第36話:組織の目的
戦いが終わった後、大広間は慌ただしく動き始めた。
負傷者たちが、次々と運ばれていく。王国の治療師たちが、魔法で傷を癒していく。その光景は、まるで戦場の野戦病院のように緊迫していたが、どこか安堵の空気も漂っていた。
「幸い、死者は出ていません」
ガルディウスが、報告に来た。
「負傷者も、全員軽傷で済んでいます」
「良かった...」
俺は、深く息をついた。
もし誰かが死んでいたら、それは俺のせいだ。俺が狙われたせいで、結婚式が襲撃された。その重みが、胸に圧し掛かってくる。
「レン様」
セレスティアが、俺の手を握った。
「あなたのせいではありません」
まるで、俺の心を読んだかのような言葉だった。
「でも...」
「違います」
セレスティアは、強く首を振った。
「悪いのは、襲撃してきた者たちです。あなたは、みんなを守った」
その目には、揺るぎない信頼が宿っていた。
国王が、俺たちのもとへ歩いてきた。
「レン・タカミ」
「陛下」
国王の表情は、厳しかった。だが、その目には感謝の色も見える。
「そなたのおかげで、多くの命が救われた。礼を言う」
「いえ、当然のことを」
「だが」
国王は、周囲を見回した。
「この場では話せぬ。私の執務室に来てくれ」
数分後、俺たちは国王の執務室にいた。
重厚な木製の机、壁に掛けられた王国の地図、そして書棚には無数の書物が並んでいる。その部屋は、まるで長い歴史の重みを背負った場所のように、厳かな空気に満ちていた。
国王の他に、セレスティア、そして七人のヒロインたちも同席していた。ガルディウスも、護衛として立っている。
「闇の使徒...」
国王が、重々しく口を開いた。
「恐ろしい組織だ」
「陛下、彼らは魔王のために動いていると言っていました」
俺が報告すると、国王の顔が険しくなった。
「魔王...まさか、あの伝説の...」
「父上」
セレスティアが、不安そうに尋ねる。
「魔王とは、何ですか?」
国王は、深く息をついた。
「話そう」
国王は、椅子に座り、俺たちに向き直った。
「数百年前、この世界に魔王が現れた」
その声は、まるで古い物語を語るかのように、遠く重いものだった。
「魔王の名は、ヴァルドラグ。圧倒的な力を持ち、魔物の軍団を率いて、世界中を恐怖に陥れた」
国王は、壁に掛けられた古い絵を指差した。
そこには、黒い鎧を纏った巨大な影が描かれている。その影の周りには、無数の魔物が蠢き、人々が逃げ惑っている。その絵は、まるで地獄絵図をそのまま描いたかのような、恐ろしいものだった。
「魔王は、全ての国を滅ぼそうとした。だが、一人の勇者が立ち上がった」
「勇者...」
「そうだ。勇者アルディスだ」
国王の声に、敬意が込められている。
「アルディスは、仲間たちと共に魔王に挑んだ。激しい戦いの末、魔王を封印することに成功した」
「封印...倒したのではなく?」
クレアが、鋭く指摘する。
「そうだ」
国王は、苦い表情を浮かべた。
「魔王は、あまりにも強大だった。完全に倒すことはできず、封印するのが精一杯だった」
「では、今も...」
「封印されている」
国王は、頷いた。
「だが、封印は永遠ではない。時間と共に弱まっていく。そして、もし誰かが封印を解けば...」
「魔王が、復活する」
リリエルが、冷静に結論を述べる。
「そうだ」
国王の目が、俺を見た。
「闇の使徒は、魔王復活を企んでいる。そのために、お前を狙っている」
「なぜ、俺を?」
「お前の創造魔法だ」
国王は、説明を続けた。
「封印を解くには、特殊な魔法が必要だ。それが、創造魔法だと言われている」
「創造魔法...」
俺は、自分の手を見た。
この力が、魔王復活に利用される。その事実が、重くのしかかってくる。
