第25話:ヴォルフの陰謀
セレスティアの滞在三日目の夜、事件は突然起こった。
警報の鐘が、夜の静寂を切り裂く。
その音は、これまでとは違う緊急性を帯びていて、まるで街全体が悲鳴を上げているかのような切迫感があった。
俺は、ベッドから飛び起きた。
「また魔物か...!」
窓の外を見ると、街の入口から炎が上がっている。
だが、今回は様子が違う。
魔物だけではなく、人間の姿も見える。
松明を持ち、武器を振りかざしている。
「傭兵...?」
クレアが、剣を手に取りながら厳しい表情で呟いた。
「いや、それだけじゃない。
魔物も一緒だ」
俺たちは、急いで武装して外に出た。
リビングには、既に四人が集まっていた。
みんな、戦闘の準備を整えている。
「レン、どうなってる?」
リリエルが、冷静に尋ねてくる。
「傭兵と魔物が同時に襲撃してきた」
「傭兵と魔物が...?」
シャルロットが、信じられないという表情を浮かべる。
「そんなこと、あり得ない。
魔物は人間の命令に従わない」
「いや、魔物使いがいるなら可能だ」
レイラが、鋭く指摘する。
「そして、それができる人間は...」
「ヴォルフか」
俺は、歯を食いしばった。
街の入口に着くと、そこには想像を絶する光景が広がっていた。
傭兵たちが五十人以上、そして魔物たちも同じくらい。
オーク、ゴブリン、そして数体のトロールまでいる。
その混成部隊が、まるで訓練された軍隊のように整然と街に向かって進んでいた。
そして、その先頭には——
「ヴォルフ...!」
あの傲慢な男が、馬に乗って立っていた。
その顔には、勝利を確信したような邪悪な笑みが浮かんでいる。
「やはり、お前か!」
俺が叫ぶと、ヴォルフは嘲笑った。
「ははは! 新参者め! お前の街など、今夜で終わりだ!」
「なぜ、こんなことを...!」
「決まっている! お前の領地が欲しいからだ! お前が断ったのが悪い!」
ヴォルフの言葉は、まるで狂気に満ちていた。
「最初の魔物襲撃も、お前の仕業だったのか!」
「当然だ! お前を弱らせて、併合するつもりだった。
だが、お前は予想以上に強かった」
ヴォルフは、傭兵たちに合図する。
「だから、今度は確実に潰す! 傭兵と魔物、両方でな!」
「許さない...!」
俺は、魔力を解放した。
「クレア、防衛隊は住民の避難を!」
「了解!」
クレアが、防衛隊を率いて街の中へと駆けていく。
「リリエル、ミーナ、遠距離攻撃!」
「了解した」
「うん!」
「シャルロット、レイラ、負傷者の手当てを!」
「かしこまりました!」
「任せな!」
俺は、最前線へと飛び出した。
傭兵たちが、一斉に襲いかかってくる。
その数は圧倒的だったが、俺は怯まない。
剣を抜き、魔法を発動し、次々と敵を薙ぎ払っていく。
「【フレイムスラッシュ】!」
炎を纏った剣が、傭兵たちを一掃する。
だが、倒れた傭兵の後ろから、さらに魔物が襲いかかってくる。
「くっ...!」
オークの棍棒が、俺の横を掠める。
間一髪で回避し、反撃で首を斬り飛ばす。
「【アイスストーム】!」
リリエルの魔法が、敵陣に降り注ぐ。
氷の嵐が、傭兵と魔物を次々と凍らせていく。
その光景は、まるで冬の吹雪が突然訪れたかのような圧巻のものだった。
「よし、その調子だ!」
ミーナの矢も、正確に敵を射抜いていく。
弓の名手である彼女の技術は、この戦場でも遺憾なく発揮されていた。
だが、敵の数は多い。
「レン、後ろ!」
クレアの声が聞こえた。
振り返ると、トロールが巨大な樹を振り回して襲いかかってくる。
「【バリア】!」
俺は、魔法障壁を展開した。
樹が障壁に激突し、凄まじい音を立てる。
だが、障壁は耐えた。
「今だ!」
俺は、トロールに向かって跳躍した。
そして、剣をその頭部に突き刺す。
トロールが、轟音を上げて倒れた。
その時、迎賓館の方から光が見えた。
セレスティアだ。
彼女は、護衛の騎士たちを率いて戦場に現れた。
その姿は、まるで戦場に降臨した戦女神のように勇ましく、美しかった。
白いドレスではなく、実用的な戦闘服に身を包み、腰には剣を佩いている。
「この街の人々を守ります!」
セレスティアの声が、戦場に響く。
「王女様...!」
俺が驚いていると、セレスティアは既に剣を抜いて傭兵に斬りかかっていた。
その剣技は、想像以上に洗練されていて、宮廷での飾りではない、実戦で鍛えられたものだと分かった。
「セレスティア様、危険です!」
「構いません! 私も、この街を守りたいのです!」
セレスティアは、次々と敵を倒していく。
護衛の騎士たちも、王女を守りながら戦っている。
「くそっ...! 王女までいたのか!」
ヴォルフが、焦ったように叫ぶ。
