騎士と泥棒
ネマ4歳の春の出来事。
麗らかな春。花は咲き乱れ、生き物が活発に動き出す季節。
と、思いきや、竜舎と獣舎は歴代稀に見るベビーラッシュで、騎士たちは育児に追われていた。
「ぎゃーっ!!チビ、それは食べ物じゃねー!!」
小さな小さなリンドブルムが丸太をカジカジしている。
慌てて飼育係の騎士が抱き上げると、今度は駄々っ子の様にジタバタし出した。
今年孵化した卵は全部で17個。
新米を脱出した、将来有望な竜騎士がマンツーマンで世話をしている。
「…チビ、外に行こう!そして、他のチビどもと遊ぼうな?」
遊ぶという単語に反応したおチビさんは、嬉しそうにクルルと喉を鳴らす。
騎士の方も、これで少しは息が付けるかもと期待した。
しかし、そう上手くは行かないのが育児。この騎士は身思って知ることになる。
竜舎の寝床の前の草地に、小さくてコロコロした生き物がいっぱいいる。
今日、お呼ばれして本当によかった!!
竜の赤ちゃんとか、マジで鼻血ものだよ!
ダンさんの手を引っ張って、早く早くと急かす。
「急がなくても、チビどもは逃げたりしねぇぞ!」
竜の赤ちゃんは逃げなくても、時間は減るでしょーが!
「じかんはかぎられてるの!」
「しょうがねぇな。転けんなよ?」
そー言って、ダンさんは私のスピードに合わせて走ってくれた。
走るってゆーか、早歩き?
ま、いいや。今日はドレスじゃなくて、乗馬スタイルで来たから、転けないもんねー。
きゅるるるー
ぎゃおん
ぴみゃー
多種多様な赤ちゃん竜の鳴き声。
残念なことに、赤ちゃん竜の言葉はわからなかった…。
多分、竜自体が人間の言葉を理解出来ていないと、竜玉の力があってもムリってとこなのかな?
まぁ、言葉が通じようが通じまいが、この可愛さの前には関係ない!
赤ちゃん竜たちが集まっている場所のど真ん中まで行って、早速交流をはかることにしよう!
「はじめまして!わたしはネマってゆーの。みんなであそぼー!」
大きな声で言うと、何匹かが私の元に来てくれた。
足元で顔をスリスリしてきたのは、リンドドレイクの赤ちゃん。
小型犬くらいの大きさで、大人の竜と比べると本当に小さい。こんな小さな赤ちゃんが、あそこまで大きくなるんだから、ほんと生き物って不思議だ。
ちなみに、赤ちゃんは全体的に丸っこく、お腹はぽっちゃりしている。
一番近いのはコモドオオトカゲとかそこら辺。竜ってゆーよりは、トカゲだね。うん。
ぴぎゃぅ!
余りの可愛さに、ぎゅーってやってしまった。
ぎゅーってやっても、リンドドレイクの赤ちゃんは嬉しそうにぴぎゃぴぎゃ鳴いている。
この子は好奇心旺盛で人懐っこいのだろう。
それに釣られて側にいた子たちも、だっこーって言う風に騒ぎ出した。
あぁ、こーゆーのを至福ってゆーんだね!!
一匹ずつにぎゅーってやって、その子らを引き連れて他の赤ちゃん竜たちの所へ行く。
警戒していたり、怯えている子たちに大丈夫だよと声をかけまくった。
そして、やや強制的にぎゅーってやると、お返しに顔を舐めてくる子もいれば、嫌々と若い竜騎士の後ろに隠れてしまう子もいた。
本当に個性豊かな赤ちゃんばかりだ。
「さーて、なんのあそびをしよーか?」
これだけいっぱいいるんだから、大勢でしか出来ない遊びがいいよね!
んー、鬼ごっこはスタンダードすぎるし、かくれんぼは隠れるとこないし…。だるまさんが転んだ?それとも、花いちもんめ?
私が小さい時って、何して遊んでたかなー?あ、あっちの世界にいた時のことね。
よくやってたのはけいどろ(地域によってはどろけい)だったなー。
赤ちゃん竜には難しいかな?
そーだ!お世話係の竜騎士も一緒にやれば大丈夫でしょ!
おっと、その前に…。こっちの世界だと警察がないから、「騎士と泥棒」ってゆー説明でいいかな?
「じゃあ、あそび方をせつめいするね」
赤ちゃん竜と竜騎士ワンセットで、半々にチーム分けをします。
一つは騎士チーム、もう一つは泥棒チーム。
泥棒は騎士に捕まらないよう、力の限り逃げる。騎士は逃げる泥棒を全力で捕まえる。
範囲は竜舎の寝床とその周辺。
泥棒を捕まえた騎士は、その泥棒を牢屋にいれます。
捕まった泥棒は、逃げている泥棒に触ってもらえたら牢屋から逃げれます。
なので、騎士は逃げられないよう、牢屋も見張らなければいけません。
制限時間内に泥棒を全員捕まえられたら騎士の勝ち。一人でも泥棒が残っていたら泥棒の勝ち。
理解出来たかなー?
