ワンコ祭り♪
騎士と泥棒と同じ時期です。
竜騎部隊がベビーラッシュな中、もちろん獣騎隊もベビーラッシュなんです!
いっぱい赤ちゃんが産まれたって話を聴いて、即行でレスティンにお願いしに行きましたよ!
「仕方ありませんね。触るのは許可した動物だけにして下さい。親たちは神経質になっていますからね?」
「はーい!」
こればっかりはしょーがないよね。いくら飼育環境下でも、本能ってのは変えられないんだから。
よし!赤ちゃんツアーに出発進行!!
最初にやって来たのは、猟犬の獣舎。ワンコだけだから、犬舎の方が正しいか。
猟犬と一口に言っても色々と種類があるんだって。
ダックスフンドみたいな胴長短足タイプは、穴や狭い場所で活躍する。夜目も他の猟犬よりも利くらしい。
中型の牧羊犬タイプは、追跡力と体力がズバ抜けていて、広域探索などに使われるらしい。
狼みたいな大型犬は、群で獲物を追い詰める。ロケーションに拘らず、森だろーが岩山だろーが何でもござれ。まさに狼!
犬舎に入ると、通路の両側にずらりと扉が並んでいる。仕切りは大人の高さくらいなので、扉って感じではないけどね。
間隔は広めなのと狭いのが交互になっているから、大きい部屋と小さい部屋ってことだと思う。
「フェミ、入りますよ?」
レスティンは最初の小さい部屋の前で、中にいるワンコに声をかける。
ワンッとゆー元気な鳴き声が聴こえ、レスティンは扉を開けた。
ひょいっと中を覗いて見ると、そこには見慣れたワンコがいた。
チョコレート色のミニチュアダックスフンド!!
短毛で、垂れ耳で、胴長短足で、面長の顔!!
正真正銘のダックスフンドだ!
今までの、ちょっとデカくね?とか、ちょっと違くね?ってゆー動物たちと違って、あっちの世界と変わらない動物を初めて見た。
フェミと呼ばれたワンコのお腹には、小さなものが蠢いていた。
時折、きゅうきゅうと高い鳴き声も聴こえてくる。
「あかちゃんだっ!」
ワンコをビックリさせない様、何とか声を抑えたが、興奮しすぎてヤバい。
「カーギーと言う猟犬の一種です。この子はフェミ。赤ちゃんは13日前に産まれました。この子たちは触っても大丈夫ですよ」
えっ!?コーギー??
あ、違った。カーギーね。ダックスフンドなのにコーギーかと思っちゃったよ。
レスティンのお許しが出たので早速。
まずはお母さんのフェミにご挨拶。
「はじめまして、フェミ。私はネマってゆーの」
顔の下の方に掌を差し出し、匂いを覚えてもらう。
フェミがフンフンと匂いを嗅ぎ、掌をペロペロと舐めてくれた。
よしよし、ファーストコンタクトは成功だ!
次は授乳中の子犬を邪魔しない様に、フェミの体を撫で回す。
短毛種な故か硬めの毛で、産後ってゆーのもあってか、少し肌触りが荒い。
フェミは気持ちいいのか、尻尾を盛大にブンブン振っている。
「フェミはいい子だねー」
フェミとのふれあいを満喫していると、お腹いっぱいになった子犬たちが、私に興味を示してきた。
「さわってもいーい?」
そうフェミに聞くと、ワフッと了承してくれた。
一匹の子犬をそっと持ち上げる。私の両手より少しだけ大きいくらいしかない。お腹はパンパンになっていて、破裂しないか心配だ。
覗き込んだ目は膜がかかった様な紺色で、まだ目が見えていない証拠だ。
ぼんやりとした視界の中で、母親のお乳を探せるのだから、赤ちゃんと言えど犬の嗅覚は凄い。
胸元に抱っこして、子犬の背中を撫でてあげる。
……こっ、これは!?
柔らかく艶やかで、最高級の天鵞絨の様ではないか!!
これが全くダメージを受けたことがない毛並み…。こんな素晴らしいものが、成長と共に栄養状態や紫外線やらで失われてしまうのか…。
季節によって生え替わるとしても、毛並みは栄養やストレスに左右され易いもの。
あぁ、この手触りが数ヶ月しか味わえないなんて…もったいない!
何てことを考えながら、ずっとなでなでしていたら、子犬はいつの間にか夢の国へ旅立っていた。
スピースピーってゆー呼吸音と、時々きゅーってゆー寝言が聴こえてくる。
マジでお持ち帰りしていいですかね?
