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毒薬令嬢じゃありませんから〜婚約破棄された私を薬師として見出したのは、瘴気喰らいの辺境伯でした〜  作者: 鈍色シロップ


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1

『毒薬令嬢とまで呼ばれるくらいなら、他人を助けるための薬なんて――作らなければよかった』


そう思ったはずの私が、いまは薬師(やくし)として……大事な人を生かすために、また薬を握りしめている。


冬の森の奥。

半ば崩れた祭壇には、人の背丈を超える黒い結晶がせり上がっていた。

その表面を覆う瘴気は、触れているロイベルの手へ引き寄せられるように吸い上げられている。


「ソフィアーナ嬢。次の薬を」


「瘴気喰らい」と呼ばれる辺境伯――ロイベルは、黒く濁った結晶に手を触れたまま、低くそう告げた。


私は小瓶を差し出す。

中身は濁った深緑色の、どう見ても怪しい液体。

王都ではこの薬のせいで、「毒薬令嬢」と蔑まれた。

けれど、いまはそんなことを気にしている余裕なんてない。


「どうぞ、辺境伯様」


ロイベルはためらいなく飲み干す。

直後――副作用の苦痛に、ぐっと顔を歪めた。


薬の小瓶は、まだある。

それでも、足りなくなることより……飲ませ続けなければならないことのほうが、ずっと苦しかった。


そうして息を詰めた瞬間。

ここへ来るまでの日々が、頭のなかで蘇った。



 ◇ ◇ ◇



始まりは、レルード侯爵家のひとり息子――私の元婚約者のルシアンが、原因不明の病で倒れたことだった。


前から身体は弱かったけれど、何週間もまともに起き上がれないなんて初めてで……彼を知る者は皆、焦りと不安でざわついた。

王都中の医師や薬師、それに神殿の神官にまで診せても、みんな首を横に振るばかりだ。


それでも諦めきれなくて、家の書斎をひっくり返すように調べていた時のこと。

うちのエルネリア伯爵家には昔ひとりだけ、薬師として名を残した親族がいたらしく、その人のものであろう古い資料が出てきた。


そこに、ルシアンの症状によく似た病の記録を見つけた瞬間――胸の奥に、小さな火が灯った。

薬を作ったことなんて一度もない。

けれど、やってみるしかないとすぐに思った。


……ルシアンは、自分の病気の話をする時でさえ、いつも「君のほうこそ、無理はしていないかい?」と笑ってくれる人だった。

弱々しくても、あの穏やかな笑顔が好きだった。

もう一度――いいえ、何度でも。あの笑顔が見たい。それだけで、十分だった。


書かれていた材料を求めて王都じゅうを走り回り、店にないものは自分で採りに行った。

街の薬師たちにも話を聞きに行って、資料にあったレシピを見せてみたけれど、


「古い」

「書きかたが独特」

「流派が違いすぎる」


と、誰もが首をひねるばかりだった。


それでも、必要な器具や火加減のコツだけは教えてもらえたので、自室の片隅に小さな調合台を作る。

使用人どころか親にまで訝しげな目で見られたけれど、誰も踏み込んで聞いてこないから、私も何も説明しなかった。


素材を乾かし、刻んで、煎じて、分量を間違えたことに気づいてはやり直し。

火加減を少し強くしただけで、せっかくの薬液がドロドロに固まって、何度も涙目になった。

初めて完成した薬を、舌に乗せてみた瞬間――ビリッと痺れて、涙が勝手に溢れた。


(たぶんこれ、人が口にしちゃダメなやつ)


