第2話:リーフタウンと冒険者ギルド
草原を抜けて三十分ほど歩いただろうか。城壁が、ようやく目の前に迫ってきた。
高さは十メートルほどある石造りの壁で、所々に苔が生えているのが見える。中世ヨーロッパの城塞都市を思わせる、重厚な造りだ。前世でゲームや映画の中でしか見たことのなかった光景が、今、目の前に広がっている。
城門の前には、二人の衛兵が立っていた。革の鎧に身を包み、槍を持っている。俺が近づくと、そのうちの一人——髭を生やした中年の男が、やや面倒臭そうな表情で声をかけてきた。
「入城料は一ゴールドだ」
一ゴールド。この世界の通貨単位らしい。
問題は、俺が一文無しだということだ。転生したばかりで、金なんて持っているはずがない。
衛兵は俺の様子を見て、小馬鹿にしたように鼻で笑った。
「金がないなら入れねえぞ。さっさと帰んな」
普通なら、ここで困るところだ。だが、俺には【創造魔法】がある。
「ちょっと待ってください」
俺は右手を軽く握り、心の中でイメージする。金貨。一枚の、金色に輝く硬貨を。
次の瞬間、手のひらの中に、ずっしりとした重みが生まれた。手を開くと、そこには金色の硬貨が一枚、鈍い光を放っていた。
「...っ!?」
衛兵が目を丸くする。当然だろう。何もないところから、突然金貨が現れたのだから。
「これで、いいですか?」
俺は金貨を差し出した。衛兵は呆然とした表情で金貨を受け取り、何度も裏表を確認している。本物だと分かったのか、ようやく納得したように頷いた。
「...入れ」
少し警戒した目つきだったが、それ以上何も言わずに城門を開けてくれた。
俺は礼を言って、街の中へと足を踏み入れた。
石畳の道。木造の建物が立ち並ぶ街並み。そして、行き交う人々。人間だけでなく、尖った耳を持つエルフや、獣の耳と尻尾を持つ獣人の姿も見える。ファンタジー世界そのものだ。
「すげえ...本当に異世界だ...」
思わず呟く。前世では絶対に見ることのできなかった光景に、胸が高鳴る。
市場では、野菜や果物、肉や魚が売られている。露店の店主たちが、威勢よく声を張り上げていた。道端では、子供たちが笑いながら駆け回っている。活気がある。生命力に満ちている。
しばらく街を歩いていると、ふと大きな建物が目に入った。
三階建ての立派な石造りの建物で、入口の上には大きな看板が掲げられている。
『冒険者ギルド』
文字は、日本語ではない。だが、【万能言語理解】のおかげで、自然と意味が理解できる。
「ここか...」
前世で読んだ小説では、必ずと言っていいほど登場する場所だ。冒険者が集まり、クエストを受注し、報酬を得る。そんな場所。
俺は期待に胸を膨らませながら、ギルドの扉を開けた。
中は、想像以上に賑やかだった。
広いホールには、大勢の冒険者たちがいる。革鎧を着た剣士、ローブを纏った魔法使い、弓を背負った射手。様々な装備を身に着けた男女が、クエストボードを眺めたり、仲間と談笑したりしている。
ホールの奥には、長いカウンターがあり、そこで数人の受付嬢が冒険者たちの対応をしていた。
俺はカウンターに向かって歩いていく。すると、カウンターの一人——茶髪をポニーテールにまとめた若い女性が、俺に気づいて笑顔を向けてきた。
「いらっしゃいませ♪」
明るく、弾むような声だった。
彼女は二十代半ばくらいだろうか。緑色の瞳が印象的で、笑顔がとても可愛らしい。ギルドの制服——白いブラウスに茶色のベストを着ているが、そのスタイルの良さは隠しきれていない。
俺は思わず見惚れてしまったが、慌てて視線を戻した。
「あ、あの...冒険者登録をお願いしたいんですが」
「初めての登録ですね! お名前は?」
「レンです」
「レンさんですね♪」
彼女はペンを取り、何かを記入し始める。その仕草一つ一つが、やけに可愛らしく見える。
「では、こちらに手を置いてください」
彼女がカウンターの上に置かれた、魔法陣のようなものが描かれた石板を指差した。
「これは?」
「ステータスを記録する魔道具です。これで、レンさんの冒険者ランクを決定します」
俺は言われるがままに、手を石板の上に置いた。
すると、石板が淡い光を放ち始める。数秒後、光が収まると、彼女が石板を覗き込んだ。
「...え?」
彼女の表情が、驚きに染まる。
「どうしました?」
