第16話:敏腕商人の本音
それから数日、レイラは頻繁に屋敷を訪れるようになった。
最初は週に一度程度だったのが、二日に一度になり、やがて毎日のように姿を見せるようになった。その度に、彼女は「商談があってさ」と言いながら笑顔で現れる。
だが、実際の商談は十分程度で終わってしまう。残りの時間は、屋敷で俺たちと過ごしているのだ。
「また来たのか」
クレアが、少し呆れたように言う。だが、その表情には嫌悪感はなく、むしろどこか親しみすら感じられた。
「悪い? あたしも仲間に入れてよ」
レイラは、堂々とした態度でリビングのソファに座る。その姿は、まるで昔からこの屋敷の住人だったかのような自然さだった。
「別に構わないが...お前、本当に商人か? 仕事はいいのか?」
「大丈夫大丈夫。あたしの仕事は効率的だから、時間に余裕があるんだ」
レイラは、自信満々に胸を張る。
「効率的...」
リリエルが、興味深そうにレイラを観察する。
「あなたは、時間管理が優れているのか?」
「まあね。商人ってのは、時間も金も無駄にできないからさ」
「興味深い。私も、時間管理には苦労している」
「へぇ、研究者なのに?」
「ああ。研究に没頭すると、時間の感覚を失う」
「分かる分かる。あたしも商売に夢中になると、食事も忘れるからね」
レイラとリリエルは、意外にも話が合うようだった。二人とも、自分の仕事に情熱を注いでいる点で共通しているのだろう。
ミーナは、レイラの周りをくるくると回っている。
「レイラおねえちゃん、かっこいい!」
「おう、ありがとな」
レイラは、ミーナの頭を豪快に撫でる。
「ミーナも可愛いな。将来、いい女になるぞ」
「ほんと!?」
「ああ。あたしが保証する」
ミーナは、嬉しそうに尻尾を振った。
シャルロットは、少し離れたところでレイラを観察している。最初は商人に対して警戒していたが、今では徐々に興味を持ち始めているようだった。
「シャルロット、どうした? そんなところで突っ立って」
レイラが、シャルロットに声をかける。
「...別に」
「ははっ、素直じゃないね。まぁ、お嬢様だからしょうがないか」
「お嬢様って...」
シャルロットは、少し不機嫌そうな表情になる。
「悪い意味じゃないよ。品があって、綺麗だって意味さ」
「...そう」
シャルロットは、頬を赤らめて視線を逸らした。
「でもさ、あんまり堅苦しくしてると疲れるぞ。もっと楽にしなよ」
「楽に...?」
「ああ。こっち来て、一緒に座ろうぜ」
レイラが、隣の席を示す。
シャルロットは、少し迷ってから、ゆっくりとレイラの隣に座った。
「ほら、そうそう。これでいいんだよ」
レイラは、満足そうに笑った。
こうして、レイラは徐々に屋敷に馴染んでいった。クレアとは冒険の話で盛り上がり、リリエルとは仕事の効率化について議論し、ミーナとは遊び、シャルロットとは貴族社会と商人社会の違いについて語り合う。
その姿は、まるで元々この屋敷の一員だったかのようだった。
ある日の夕方、レイラは俺を庭に呼び出した。
「なぁ、レン。ちょっと話があるんだ」
「どうした?」
俺たちは、庭のベンチに座った。夕日が、空をオレンジ色に染めている。風が優しく吹いて、木々の葉を揺らしていた。
「あのさ...」
レイラが、珍しく言葉に詰まる。
「あたし、あんたのこと...」
彼女の声が、震えている。いつもの豪快な態度とは違う、どこか繊細な雰囲気が漂っていた。
「どうした? らしくないぞ」
「...いや、何でもない」
レイラは、急に話題を変えた。
「ただ...あんたと一緒にいると、楽しいんだ」
「俺もだよ」
「商売だけじゃなくて、もっと色々...一緒にやりたいんだ」
レイラの目が、俺を真っ直ぐ見つめる。その目には、何か言いたいことがあるようだったが、結局言葉にはならなかった。
「レイラ...」
「ああ、もう! あたし、こういうの苦手なんだよ!」
レイラは、頭を抱えた。
「普段は、何でもはっきり言えるのに、こういう時だけは...」
「こういう時?」
「...バカ」
レイラは、照れたように顔を背けた。その横顔は、夕日に照らされて、いつもより柔らかく見えた。まるで、普段は見せない彼女の本当の姿が、そこにあるかのようだった。
