第40話:ノヴァシティ防衛戦
前日の戦いから、一夜が明けた。
街は、まるで嵐の後の海のように、静かだが不穏な空気に包まれていた。城壁には、魔物の爪痕が無数に刻まれ、地面には黒い血が染み込んでいる。騎士たちは、疲れた体を引きずりながら見張りを続け、住民たちは不安そうに空を見上げている。
俺は、城壁の上から街を見下ろしていた。
昨日の戦いで、多くの負傷者が出た。幸い、死者は出なかったが、街全体が疲弊している。医療師たちが負傷者の手当てに追われ、職人たちが破損した城壁の修復を急いでいる。その姿は、必死で生き延びようとする人々の強さを示していたが、同時に限界が近いことも感じさせた。
「レン」
クレアが、隣に立った。
「また来る。必ず」
「ああ。分かってる」
俺たちは、昨夜も眠れなかった。いつ次の襲撃が来るのか、その恐怖が心を蝕んでいく。
「作戦会議を開こう」
俺が言うと、クレアが頷いた。
屋敷のリビングに、七人が集まった。
みんな、疲労の色が濃い。リリエルは昨日の魔法の使いすぎで顔色が悪く、ミーナは目の下に隈ができている。だが、全員の目には、まだ戦う意志が宿っていた。
「昨日の戦いで、魔物を三百体以上倒した」
シャルロットが、報告する。
「だが、我々の損害も大きい。騎士団の三分の一が負傷し、城壁も複数箇所が破損している」
「物資は?」
「矢が半分以下に減りました。食料は十分ですが...」
レイラが、深刻な表情で続ける。
「住民たちの士気が下がっています。このまま戦い続けられるか...」
その時、見張りからの緊急連絡が入った。
「魔物の群れを確認! 規模は...」
見張りの声が、震える。
「前回の倍以上...千体以上です!」
七人が、凍りついた。
千体以上。
前回でさえ、ギリギリの戦いだったのに。
「どうする...」
ミーナが、不安そうに呟く。
俺は、立ち上がった。
「戦うしかない」
「レン...」
「この街は、俺たちの家だ。逃げるわけにはいかない」
俺の言葉に、七人が頷いた。
街の広場に、住民たちが集まっていた。
魔物の群れが迫っているという知らせに、人々は動揺している。子供を抱えた母親が泣き、老人が震え、若者たちが不安そうに顔を見合わせている。
「避難しよう!」
誰かが叫ぶ。
「この街を捨てて、王都に逃げるんだ!」
ざわめきが、広がる。
だが、その時——
「待ってください!」
リーナが、前に出た。
エミリアも、彼女の隣に立つ。
「私たちは、逃げません」
リーナの声は、小さいながらも力強い。
「この街は、レン様が作ってくださった街です。私たちの家です」
「そうだ」
エミリアも、続ける。
「私たちも、戦います!」
二人の言葉に、住民たちがざわめく。
「だが、俺たちは騎士じゃない...」
男の一人が、不安そうに言う。
「それでも!」
リーナが、拳を握りしめる。
「私たちには、守るべきものがあります! 家族が、友人が、そして...この街が!」
リーナの目には、涙が浮かんでいる。
その真剣な姿に、住民たちの心が動いた。
「...そうだな」
一人の男が、鍬を手に取った。
「俺にも、守りたいものがある」
「俺も!」
「私も!」
次々と、住民たちが立ち上がる。
農具を、工具を、何でもいい。武器になるものを手に取り、戦う意志を示す。その姿は、まるで小さな炎が集まって大きな炎になっていくかのような、力強いものだった。
俺は、広場の中央に立った。
「みんな」
俺の声に、住民たちが静まる。
「危険だ。命を落とすかもしれない」
正直に言った。
「だが、俺たちには逃げ場がない。ここで戦うしかない」
住民たちが、じっと俺を見つめている。
「一緒に、この街を守り抜こう!」
俺が叫ぶと、住民たちから歓声が上がった。
「レン様と共に!」
「ノヴァシティを守るぞ!」
その声が、街全体に響く。
魔物の群れが、地平線に現れた。
その数は、見張りの報告通り、千体以上。いや、もっとかもしれない。黒い洪水のように、大地を覆い尽くしながら迫ってくる。その光景は、まるで終わりなき悪夢が現実世界に溢れ出してきたかのような、圧倒的な恐怖を与えるものだった。
「全員、配置につけ!」
クレアの号令が響く。
騎士団二百人、そして武器を持った住民たち百人以上が、城壁に並ぶ。その中には、リーナとエミリアの姿もあった。
「来るぞ...!」
魔物の群れが、ノヴァシティに到達した。
前回以上の激しい戦闘が始まる。
矢が飛び交い、魔法が炸裂し、剣が振るわれる。魔物の咆哮と、人々の叫び声が入り混じり、まるで地獄の交響曲が奏でられているかのような、凄まじい音が響き渡る。
