第27話:国家承認への道
告白から三日が経った朝、セレスティアは王都へ帰ることになった。
迎賓館の前には、豪華な馬車が用意されている。護衛の騎士たちも、出発の準備を整えていた。その光景は、まるで夢のような滞在が終わりを告げる瞬間のように、どこか寂しさを帯びていた。
俺と五人は、セレスティアを見送るために集まっていた。
「レン様」
セレスティアが、俺の前に立った。
「お世話になりました」
「いえ。こちらこそ」
セレスティアは、微笑んだ。だが、その目には別れの寂しさが滲んでいた。
「父上に、必ずお話しします」
「ありがとうございます」
「でも...時間がかかるかもしれません」
セレスティアの声には、不安が混じっていた。
「構いません。待っています」
「レン様...」
セレスティアは、俺の手を握った。その手は、まるで離れたくないと訴えているかのように、強く握られていた。
「必ず、また会いましょう」
「約束します」
セレスティアは、五人にも別れの挨拶をした。
「クレア様、ありがとうございました」
「いえ。お気をつけて」
クレアが、騎士らしく礼をする。
「リリエル様、魔法のお話、とても勉強になりました」
「また話そう」
リリエルが、静かに微笑む。
「ミーナ、元気でね」
「セレスティアおねえちゃんも!」
ミーナが、セレスティアに抱きついた。
「シャルロット様、お世話になりました」
「いえ、こちらこそ。またお会いしましょう」
シャルロットが、優雅に礼をする。
「レイラ、また商談しましょう」
「ああ。任せな」
レイラが、豪快に笑った。
セレスティアは、馬車に乗り込んだ。
「では...」
馬車が、ゆっくりと動き出す。
セレスティアは、窓から手を振っていた。その姿が、徐々に小さくなっていく。やがて、馬車は街の外へと消えていった。
「行っちゃった...」
ミーナが、寂しそうに呟く。
「ああ。でも、また会える」
俺が答えると、クレアが頷いた。
「そうだな」
数週間が過ぎた。
ノヴァシティは、さらに発展を続けていた。ヴォルフの領地を併合したことで、人口は一千人を超え、商店も三十軒以上に増えていた。街道も整備され、近隣諸国からも商人が訪れるようになっていた。
その日の午後、王国から使者が訪れた。
いつもの騎士ではなく、宮廷の高官だった。立派な礼服に身を包み、王国の公式文書を持っている。その格式の高さから、これが重要な通達であることが一目で分かった。
「レン・タカミ殿」
高官は、厳かに一礼した。
「王国より、正式な通達をお伝えします」
俺は、五人と共に高官の前に立った。
高官は、文書を開いた。
「国王陛下の御名において、ここに宣言する」
その声は、まるで神託を告げる神官のように荘厳で、重みがあった。
「ノヴァテラを、正式な都市『ノヴァシティ』として承認する」
街中から、歓声が上がった。
住民たちが、喜びの声を上げている。子供たちが飛び跳ね、大人たちが抱き合い、老人たちが涙を流す。その光景は、まるで長年の悲願が叶った瞬間のように感動的だった。
「さらに」
高官は、続けた。
「レン・タカミを、男爵より子爵に昇格させる」
「...!」
俺は、驚いて高官を見た。
「そして、領地を正式に『ノヴァシティ領』として認める」
高官は、文書を俺に手渡した。
「おめでとうございます、子爵閣下」
俺は、文書を受け取った。その重みは、単なる紙の重さではなく、責任と期待の重さだった。
「ありがとうございます」
その夜、街全体で祝賀会が開かれた。
広場には、無数の松明が灯され、音楽が奏でられ、人々が踊っている。露店には、料理が並び、酒が振る舞われる。その賑わいは、まるで祭りの神が降臨したかのような熱気に包まれていた。
俺は、五人と共に広場の中央にいた。
住民たちが、次々と祝福の言葉をかけてくれる。
「領主様、おめでとうございます!」
「子爵様、万歳!」
「これからも、よろしくお願いします!」
その声々に、俺は一つ一つ答えていった。
高官は、さらに発表を続けた。
「また、レン・タカミ子爵の功績を讃え、その仲間たちにも正式な役職を授ける」
五人が、驚いたように顔を上げる。
「クレア・ファルケンハイン、騎士団長に正式任命する」
「...はい!」
クレアが、力強く答える。
「リリエル・シルヴァーレーフ、王立魔法研究所ノヴァシティ分所の所長に任命する」
「光栄だ」
リリエルが、静かに頷く。
「ミーナ、農業長官に任命する」
「わたし...長官!?」
ミーナが、驚いて目を丸くする。
「シャルロット・フォン・アーベントロート、内政官に正式任命する」
「かしこまりました」
シャルロットが、優雅に礼をする。
「レイラ、商業長官に任命する」
「へぇ、あたしが長官か。悪くないね」
レイラが、満足そうに笑う。
住民たちが、五人にも拍手を送る。
祝賀会は、深夜まで続いた。
人々は、喜びを分かち合い、未来への希望を語り合っている。その表情は、どれも幸せに満ち溢れていた。
祝賀会が終わり、俺は五人と共に屋敷に戻った。
リビングに集まり、暖炉の前に座る。炎が、優しく揺れている。その光は、まるで五人の顔を祝福するかのように、温かく照らしていた。
「ここまで来たな...」
クレアが、感慨深そうに呟く。
「ああ」
「最初は、小さな村だったのに」
リリエルが、窓の外を見る。
「今では、立派な街だ」
「わたし、最初は不安だったけど...今は幸せ!」
ミーナが、嬉しそうに笑う。
「私も、この街に来て良かったと思っていますわ」
シャルロットが、優雅に微笑む。
「あたしもだ。商売も順調だし、何より...いい仲間に恵まれた」
レイラが、豪快に笑う。
「みんな...ありがとう」
俺が言うと、五人が顔を上げた。
「みんなのおかげで、ここまで来れた」
「礼を言うのは、こっちだ」
クレアが、優しく微笑む。
「お前がいたから、私たちはここにいる」
「そうよ」
レイラが、俺の肩を叩く。
「あんたがいなきゃ、この街も、あたしたちの幸せもなかった」
五人の言葉に、俺の胸が熱くなった。
その時、シャルロットが真面目な表情で言った。
「でも、これで終わりではありませんわね」
「ああ。まだ始まったばかりだ」
俺が答えると、クレアが頷いた。
「セレスティアとの結婚問題もある」
「それに、街はまだまだ発展できる」
リリエルが、冷静に分析する。
「これから、もっと色々なことが起こるだろうな」
レイラが、ワインを飲みながら言う。
「でも、あたしたちなら大丈夫さ」
「うん!」
ミーナが、元気よく答える。
窓の外では、月が綺麗に輝いている。
その光は、まるで未来への道を照らしているかのように、優しく穏やかだった。
だが、その時——
街の外れの森の中、一人の人影が立っていた。
黒いローブに身を包み、顔は深いフードで隠されている。その姿は、まるで闇そのものが人の形を取ったかのように、不気味だった。
男は、街を眺めていた。
「面白い...」
低い声が、闇の中に響く。
「短期間で、ここまで発展させるとは」
男は、右手を上げた。その手には、奇妙な紋章が刻まれている。
「この街...いずれ我らの目的に使えるかもしれない」
男は、不気味に笑った。
「レン・タカミ...お前の力、我らが頂く」
その声は、夜風に紛れて消えていった。
男の姿も、闇の中に溶けるように消えた。
だが、その存在が残した不穏な気配は、まるで毒のように、静かに街の周辺に漂い続けていた。
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