「あ、いえ! その...レベル50って...凄いですね!」
彼女——名札には「リーナ」と書かれている——は、目を輝かせながら俺を見つめてきた。
「普通、新人さんはレベル10前後なんです。でも、レンさんはレベル50...! もしかして、どこか別の街で冒険者をされてたんですか?」
「いや、そういうわけじゃないんですけど...色々ありまして」
「そうなんですね...!」
リーナは、何だか嬉しそうに頷いている。そして、少しだけ頬を赤らめながら、カウンターに身を乗り出してきた。
「レンさん、とっても強そうですね♪」
その距離の近さに、思わずドキリとする。リーナの顔が、すぐ目の前にあった。綺麗な顔立ちだ。それに、ほのかに甘い香りがする。
「あ、ありがとうございます...」
「ふふ、照れないでください♪」
リーナは楽しそうに笑うと、カウンターの下から何かを取り出した。
「では、ギルドカードを発行しますね」
手渡されたのは、名刺サイズの銅色のカードだった。表面には俺の名前と、『ランクF』という文字が刻まれている。
「Fランクからのスタートですか」
「はい。でも、レンさんならすぐに上がりますよ♪ 実力があれば、ランクはどんどん上がりますから」
リーナはニコニコしながら、クエストボードの方を指差した。
「初心者向けのクエストは、あちらのボードに貼ってあります。まずは簡単なものから始めてみてくださいね」
「分かりました。ありがとうございます」
「頑張ってください♪ 応援してます!」
リーナは、両手をぎゅっと握りしめて、本当に嬉しそうに笑っている。その笑顔が、やけに眩しく見えた。
俺はクエストボードに向かい、貼られている依頼書を眺める。
『スライム討伐 報酬:50ゴールド』
『薬草採取 報酬:30ゴールド』
『荷物運搬 報酬:20ゴールド』
どれも、確かに初心者向けのものばかりだ。その中で、俺は『スライム討伐』の依頼書を手に取った。森で既に何体も倒しているから、楽勝だろう。
依頼書を持って、再びリーナのところへ戻る。
「これを受けたいんですが」
「スライム討伐ですね! 分かりました」
リーナは依頼書を受け取ると、何やら書類に記入を始めた。
「討伐対象はスライム十体です。魔石を持ち帰れば、報酬をお渡しします。期限は一週間です」
「分かりました」
「気をつけてくださいね。スライムは弱いですけど、油断は禁物ですから」
「ありがとうございます」
俺がカウンターを離れようとすると、リーナが慌てたように声をかけてきた。
「あ、あの...!」
「はい?」
振り返ると、リーナが少し恥ずかしそうに俯いていた。
「また...ギルドに来てくださいね」
「もちろん。クエストの報告に来ますから」
「そ、そうですよね! じゃあ、待ってます♪」
リーナは、ぱっと笑顔を浮かべて手を振ってくれた。
俺も手を振り返して、ギルドを後にした。
外に出ると、再び街の喧騒が耳に入ってくる。俺は軽く伸びをしながら、森の方角を見やった。
「さて、さっさと終わらせるか」
スライム十体なら、十分もかからないだろう。
俺は再び城門をくぐり、森へと向かった。
森の中は、相変わらず静かだった。鳥の鳴き声と、風が木々を揺らす音だけが聞こえる。
少し歩くと、早速スライムを発見した。青いゼリー状の身体をぷるぷる震わせながら、こちらに近づいてくる。
「ファイア」
詠唱なしで、小さな火球を生成する。それをスライムに向けて放つと、スライムは一瞬で燃え尽きた。
魔石を拾い、アイテムボックスに収納する。
「一体」
そのまま森を進み、次々とスライムを倒していく。どれも一撃だ。チート能力の前では、スライムなど赤子同然だった。
五分も経たないうちに、十体の魔石が集まった。
「...早すぎるな」
さすがに、これではクエストとして成立していない気がする。だが、実力があるのだから仕方ない。
俺は森を出て、再びギルドへと戻った。
ギルドに入ると、リーナがカウンターで別の冒険者の対応をしているのが見えた。俺は少し待ってから、彼女のところへ近づく。
「お帰りなさい♪ ...あれ? もう終わったんですか!?」
リーナが驚いたように目を丸くする。
「はい。これ、魔石です」
俺はアイテムボックスから、十個の魔石を取り出してカウンターに並べた。
リーナは魔石を一つ一つ確認しながら、何度も俺の顔を見上げる。
