第7話:銀髪のエルフとの出会い
広間の中央で、銀髪の女性が必死に魔法を放っていた。
彼女を囲んでいるのは、五体のキメラと、三体のガーゴイル。どれも高位の魔物だ。【鑑定眼】で確認すると、レベルは60から70。普通の冒険者では、一体倒すのも困難だろう。
女性は、エルフだった。
長い銀髪が背中まで流れ、エメラルドグリーンの瞳が魔物を鋭く見据えている。尖った長い耳が、エルフであることを示していた。身長は170センチほど。スレンダーな体型だが、女性らしい曲線もある。白を基調とした魔法使いのローブを纏い、手には魔法の杖を握っている。
「【アイスランス】!」
彼女が叫ぶと、氷の槍がキメラに向かって飛んでいく。キメラは、それを避けようとするが、一本が脚に突き刺さった。
「【ライトニング】!」
今度は雷の魔法。ガーゴイルに直撃し、石像のような身体に亀裂が走る。
だが、魔物の数が多すぎる。一体倒しても、次が襲いかかってくる。
「くっ...このままでは...!」
彼女の声には、焦りが滲んでいた。疲労困憊なのが見て取れる。汗が額を伝い、呼吸も荒い。魔力も、もう限界に近いのだろう。
キメラの一体が、彼女に向かって飛びかかった。
「危ないっ!」
俺は、考えるより先に身体が動いていた。
全速力で駆け出し、彼女の前に立ちはだかる。キメラの爪が、俺に向かって振り下ろされる。
だが、俺はそれを片手で受け止めた。
ガキィン!
金属音のような音が響く。
「な...!?」
エルフの女性が、驚きの声を上げる。
キメラも、自分の攻撃が止められたことに驚いているようだ。
「悪いけど、これ以上は行かせない」
俺は、キメラの爪を掴んだまま、軽く投げ飛ばした。三メートルを超える巨体が、まるでボールのように宙を舞い、壁に叩きつけられる。
「レン! 私も行くぞ!」
クレアが、剣を抜いて駆けつける。
「頼む!」
俺とクレアは、同時に動いた。
クレアは、ガーゴイルに向かって突進する。剣を振るうと、ガーゴイルの腕が砕け散った。
「【絶対守護】!」
クレアのスキルが発動し、彼女の周囲に光の盾が展開される。ガーゴイルの攻撃を全て弾き返す。
一方、俺は残りのキメラとガーゴイルに向かって魔法を放つ。
「【ファイアボール】!」
巨大な火球が、キメラを直撃する。キメラは、炎に包まれて倒れ伏した。
「【ウィンドカッター】!」
風の刃が、ガーゴイルを切り裂く。石像の身体が、真っ二つに割れて崩れ落ちる。
残った魔物たちは、俺たちの圧倒的な力に怯え始めた。
「逃がすか」
俺は、最後の魔法を放つ。
「【ライトニングストーム】!」
広範囲に雷が降り注ぎ、残った魔物たちを一掃する。
十秒もかからず、全ての魔物が倒れ伏していた。
静寂が訪れる。
エルフの女性は、呆然とその光景を見つめていた。
「...なんという...魔力...」
彼女の声は、驚きと困惑に満ちていた。
「大丈夫ですか?」
俺が声をかけると、彼女はハッとして俺を見た。
「...助かった。礼を言う」
彼女は、冷静な口調でそう言った。感情をあまり表に出さないタイプなのだろう。
「怪我は?」
「...軽い擦り傷だけだ。問題ない」
だが、俺の【鑑定眼】には、彼女の体力と魔力がかなり消耗しているのが見えていた。
「【ヒール】」
俺が回復魔法を発動すると、柔らかな光が彼女を包む。擦り傷が癒え、体力も回復していく。
「...高位の回復魔法...あなたは、何者だ?」
「冒険者のレンです。こちらは、仲間のクレア」
「私はクレア。騎士だ」
クレアが、警戒しながらも自己紹介する。
エルフの女性は、しばらく俺たちを見つめた後、小さく頷いた。
「...私はリリエル。魔法学者だ」
「魔法学者?」
「ああ。古代魔法の研究をしている」
リリエルは、周囲を見渡しながら続けた。
「この遺跡には、失われた古代魔法の痕跡がある。それを調査していたのだが...魔物に囲まれてしまった」
「一人で来たんですか?」
「...そうだ。単独行動の方が、研究に集中できる」
リリエルは、そう言いながら俺を見つめた。
「あなたの魔法...普通ではない。詠唱なしで、高位魔法を複数発動させた」
「まあ、色々ありまして」
「色々...?」
リリエルは、興味深そうに首を傾げる。
「あなたの魔法理論を知りたい。理論的に、詠唱なしで高位魔法を発動するのは不可能なはずだ」
「理論も何も...イメージするだけで発動できるんです」
「イメージ...?」
リリエルは、困惑した表情を浮かべた。
「それでは、魔法の構築式を無視していることになる。ありえない...」
彼女は、何やらブツブツと呟き始めた。完全に研究者モードに入っているようだ。
クレアが、俺に小さな声で囁いてくる。
「...変わった奴だな」
「まあ、研究者ってそういうものかも」
