寒い夜にはホットココア。
「自転車の鍵、落としちゃったみたいで…。」
朝奈さんは戸惑いながら口にした。
「一緒に探しますよ。」勉強がしたくなかったので、もちろん探すのを手伝った。
数分ほどあたりを探したが、鍵は見つからない。
「本当にここらへんで落としたんですよね?」
「はい…たぶん…。」
この人大丈夫か…?と思いつつも、鍵の捜索を続行する。十分ほど経った頃、朝奈さんはついに鍵を見つけた。
「あ…あった!ありましたよ!」
「それはよかったです。ちなみにどこにあったんですか?」と聞くと、数秒の沈黙のあと朝奈さんが口を開いた。
「じ…。」
「じ?」
「自転車に挿しっぱなしでした…。」
「は?んっ?はぁぁぁぁぁ?」
思わず僕は叫んだ。僕は一体何をしてたんだ…。朝奈さんは真っ赤になった顔を隠していた。
「本っっ当に、ごめんなさいっ…!もっと早く確認しておけば…。」
明らかに悪い人ではなさそうだし…。ま、しょうがないよね。
「気にしないでください。誰にだってそういう時、ありますよ。」
朝奈さんが目をぱちくりさせていたと思ったら急に満面の笑みに変わった。
「ありがとうございます!そうだ!お礼になんか奢りますよ!」
朝奈さんは財布を取り出しながら言った。
「何がいいですか?」
僕は朝奈さんの隣に並び、夜をやんわり照らす自販機の商品に指をさす。
「ココアで…。」
「ココア好きなの?」「まぁ。」
「私も!私も!」
そういうと朝奈さんは三百円を入れて自販機を連打し始めた。この人本当に大丈夫か?と思っていると、ガコンという音が二度鳴った。
「はい。どーぞ。」
「ありがとうございます。」
僕は早速受け取った缶を開けカシュッと音を鳴らした。何度やってもこの音はいい。この日の温度は九月のなかでは低い方だったため、ホットココアが身体に染み渡る。
ポカポカする。隣を見るとそう言わんばかりの顔で朝奈さんはホットココアを飲んでいた。
「やっぱり寒い夜にはホットココアですねぇ。」
「そうですね。」
ココアのおかげか身体が温まってきた。
朝奈さんのおかげか心が温まってきた。人の温もりを受けたのは、久しぶりだった。
そこそこ寒い夜に温かい飲み物で身体と心の芯を温めて、いつもは憂鬱な夜が初めて良いものだと思えた。