寝ている子犬を片腕で抱いたまま、他の子犬とも片手で遊ぶ。
よろよろぽてぽてと歩く姿は悶絶ものだ。
指先で、耳の付け根をくすぐってやると、気持ちよさそうにコロンと寝転がる。
「いやされるー」
粗方遊んで、子犬たちがお昼寝モードになったので、抱っこしていた子もフェミの元へと返す。
「フェミ、またあそびにくるね!」
最後にフェミを一撫でしてから部屋を出た。
次に見せてもらったのは、中型犬の部屋。
中にはゴールデンレトリバーとジャーマンシェパードを掛け合わせた様な犬がいた。
体格はレトリバー、ピンと立った大きな耳と顔付きはジャーマンシェパード。茶色と黄色の毛色で、首から胸元にかけて鬣の様な長い毛がある。
えっと、この大きさで中型犬なんっすか?あっちじゃ間違いなく大型犬の扱いですけど??
「この子はシュルギーと言う種類で、名前がリルです。赤ちゃんは一昨日産まれたばかりなので、見るだけにしましょうね」
一昨日産まれたばかりにしては、赤ちゃん大きいな!
今は丸まって寝ているけど、バレーボールくらいの大きさはあるんじゃないかな?
それがお母さんのリルを中心に、毛玉があっちこっちに転がってる。その光景はまるで、阿寒湖のでっかいマリモの様だ。動く気配すらない。
次にあった時は、もふもふわしゃわしゃぐりんぐりんしてやるからな!待ってろよ!!
ふわふわなもふもふに後ろ髪を引かれる思いで後にする。
次の部屋を覗いて見たら、とりあえずビックリした。
紀州犬もどきがいっぱい…。
いやいや、さすがに紀州犬はいないだろ。
レスティンが先に部屋の中に入ったのだが、警戒の唸り声が聴こえる。
獣騎隊にいる全ての動物のボスであるレスティンに反抗的な態度をとるとは…。こやつ、出来るな!!
どんな子かなーって、レスティンの隙間から見てみると、よく知ったワンコだった。
ボルゾイ並みの大きさと、狼の様なゴツイ体格。そして、ふっさふさで真っ白な体毛。
我が家のワンコ、ディーと同じだ!
「ディーがいるー!」
「ディーと同じ種類で、スノーウルフです。この子たちは20頭前後の群で生活し、夫婦で子育てをします」
未だに唸り声を出しているワンコから目を離さないまま、説明してくれるレスティン。
「今、にらめっこしているのがお父さんのセロ。その後ろにいるのがお母さんのセラです」
にらめっこって…。ま、いいや。
それより、ディーってば狼だったのかー。驚きの新事実だね!
「セロ」
まずはセロの注意を私に向けさせる。
すると、セロのグルルルってゆー低い唸り声が小さくなっていく。
「私はネマよ。よろしくね、セロ」
ここでも掌を出して、匂いを覚えてもらう。
クンクンと匂いを嗅いで、セロは頭をすりつけてきた。
撫でろってことですねー。喜んでなでなでしますよー!
ってことで、両手で思いっきりわしゃわしゃしてあげる。
セロの尻尾が大きく左右に揺れる。
ふっふっふー、気持ちいいでしょー。私のわしゃわしゃはディーにも好評なんだぜぃ。
クゥンー
何とも可愛らしい鳴き声を聴かせてくれたのは、セロの後ろにいるお母さん犬のセラだ。
鳴いた理由は、私のことも撫でろって所だろう。
もちろんだとも!さあ、来い!!
手を差し出し、おいでと声をかける。
セラも尻尾をフリフリしながら、私の元へ来てくれた。
セラにも遠慮なくもふもふわしゃわしゃしていると、子犬たちもジャレつき始めた。
さっきまでは父親の威嚇もあってか、部屋の隅で団子になっていたのに。
構え!遊べ!と突撃してくる子犬たち。
しかし、何か下に見られてる気がする。
気のせい?んなわけない!
私を押し倒そーとはいい度胸だ!!
子犬たちのヒエラルキーでは、私もレスティンも底辺に位置しているのかもしれない。犬の社会は力関係が明確だからね。
ふっ。君たち、最初に上下関係の厳しさってのを教えてやろーじゃないか!
「私をたおしたいのなら、かかってきなさいっ!」
子犬たちは遊んでくれるものと思って、飛びかかってきた。
最初の子を躱して、勢いよくジャンプしてくる2匹目に手を伸ばす。
全身で子犬をキャッチするが、衝撃を流せず尻餅をつく。痛いけど、予想範囲内だから我慢!
