第52話:影との戦い
扉の向こうに広がっていたのは、広大なホールだった。
その天井は遥か高く、まるで大聖堂のような荘厳さを持っている。無数の石柱が立ち並び、床には複雑な魔法陣が刻まれていた。だが、その全てが禍々しい気配に満ちていて、まるで死者を祀る墓所のような、冷たく重い空気が漂っている。
そのホールの中央に、一人の男が立っていた。
巨大な盾を構え、全身を重厚な鎧で覆っている。その鎧は、まるで要塞そのものが人の形を取ったかのような、圧倒的な重量感を放っていた。身長は三メートル近くあり、盾だけでも人一人分の大きさがある。
「我が名は、ゴルディアス」
男の声が、ホール全体に響く。
それは、低く、重く、まるで大地の奥底から響いてくるような声だった。その声を聞くだけで、この男の持つ力の大きさが分かる。
「魔王四天王、第四天王」
ゴルディアスが、盾を地面に打ち付ける。ゴン、という音が響き、床が震えた。
「不死の守護者」
その言葉に、俺たちは息を呑む。
不死——それが本当ならば、これまでの敵とは比べ物にならない厄介な相手だ。
「来い」
ゴルディアスが、一言だけ言う。
それは挑発でも、侮蔑でもない。ただの事実の提示だった。お前たちが来ようと来まいと、結果は変わらない、という絶対的な自信。
クレアが、一歩前に出る。
「行くぞ!」
クレアの剣が、炎を纏う。そして、ゴルディアスに向かって突進した。
「【覇王炎剣】!」
炎の刃が、ゴルディアスの鎧を斬る。金属を切り裂く音が響き、火花が散った。
傷が入る。
だが、次の瞬間——
傷が消えた。
「何!?」
クレアが、驚きの声を上げる。
鎧の傷が、まるで時間を巻き戻したかのように、瞬時に修復されている。いや、修復というよりも、最初から傷などなかったかのように、完全に元通りになっていた。
「リリエル!」
「はい!」
リリエルが、魔法を放つ。
「【創世の魔法陣・雷撃】!」
巨大な魔法陣から、無数の雷がゴルディアスを襲う。雷が鎧を焼き、その衝撃でゴルディアスの体が揺れた。
だが、雷が収まると、そこには無傷のゴルディアスが立っている。
焼けた痕も、傷も、何もない。
「不死...本当に不死なのか...?」
リリエルが、信じられないという表情で呟く。
ミーナが、矢を放つ。
「【必中の矢】!」
矢が、ゴルディアスの鎧の隙間を狙って飛ぶ。それが鎧の継ぎ目に刺さり、中の肉に到達した。
だが、ゴルディアスは動じない。
そして、矢がゆっくりと体から押し出されていく。まるで体そのものが異物を拒絶しているかのように、傷口から矢が出てきて、地面に落ちた。傷口は、すぐに塞がる。
「我が体は、魔王様の魔力で不死となった」
ゴルディアスが、淡々と言う。
「お前たちでは、倒せぬ」
その言葉は、脅しではない。ただの事実だった。
俺も、創造魔法を試してみる。
「【創造魔法・破壊の剣】!」
巨大な剣を創造し、それでゴルディアスを斬りつける。剣がゴルディアスの肩を切り裂き、鎧が砕け、肉が裂けた。
だが、それも一瞬のことだった。
傷が塞がり、鎧が元通りになる。
「くそっ...!」
どうすればいい。
倒せない敵と、どう戦えばいい。
戦いは、持久戦となった。
俺たちは、何度も何度も、ゴルディアスを攻撃する。クレアの炎、リリエルの雷、ミーナの矢、レイラの影縫い、セレスティアの聖なる光、アリシアの瞬影。
だが、全てが無駄だった。
どんな攻撃をしても、ゴルディアスは再生する。その再生速度は、攻撃の速度を上回っていた。
そして、俺たちの魔力が、徐々に尽きていく。
クレアの剣の炎が弱まり、リリエルの魔法陣が小さくなり、ミーナの矢の数が減っていく。兵士たちも、疲弊の色が濃くなっていた。
「このままでは...」
シャルロットが、苦い表情で呟く。
その時、ゴルディアスが動いた。
これまで、ただ守っているだけだったゴルディアスが、初めて攻撃に転じる。
巨大な盾を構えて、突進してきた。
その速度は、あの巨体からは想像できないほど速い。まるで巨大な岩が転がってくるかのような、圧倒的な質量を持った突進だった。
「逃げろ!」
俺が叫ぶ。
兵士たちが、散る。だが、間に合わなかった者もいる。盾が兵士を跳ね飛ばし、彼らは壁に叩きつけられて動かなくなった。
そして、ゴルディアスの盾が、七人に向かってくる。
「させない!」
アリシアが、前に出た。
「【瞬影】!」
アリシアが、ゴルディアスの前に立ちはだかる。その細い体で、巨大な盾を受け止めようとした。
「アリシア! 駄目だ!」
俺が叫ぶ。だが、間に合わない。
盾が、アリシアを襲う。
アリシアは、剣で盾を受け止めた。だが、その衝撃は余りにも大きすぎた。
ゴキッ、という嫌な音がする。
アリシアの体が、吹き飛ばされた。壁に激突し、地面に崩れ落ちる。
「アリシア!」
俺が駆け寄る。
アリシアの腕が、明らかにおかしな方向に曲がっている。骨が折れている。それだけでなく、体中に打撲の痕があり、口から血を吐いていた。
「セレスティア!」
「すぐに!」