「…あの、それだと騎士の方が不利じゃないですか?」
って、言われてもなー。そーゆールールだったし…。
「んーとじゃあ、どろぼーの数をへらす?」
17いるから、騎士10の泥棒7くらいで。
「移動はチビを抱いたままでもいいのですか?」
「だめです!あかちゃんりゅうをうまくゆうどうしてね。さわる時だけりゅうきしのみなさんがしてあげて」
赤ちゃん竜たちがメインなんだから。竜騎士が抱っこしてたら、ただの竜騎士によるけいどろじゃんかー。
「ちなみに、捕獲の条件は?」
「くみになっているあかちゃんりゅうとりゅうきし、どちらにもさわること。たすけだす時もおなじだよ」
粗方の質問を終えると、まず騎士チームに牢屋の場所を決めてもらう。
普通ならジャングルジムとか滑り台なんだけど、ここにはないからね。…赤ちゃん竜の遊具として、作ってもらうのも有りだな!
場所が決まったら、ダンさんの剣を失敬して、鞘で地面に枠を引く。
ダンさんが手入れが…とかボヤいていたけど、しーらないっと。
ダンさんの剣は飾りだって知ってるもんねー。現場に出る時は、でっかいハルバートが愛用の武器だし。
「では、せいげんじがんは2時間。かいし1分ごに、きしたちがおいかけるよ!どろぼーさんたちじゅんびはいーい?」
泥棒チームの竜騎士たちは、大丈夫だと相槌を打つ。
「んじゃ、きしとどろぼーかいし!!」
さてさて、私はとゆーと…。ソルに広範囲視野の魔法をかけてもらって、可愛い赤ちゃん竜たちの姿を観察するのだ!
竜騎士が一生懸命、赤ちゃん竜に声をかけて移動を開始した泥棒チーム。
ほとんどが寝床に向かう模様。
リンドドレイクの赤ちゃんの歩く姿は、ポテポテってゆー効果音が聴こえてきそーだ。
リンドブルムの赤ちゃんは、パタパタころりん、パタパタころりん。超低空飛行を30cm程飛ぶと、地面にころりんとでんぐり返し。
あぁぁぁ、もう可愛すぎる!!
お家にお持ち帰りしたいっ!!
あ、一組だけ寝床とは別の所に向かってる。
んー、竜騎士の言う事、完全に無視してるね、あの赤ちゃん竜。
クルルーってゆー、機嫌良さげな鳴き声もしてくる。
すぐに捕まらないといいけど…。
騎士チームも漸く動き出す。
こちらは事前に作戦でも立てたのか、役割分担が決まっている模様。
二組が寝床の内部に進入し、三組が寝床を取り囲む。四組がさらに広範囲を囲み、残り一組が牢屋の見張りといった感じだ。
さて、どーなりますかね。
えーっと、何か大変なことになっております。
意外や意外、騎士どろがいい具合に赤ちゃん竜と竜騎士との関係を深め、尚且つ、走る飛ぶの練習になったのか、半数程がいい連携プレイを見せております。
そして、赤ちゃん竜たち以上に白熱している竜騎士たち。
竜騎士としてのプライドか、泥棒チームも騎士チームの作戦の穴を付き、捕まった仲間を助け出す光景もあった。
間もなく制限時間の2時間が過ぎようとしている。
戦況は泥棒チームがほとんど捕まり、残るはあと一組。
逃げ切るのか、捕まるのか…。
騎士チームは牢屋の見張りを三組に増やし、残る七組でしらみつぶしに捜索に当たる。
「しゅーりょーっ!!」
結果は泥棒チームの勝ち!
逃げ切った一組は、どこに隠れているのかなーっと。
………あれまっ!!
「すみませーん!梯子持ってきてくださーい!!」
何と、寝床の屋根の上にいるではないか!どーやってそこまで登ったんだ!!
「ふぃ~助かった…」
赤ちゃん竜を抱え、梯子を降りてきた竜騎士が安堵の溜息をこぼす。
「どうやってあそこまで登ったんだ?」
私に代わって、ダンさんがルール違反をしていないかの事情聴取をしてくれた。
「それが…チビ、飛んだんですよ」
「飛んだって…1ミノ(2,5m)以上はあるぞ!?」
「裏の出口に、足場になる棚があるんですよ。そこから扉の屋根に飛んで、さらに竜舎の屋根まで行ったんですけど…。落ちやしないかとヒヤヒヤしましたよ」
ハンパねぇ行動力だな。
世話係の竜騎士さんも、心労からかげっそりしてるよ。
にしても、屋根の上の何がそー駆り立てられたんだ?
「このチビ、木を囓るのが好きなんで、屋根の板をずっと囓ってました」
えっ!?
板をずっと囓ってたぁ!!
ビックリして、問題の赤ちゃん竜を見ると、大変満足気な顔でぷぎゃと鳴いた。
あ、本当にカジカジしてたのね?
2時間近くずっと…。
でもま、君のその執念のお陰で、泥棒チームが勝ったよ。
その後、納得がいかないと騎士チームから申し立てがあり、一ヶ月後に再戦が行われることとなった。
そして、赤ちゃん竜たちが成体になるまでずっと繰り広げられることとなる。
余談だが、騎士と泥棒は巡回の竜騎士が子供たちに教え、爆発的な勢いで国内に広まった。さらに、国を越える商隊や興業一座によって世界中に広まることとなる。
春ということで、赤ちゃんネタにしてみました!
が…ネマが大人しいΣ( ̄。 ̄ノ)ノ
ネマが動いてくれないと、ただの説明文とゆー…。すみません(´Д` )