もちろんこんなものを病人に飲ませるわけにはいかないので、その夜は一晩中、なにがよくなかったのか考えながら作り直した。


何度か自分で試して、「問題なさそうだ」と判断できた日。

薬を入れた小瓶を握りしめて、私はそのままレルード家の屋敷へ駆け込んだ。


自室のベッドで力なく横たわるルシアンの前に、栓を抜いた小瓶を差し出す。

中身は正直、作った本人が見てもどこか禍々しい……濁った深緑色をしていた。

臭いもちょっと、キツい。


彼は小瓶を受け取ると、すぐには口をつけず、しばらくじっと中身を見つめた。

傾けるたび、ガラス越しに深緑の液体がドロリと揺れる。

喉仏をかすかに鳴らし、私と小瓶とを見比べる。


「……ありがとう、ソフィ。僕のために、作ってくれたなんて」


申し訳なさそうに言うと、小瓶をゆっくりと、口元へ運んでいく。

息が止まりそうな思いで、私はその様子を見つめていた。


……いま思えば、古い資料を少し読んだだけの素人が、薬を作って他人に飲ませるなんて、ずいぶん無茶な話だ。

けれど、あの時の私には……もうそれしか、縋るものがなかった。


ルシアンが小瓶の中身を飲み干した瞬間――すごい勢いでむせた。

やってしまった、と血の気が引いた。


「ルシアン! だっ、大丈夫!?」


ゴホゴホと咳き込む彼の背中をさすり、ベッド脇の台に置かれたコップの水を含ませる。

ルシアンは涙目になりながらも、やがて咳は落ち着いてきた。


「大丈夫……喉が焼けるかと思ったけど、呼吸は少しだけ楽になったかも。……舌と手足が、なんだか痺れてるけど」


久しぶりに見た、記憶のなかの穏やかで優しい笑顔だった。

「少しだけ楽になった」――その言葉は、私には唯一の希望に思えた。

それから私はますます薬作りにのめりこみ、寝る間も惜しんで調合を続けた。


日をおきながら薬を渡すたび、ルシアンの呼吸は少しずつ落ち着いていくように見えた。

起き上がっていられる時間も、前よりは長くなっていった。

そのたびに、私は「やっぱり効いてるんだ」と思った。

多少副作用が強くても、身体が楽になるなら意味はある――そう信じていた。


一方で、薬を飲むたびに彼の表情がわずかに曇ることにも、日を追うごとに口数が減っていったことにも……私は結局、ちゃんと気づけなかった。


いつのまにか、ルシアンとはほとんど顔を合わせなくなっていた。

私は薬を届けるだけ。彼の容体は、使用人から聞くだけ。


それでも、


「今日は食事も喉を通ったそうです」

「ついに歩けるようになったとか」


と、そんな報告を聞くたびに、これまでの苦労が少しずつ報われていく気がした。


いま思えば、このころからなんだか様子が変だった。

私に報告してくれる使用人たちは、決まって目を合わせてくれない。

気まずそうに視線を泳がせては、早々に話を切り上げて去っていった。


(きっと、ルシアンの容態がまだまだ心配なんだ。忠誠心の高い人たちなんだな)


そう自分に言い聞かせた。


そしてついに――ルシアンの快復を祝うパーティーまで開かれることになった。

なぜか……その時になってもまだ、彼には直接会えていなかったけれど。婚約者なのに。

使用人に「本日はお会いできません」とやんわり遮られる日が、もう何度も続いていた。


(さすがに、ちょっと……おかしくない?)


とはいえ、ルシアンの家は侯爵で、私の家は伯爵。

家柄は明らかに向こうのほうが上で、もともとこちらが頭を下げる形でまとまった婚約だ。

文句なんて言える立場じゃない。


(……パーティーで直接、「よかったね、おめでとう」って言えれば、それで十分よね。いずれまた、いつでも会えるようになるのだから)


本気でそう思っていた。

それが今後叶うことはないと知ったのは――まさにそのパーティーの最中だった。



 ◇ ◇ ◇



「ソフィアーナ・エルネリア。今日この場をもって――君との婚約を、解消させてもらいたい」


青天の霹靂、なんて言葉じゃ足りないくらいの衝撃だった。

ルシアンの言いかたがまた、どこまでも丁寧で、他人行儀で……まるで私が悪いんじゃないかと錯覚するほどだった。


(なんで……どうして……私、あなたになにかした?)


