第43話:絶望的な戦い
グランバロスが去った後、討伐隊は傷だらけの体を引きずりながら、なんとか洞窟から這い出た。
その道のりは、まるで終わりのない悪夢の中を歩いているかのように長く苦しいもので、一歩進むごとに体中の傷が痛み、意識が遠のきそうになるのを必死で堪えながら、ようやく森の入口に辿り着いたときには、全員が完全に限界を迎えていた。野営地を設営する力も残っておらず、その場に倒れ込むようにして座り込む騎士たちの姿は、王国最強と謳われた精鋭部隊とは思えないほど、痛々しく疲弊しきったものだった。
俺も、体中が痛んでいた。グランバロスの一撃を受けた腹部は、まるで内臓が潰されたかのような鈍い痛みが続いていて、呼吸をするたびに激痛が走る。手足は震え、立っているのがやっとの状態だった。
アリシアは、意識が朦朧としていた。壁に叩きつけられた時の衝撃で、全身に無数の打撲を負い、右腕は恐らく骨折している。セレスティアとレイラが、必死で彼女を支えていたが、その二人もまた、魔力を使い果たして顔色が悪かった。
ガルディウスは、最も重傷だった。グランバロスの魔力の波動を直接受け、肋骨が何本も折れている。口からは血が滲み、呼吸も浅い。それでも、彼は弱音を吐かず、騎士たちに指示を出し続けていたが、その声は震えていて、いつ倒れてもおかしくない状態だった。
騎士団の半数以上が重傷を負い、中には意識を失っている者もいた。医療師たちが懸命に手当てをしているが、持ってきた医療物資では到底足りず、ただ傷口を布で覆い、痛みを和らげる薬草を与えることしかできなかった。
夜になり、焚き火が焚かれた。
だが、その炎の周りに集まった討伐隊の面々は、誰も口を開かなかった。重い沈黙だけが、野営地を支配している。普段なら、戦いの後には勝利を祝う声や、明日への希望を語る声が聞こえるはずなのに、今は誰もが下を向き、絶望の色に染まった目で炎を見つめているだけだった。
俺は、焚き火から少し離れた場所に座り込んでいた。
一人になりたかった。みんなの前では、弱音を吐くわけにはいかない。だが、心の中では、深い絶望が渦巻いていた。
「俺の創造魔法も...通じない...」
拳を、地面に叩きつける。
これまで、創造魔法でどんな困難も乗り越えてきた。ゴブリンの群れも、オークの大群も、魔物の襲撃も、全てこの力で退けてきた。俺は、自分の力を信じていた。いや、過信していたのかもしれない。
だが、グランバロスには——
何をしても、傷一つつけられなかった。
光の槍も、剣の雨も、全てが無駄だった。まるで、子供が大人に挑むかのような、圧倒的な力の差を見せつけられた。
「くそっ...!」
また、拳を地面に叩きつける。
悔しさと、無力感が、胸を締め付ける。みんなを守れなかった。ガルディウスを、アリシアを、騎士たちを、誰も守れなかった。
「レン様...」
セレスティアの声が、背後から聞こえた。
振り返ると、セレスティアが心配そうな表情で立っている。その顔には、疲労の色が濃く浮かんでいるが、それでも俺を気遣ってくれる優しさが滲んでいた。
「一人で、抱え込まないでください」
セレスティアが、隣に座る。
「レン様だけが、戦っているわけではありません」
「でも...」
俺が言いかけると、セレスティアは首を振った。
「私たちは、チームです。一人が全てを背負う必要はありません」
その言葉が、少しだけ心を軽くしてくれる。
「グランバロスは、確かに強大です」
セレスティアが、夜空を見上げる。
「でも、諦めないでください。私たちは、まだ戦えます」
「...ありがとう」
俺は、セレスティアに微笑みかけた。
「お前がいてくれて、良かった」
「私も、レン様と共にいられて...幸せです」
セレスティアの頬が、わずかに紅潮する。
二人で、しばらく星空を見上げていた。その静かな時間が、心を少しだけ落ち着かせてくれた。
翌朝、ガルディウスが作戦会議を開いた。
焚き火の周りに、討伐隊の主要メンバーが集まる。だが、みんなの顔には、疲労と不安の色が濃く残っていて、昨日までの勢いは完全に失われていた。
「このままでは、勝てない」
騎士の一人が、重い口調で呟く。
「あの魔王四天王は...化け物だ」
その言葉に、誰も反論できなかった。事実、グランバロスは化け物だった。人間の力では、到底太刀打ちできない存在だった。
だが——
「それでも、我々は戦わねばならん」
ガルディウスが、立ち上がる。その体は痛々しいほど傷ついているが、その目には、まだ戦う意志が宿っていた。
「王国を守るため、もう一度挑む」
ガルディウスの言葉に、騎士たちが顔を上げる。
「団長...」
「私は、王国騎士団の団長だ。ここで諦めるわけにはいかん」
ガルディウスの決意が、騎士たちの心に火を灯す。
「そうだ...俺たちは、騎士だ...」
「王国を守るため、戦うんだ...」
少しずつ、騎士たちの目に光が戻ってくる。
俺も、立ち上がった。
「今度こそ...」
拳を握りしめる。
「俺も、全力で戦う」
討伐隊は、再び洞窟へと向かった。