俺たちの会話が聞こえたのか、リリエルが顔を上げた。
「失礼。つい、研究者の癖が出てしまった」
「気にしないでください」
「...あなたの魔法、研究させてほしい」
リリエルは、真剣な表情で俺を見つめた。
「研究...ですか?」
「ああ。あなたの魔法は、既存の理論を覆す可能性がある。これは、魔法学において重大な発見だ」
「別にいいですけど...」
「では、同行させてもらう」
リリエルは、あっさりとそう言った。
「え?」
「サンプルとして、あなたを観察する。問題ないか?」
「サンプル扱いかよ...」
俺は、思わず苦笑する。
クレアが、リリエルに向かって一歩前に出た。
「待て。お前、怪しいぞ」
「怪しい?」
「ああ。突然、同行すると言われても信用できない」
クレアは、警戒心を露わにする。
リリエルは、しばらくクレアを見つめた後、小さく溜息をついた。
「...確かに、突然すぎたかもしれない」
彼女は、少し考えてから続けた。
「では、こう言い換えよう。私は、あなたたちに恩がある。命を救ってもらった」
「...それは、まあ」
「恩を返したい。だから、力を貸す。私の魔法が、あなたたちの役に立つはずだ」
リリエルの言葉には、嘘がないように感じた。
クレアも、少しだけ警戒を緩めた。
「...まあ、悪い奴ではなさそうだが」
「ありがとう。では、改めて」
リリエルは、俺たちに向かって軽く頭を下げた。
「リリエル・シルヴァリア。よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
俺も、笑顔で答えた。
リリエルは、表情をほとんど変えないが、どこか安堵したように見えた。
「それで、この遺跡の奥には何があるんですか?」
俺が尋ねると、リリエルは少し考えてから答えた。
「恐らく、古代の守護者がいる」
「守護者?」
「ああ。遺跡の最深部を守る、強力な魔物だ。多くの場合、ゴーレムや古代の魔獣が配置されている」
「強いんですか?」
「...非常に強い。普通の冒険者では、まず勝てない」
リリエルは、真剣な表情で続けた。
「だが、あなたたちなら...勝てるかもしれない」
「じゃあ、行きましょう」
俺がそう言うと、クレアも頷いた。
「ああ。せっかくここまで来たんだ。最深部まで行こう」
リリエルは、少し驚いたような表情を浮かべた。
「...恐れないのか?」
「恐れても仕方ないですから。それに、クレアとリリエルさんがいれば、大丈夫ですよ」
「...そうか」
リリエルは、小さく微笑んだ。
初めて見せた笑顔だった。その笑顔が、とても美しくて、俺は思わず見惚れてしまった。
「どうした?」
「いえ、何でもないです」
俺は、慌てて視線を逸らす。
クレアが、疑わしそうな目で俺を見ている。
「...レン?」
「な、何?」
「...何でもない」
クレアは、そう言いながらも、どこか不機嫌そうだ。
リリエルは、そんな俺たちのやり取りを、興味深そうに観察していた。
「...興味深い関係性だ」
「興味深い?」
「ああ。あなたたちは、恋人なのか?」
「え!?」
クレアの顔が、真っ赤になる。
「そ、そんな...!」
「違うのか?」
「ち、違わない...けど...!」
クレアは、完全に動揺している。
リリエルは、その反応を見て、小さく頷いた。
「なるほど。つまり、恋人だ」
「...ああ、まあ」
俺が答えると、リリエルは納得したように頷いた。
「理解した。では、邪魔はしない」
「邪魔って...」
「夜の営みのことだ」
リリエルが、あまりにも淡々とそう言ったので、俺とクレアは同時に固まった。
「な、何を言ってるんだ!?」
クレアが、顔を真っ赤にして叫ぶ。
「人間の生殖行為について、理論的に理解はしているが、実際に見たことはない」
「見るな!」
「冗談だ」
リリエルは、無表情でそう言った。
「...冗談なのか?」
「ああ。人間のユーモアというものを試してみた」
「全然ユーモアになってないぞ!」
クレアが、怒りながらもどこか困惑している。
俺は、リリエルの天然ぶりに、思わず笑ってしまった。
「ふふ、リリエルさん、面白いですね」
「面白い...?」
リリエルは、首を傾げる。
「褒めているのか?」
「はい。いい意味で」
「...そうか」
リリエルは、また小さく微笑んだ。
クレアは、まだ顔を赤くしたまま俯いている。
「もう...レン、お前も笑うな...」
「ごめん、ごめん」
俺たちは、そんな和やかな雰囲気で、遺跡の奥へと進んでいった。
三人になった俺たちのパーティー。
これから、どんな冒険が待っているのか。
そして、リリエルとの関係は、どう変わっていくのか。
全てが、楽しみで仕方なかった。
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