第30話:騎士団との模擬戦
三日後、模擬戦の日が訪れた。
朝から、王都全体が騒めいていた。王女との結婚をかけた模擬戦という噂は、瞬く間に街中に広がり、多くの民衆が訓練場に押し寄せていた。その熱気は、まるで大きな祭りが開かれるかのような高揚感を帯びていて、街全体が一つの生き物のように息づいているようだった。
王宮の訓練場は、想像以上に広大だった。
円形の闘技場のような作りで、中央に広い土の場があり、その周りを石造りの観客席が取り囲んでいる。観客席は既に満員で、貴族たちが上段に、民衆たちが下段に座っていた。その数は、優に千人を超えているだろう。ざわめきが、まるで波のように会場全体に広がっている。
俺は、控室で準備をしていた。
剣を腰に佩き、軽装の鎧を身につける。動きやすさを重視した装備だ。鏡に映る自分の姿を見て、深く息を吸った。
「レン」
扉が開き、クレアが入ってきた。
「準備はいいか?」
「ああ」
クレアは、俺の肩に手を置いた。
「無理はするな。相手は王国騎士団だ。手強いぞ」
「分かってる」
「でも...お前なら、きっと勝てる」
クレアは、微笑んだ。
「私は、信じている」
その言葉が、俺の心を力強く支えてくれた。
控室を出ると、他の五人も待っていた。
「レンおにいちゃん、がんばって!」
ミーナが、元気よく手を振る。
「勝てるさ」
リリエルが、冷静に言う。
「お前の力なら、問題ない」
「でも、油断は禁物ですわ」
シャルロットが、真面目な顔で忠告する。
「あんた、派手にやっちゃいなよ」
レイラが、豪快に笑う。
セレスティアは、不安そうに俺を見つめていた。
「レン様...お気をつけて」
「大丈夫だ」
俺は、セレスティアを抱きしめた。
「必ず、勝つ」
ラッパの音が鳴り響いた。
試合開始の合図だ。
俺は、訓練場の中央へと歩いていった。
観客席からは、様々な声が聞こえてくる。
「あれが、レン・タカミか!」
「若いな...本当に騎士団に勝てるのか?」
「王女様との結婚...羨ましいぞ!」
その声々は、期待と不安、そして好奇心が入り混じった、複雑な響きを持っていた。
訓練場の反対側から、十人の騎士たちが現れた。
全員が立派な鎧を身につけ、剣や槍を持っている。その姿は、まるで鋼鉄の壁のように堅固で、長年の訓練で鍛え抜かれた戦士の風格を纏っていた。
先頭には、一人の男が立っていた。
年齢は四十代半ばくらいだろうか。灰色の髪に、鋭い目つき。顔には幾つもの傷跡があり、それぞれが激しい戦いの歴史を物語っている。その存在感は、他の騎士たちとは明らかに違う、圧倒的なものだった。
「私が、王国騎士団長ガルディウス・フォン・アイゼンベルクだ」
男は、低い声で名乗った。
「見せてもらおう。お前の実力を」
「レン・タカミです。よろしくお願いします」
俺は、礼をした。
ガルディウスは、わずかに頷いた。
観客席の最上段には、国王が座っている。その隣には、王妃と思われる女性、そして数人の高位貴族たちが並んでいた。
「では、始めよ!」
国王の声が響いた。
瞬間、十人の騎士たちが一斉に動いた。
その動きは驚くほど統率されていて、まるで一つの生き物のように連携している。前衛が盾を構え、後衛が槍を突き出す。側面からは二人の騎士が回り込んでくる。その戦術は、長年の訓練で磨き上げられた、完璧なチームワークだった。
だが、俺はそれを上回る。
「【加速】!」
魔法で身体能力を強化し、前衛の騎士たちの攻撃を紙一重で回避する。その速さに、騎士たちが驚いたような表情を浮かべた。
「速い...!」
俺は、側面から回り込んできた騎士の足を払った。騎士がバランスを崩し、倒れる。だが、殺傷はしない。模擬戦だ。
「一人!」
観客席から、歓声が上がる。
残りの騎士たちが、陣形を立て直す。その対応の速さも、さすが王国騎士団だと感じさせるものだった。
だが、俺は止まらない。
後衛の槍を剣で弾き、盾を持つ騎士の懐に入り込む。剣の腹で騎士の鎧を叩くと、鈍い音が響いた。
「二人!」
また歓声が上がる。
騎士たちは、次々と作戦を変えてくる。包囲、挟撃、フェイント。様々な戦術を駆使して、俺を追い詰めようとする。その戦いぶりは、まさにプロフェッショナルそのものだった。
だが、俺の方が上だった。
一人、また一人と、騎士たちを倒していく。もちろん、相手を傷つけないように手加減はしている。だが、実力の差は明らかだった。
