第4話:夜の救出劇
暗い路地裏に、俺は足を踏み入れた。
月明かりだけが頼りの薄暗い空間。石造りの建物に挟まれた狭い通路で、何かが起こっている。
五人の男たちが、一人の女性を囲んでいた。
男たちは皆、小汚い服を着て、武器を手にしている。いかにもゴロツキといった風体だ。そして、彼らに囲まれているのは——金髪の女性だった。
彼女は軽鎧を身に着けている。騎士の装備だ。金髪をポニーテールにまとめ、青い瞳で男たちを睨みつけている。傷だらけの身体で、それでも毅然とした態度を崩さない。
そして、彼女の背後には、三人の子供たちが震えながら隠れていた。
「おとなしく金を出せ!」
ゴロツキの一人が、凶暴な笑みを浮かべながら叫ぶ。
「断る」
女騎士は、一言で拒絶した。その声には、一切の迷いがない。
「なら、痛い目見るぞ!」
もう一人のゴロツキが剣を振り上げる。だが、女騎士は剣を抜いて構えた。傷だらけで、明らかに疲労困憊しているのに、その目は全く怯んでいない。
「子供たちには...指一本触れさせない...!」
その言葉を聞いて、俺は思わず唇の端を上げた。
(子供を守ってるのか)
放っておけない。いや、放っておくつもりなど、最初からなかった。
「やれやれ、放っておけないな」
俺は、そう呟きながら路地裏へと歩いていく。
ゴロツキたちが、俺の存在に気づいた。
「あ? なんだお前?」
一人が、俺を睨みつける。
「通りすがりの冒険者。そこの女性と子供たち、離してもらえるかな?」
「ハッ! 一人で何ができる!」
別のゴロツキが、嘲笑するように言う。
「てめえも痛い目見たいのか?」
五人全員が、俺の方に向き直った。女騎士も、驚いたように俺を見ている。
「お前...何を...」
「大丈夫。すぐ終わるから」
俺はそう言って、軽く首を鳴らした。
ゴロツキたちが、一斉に襲いかかってくる。
だが、彼らの動きは、俺の目にはスローモーションのように見えた。チートステータスの前では、こんな雑魚など赤子同然だ。
最初の一人が剣を振り下ろしてきたが、俺は軽くステップを踏んで避ける。そして、そのまま手刀を首筋に叩き込んだ。
「がっ...!」
ゴロツキは、呻き声を上げて倒れる。
二人目が背後から襲いかかってきたが、俺は振り返ることなく肘打ちを叩き込む。鈍い音がして、そいつも地面に崩れ落ちた。
残り三人が、同時に飛びかかってくる。
だが、俺は冷静に彼らの攻撃を見切り、次々と無力化していく。手刀、肘打ち、膝蹴り。どれも手加減したものだが、それでも十分だった。
十秒もかからず、五人全員が地面に転がっていた。
「...え?」
女騎士が、呆然とした声を上げる。
俺は手を払いながら、彼女の方を振り返った。
「大丈夫ですか?」
「...助かった。礼を言う」
女騎士は、そう言いながらも、まだ警戒した目で俺を見ている。当然だろう。見ず知らずの男が突然現れて、あっという間にゴロツキを倒したのだから。
「子供たちは?」
俺がそう尋ねると、女騎士の背後から三人の子供たちが顔を出した。皆、七歳から十歳くらいだろうか。怯えた表情で、俺を見ている。
「お姉ちゃん、この人は...?」
一人の少年が、女騎士に尋ねる。
「...この人は、私たちを助けてくれた」
女騎士は、そう言って子供たちの頭を優しく撫でた。その仕草を見て、俺は彼女が本当に子供たちを大切にしているのだと分かった。
「子供たちを守ってたんですね」
「当然だ。騎士として、弱き者を守るのは使命」
彼女は、毅然とした態度でそう答える。だが、その身体は傷だらけで、今にも倒れそうだ。
「怪我は? かなり深い傷がありますけど」
「大したことない」
彼女は強がっているが、明らかに嘘だ。左腕からは血が滲んでいるし、顔にも擦り傷がある。
「回復魔法、使えますよ」
俺はそう言って、彼女に近づいた。彼女は一瞬警戒したが、俺が手をかざすと、その目が驚きで見開かれた。
「【ヒール】」
柔らかな光が、彼女の身体を包む。見る見るうちに、傷が塞がっていく。深い傷も、擦り傷も、全てが消えていった。
「...これは...高位の回復魔法...」
女騎士は、自分の腕を見つめながら呟いた。
「あなたは...何者だ?」
「ただの冒険者ですよ。レンと言います」
「...私はクレア。この街の騎士だ」
クレア。彼女は、そう名乗った。
金髪のポニーテール、青い瞳、そして凛とした表情。傷が癒えた今、その美しさがより際立っている。整った顔立ちに、鍛え抜かれた身体。スレンダーだが、女性らしい曲線もしっかりとある。
(綺麗な人だな...)