「十体...しかも、一時間も経ってない...!?」
「ダメでした?」
「ダメじゃないです! むしろ凄すぎます...!」
リーナは興奮した様子で身を乗り出してくる。
「普通、スライム十体を倒すのに、半日はかかるんです。新人さんなら、一日がかりになることも...。それなのに、一時間以内って...!」
周囲にいた冒険者たちも、俺たちのやり取りに気づいて視線を向けてきた。ざわざわと、小さなどよめきが広がる。
「新人なのに、一時間で十体?」
「マジかよ...化け物じゃねえか」
「いや、でもレベル50なんだろ? 噂で聞いたぞ」
そんな声が聞こえてくる。
リーナは、少し誇らしげな表情で笑った。
「レンさん、本当に凄いです...! こんな新人さん、初めてです♪」
彼女の目が、キラキラと輝いている。まるで、憧れのアイドルを見るような目だ。
「報酬は五十ゴールドです。こちらをどうぞ」
リーナが革袋を渡してくれる。中には、銀貨が五枚入っていた。
「ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます♪ また、クエストを受けに来てくださいね!」
「ええ、また来ます」
俺がそう答えると、リーナは本当に嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔を見て、俺は心の中で思う。
(可愛いな...)
リーナは、間違いなく美人だ。それに、明るくて人懐っこい性格も好印象だ。こんな可愛い子が、俺に好意を持ってくれているような気がする。
まあ、気のせいかもしれないが。
俺はギルドを後にして、次は宿を探すことにした。そろそろ日も傾いてきている。今夜の寝床を確保しなければ。
街を歩いていると、『銀月亭』という看板を掲げた宿屋を見つけた。外観は綺麗で、清潔そうだ。
「ここにするか」
俺は宿屋の扉を開けて、中に入った。
内装も、外観と同じく清潔感がある。木のぬくもりを感じる、温かみのある空間だ。
カウンターには、銀髪の少女が立っていた。
いや、立っているというより、少しうつむいて本を読んでいる。小柄で、華奢な体つきだ。
「あの、すみません」
俺が声をかけると、少女がビクッと肩を震わせて顔を上げた。
青い瞳。整った顔立ち。だが、どこか儚げで、人見知りをしそうな雰囲気がある。
「い、いらっしゃいませ...」
小さな、か細い声だった。
「一泊、お願いできますか?」
「は、はい...十ゴールドです...」
俺は銀貨一枚を渡す。少女は、おずおずとそれを受け取った。
「お部屋は...二階の、二〇三号室です...」
そう言って、彼女は鍵を差し出してくれる。俺が鍵を受け取ると、彼女は再び視線を逸らした。
「ありがとう。あの、この街でお勧めの場所とかありますか?」
「お、お勧め...?」
少女は、困ったように首を傾げる。
「例えば、美味しい店とか」
「...東通りの、パン屋さんが...美味しいです...」
「そうなんですね。ありがとう、今度行ってみます」
俺が笑顔で答えると、少女は少しだけ頬を赤らめた。
「...どういたしまして」
それだけ言うと、彼女は再び本に視線を落とす。
可愛い子だな、と思いながら、俺は二階へと上がっていった。
部屋は質素だが、清潔で居心地が良さそうだった。ベッドに寝転がると、ふかふかで気持ちいい。
「はぁ...疲れた」
とはいえ、身体的な疲労はほとんどない。不死身の身体のおかげだろう。それでも、精神的には色々あった一日だ。
窓の外を見ると、夕日が街を橙色に染めている。
「異世界、一日目...」
まだ始まったばかりだ。これから、どんな冒険が待っているのか。どんな出会いがあるのか。
そして——どんな美女たちと出会えるのか。
「楽しみだな...」
俺はベッドに寝転がったまま、そう呟いた。
今日だけで、美人を二人も見た。女神様に、リーナに、そして今の銀髪の少女。
この調子なら、ハーレムも夢じゃない。
「異世界、最高だ...」
そう呟いて、俺は目を閉じた。
明日も、きっと楽しい一日になる。
そんな予感がしていた。
読んで下さりありがとうございました!
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