第39話:魔物の大群
魔物の群れが、森から飛び出してきた。
その数は、俺の予想をはるかに超えていた。百体、二百体、いや——三百体以上はいる。黒い波のように、大地を埋め尽くしながら押し寄せてくる魔物たちの姿は、まるで終わりのない悪夢が現実化したかのような、圧倒的な迫力を持っていた。
狼型の魔物が地を駆け、巨大な昆虫型の魔物が翼を羽ばたかせて空を飛び、人型の魔物が武器を振りかざしながら進軍してくる。その全てが、憎悪と殺意に満ちた目でノヴァシティを見つめていた。
「全軍、配置につけ!」
クレアの声が、城壁に響いた。
騎士団三百人が、城壁の上に並ぶ。弓兵が矢を番え、槍兵が槍を構え、剣士たちが剣を抜く。その姿は、まるで一枚の鋼鉄の壁が城壁の上に立ち上がったかのような、頼もしいものだった。
「距離五百メートル!」
見張りが叫ぶ。
魔物の咆哮が、近づいてくる。その音は、地響きのように大地を震わせ、空気を震わせ、人々の心を震わせる。
「四百メートル!」
俺は、城壁の中央に立った。
両脇には、七人のヒロインたちが並んでいる。クレアは剣を構え、リリエルは杖を掲げ、ミーナは弓を引き絞り、シャルロットは冷静に全体を見渡し、レイラは短剣を両手に持ち、セレスティアは剣を抜き、アリシアは愛剣「夜風」を構えている。
「三百メートル!」
魔物の群れの先頭が、城壁に迫る。
「弓兵、放て!」
クレアの号令と共に、数百本の矢が空を覆った。
矢の雨が、魔物の群れに降り注ぐ。その光景は、まるで空から鋼鉄の雹が降ってくるかのようで、無数の矢が魔物たちの体に突き刺さり、悲鳴が上がる。
だが、魔物たちは止まらない。
倒れた仲間を踏み越えて、さらに前進してくる。その執念は、まるで死そのものに駆り立てられているかのような、恐ろしいものだった。
「二百メートル!」
「ミーナ!」
俺が叫ぶと、ミーナが頷いた。
「任せて!」
ミーナの矢が、光を纏う。彼女の魔力が矢に込められ、まるで流れ星が弓から放たれたかのような軌跡を描いて飛んでいく。
矢は、魔物の群れの中心にいた巨大な魔物の頭部を正確に貫いた。
「やった!」
巨大な魔物が倒れると、その周りにいた魔物たちが一瞬怯む。だが、すぐに別の魔物が指揮を取り、再び突撃を開始する。
「百メートル!」
「リリエル!」
「分かってる!」
リリエルが、大きく杖を振りかざした。
「【火炎の嵐】!」
リリエルの杖から、巨大な炎の渦が放たれる。その炎は、まるで生きた龍のように空中を舞い、魔物の群れに襲いかかった。炎が魔物たちを包み込み、焼き尽くしていく。悲鳴と、肉の焼ける臭いが風に乗って漂ってくる。
だが、まだ数は減らない。
炎を避けた魔物たちが、城壁に到達した。
「接近戦だ!」
クレアが叫び、城壁から飛び降りた。
「クレア!」
俺が驚く間もなく、クレアは地面に着地し、剣を振るった。
「【紅蓮斬り】!」
クレアの剣が、炎を纏って魔物を薙ぎ払う。一太刀で三体、四体と魔物が倒れていく。その剣技は、まるで火の鳥が戦場を舞い踊っているかのような、圧倒的な美しさと力強さを持っていた。
「クレアだけに戦わせるか!」
アリシアも、城壁から飛び降りた。
「【瞬影】!」
アリシアの体が、残像を残して消える。次の瞬間には、魔物の群れの中に現れ、黒い刀身の愛剣が魔物の首を刎ねる。また消え、また現れる。その動きは、まるで夜風そのものが剣となって魔物を切り裂いているかのような、神秘的な速さだった。
「私も!」
セレスティアも、城壁を駆け下りる。
「【聖なる光】!」
セレスティアの剣が、眩い光を放つ。その光は、魔物たちを怯ませ、動きを鈍らせる。そして、その隙を突いてセレスティアの剣が魔物を貫いていく。
三人の女戦士が、城壁の下で魔物の群れと戦っている。
だが、魔物の数は多い。押し寄せる波のように、次々と現れる。
「レイラ!」
「もう仕掛けてある!」
レイラが、何かのスイッチを押した。