震える指で、葡萄色のドレスの裾をつまむ。

「この日のために」と侍女たちが時間をかけて整えてくれた、光沢のある立派なドレス。


けれど、その中身は酷いものだった。

紫色の目の下は、連日の調合でクマが浮いている。

黒に近い紫色の髪は無造作に跳ね、薬品の臭いも抜けきっていない。

完璧に着飾った公爵や侯爵令嬢たちの輪のなかで、きらびやかな布に包まれた自分だけが、ひどく場違いに思えた。


パーティー会場に流れていた楽団の音楽も、紳士淑女たちの会話も、いつのまにか聞こえなくなっていた。

しんとした空気のなかで、渇いた喉を震わせながら、なにか言おうとするよりも早く――ルシアンの後ろから、すっと誰かが現れた。


磨き上げられた床に、淡い黄色のドレスの裾がふわりと広がる。

蜂蜜色の巻き髪は艶やかで、大きな水色の瞳は潤んでいた。


(ブランシュ公爵家の令嬢……マリエラ?)


胸元のブローチにも、家の紋章が象られている。

私の生まれた伯爵家より、ひとつどころかふたつも格上の、古くからの名門だ。

マリエラは裾をふわりと広げて小さく膝を折ると、誰が見ても「お優しい公爵令嬢」としか思えない笑みを浮かべて私に向き直った。


「ごきげんよう、ソフィアーナ様」


鈴を転がしたみたいな声で、彼女は言う。


「突然のことに……さぞ驚かれていらっしゃるでしょうね。でも、ご安心なさって? ――『理由』はちゃんと、ありましてよ」


そっと唇に指をあててから、意味ありげに目を細めた。


「だって、わたくし……偶然知ってしまったんですの。あなたがルシアン様に、どんな『お薬』を飲ませていたのか」


(薬……?)


その意味を考える間もなく、マリエラが軽く指先を弾くと、側に控えていた使用人が銀盆を差し出した。

その上には、見慣れた形の小瓶がひとつ。


(――あれ)


間違いなく、私がルシアンに渡した小瓶だ。


(どうしてそれを、マリエラが……?)


答えを求めてルシアンのほうを見ても――ふいと視線を逸らされただけだった。


「みなさま、こちらをご覧になって」


彼女は、その小瓶を高く掲げた。

濁った深緑色の液体が、ガラス越しにドロリと揺れる。

何度も作り直して、やっとたどり着いた配合。

彼が「少しだけ楽になった」と言ってくれた……私の薬。


「ソフィアーナ様はずっと、婚約者であるルシアン様に……このような得体の知れないものを飲ませていたのです。……まるで、毒のような色でしょう? 栓を抜くと、臭いもすごくて……わたくし、怖くて震えてしまいましたわ」