五分後、残ったのはガルディウスただ一人だった。
「...見事だ」
ガルディウスは、剣を構えた。
「だが、私はそう簡単には倒れん」
その目には、百戦錬磨の戦士としての誇りが燃えていた。
「お願いします」
俺も、剣を構えた。
ガルディウスが、動いた。
その速さは、他の騎士たちとは比べ物にならない。まるで疾風のように俺に迫り、剣を振り下ろしてくる。その一撃は、長年の経験で培われた、無駄のない完璧な軌道を描いていた。
俺は、剣で受け止めた。
金属がぶつかる音が、訓練場に響く。
ガルディウスは、すぐに次の攻撃を繰り出してくる。横薙ぎ、突き、斬り上げ。その連続攻撃は、まるで嵐のように激しく、隙がない。
だが、俺はそれを全て捌いた。
剣と剣がぶつかり合い、火花が散る。観客席は、静まり返っていた。みんな、息を呑んでこの戦いを見守っている。
「やるな...!」
ガルディウスが、一歩下がった。
「だが、まだだ!」
ガルディウスは、魔力を剣に込めた。剣が青白く輝き、その威力が増していく。これは、騎士が使う強化魔法だ。
「【騎士の誓い】!」
ガルディウスの剣が、一層強く輝いた。
彼が再び突進してくる。その速さは、先ほどの倍以上。剣の軌跡が、まるで光の線を描くように見えた。
俺も、本気を出した。
「【魔力刃】!」
俺の剣も、青白い光を纏う。
二つの剣が、激突した。
轟音が響き、衝撃波が周囲に広がる。観客席の最前列の人たちが、思わず身を引いた。
剣と剣が押し合い、火花が散り続ける。
ガルディウスの顔には、驚きの色が浮かんでいた。
「この力...まさか...!」
だが、俺の方が少しだけ強かった。
ゆっくりと、ガルディウスの剣を押し返していく。
そして——
ガルディウスの剣が、弾き飛ばされた。
剣は空中を舞い、地面に突き刺さる。
ガルディウスは、呆然と立ち尽くしていた。
俺は、剣を彼の首元に突きつけた。
「...勝負あり」
しばらくの沈黙の後、観客席から爆発的な歓声が上がった。
「勝った!」
「すごい!」
「レン・タカミ万歳!」
その声は、まるで雷鳴のように訓練場全体を揺らし、地響きのように大地を震わせた。
ガルディウスは、深く息をついた。
「...見事だ」
彼は、俺に向かって一礼した。
「認めよう。お前の実力を」
「ありがとうございます」
俺も、礼を返した。
国王が、立ち上がった。
観客席が、再び静まり返る。
「レン・タカミ」
国王の声が、訓練場に響く。
「十分だ。そなたの実力、確かに見た」
「ありがとうございます」
「そなたは、王国騎士団にも勝る戦士だ。その力、そして何より...相手を傷つけぬよう手加減する優しさ。それを見た」
国王は、微笑んだ。
「だが」
国王の表情が、少し厳しくなる。
「まだ、結婚を認めたわけではない。実力だけでは、王女の夫として不十分だ」
観客席の貴族たちから、ざわめきが起こる。
「数日後、改めて話そう」
国王は、そう言って席を立った。
俺は、少し戸惑った。勝ったのに、まだ認められないのか。
だが、クレアたちが駆け寄ってきた。
「レン、すごかった!」
クレアが、嬉しそうに笑う。
「さすがだな」
「予想通りだ」
リリエルも、満足そうに頷く。
「レンおにいちゃん、かっこよかった!」
ミーナが、飛びついてくる。
「見事でしたわ」
シャルロットも、優雅に微笑む。
「あんた、派手にやったね」
レイラが、豪快に笑う。
セレスティアは、涙を流しながら俺を抱きしめた。
「ありがとう...ありがとうございます...」
その体は、震えていた。安堵と感動が入り混じった震えだった。
「まだ、終わりじゃないけどな」
俺が言うと、セレスティアは顔を上げた。
「でも、大きな一歩です」
彼女は、涙を拭いながら微笑んだ。
その笑顔を見て、俺は改めて思った。
この人を、絶対に幸せにする。
ガルディウスが、近づいてきた。
「レン・タカミ」
「はい」
「素晴らしい戦いだった。いつか、また手合わせ願いたい」
彼は、手を差し出してきた。
俺は、その手を握った。
「こちらこそ」
ガルディウスは、力強く握り返してきた。その握手には、戦士同士の敬意が込められていた。
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