俺は、思わずそう思ってしまった。
「なぜ助けた? 見返りは?」
クレアは、まだ警戒を解いていない。その目は、俺の真意を測ろうとしている。
「見返り? 別にないですよ。困ってる人を助けただけです」
「...何?」
クレアが、驚いたように目を見開く。
「見返りなしで...助けた?」
「はい。それって、そんなに珍しいことですか?」
「...珍しい」
クレアは、複雑な表情でそう答えた。
「この街では、誰もが何かを求める。金か、地位か、名誉か...。無償で助ける者など...」
「俺は、そういうの興味ないんで」
俺は肩を竦める。
「ただ、子供たちを守ってるあなたを見て、放っておけなかっただけです」
クレアは、しばらく黙って俺を見つめていた。その目には、疑念と、そして少しの温かさが混ざっているように見えた。
「...怪しい男だ」
「よく言われます」
俺は苦笑する。
子供たちが、俺の周りに集まってきた。
「お兄ちゃん、強いね!」
「あの悪い人たち、一瞬でやっつけちゃった!」
「かっこいい!」
子供たちは、キラキラした目で俺を見上げている。その純粋な視線に、少し照れくさくなった。
「そんなに凄くないですよ」
「凄いよ! お姉ちゃんも、お兄ちゃんのこと凄いって思ってるよね?」
子供の一人が、クレアを見上げる。
クレアは、少しだけ頬を赤らめて、視線を逸らした。
「...ああ。この男は、強い」
「お姉ちゃんより強い?」
「...分からない。だが、尋常ではない」
クレアは、複雑な表情で俺を見る。
「子供たち、家に帰りなさい。もう安全だから」
「うん!」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「お兄ちゃんも、ありがとう!」
子供たちは、俺とクレアに手を振りながら、路地を走り去っていった。
二人きりになると、少し気まずい沈黙が流れた。
クレアは、何かを言おうとして口を開くが、すぐに閉じる。そんなことを何度か繰り返した後、ようやく口を開いた。
「...重ねて礼を言う。助かった」
「気にしないでください」
「いや、礼は言わせてくれ」
クレアは、真剣な表情で俺を見つめた。
「あの子供たちは、孤児院の子たちだ。私も、かつて孤児院で育った。だから...彼らを守るのは、私の義務でもある」
「そうだったんですね」
「ああ。だが、今日は...私一人では、守りきれなかった」
クレアは、悔しそうに拳を握りしめる。
「もっと強くならなければ...」
その姿を見て、俺は思った。この人は、本当に真面目で、誠実な人なのだと。
「クレアさんは、十分強いと思いますよ」
「...そうか?」
「はい。あの状況で、一人で五人のゴロツキと戦っていたんですから」
「だが、傷だらけになった」
「それでも、子供たちは守り抜いたじゃないですか」
俺がそう言うと、クレアは少しだけ表情を緩めた。
「...ありがとう。その言葉、嬉しい」
「どういたしまして」
クレアは、しばらく俺を見つめていたが、やがて小さく笑った。
「お前は...不思議な男だな」
「そうですか?」
「ああ。強いのに、傲慢ではない。優しいのに、見返りを求めない」
「それって、普通じゃないですか?」
「普通ではない」
クレアは、首を横に振った。
「少なくとも、私はお前のような男に会ったことがない」
その言葉には、どこか温かみがあった。
「もし、また何かあったら...声をかけてくれ」
「はい」
「...いや、違うな」
クレアは、少し考えてから、言葉を続けた。
「もし、お前が困ったことがあったら、私も力を貸す」
「ありがとうございます」
「ああ。レン、だったな」
「はい」
「覚えておく」
クレアは、そう言って手を差し出してきた。俺はその手を握る。しっかりとした、温かい手だった。
「それじゃ、俺はこれで」
「ああ。気をつけて帰れ」
俺は、クレアに手を振って路地を後にした。
振り返ると、クレアがまだそこに立って、俺の背中を見送ってくれていた。
(いい人だな...)
そう思いながら、俺は宿へと戻った。
宿に着くと、エミリアがカウンターで心配そうに待っていた。
「お帰りなさい...! 怪我は...?」
「大丈夫ですよ。ちょっとしたトラブルを解決しただけです」
「...よかった」
エミリアは、ホッとした表情で胸を撫で下ろす。その仕草が可愛くて、思わず微笑んでしまった。
「心配かけてごめんなさい」
「いえ...無事でよかったです...」
エミリアは、小さく微笑んだ。
「じゃあ、おやすみなさい」
「...おやすみなさい」
俺は部屋に戻り、ベッドに横になった。
今日は、色々なことがあった。エミリアと距離が縮まり、リーナとも話せた。そして——クレアという、素敵な女騎士に出会った。
「異世界、やっぱり最高だな...」
そう呟いて、俺は目を閉じた。
明日も、きっと楽しい一日になるだろう。
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