大切に扱わなければならないのさぁ。
は…?誰なんだこの人…。
「あの…。あなたは誰なんですか?」僕が思っていたことを朝奈さんが聞く。
「あ〜そっか、自己紹介したほうがよかったね。私は白部汐。とある週刊誌で記者をやっているものだ。」その女は名刺を渡してきた。
「え?週刊皓って九割がた真実って言われてるあの?!」
「ははっ。知ってもらえているなんて嬉しいなぁ。」何も感情がこもっていない、希薄な声で女は言った。
「そういえば!この前、うちの上司がお世話になったみたいでぇ。ありがとうございましたぁ。」
「上司?」最近夜に会ったのは…バス停の時か…?
「バス停で声をかけてくれたの君たちだよねぇ。上司が喜んでいたよ。」そう言いながら、女は左手に着けているダブルクリップが付いた指のない手袋を外し始め、指のある手袋に着け替え始めた。
やっぱりあの時辞めといたほうが良かったんじゃ…。
「あ〜あとねぇ。君たちには死んでおらおっかなぁ。」そう言いながら女は近づいて来る。
死んでもらう?何を言って…。
「夜野君!!」困惑していると、朝奈さんが僕の名前を呼んだ。
突如、目の前に銃口が現れた。
「君さぁ、知らない人の前で彼氏君の名前言っちゃだめだろぉ。君もそう思わないかい?夜野君。」ヤバイ…逃げないといけないのに…動けない…。
「や、止めてください!なんで…なんで!夜野君なんですか?!」朝奈さんが声を荒げる。そんな事、知るかと言わんばかりに女は話を続ける。
「この指のない手袋はねぇ、私が受験生の時に母が買ってくれたんだ。手は冷やしてはいけないって、シマエナガの刺しゅうが入っているんだよ。可愛いだろ?」そう言って右手に着けている手袋を見せてきたが今の僕はそれどころではなかった。どうやら朝奈さんも恐怖と無視を決められたせいで見ることしかできなくなっている。そんな地獄の空気の中で女はまだ話を続ける。
「親から貰ったものは大切に扱わなければならないのさぁ。分かるかい?衣服、毎日の食事、交通費、生活費だってそうさ。親が様々なことをやってくれている。だから常に感謝しなければならない。私は母から貰ったもので手を汚したくないからね。さようなら、夜野君。」
「待って!だめ!」朝奈さんが女に向かって走るが、そんな抵抗も虚しく引き金が引かれる。終わった。そう思ったが、引き金の音はプラスチックのようなカチッという音だった。
ゆっくりと目を開けると、目の前には一輪の花が咲いていた。
「ははっ、びっくりした?」
「「は?」」僕と朝奈さんの声がそろう。
「いやぁ、あんなに必死になっちゃってぇ可愛いね。この花はあげるよ。」そう言って、銃から出た花を取って渡してきた。
「え…あ、ありがとうございます?」
「え?あのぉ…?白部さん?これはどういうことでしょうか?」朝奈さんが何も理解してない様子で聞いた。
「ナハハッ、可愛い〜。あのねぇ上司から話を聞いたのは事実だよ。だから気になって、調べたんだよ。」
「どうやって?」僕は純粋な疑問を挙げた。
「上司がね、その時一緒にいた人と飲むって言ってたから私も言ったんだよ。そしたらその人めちゃくちゃ絵が上手くてさぁ、君たちそっくり!すぐ見つけちゃったよ。」ニコニコしながら、彼女は言った。
「これはちょっとした挨拶だよ。安心して誰にも言わないから。でも、気を付けてね。夜というものは君たちが見ているものより、ずっと恐ろしいものだ。」突如、険しい顔になり彼女は言った。
「ま、君たちの自由にするといい。若人はもっと自由でいていいんだし青春を奪うことなんて許されない行為だからね。」今さっきの険しい顔が嘘みたいに、彼女はニコニコな笑顔に戻った。
「あ、ありがとうございます。白部さん。」朝奈さんが頭を下げたため、僕も続けて頭を下げた。
「いやいや、良いってことよ!私もたまに行くからさ、仲良くしてくれ。怖がらせて悪かったね。」白部さんは手を振りながら去っていた。
「今日、どうする?」
「なんか疲れたし、止めときます?」
「そーだね。休息休息。」
こうして今夜は解散となった。
次の日、白部さんが来た。
「たまにって言ってたのに、早速過ぎません?」
「二人と仲良くなりたいんだよぉー!」
白部さんはおちゃらけた感じですが、超優秀なんです。