「だから、奴らはお前を捕らえようとしている」
ガルディウスが、厳しい表情で言う。
「お前の力を使って、魔王を復活させるために」
「そんな...」
セレスティアが、俺にしがみついてきた。
「レン様を、守らなければ...」
「娘よ」
国王が、セレスティアを見る。
「我が国も、全力で支援する。レン・タカミは、王国の大切な一員だ」
「ありがとうございます、父上」
「私も」
アリシアが、前に出た。
「私も、レン様を守ります」
アリシアは、俺を真っ直ぐ見つめた。
「闇の使徒が何度来ようと、私の剣が守ります」
その目には、強い決意が燃えている。
「アリシア...」
「私は、王宮騎士を辞めます」
アリシアは、宣言した。
「そして、レン様の護衛騎士として、共に戦います」
「本当に、いいのか?」
「はい」
アリシアは、微笑んだ。
「これが、私の選んだ道です」
ガルディウスが、複雑な表情を浮かべている。
「アリシア...お前は、王国騎士団の誇りだった」
「申し訳ございません、団長」
アリシアが、深々と頭を下げる。
「だが、私は正義のために剣を振るいたい。レン様こそが、真に守るべき方だと確信しました」
ガルディウスは、しばらく沈黙した後、口を開いた。
「...分かった」
彼は、アリシアの肩に手を置いた。
「お前の意志を尊重する。だが、忘れるな。お前は、いつでも王国騎士団に戻ってこられる」
「ありがとうございます」
アリシアの目に、涙が浮かんでいた。
「では、正式に」
国王が、宣言する。
「アリシア・ヴァルトハイム、そなたをレン・タカミ子爵の護衛騎士に任命する」
「光栄です」
アリシアが、膝をつく。
クレアが、アリシアに近づいた。
「ようこそ、仲間に」
クレアは、手を差し伸べる。
「これから、よろしく」
「はい」
アリシアは、その手を取った。
「よろしくお願いします」
リリエル、ミーナ、シャルロット、レイラ、セレスティアも、アリシアを歓迎した。
「よろしくね、アリシア!」
ミーナが、嬉しそうに抱きつく。
「よろしくお願いしますわ」
シャルロットが、優雅に微笑む。
「あたしたち、これから家族だ」
レイラが、豪快に笑う。
七人が、輪になって立っている。
「レン・タカミ」
国王が、再び俺を見た。
「そなたは、ノヴァシティに戻るのだろう?」
「はい」
「そうか」
国王は、頷いた。
「街を守らなければならんな」
「ええ。闇の使徒は、また来るでしょう」
「ならば、王国軍の一部を派遣しよう」
「ありがとうございます」
「いや、こちらこそだ」
国王は、立ち上がった。
「そなたたちが、最前線で戦ってくれる。それは、王国全体を守ることにもなる」
国王は、窓の外を見た。
夜空には、まだ月が輝いている。
「魔王復活...」
国王の声が、重く響く。
「もし本当に復活すれば、この世界は再び暗黒に包まれる」
「させません」
俺が、きっぱりと言う。
「俺たちが、必ず阻止します」
国王は、俺を見て微笑んだ。
「頼もしい」
その夜、俺たちは別邸で最後の夜を過ごした。
明日、ノヴァシティへ帰る。
七人が、リビングに集まっている。
「これから、大変になるな」
クレアが、暖炉の炎を見つめながら言う。
「ああ」
「でも、私たちなら乗り越えられる」
リリエルが、冷静に言う。
「わたしも、がんばる!」
ミーナが、元気よく答える。
「私も、全力でサポートしますわ」
シャルロットが、決意を新たにする。
「あたしも、やるよ」
レイラが、豪快に笑う。
「私も...レン様と共に」
セレスティアが、俺の手を握る。
「私も」
アリシアが、剣に手をかける。
「私の剣は、あなたのために」
七人の顔を見て、俺は思った。
この仲間たちがいれば、どんな困難も乗り越えられる。
窓の外では、風が吹いている。