だが、心の中には、まだ不安が残っている。本当に、勝てるのか。グランバロスに、勝つ方法はあるのか。その答えは、誰にも分からなかった。
洞窟の最深部に、再び辿り着いた。
そこには、グランバロスが待っていた。まるで、俺たちが戻ってくることを確信していたかのように、玉座のように見える大きな岩に腰掛け、戦斧を膝に立てかけている。その姿は、まるで王が臣下を待つかのような、圧倒的な余裕を感じさせるものだった。
「また来たか」
グランバロスが、立ち上がる。
「懲りない連中だ」
その声には、嘲りが混じっている。
「だが、良いだろう。相手をしてやる」
グランバロスが、戦斧を構える。
俺は、創造魔法を最大出力で発動することを決めた。中途半端な攻撃では、グランバロスには通じない。ならば、全ての魔力を注ぎ込んで、最大威力の攻撃を放つしかない。
「【創造魔法・極大】!」
俺の体から、膨大な魔力が溢れ出す。空気が震え、地面が振動し、洞窟全体が光に包まれる。その魔力は、これまで俺が使ってきたどの魔法よりも強大で、まるで太陽そのものを手に取ったかのような、圧倒的な力を持っていた。
空中に、巨大な魔力の塊が出現する。直径十メートルを超える光の球体は、純粋な破壊のエネルギーそのものであり、触れるものすべてを消し去るような、恐ろしい力を秘めていた。
「行け!」
魔力の塊が、グランバロスに向かって放たれる。
空気が裂け、轟音が響き、光が洞窟を満たす。魔力の塊がグランバロスに直撃し、巨大な爆発が起こる。その爆発は、洞窟全体を揺るがし、天井から石が崩れ落ち、壁に亀裂が入るほどの威力だった。
煙が立ち込め、視界が遮られる。
「やった...のか...?」
誰かが、希望を込めて呟く。
だが——
煙が晴れると、そこには——
グランバロスが、無傷で立っていた。
戦斧を前に構え、魔力の塊を完全に防いでいた。その鎧には、傷一つついていない。
「その程度か?」
グランバロスの声が、冷たく響く。
「失望した」
俺の心が、折れそうになる。
最大出力の創造魔法さえも、通じない。ならば、俺には——もう、何もできないのか。
「レン・タカミを守れ!」
ガルディウスが、叫ぶ。
騎士たちが、一斉にグランバロスに向かっていく。その勇敢な姿は、死を恐れぬ王国騎士の誇りそのものだった。
だが——
グランバロスの戦斧が、一閃する。
たった一振りで、何人もの騎士が吹き飛ばされる。その力は、まるで嵐が全てを薙ぎ払っていくかのような、圧倒的なものだった。
ガルディウスも、グランバロスに挑む。
剣を振るい、グランバロスの首を狙う。だが、グランバロスの戦斧がガルディウスの剣を弾き飛ばし、そのまま柄の部分でガルディウスの胸を打つ。
ガルディウスの体が、宙に浮く。
そして、地面に激しく叩きつけられる。
「団長!」
騎士たちの悲鳴が響く。
だが、ガルディウスは動かない。その体から、血が流れ出している。
アリシア、セレスティア、レイラ、シャルロットも、全力で戦っている。だが、グランバロスには、誰の攻撃も通じない。次々と吹き飛ばされ、倒れていく。
「くそっ...! 何をしても...!」
俺は、絶望に打ちひしがれる。
もう、終わりなのか——
その時だった。
洞窟の入口から、突然、眩い光が差し込んできた。
その光は、まるで絶望の闇を切り裂くかのような、希望に満ちた輝きだった。
「レン!」
クレアの声が、洞窟に響いた。
俺は、信じられない思いで振り返る。
そこには——
クレアが、炎を纏った剣を振るいながら、洞窟に飛び込んできた。
その剣が、グランバロスの戦斧を受け止める。火花が散り、衝撃波が周囲に広がる。
「クレア...!」
「お前を一人にするか!」
クレアが、力強く叫ぶ。
そして、その後ろから——
リリエルとミーナも、駆けつけてきた。
「レン、大丈夫!?」
ミーナが、心配そうに叫ぶ。
「街は、住民たちに任せました」
リリエルが、杖を構えながら言う。
「私たちは、あなたと共に戦います」
三人が、俺の隣に並ぶ。
そして——
七人が、再び揃った。
クレア、リリエル、ミーナ、シャルロット、レイラ、セレスティア、アリシア。そして、俺。
「みんな...」
俺の胸に、温かいものが込み上げてくる。
「ありがとう」
「礼はいらん」
クレアが、微笑む。
「私たちは、家族だ」
七人が、グランバロスに向き直る。
グランバロスは、興味深そうに俺たちを見ていた。
「ほう...面白い」
「七人全員で来たか」
グランバロスの口元が、歪む。
「良いだろう。本気で相手をしてやる」
グランバロスの体から、これまで以上の魔力が溢れ出す。その魔力は、まるで暗黒の海が洞窟を満たしていくかのような、圧倒的なものだった。
だが、俺の心には、もう絶望はなかった。
クレアたちが来てくれた。もう一人じゃない。
七人で戦えば——
「さあ、やるぞ」
クレアが、剣を構える。
七人が、それぞれの武器を構える。
グランバロスとの、本当の戦いが始まろうとしていた。
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