クレアが城壁を駆け、炎の剣で魔物を薙ぎ払う。アリシアが瞬影で魔物の群れを翻弄し、セレスティアが聖なる光で魔物を退ける。
だが、数が多すぎる。
魔物たちが、城壁を登り始めた。その爪が石に食い込み、少しずつ登ってくる。城壁の上の騎士たちが、剣で魔物を叩き落とそうとするが、間に合わない。
そして——
城壁の一部が、崩れた。
石が崩れ、大きな穴が開く。その穴から、魔物たちが街の中に侵入してくる。
「くそっ...!」
クレアが、街中に飛び降りる。
「街を守れ!」
アリシア、セレスティア、レイラも街中へ向かう。
住民たちも、武器を持って魔物と戦う。だが、騎士ではない彼らは、魔物の前では無力に近い。次々と負傷者が出ていく。
「レン様!」
リーナが、魔物に襲われそうになっている。
俺は、創造魔法で槍を生成し、魔物を貫いた。
「大丈夫か!」
「はい...ありがとうございます...」
リーナは震えているが、まだ武器を手放していない。
だが、状況は悪化する一方だった。
城壁は、もう持たない。街の中は混戦状態で、魔物が次々と侵入してくる。
このままでは——
「みんな、離れて!」
リリエルの声が、響いた。
俺が振り返ると、リリエルが城壁の中央に立っていた。
その体から、膨大な魔力が溢れ出している。空気が震え、地面が振動する。その魔力は、まるで大地そのものが怒りに震えているかのような、圧倒的なものだった。
「リリエル!」
俺が叫ぶ。
だが、リリエルは構わず、杖を高く掲げた。
「これ以上は...させない...!」
リリエルの目には、強い決意が宿っている。
「【大地の怒り】!」
リリエルの魔法が、発動した。
瞬間、大地が激しく揺れた。
地震——いや、それ以上のものだ。地面が波打ち、亀裂が走る。その亀裂は、まるで自然の力が牙を剥いたかのように、魔物たちの足元に広がっていく。
そして——
地面が、割れた。
巨大な地割れが、魔物の群れを飲み込んでいく。数十体、数百体と、魔物たちが地の底に落ちていく。悲鳴が響き、地響きが鳴り、大地そのものが魔物を拒絶しているかのような光景が広がった。
だが——
リリエルの体から、光が消えた。
「リリ...エル...」
リリエルの体が、前に倒れる。
「リリエルちゃん!」
ミーナが、駆けつけた。
リリエルを抱きとめ、その顔を覗き込む。
「リリエルちゃん、しっかりして!」
リリエルの顔は、真っ青だった。呼吸は浅く、体は冷たい。魔力を使い果たしたのだ。
「リリエル...!」
俺も、駆けつける。
だが、魔物はまだ残っている。地割れを避けた魔物たちが、再び襲ってくる。
その数は、まだ数百体。
「くそっ...!」
俺の中で、何かが爆発した。
怒り——
リリエルを、こんな目に遭わせた魔物たちへの、激しい怒りが込み上げてくる。
「【創造魔法】!」
俺の魔力が、限界を超える。
空中に、巨大な剣が出現した。
全長五十メートルを超える、光でできた剣。その剣は、まるで神々が審判を下すために振るう剣のように、圧倒的な威厳と力を放っていた。
「【巨神の剣】!」
俺の意志に従い、剣が動く。
巨大な剣が、魔物の群れに振り下ろされた。
一振りで、数十体の魔物が消し飛ぶ。剣が横に薙ぎ、また数十体が倒れる。その破壊力は、まるで天が地上の邪悪を焼き払っているかのような、絶対的なものだった。
魔物たちが、恐怖で逃げ出す。
残った魔物たちは、一目散に森へと逃げていく。
静寂が、戻ってきた。
俺は、リリエルのもとへ駆け寄った。
「リリエル...!」
ミーナが、涙を流しながら言う。
「大丈夫...呼吸はある...でも...」
リリエルを、急いで屋敷に運ぶ。
ベッドに寝かせ、医療師を呼ぶ。
「魔力を使い果たしたようです」
医療師が、診察して言う。
「命に別状はありません。休めば、回復します」
その言葉に、俺たちは安堵した。
だが、街は——
窓の外を見ると、街は傷ついていた。
建物がいくつか壊れ、城壁は大きな穴が開き、地面には亀裂が走っている。負傷者が、次々と運ばれていく。その中には、住民たちの姿もあった。
幸い、死者は最小限に抑えられた。だが、多くの人が傷つき、疲れ切っている。
「このままでは...」
クレアが、窓の外を見ながら呟く。
「次が来たら...もう守れない...」
その言葉が、重く響いた。
リビングには、六人のヒロインたちが集まっている。
リリエルは、まだベッドで眠っている。
誰も、口を開かない。
ただ、静かな時間だけが流れていた。
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