セレスティアが、アリシアに治療魔法をかける。だが、アリシアの傷は深い。完全には治らない。
「私は...大丈夫です...」
アリシアが、無理に笑おうとする。だが、その顔は苦痛に歪んでいた。
「無理するな!」
俺が、アリシアの手を握る。
怒りが、込み上げてくる。
創造魔法が、暴走しそうになる。この怒りを、そのままゴルディアスにぶつけたい。
だが——
「落ち着け!」
クレアが、俺の肩を掴む。
「怒りに任せて戦っても、勝てない。必ず、方法がある!」
その言葉に、俺は深呼吸をする。
そうだ。落ち着け。冷静にならなければ。
その時、シャルロットの声が聞こえた。
「待って...何かおかしい」
シャルロットが、ゴルディアスを見つめている。その目は、まるで複雑な数式を解いているかのような、鋭い集中力を持っていた。
「再生に、わずかな時間差がある」
シャルロットが、呟く。
「クレアの攻撃の後、0.3秒。リリエルの魔法の後、0.5秒。ミーナの矢の後、0.2秒」
シャルロットが、指を折りながら計算している。
「攻撃の種類によって、再生速度が違う。ということは...」
シャルロットの目が、輝く。
「再生には、魔力が使われている!」
その言葉に、俺たちは顔を上げる。
「そして、その魔力の源は...」
シャルロットが、ゴルディアスの胸を指す。
「あそこだ。胸の中央に、魔力の核がある」
よく見ると、ゴルディアスの鎧の胸の部分が、わずかに光っている。それは、まるで心臓が鼓動するかのように、規則的に明滅していた。
「あの核を破壊すれば、再生能力を失う!」
シャルロットの声に、希望が宿る。
「だが、あの核は厚い鎧の奥にある」
クレアが、現実的な問題を指摘する。
「通常の攻撃では、届かない」
「どうする...」
みんなが、俺を見る。
俺は、決断した。
「俺が、核を破壊する」
創造魔法を発動させる。だが、今回作るのは、これまでとは違う。
「【創造魔法・貫通の槍】」
俺の手の中に、一本の槍が現れる。
それは、まるで光そのものが固まったかのような、美しい槍だった。だがその先端には、あらゆる防御を貫くという、恐るべき力が込められている。この槍は、盾も、鎧も、魔法障壁も、全てを貫通する。
「作戦を立てる」
シャルロットが、素早く指示を出す。
「みんなで、ゴルディアスの注意を引きつける。その隙に、レンが槍を放つ」
「分かった」
七人が、頷く。
作戦が、開始された。
クレアが、炎の剣を振るう。リリエルが、雷の魔法を放つ。ミーナが、矢を連射する。
ゴルディアスが、それらの攻撃に対処するために、盾を動かす。その注意が、七人に向いた。
今だ!
俺は、全ての魔力を槍に注ぎ込む。
槍が、まるで太陽のように輝き始める。その光は眩しく、目を開けていられないほどだった。
「行け!」
俺が、槍を投げる。
槍が、音速を超える速度で飛んでいく。その軌跡が、空気を裂き、衝撃波を生み出す。
ゴルディアスが、気づいて盾を構える。だが、遅い。
槍が、盾を貫いた。
まるでバターを切るナイフのように、槍は盾を貫通し、鎧を貫通し、そして——核に到達した。
核が、砕ける。
「グッ...!」
ゴルディアスが、初めて苦痛の声を上げる。
その体から、光が漏れ出す。再生能力が、止まる。
「今だ、クレア!」
「ああ!」
クレアが、最後の力を振り絞る。
「【覇王炎剣・極】!」
クレアの剣が、これまでで最大の炎を纏う。それは、まるで太陽の化身のような、圧倒的な熱量を持つ炎だった。
その剣が、ゴルディアスを斬る。
ゴルディアスの体が、真っ二つになった。
鎧が砕け、その中から、一人の老人が現れる。
白い髪、皺だらけの顔、だが穏やかな表情をしている。
「俺も...かつては王国騎士だった...」
ゴルディアスが、地面に倒れながら言う。
「主君を守るため、戦った」
その声は、もう戦士のものではない。ただの老人の、穏やかな声だった。
「だが、守れなかった。主君は死に、俺だけが生き残った」
ゴルディアスの目から、涙が流れる。
「その罪悪感に、ずっと苛まれていた」
「魔王様が、俺に不死の体を与えてくれた」
「二度と、守れなかったという後悔をしないように...」
ゴルディアスが、俺たちを見る。
「だが...お前たちを見ていると...」
「守るべきものがある者は、強いのだな...」
ゴルディアスが、微笑む。
「魔王様を...頼む...」
その言葉を最後に、ゴルディアスの体が光となって消えていく。
後には、砕けた盾だけが残されていた。
三人の天王を倒した。
だが、犠牲も大きい。遊撃隊は、三十人ほどに減っていた。アリシアも負傷し、七人全員が疲弊している。
だが、まだ終わらない。
「次は...グランバロスだ」
クレアが、呟く。
ホールの奥から、強大な魔力の気配が漏れてくる。それは、これまでの天王たちとは比べ物にならない、圧倒的な力だった。
巨大な扉が、そこにある。
その向こうから、赤い光が漏れていた。
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