瞬間、城壁の前方に仕掛けられていた罠が発動する。地面が突然崩れ、落とし穴に魔物たちが落ちていく。さらに、隠されていた網が魔物を絡め取り、動きを封じる。
「今だ!」
シャルロットが、弓兵に指示を出す。
「動けない魔物を狙え!」
矢が、罠にかかった魔物たちに集中する。確実に、魔物の数が減っていく。
だが、それでもまだ足りない。
魔物たちは、倒れた仲間の死体を踏み台にして城壁を登り始めた。その爪が石壁に食い込み、少しずつ登ってくる。
「城壁に取りつかれた!」
騎士たちが、剣で魔物を叩き落とす。だが、魔物は次々と登ってくる。
「くそっ...!」
俺は、決断した。
「【創造魔法】!」
俺の魔力が、空間に干渉する。そして、巨大な障壁が城壁の前方に現れた。透明な壁が、まるで見えないガラスのように魔物たちの前に立ちはだかる。
魔物たちが、障壁にぶつかる。
爪で引っ掻き、武器で叩き、体当たりをする。だが、障壁は微動だにしない。
「よし...!」
だが、この障壁を維持するには、俺の魔力を使い続けなければならない。時間との戦いだ。
「みんな、今のうちに魔物を減らせ!」
俺の声に、七人が動く。
リリエルが再び魔法を放ち、ミーナが矢を射続け、クレア、アリシア、セレスティアが城壁の下で魔物を倒し続ける。シャルロットが騎士団を指揮し、レイラが新たな罠を起動させる。
戦いは、熾烈を極めた。
一時間が過ぎた。
魔物の数は、確実に減っている。だが、まだ半分以上残っている。
俺の魔力も、徐々に削られていく。額に汗が浮かび、息が荒くなる。
「レン、大丈夫か!」
クレアが、心配そうに叫ぶ。
「まだ...大丈夫だ...」
だが、本当は限界が近い。
その時、リリエルが俺の隣に来た。
「レン、私の魔力を使って」
リリエルが、俺の手を握る。
温かい魔力が、リリエルから流れ込んでくる。その魔力は、まるで清らかな泉の水が枯れかけた大地を潤していくかのように、俺の体に力を与えてくれた。
「リリエル...」
「一人で抱え込まないで。私たちは、仲間でしょう?」
リリエルの微笑みが、俺を励ます。
障壁が、再び強固になる。
そして、さらに一時間。
ついに、魔物の数が大きく減った。
残りは、数十体。
「総攻撃だ!」
クレアが叫び、騎士たちが一斉に城壁を駆け下りる。
最後の魔物たちを、囲んで殲滅していく。
そして——
最後の一体が、倒れた。
静寂が、戦場を支配した。
「勝った...」
誰かが、呟く。
その言葉が、引き金となった。
「勝ったぞ!」
「ノヴァシティを守った!」
歓声が、城壁に響く。
騎士たちが、喜びを爆発させている。住民たちも、避難所から出てきて、涙を流しながら抱き合っている。
だが、俺は喜べなかった。
この戦いは、まだ序章に過ぎない。魔王が復活したということは、これから先、もっと多くの魔物が襲ってくるということだ。
「レン」
セレスティアが、俺に近づいてきた。
「みんな、無事です」
「そうか...良かった」
七人が、俺の周りに集まってくる。
全員、疲れているが、無事だ。それが何よりも嬉しかった。
だが、その安堵の時間は、長く続かなかった。
城壁の門から、また別の伝令使が駆け込んできた。
「緊急の報告です!」
伝令使の顔は、青ざめていた。
「王国中が...襲撃されています...!」
その言葉に、俺たちは凍りついた。
「東の街、ウェストフィールドが陥落しました...」
「北の街、ノースガルドも...」
「南の街、サウスヘイブンも、魔物に包囲されています...」
次々と告げられる悪い知らせに、城壁が静まり返る。
「王国全体が...攻められている...」
シャルロットが、震える声で言う。
「これは...戦争だ」
クレアが、厳しい表情で呟く。
「魔王軍との、全面戦争だ」
その言葉が、重く響いた。
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