マリエラは小瓶を持ったまま、自分の肩を優しく抱くように腕を回した。

その動きに合わせたかのように、周囲の空気がざわりと揺れる。


「毒だって?」

「伯爵令嬢がそんなことを……」


と、ひそひそ声が一気に広がっていく。


口元をわずかに歪めたマリエラのところへ、もうひとりの使用人が銀盆を運んできた。

今度は、透き通った上質なガラスでできたような、細長い小瓶がひとつ載っていた。

首まわりに細い銀細工が巻きつき、なかの液体はほとんど無色なのに、天井のシャンデリアの光を受けて白っぽくきらめいている。


「これは、遠く聖都の大神殿より正式に賜った『聖薬』ですわ。名高い神官様方が認めた由緒正しいお薬を、ルシアン様のために特別に取り寄せましたの」


「おお……」

「なんと神々しい……」


という声とともに、さっきまで私の小瓶を眺めていた視線が、一斉に聖薬へと吸い寄せられていく。

マリエラは、人のよさそうな笑みを崩すことなく……とどめの一言を落とした。


「……彼はとうに、こんな怪しげな毒薬なんてやめていて――この聖薬を飲んでいらしたのよ」


喉の奥が一気に凍りついたみたいになって、息が詰まった。


――『今日は食事も喉を通ったそうです』

――『ついに歩けるようになったとか』


そんな報告と、快復祝いのパーティーまで開かれるようになった事実だけを支えに、寝る間も惜しんで薬を作ってきた。

それをまるごと踏みにじられたようで――気がつけば、声が飛び出していた。


「そ……その聖薬を、いつから彼が飲んでたって言うんですか……! 本当に、その聖薬が――」


「――もういいじゃないか。そんなことは、どうでも」


私の問いかけを遮ったのは、紛れもなくルシアンだった。

いつだって優しかった彼から、初めて聞くような……冷たさのにじんだ声色で。

思わず、その顔をまじまじと見てしまう。

けれどルシアンは、表情ひとつ変えずに続けた。


「君が僕のために作ってくれた薬だから……そう思って、我慢して飲んでいたけれど。酷いものだったよ。味はもちろん、飲むたびに喉は焼けるし、舌や手足の先は痺れるし……正直、ずっと怖かった」


自分でもわかるほど、顔がひきつった。


「それをマリエラに話したら、彼女だけがすぐに異変に気づいてくれたんだ。こんな怪しい薬をやめるべきだって。彼女が見抜いてくれていなかったら、こんな快復を祝うパーティーどころか……いまごろ僕は、どうなっていたことか」


端正な顔が、苦々しく歪む。


「弱っていた僕にこんなものを飲ませて、いったいなにを考えていたのやら。素人が作った薬ってだけでも厄介なのに、毒薬とはね。……病でまともに動けない僕を利用して、いずれは妻の立場から――レルード家を思いどおりにするつもりだったのかい?」


「そっ、そんなわけ……っ!」


そう叫びかけて……無意識に振り返る。

後方では、父と母が固く口を結んで、こちらを見ないふりをしている。

彼の両親――侯爵夫妻は、眉間にしわを寄せながらも何も言わない。

言葉が詰まる。疑われてる、とすぐに感じた。


両親たちに背を向けて、俯いたまま床だけを見つめる。

さっきまでずっと泣きそうだったのに、不思議と涙は出てこない。

ただただ虚しさだけが、胸にぽっかりと穴を開けていった。


勝ち誇ったような響きを含んだ、マリエラの声が聞こえる。

不快さに耳が悲鳴を上げた気がした。


「これで……わかりましたでしょう? ルシアン様の隣にふさわしいのは、もうあなたではありませんわ。これからは――わたくしが新たな婚約者として、ルシアン様を支えてまいります」


(はあ……そうですか……)


頭のなかでぼんやりと返す。

いまの彼の隣に誰が立つかなんて、どうでもよかった。

私の知っていた……私が好きだったルシアンは、病とともにどこかへ消えてしまったのだ。

代わりに、ルシアンによく似た誰かの声が、吐き捨てるように宣言する。


「君のような『毒婦』と婚姻を結びたい男は、もういないだろうね。……これは、君が犯した罪の報いだよ。もう二度と、僕たちの前に姿を見せないで欲しい。レルード家は今後――エルネリア家との一切の交流を断つ」


(毒婦……)


ゆっくりと顔を上げる。

いつのまにか、ルシアンはマリエラの肩を抱き、寄り添って立っていた。

お似合いだなと思ってしまった。


(全部、彼のためだったのに)


素人の調合だなんて、自分でもわかっていた。

それでもせめて、王都中の薬師を訪ねて聞き回ったり、できることはしてきたつもりだった。


(なら、どうすればよかったのよ……なにが聖薬よ……)


