教えてあげなきゃ!
「いやぁそんな事もあったねぇ〜。」
朝奈さんはニコニコしながら言った。
「あの時はあんなに恥ずかしがってたのに、今になってはあんな自信満々に言ってますもんね。」
「は?!ちょ、ちょっと夜野君!そ、それは!」と朝奈さんは怒りと恥ずかしさが混じった声でとてもテンパっている。
「冗談ですって。」僕がそう言うと、朝奈さんは「嘘つけぇ!」と僕をひっぱたく。
意外と痛い。てかそんな顔してたか?
「朝奈さん。でも、僕思うんですよ。こういう恥ずかしい話を笑い話にできるのっていいことだって。」
「そうかもだけどさ…。恥ずかしいの!」
「ま、そういう時もありますよ!あ、あと叩くのやめてください。」そう言うと、朝奈さんは「ごめんごめん。」と言いながら、叩くのをやめた。ちょっとジンジンする…。
「あ!夜野君!見て見て!」と突然、朝奈さんは四つ葉のクローバーを見つけた小学生のように明るい声で反対側のバス停に指を差した。
「あの人達…。もうバス来ないのにバス停に座って待ってるよ…!」
いや、ただの酔っ払っいだろ…。
「教えてあげなきゃ!」目を輝かせながら朝奈さんが言った。
「ん?えっ?」と思わず僕は心の声が漏れる。え?行くの?僕達中学生だけど…バレたらマズくない?そのようなことを頭の中で反芻していると、「さ!行こ行こ!」と朝奈さんにせかされる。
「あ!ちょっと待って!」仕方なく僕も追いかける。
車が一つも通らない横断歩道を渡り、バス停へ向かう。
「あの…皆さん大丈夫ですか?今日はもうバス来ませんよ。」
朝奈さんはいつも通りな感じで酔っ払い達に教える。すると中年で小太りの男が口を開いた。
「嬢ちゃん、教ええくへてありがとうなぁ。けど、安心しなぁ、俺らは休んでふらへらへらさぁ〜。」
あまりろれつが回っていない、どんだけ飲んでんだ。
「おふはりはでえとしとんのか?」と、もう一人の男が口を開いた。出たぁ、ダル絡みだ…!
「まぁ、そんな感じですかねぇ。」少し困惑しつつも僕はごまかす。
「ほっか、ほっかぁ〜じゃあ、悪かったなぁ。でえと邪魔しちまったかい?」
「いえいえ!私がしたくてしたことなんで!」朝奈さんは満面の笑みで答える。すげぇコミュ力だな…。
「そういえば皆さんすごい仲良しですね!同級生とか何ですか?」朝奈さんの質問に酔っ払いの背中をさする男が答える。どうやらこの人はあまり酒を飲んでいないようだ。
「いや、俺たちは今日知り合った。」
今日?!あの、居酒屋で出会ったノリで一緒に飲んで仲良くなっちゃうやつ?!そんなことを思っていると、酔ってない男が言った。
「お二人さんのデート邪魔しちゃって悪かったね。それとこんな時間にデートは危ないかもしれないから気を付けな。ほい、これはダル絡みしちゃったお詫びだ。少ないが受け取ってくれ。」その男は千円札を渡してきた。
「い、いえ。受け取れませんよ!」
「いいんだよ。こんなおっさんが持ってても、意味ないだろ。」
とても優しい笑顔を浮かべ千円を無理やり渡してきた。
「ほら!とっとと行きな!時間は有限だからな!」そう言って僕らの背中を押した。
「「ありがとうございます!」」僕と朝奈さんは口をそろえ言った。
「じゃあなぁ、嬢ちゃんたちぃ〜。」そんな彼らに僕たちは手を降った。
「嬢ちゃんを幸せにしてやれよぉ〜。」と聞こえたのは気のせいだと思い、聞こえてないふりをした。うん、きっと気のせいだ。