「もういい! 全軍、総攻撃だ!」
ヴォルフの命令に、傭兵たちが一斉に襲いかかってくる。
その勢いは、まるで濁流のように激しく、容赦がなかった。
「させるか!」
俺は、最大威力の魔法を発動した。
「【メテオレイン】!」
空から、無数の炎の隕石が降り注ぐ。
隕石が地面に激突するたびに、爆発が起こり、敵を吹き飛ばしていく。
その光景は、まるで天罰が下されたかのような壮絶なものだった。
傭兵たちは、次々と倒れていく。
魔物も、炎に焼かれて消えていく。
「ば、馬鹿な...!」
ヴォルフが、信じられないという表情で呟く。
「こんな...こんな力が...!」
俺は、ヴォルフに向かって歩いていった。
「ヴォルフ、お前の負けだ」
「く、来るな...!」
ヴォルフは、馬から降りて逃げようとする。
だが、クレアが先回りしていた。
「逃がさない」
クレアの剣が、ヴォルフの首に突きつけられる。
「ひっ...!」
ヴォルフは、その場に崩れ落ちた。
戦いは、終わった。
傭兵たちは全員倒され、魔物も殲滅された。
住民に犠牲者は出ず、負傷者も軽傷で済んだ。
シャルロットとレイラの迅速な対応のおかげだった。
セレスティアが、俺の元に歩いてきた。
「レン様、ご無事でしたか」
「ええ。
王女様こそ」
「私は大丈夫です」
セレスティアは、捕らえられたヴォルフを見た。
その目には、怒りと失望が混ざり合っていた。
「ヴォルフ・フォン・グライツ」
セレスティアの声は、冷たく厳しい。
「あなたは、隣接領主への襲撃、傭兵の雇用、魔物の使役。
これらは、王国法において重罪です」
「お、王女様...お許しを...!」
ヴォルフが、必死に懇願する。
だが、セレスティアの表情は変わらない。
「私は、第一王女として、ここに宣言します」
セレスティアは、剣を掲げた。
「ヴォルフ・フォン・グライツの爵位を剥奪します。
そして、その領地は、レン・タカミ子爵に併合されます」
「な...!」
ヴォルフが、絶望の声を上げる。
「そんな...私の領地が...!」
「自業自得です」
セレスティアは、騎士たちに命じた。
「彼を王都へ連行しなさい。
裁判にかけます」
「はっ!」
騎士たちが、ヴォルフを連行していく。
その姿は、まるで地獄へ引きずられる罪人のように惨めだった。
ヴォルフが去った後、セレスティアは俺を見つめた。
「レン様、あなたは真の領主です」
「王女様...」
「今日、私はあなたの強さを見ました。
そして、何より...あなたの優しさを見ました」
セレスティアの目には、涙が浮かんでいる。
「あなたは、住民を守るために戦った。
私も、そんなあなたと共に戦えたことを...誇りに思います」
「ありがとうございます」
セレスティアは、微笑んだ。
その笑顔は、これまでで一番美しかった。
翌朝、街は復興作業に追われていた。
幸い、建物の被害は最小限で済んでいた。
住民たちは、協力して瓦礫を片付け、傷ついた場所を修復していく。
俺は、ヴォルフの領地を視察するため、馬車で向かった。
その領地は、ノヴァシティの西に位置していて、面積はノヴァシティの倍ほどある。
だが、統治が行き届いておらず、住民たちは疲弊していた。
「新しい領主様...?」
住民たちが、不安そうに俺を見る。
「はい。
これから、この地を治めます」
俺が言うと、住民たちはざわめいた。
「前の領主様は...ひどい方でした」
一人の老人が、恐る恐る口を開く。
「税は重く、法は不公平。
私たちは、ずっと苦しんでいました」
「分かりました。
これから、全てを変えます」
俺は、住民たちに約束した。
「税を軽くし、法を公正にします。
そして、この地を豊かにします」
住民たちの目に、希望の光が灯った。
セレスティアも、視察に同行していた。
「素晴らしいですわ、レン様」
「いえ、まだ始まったばかりです」
「でも、あなたなら必ずできる。
私は、信じていますわ」
セレスティアの言葉に、俺は力をもらった。
屋敷に戻ると、五人が待っていた。
「お疲れ様、レン」
クレアが、笑顔で迎えてくれる。
「領地が倍になったな。
大変だぞ」
「ああ。
でも、みんなの力を借りれば大丈夫だ」
「もちろんよ」
シャルロットが、自信満々に答える。
「任せてちょうだい」
リリエル、ミーナ、レイラも、それぞれに協力を約束してくれた。
「ところで、王女様は?」
レイラが、いたずらっぽく尋ねる。
「迎賓館にいる」
「あの王女様、完全にあんたに惚れてるね」
「そうかな...」
「分かるよ。
女の勘さ」
レイラが、豪快に笑った。
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