儀悪いってことですよねー。さーせん。
パウルが取り分けてくれたお皿も彩りが綺麗で、ほんと器用だねー。
「いただきまーす!」
まずは、赤い色が鮮やかなテリーヌから。これは人参みたいな根菜で、春が旬。果物とは違った甘みが口の中に広がる。
次は海鮮!さざえみたいな巻貝の身を、短い串に刺してタレを付けて焼いてあるやつ。
プリプリの歯ごたえ。噛めば噛むほど味が染み出てきて、これは酒のつまみにいいな。
乾物の煮物みたいのも美味しそうだなー。
黄色いプチトマト(だと思っている)とチーズのカプレーゼもどき。牛肉の一口パイ包みに、果物を細かく切って葉菜で巻いたフルーツサラダ。
美味い!美味すぎるっ!!
「おかわりっ!」
今度はがっつりとパラス(サンドイッチ)と、骨付き肉、冷製パスタも取ってもらう。
お肉にかぶり付くと、肉汁がジュワッと溢れ出す。
そこで気付いた。てか、お肉が焼きたての様にあっつあつだ!
どーしてなのか聞くと、温かい料理は料理長が、冷たい料理はミュゲルが魔法を使って温度を保ってたんだって。
何その料理チート!?
たらふく食べて、デザートは時間を置くとゆーので、おチビさんと木登りをする。
ただし、マージェスにはしっぶい顔されたけどね。今日は無礼講だから気にしなーい。
クレシスチェリーは高いので、どーやって登ろーか思案していると、おチビさんがぷみゃぷみゃ鳴いて精霊の力を使ってくれた。
ふわっと体が浮かび、大きな幹に着地する。
「おチビさん、すごーいっ!」
パチパチと拍手でおチビさんを讃える。
ここからなら、もう少し上へ行けそーだ。
おチビさんをお供に、景色のいいポジションを陣取る。
景色を眺めていると、周りの雰囲気が変わっていることに気付いた。
対岸に人が増えているのだ。
飲み物を持って、のんびりしているカップル。子供とおやつを食べている親子。昼休みなのか、お店の制服を着たままお弁当を食べている女性の集団。
あれ?みんなもお花見??
「いつもこんなかんじ?」
おチビさんに聞いてみた。
ぷぎゃぷみゃと鳴いて、首を横に振る。
だよねー。お花見文化はないもんねー。
疑問に思っていた所で、下から声がかかる。
「ネマ、デザート食べましょう!」
「はーい!おねー様!」
いそいそと枝を下りて、最後にはまたおチビさんに精霊の力で下ろしてもらった。
デザートは、プリン!とゆーか、果物と生クリームもあるから、プリンアラモードか。
「…おいしーっ!!」
生クリームと果物の甘み、カラメルもたっぷりで香ばしくて甘すぎず絶妙で、プリンは濃厚でそれだけでも美味しいけど果物と食べても相乗効果で美味しい。
「それはよかったです。私たちは余り菓子の類は得意ではないので」
「知り合いの菓子職人に教えてもらったんですよ」
専門じゃないのに、いつも美味しいお菓子作ってくれてたのかー。ありがたやありがたや。
「いつものおかしもおいしーよ!」
「菓子職人を雇ってもいいかもな。我が家に来てもいいという人がいれば紹介してくれ」
パパン、太っ腹だな。
私のために………って、パパン!?
マージェスのプリン、何しれっと取ってんのさ!!
パパンが甘い物好きとか、意外すぎる!!
パパンの意向により、近い内に我が家に菓子職人が仲間入りしそーです。
後日ーー
「ネフェルティマ様、我々に協力をお願い致します!」
いつもの通り、王宮に遊びに行ってた時だった。
王国騎士団の第5部隊、通称王都警ら隊の隊長さんに捕まった。
「えーっと、なんでしょう?」
「先日、オスフェ公爵家でお花見をされたとか」
「…しましたね」
「それを真似た者たちが、川岸に殺到しており、犯罪なども増えて、我々も困っております」
「…はぁ…」
「ネフェルティマ様にはお花見の規則を作って頂きたく…」
お花見の規則って…常識的なことばかりだよねー?
どーしようか悩んだけど、騎士団の人たちが疲れ果ててたので、パパンの許可をもらって協力することにした。
一,動植物に害を与えない
一,出たゴミは各自で持ち帰る
一,場所取りはしない
違反者には罰金が課せられます。
まぁ、女神様の樹であるクレシスチェリーに悪さするやつなんて…酔っ払ったらやっちゃうかもだけど。
罰金のお金は、川岸の環境維持のために遣われます。
そんなこんなで、クレシスチェリーのお花見は王都の名物になりました。
翌年からは屋台とかも出てて、すっごい人集りだったよー。
でも、あの一番大きなクレシスチェリーの根元は、オスフェ家専用みたいな暗黙のルールが存在してるとか…。
何故!?
お花見いけなかったので、代わりにネマにしてもらいました。