恨みがましく、いまだにマリエラの手のなかにある薬の小瓶と、銀盆の上に佇む聖薬とやらを見比べる。

そっくりそのまま、私と彼女を対比しているよう。

私の視線に気づいたのか、マリエラはふたたび小瓶を高く掲げた。


「ルシアン様、毒婦は言い過ぎですわ。そうね、差し当たり――『毒薬令嬢』、なんてどうかしら?」


彼女が微笑みながら高らかに告げた途端、会場のざわめきがすっとおさまった。


「毒薬令嬢……」


誰かが繰り返すのに合わせて、ごくりと喉を鳴らす音が聞こえた。

一歩、また一歩……周囲に立つ人が私から離れていく。

その光景に、ぷつんと頭のなかのなにかが切れた気がした。


(もういい。毒婦だろうが毒薬令嬢だろうが、なんだっていいから……帰りたい。これ以上ここにいる意味なんて、ない)


せめてお辞儀だけでもしようと思ったけれど、指先に力が入らず、ドレスの裾を握る手が震える。

いったん落ち着こう、と軽く目を伏せた……そのとき、だった。




「――失礼」


低く、短い声がした。

反射的に顔を上げると、いつのまにかマリエラのそばに、見慣れない長身の男が立っていた。


黒と紺の軍服に身を包み、黒髪をゆるく後ろへ撫でつけている。

額に落ちた前髪の束にも青灰色が混じっていて、それが年齢不相応な白髪みたいで妙に目を引いた。

周囲の視線も興味も、一瞬でその男に攫われていく。


男は名乗りもせず、用件も告げず――自然な動きで、マリエラが掲げていた小瓶を指先でひょいと抜き取った。

その隣でルシアンは、さっきまでの勢いが嘘みたいに口を固く結び、視線だけが男を追っていた。

後ろのほうで、誰かが小さく呟くのが聞こえた。


「……辺境伯閣下だ」


(辺境伯……様?)


聞いたことがあるような、ないような……とにかく凄い人なんだなと思った。

……いや、そんな凄い人が、なんで私の作った薬なんかをまじまじと見ているのだろう。


「いまの話を聞く限り……」


軍服の男――辺境伯が口を開いたかと思うと、ゆっくりと私のほうに顔を向けた。


「この薬を作ったのは、君か?」


真剣な眼差しが、私を射抜く。

背筋が勝手に伸びた。


「えっと……そ、そうです。でもあの、決して毒薬なんかではなくて、ちゃんと薬師のレシピを元に作っていて……確かに見た目と臭いはその、ちょっとアレですけど……」


自分でもなにを口走っているのか定かではなかったけれど、それでも失礼のないように言葉を選ぶ。

辺境伯は視線を小瓶に移すと、栓を抜いた。

そのまま――躊躇うことなく、小瓶の薬を飲み干してしまった。


「へっ、辺境伯様!?」


自分のものとは思えないほど、上擦った声が飛び出した。


(嘘……飲んじゃった……)


作った私が言うのもなんだけど……辺境伯ほどの立場にある人間が、誰にも毒味させずに得体の知れないものを飲むなんて――常識ではありえなかった。

私だって、もしこれが「よく知らない他人が作ったもの」だったら、絶対に飲めない。

周囲のざわめきも、どっと膨れ上がる。


辺境伯はひと言「ふむ……」とだけ呟くと、なんでもなさそうに私に向き直る。


「確かに、決して美味いとは言えないが……薬とは本来、そういうものだろう。――名を聞いても?」


「えっ……あっ……エルネリア伯爵の長女、ソフィアーナです。その、父はあちらに……」


おずおずと父のいるほうを手で示す。

顔面蒼白で立ちすくんでいたけれど、辺境伯が視線をやった途端、私と同じように背筋を伸ばして姿勢を正していた。


「なるほど……それではエルネリア伯爵のもとには、改めて正式に訪問させていただこう」


そう告げて歩き出した辺境伯が、戸惑う私のすぐ横を通りかけたところで足を止めた。


「――ああ、そうだ。これだけは言っておく」


振り向いた彼が、さっきよりもさらに真剣味を帯びた表情で、私に告げる。


「君の薬は、毒薬などではない。それどころか、もしかしたら……君の薬こそが、多くの人々を救う『聖薬』になるかもしれないな」

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