第23話:王女の来訪
命名式から一週間後のある朝、屋敷に王国騎士団の使者が訪れた。
その使者は、前回とは比べ物にならないほど格式高い装いをしていた。純白の鎧に身を包み、王国の紋章を刻んだ盾を持ち、まるで神話に登場する聖騎士のような威厳を纏っている。その姿を見ただけで、これが通常の用件ではないことが分かった。
「レン・タカミ子爵閣下」
使者は、深々と頭を下げた。子爵という呼称に、俺は少し驚く。まだ正式には男爵のはずだが、もしかしたら昇格の話が進んでいるのかもしれない。
「王国第一王女、セレスティア・ヴァン・アルカディア殿下が、三日後にこの地を視察なさいます」
「王女様が...?」
俺の隣にいたシャルロットが、思わず声を上げた。その声には、驚きと緊張が入り混じっていた。
「はい。陛下と王女殿下は、ノヴァシティの発展を大変喜んでおられます。そこで、殿下自らこの地を訪れたいと」
「分かりました。謹んでお迎えいたします」
使者が去った後、俺は五人を集めた。
「王女様...」
シャルロットが、緊張した面持ちで呟く。その表情は、まるで試験を控えた学生のように不安げだった。
「大丈夫か、シャルロット?」
「ええ...ただ、王女様を迎えるとなると、準備が...」
「何が必要だ?」
「まず、迎賓館が必要ですわ。王女様を一般の屋敷に泊めるわけにはいきません」
「迎賓館...か」
俺は、少し考えた。
「なら、創造魔法で作ろう」
「本当ですか!?」
シャルロットが、驚いたように目を見開く。
「ああ。三日あれば、十分だ」
こうして、俺たちは王女を迎える準備に追われることになった。
翌日、俺は街の中心部に迎賓館を建設し始めた。
創造魔法を発動し、壮麗な建物を作り上げていく。三階建ての白亜の館で、外壁には美しい装飾が施され、庭には噴水と花壇が配置されている。その姿は、まるで王宮を小さくしたかのような豪華さだった。
「すごい...」
住人たちが、驚きの声を上げながら建設の様子を見守っている。
二日かけて、迎賓館は完成した。内装も完璧に整え、調度品も全て揃えた。シャルロットの指示のもと、使用人も十人ほど雇い、接客の準備も整った。
そして、三日目——
朝から、街全体が緊張に包まれていた。住人たちは、通りを掃除し、店先を飾り付け、まるで祭りの前のような賑わいだった。ただし、その賑わいには、期待と共に緊張という重みが加わっている。
「レン、大丈夫か?」
クレアが、心配そうに尋ねてくる。彼女も、正装に身を包んでいた。
「ああ。みんなも準備はいいか?」
「もちろんだ」
リリエルが、いつもより丁寧に髪を整えながら答える。
「わたしも!」
ミーナが、元気よく答える。だが、その尻尾は少し震えていて、緊張しているのが分かった。
「大丈夫よ、ミーナ」
シャルロットが、優しく微笑む。
「王女様は、優しい方だと聞いているわ」
「そうなの?」
「ええ。民思いで、知的で、そして何より公正な方だと」
レイラも、いつもより落ち着いた服装だった。
「あたしも、王女様と会うのは初めてだ。緊張するね」
昼過ぎ、見張り塔から鐘の音が鳴り響いた。
王女の一行が、街に近づいているという合図だ。
俺たちは、街の入口で待機した。住人たちも、通り沿いに並んで王女を迎える準備をしている。その光景は、まるで歴史的な瞬間を目撃するかのような厳粛さに満ちていた。
やがて、豪華な馬車が見えてきた。
純白の馬車に、金色の装飾。王国の紋章が大きく描かれ、四頭の白馬が引いている。その周りには、二十人ほどの騎士たちが護衛として付き従っている。まるで、絵本から飛び出してきたような幻想的な光景だった。
馬車が、俺たちの前で止まった。
扉が開く。
そして、一人の女性が現れた。
金髪が、陽光を受けてきらきらと輝いている。その髪は、まるで黄金の糸を紡いだかのように美しく、風に揺れるたびに光の粒子が舞い散るようだった。碧眼は、深い海のような透明感があり、見る者を引き込むような吸引力を持っている。白いドレスを纏い、その姿は、まさに完璧な美の化身だった。
年齢は二十歳くらいだろうか。若々しさと大人の魅力が絶妙に混ざり合い、近づきがたい気品がありながらも、どこか親しみやすい雰囲気も漂わせている。その矛盾した魅力が、彼女をより一層魅力的にしていた。
「レン・タカミです。ようこそ、ノヴァシティへ」
俺は、膝をついて頭を下げた。
「面を上げてくださいな」
声は、鈴を転がすように澄んでいて、それでいて力強さも感じさせる。
俺が顔を上げると、王女は優しく微笑んでいた。
「私は、セレスティア・ヴァン・アルカディア。父である国王の命を受けて、この地を視察に参りました」
「恐れ多いことでございます」
「いいえ。噂は、王都でも聞いておりましたわ。短期間で領地を発展させた若き領主がいると」
