一本取られたな。
深夜十二時、僕は朝奈さんを待っていた。「まったく…急に十二時に集まれとか言われても困る。」そうつぶやきながら、ため息をつく。だって実際バレないように外に出てきたわけだし。
「夜野くん!お待たせ!」
「あ、ども。」
お風呂に入ったのか髪を下ろしている朝奈さんに新鮮さを感じる。
「いや、来たばっかりです。」
「そっかぁ。良かった良かった。」
「で、深夜に呼び出して何するんです?」
その言葉を聞いた朝奈さんは何か企んだような笑みを浮かべた。
「さぁ、始めようか。夜を見に、魅せられに。」
????急に何を言っているんだこの人。あ、いつものことか。
「そんな何言ってんだみたいな顔で見ないで!恥ずかしいから!!」
じゃあなんで言ったんだ。
「それ、何です?」
「号令みたいなもんだよっ!」真っ赤な顔で朝奈さんは答えた。
「何のです?」
「…魅。」
「え?何です?」
「だからっ!言ったじゃん!夜を見に!魅せられにって!」
あーなるほど。不良になろとか、夜魅とか、結局はよふかしをしたかったのか。
「なるほど、分かりました。行きましょう。」
「うん。」
そうして、初めての真夜中まち探検が始まった。
「どこ行くんですか?」
無言の朝奈さんに聞く。
「かしい…は、恥ずかしいから話しかけないでぇ。」いまだに真っ赤な顔を隠しながら言う。まだ気にしてたのか(なお、朝奈さんは回を重ねるうちに言うのが楽しみになっていく)。取り敢えず、そっしとくか。
歩いて十分ほどで朝奈さんは止まった。
「目的地、ここ。」と言って公園に指を差した。
「公園かー。最近行ってなかったから、懐かしいです。」
「こっちこっち。」やっと落ち着いたのか、朝奈さんは僕の手を引いて公園内に連れて行く。朝奈さんに手を引かれたまま階段を登った。階段を登り終えたのか僕の手を離し言った。
「ほら、魅(見)て。」
僕は目に入った光景に目を疑った。目の前には美しい星空が広がっていた。まちには街灯などがあり、星はあまり見えなかったがここは違う。下の方にはややビル、街灯の光は見えるが、ここの辺り一帯を照らすのは星だけだった。
「す…すごい…。」僕は完全に魅せられた、星空に…それに照らされる夜に…!こんな気持ち、初めてな気がした。
「これが、夜…。」
「いやぁ、すごい綺麗!想像以上!」
「朝奈さん!ほんっとっおにすごいですよ!普段こんな星は見えないですよ!」
「ふふっ夜野くん、夜に魅せられたね。」
「みたいですね。」そう言って彼女の微笑みに僕は微笑み返した。これは一本取られたな。
「あ!金星!」
「朝奈さん…夜に金星は見えないですよ…。」
本当に受験生か…?え、うん。本当に一本取られた…。
「え゙っ゙?」
「今の季節的によく見えるのはアンドロメダとかじゃないですか?ほら、あれ。」
「どれ?」
「あそこらへんの。ほら、秋の大四辺形のところに人っぽいのが…」
「え〜?どこ?ん?あれか!夜野くん!あったよ!あった!」
うん、無邪気だな。
「てか夜野くん頭いいね。志望校どこなの?」
「えっ一応、結高。」
「結高なの?!すご!」
結構高等学校、通称結高。偏差値はここらへんの高校のなかでは、トップクラス。母さんの方針で行かなければならない。
「え、もしかして今こんなことしてる暇ない?バレたらヤバイ?」
「確かに暇ないっちゃないし、バレても普通にヤバいと思う。」
「えっごめん。」
「気にしないでください。僕も楽しいので。」
「本当に?無理しなくてもいいんだよ。」
「本当に大丈夫です!それとこんな綺麗な星を見せてくれてありがとうございます!僕、星が好きなんですよ。」そう言って最近の中では一番の笑顔を朝奈さんに向けた。
「それならよかった!」
朝奈さんも笑顔で答えた。
今もこの時のことが忘れられない。
記憶は過去へのタイムマシンか…。