素早く態勢を入れ替えて、子犬の上に跨がり、首の部分を強く掴む。
子犬は驚いて、ギャンギャンと吠えるが無視。すると、耳を倒し、尻尾を隠す様になった。鳴き声も、きゅーきゅーと甘えた声になっている。
よしよし、いい子だね。
そうやって、一匹、また一匹と服従させていく。
手加減知らずの子犬たちの攻撃に、すり傷が増えていくが気にしない。子犬たちも何匹かには痛い思いをしてもらったし。
7匹いた子犬も、残るは1匹だけ。
子犬の中でも強い個体なのか、他の子たちに比べると成長が早いよーだ。
お互い睨みつつ、間合いを計る。
先に動いたのは子犬の方。
ワンコとは思えない、素晴らしい跳躍力を…って狼でした…。
とにかく、子犬のくせによく跳ぶ。
一発目を間一髪で躱したが、タンッと軽やかに着地するとすぐに方向転換し、再び飛びかかってきた。
咄嗟に右腕で顔を庇うが、それがいけなかった。
鋭い痛みを認識した瞬間、体が強張り、血の気が引く感じがわかった。後ろに押し倒されたが、頭を打たない様に受け身をとる。
「ネフェルティマ様っ!!」
まさかの事態に、静観していたレスティンが動こーとしたが、私はそれを制した。
「だいじょーぶ!」
まぁ、痛いのは大丈夫じゃないんだが…。
キッと子犬を睨みつけ、腕に食らいついている口の根元をしっかりと握る。
刺さった牙が動かない様固定し、子犬の腹に足を巻きつける。
ゴロンと転がって、上下を入れ替える。その振動で、また脳天まで痛みとゆーか痺れとゆーか、とにかく嫌なものが駆け巡ったがぐっと我慢。
腕さえ取られていなければ、足で引き離すことも出来たが…いや、内臓が危ないからやめといて正解か?
握っている口元に力を入れ、無理矢理に口を開く。が、子犬も負けじと顎に力を入れる。
あー、ヤバい。腕の感覚がなくなってきた。
グルルルーオォンッーー
低い地を這う様な鳴き声。
それを聴いて、子犬はビクッとし、表情から鋭さが消えた。
恐る恐るといった風に、口を外し、上目使いで私を見てくる。
お父さんのセロが怒ったのかな?
でも、マウントはやめないよー?
私の下から逃げ出せない様に、全身を使って抑え込む。
クゥンクゥンと鳴き声をあげると、セロが近づいてきた。
セロが来ると、子犬はギャンギャンと激しく鳴く。
まだわかってないのかなー?
セロも子犬をガン無視して、私の怪我を気にかけてくれた。
子犬は父親に無視されたのがショックだったのか、今度はか細くきゅーきゅーと鳴き始めた。
セラも私の側に来て、そろそろ離してあげて、と視線で訴えてきたので、子犬の上からどく。
すると、素早い動きで子犬は起き上がり、母親に甘え出した。
が、母親は子犬を鼻で押し、部屋の隅まで追いやってしまった。
両親が自分より私を優先する姿を見て、漸く位が違うのだと理解したらしい。隅っこで、大人しく小さくなっている。
そんな姿を見ると、ちょっと可哀相だけど、まぁお互い様ってことで。
「ネフェルティマ様、怪我を見せて下さい」
レスティンもやってきて、噛まれた所をまじまじと見られる。
私もつい見てみる。
綺麗に四つ穴が空いている。血は思ったよりは出ていない。
「よく、噛まれた時の対処法を知っていましたね」
簡単な応急処置をしながらも、レスティンが感心してきた。
うん、昔取った杵柄?犬も飼ってたし、よく猫にも噛まれてたし…。あの子たち元気かなー?
「医務室に行って、治癒魔法をかけてもらいましょう」
はーい!
レスティンに連れられて、部屋を出よーとしたら、子犬たちに妨害された。
まだ遊べーってことですね。
「すぐにもどってくるからね」
一匹ずつなでなでして、大人しくさせる。
私を噛んだ子は、まだ部屋の隅で丸くなっている。
この子も後でたんまりと構ってあげよー!
治療して戻ってきて、子犬たちとこれでもかってゆーくらいに遊んで、みんなで一緒にお昼寝して、すっごく仲良しになりました!
帰る時には、みんな大鳴きで大変だったよ。セロとセラも引き留めよーとするし…。
しばらくは、犬舎通いになりそうです。
黒ヒョウのライパンサーの赤ちゃんも見たかったんだけどなー。また今度だねー。
あれ?
ワンコだけで1話できてしまった!
にゃんこも入れる予定だったのに(笑)
てか、ネマさん。怪我とかしちゃったら、もうレスティンが獣舎に呼んでくれないかもよ?
 