セレスティアは、俺を見つめた。その視線は、値踏みするようなものではなく、純粋な興味と好奇心に満ちている。
「あなたが、レン・タカミ? 思っていたより、若い方なのですね」
「お恥ずかしい限りです」
「いいえ。若さは武器ですわ。それに、若いからこそ、古い慣習に縛られない発想ができるのでしょう」
セレスティアの言葉には、知性が滲み出ていた。
「こちらが、私の仲間です」
俺は、五人を紹介した。
「クレア、騎士団長です」
「クレアと申します」
クレアが、騎士らしく礼をする。
「リリエル、魔法研究所の所長です」
「リリエルです」
リリエルが、優雅に一礼する。
「ミーナ、農業を担当しています」
「み、ミーナです!」
ミーナが、緊張しながら礼をする。
「シャルロット、内政官です」
「シャルロット・フォン・アーベントロートです」
シャルロットが、貴族らしく優雅に礼をする。
「レイラ、商業を担当しています」
「レイラだ。よろしく、王女様」
レイラが、気さくに手を差し出す。
セレスティアは、少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑顔になった。
「皆さん、個性的で素敵ですわね」
そう言って、セレスティアはレイラの手を握った。
「では、街を案内していただけますか?」
「もちろんです」
俺たちは、セレスティアを街へと案内した。
まず、商店街を通る。住人たちが、道の両側に並んで王女を歓迎している。
「王女様、ようこそ!」
「王女様、ありがとうございます!」
住人たちの声に、セレスティアは笑顔で手を振って応えている。その姿は、まるで太陽のように明るく、人々の心を照らしているようだった。
「活気がありますわね」
セレスティアが、感心したように呟く。
「はい。多くの方が、この地に移住してきてくださいました」
「それは、あなたが良い領主だからでしょう」
セレスティアの言葉に、俺は少し照れくさくなった。
次に、リリエルの魔法研究所を訪れた。
「素晴らしい施設ですわね」
セレスティアが、研究所を見回しながら言う。
「ありがとうございます」
リリエルが、研究中の魔法陣を見せる。
「これは...空間魔法の応用ですか?」
「はい。さすが、王女様。お詳しいですね」
「少しばかり、魔法を学んでおりますので」
セレスティアとリリエルは、しばらく魔法について語り合っていた。その会話は、まるで二人の学者が議論しているかのような深さがあった。
ミーナの畑も訪れた。
「まあ、こんなに大きな野菜...!」
セレスティアが、巨大なカボチャを見て驚く。
「わたしが育てました!」
ミーナが、誇らしげに答える。
「素晴らしいですわ。この土地は、本当に豊かなのですね」
「はい! レンおにいちゃんが、魔物を倒してくれたから!」
ミーナの言葉に、セレスティアは俺を見た。
「あなたは、魔物退治もなさるのですか?」
「はい。領民を守るのも、領主の務めですから」
「...立派ですわね」
セレスティアの目に、尊敬の色が浮かぶ。
夕方、迎賓館で夕食会が開かれた。
豪華な料理が並べられ、セレスティアは俺たちと共に食事をした。王女という立場でありながら、彼女は気さくに会話に加わり、笑い、まるで古くからの友人のような雰囲気だった。
「レン様」
セレスティアが、俺を見つめた。
「私、この街がとても気に入りましたわ」
「ありがとうございます」
「いいえ。本当に素晴らしい。短期間で、ここまで発展させるとは」
セレスティアは、グラスを傾けた。
「あなたは、本当に優れた領主ですわ」
「恐れ多いお言葉です」
「いいえ、事実ですわ」
セレスティアは、微笑んだ。
「もっと、あなたのことを知りたいですわね」
その言葉には、単なる興味以上のものが込められているように感じた。
食事が終わり、セレスティアは迎賓館の部屋へと案内された。
俺たちも、屋敷へと戻る。
「王女様、いい人だったな」
クレアが、安心したように言う。
「ああ。思っていたより、親しみやすい方だった」
リリエルも、同意する。
「素敵な人!」
ミーナも、嬉しそうだ。
「気品がありながらも、偉ぶらない。素晴らしい方ですわ」
シャルロットも、感心している。
「あの王女様、あんたのこと気に入ったみたいだね」
レイラが、いたずらっぽく笑う。
「そうか?」
「分かるよ。あたしは、商人だからね。人の気持ちを読むのは得意なんだ」
レイラの言葉に、俺は少し戸惑った。
だが、確かに——セレスティアの目には、何か特別な感情があったような気がした。
その夜、俺は窓から星空を眺めていた。
王女の来訪。
それは、俺の人生に、また新しい風を吹き込んだ。
これから、どうなるのだろうか。
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