「レン、あんたって鈍感だよな」
「え?」
「いや、何でもない。忘れてくれ」
レイラは、立ち上がった。
「そろそろ帰るわ。また明日来るから」
「ああ」
レイラは、屋敷を後にした。その背中を見送りながら、俺は何となく彼女の気持ちに気づいていた。
だが、それを言葉にすることは、まだできなかった。
翌日、レイラはいつも通り屋敷を訪れた。
「よぉ、相棒」
「おはよう、レイラ」
彼女は、昨日のことを何も言わず、いつもの調子で振る舞っている。だが、時々俺を見る目が、いつもより優しいことに気づいた。
「今日は、商談なしでいいだろ?」
「ああ。今日は休みだ」
「よし、じゃあみんなで遊ぼうぜ!」
レイラの提案で、俺たちは庭で遊ぶことになった。
クレアとレイラは、剣の稽古をしている。レイラも、商人とはいえ護身術として剣を習っているらしい。
「なかなかやるじゃないか」
「お前こそ。さすが騎士だな」
二人は、笑いながら剣を交えている。その姿は、まるで長年の友人のようだった。
リリエルは、魔法の実験をしている。レイラも興味深そうに見守っている。
「すげぇな。魔法って、こんなに繊細なのか」
「ああ。一つ一つの魔力制御が重要だ」
「商売と似てるな。細かい計算が大事なんだ」
ミーナとシャルロットは、花壇で花を摘んでいる。
「この花、綺麗!」
「ええ。とても美しいわね」
二人は、仲良く花を集めている。
レイラは、その光景を見て、満足そうに微笑んだ。
「いいな、こういうの」
「ん?」
「こうやって、みんなで過ごす時間。あたし、こういうの好きなんだ」
レイラの声には、どこか寂しさが混じっていた。
「レイラ、一人暮らしなのか?」
「ああ。商売が忙しくてさ、家族とも疎遠になっちまった」
「そうか...」
「でも、ここに来ると、家族みたいな温かさを感じるんだ」
レイラは、俺を見つめた。
「あんたのおかげだよ、レン」
「俺は、何もしてないけど」
「いや、あんたがいるから、みんなが集まってる。あんたが、この場所を作ってるんだ」
レイラの言葉は、真摯で、心から出たものだと分かった。
「ありがとう、レイラ」
「礼を言うのは、あたしの方だよ」
レイラは、また豪快に笑った。
夕方になり、レイラが帰る時間になった。
「じゃあな、相棒。また明日」
「ああ。気をつけて帰れよ」
「心配してくれるの? 嬉しいね」
レイラは、いたずらっぽく笑った。
「じゃ、また」
彼女は、手を振りながら去っていった。
クレアが、俺の隣に立つ。
「レイラ、いい奴だな」
「ああ」
「お前のこと、好きなんじゃないか?」
「...そうかもな」
「お前、どう思ってるんだ?」
クレアの問いに、俺は少し考えてから答えた。
「俺も、レイラのことが好きだ」
「...そうか」
クレアは、複雑そうな表情を浮かべた。
「また、家族が増えるな」
「怒ってるか?」
「いや。もう慣れた」
クレアは、小さく笑った。
「それに、レイラはいい奴だ。仲間として、歓迎する」
「ありがとう、クレア」
「礼を言われることじゃない」
クレアは、俺の肩を叩いた。
その夜、俺は自分の部屋で窓の外を眺めていた。星が、綺麗に輝いている。
レイラのことを考えていた。彼女は、いつも明るくて、強くて、でもどこか寂しさを抱えている。そんな彼女を、支えてあげたい。
ノックの音が聞こえた。
「レン、起きてる?」
シャルロットの声だ。
「ああ、入れよ」
シャルロットが、部屋に入ってくる。
「レイラのこと...考えてたんでしょ?」
「...分かるのか?」
「ええ。あなたの表情を見れば」
シャルロットは、俺の隣に座った。
「レイラは、いい人よ。私も、最初は警戒してたけど、今では友達だと思ってる」
「そうか」
「だから...レイラが仲間になるなら、私は歓迎するわ」
シャルロットは、微笑んだ。
「ありがとう、シャルロット」
「どういたしまして」
シャルロットは、俺の手を握った。
「私たち、みんな家族よね」
「ああ」
「これからも、ずっと一緒よ」
「ああ。約束する」
シャルロットは、満足そうに微笑んで、部屋を出ていった。
俺は、再び窓の外を眺めた。
レイラも、きっといつかこの家族の一員になる。
そう確信していた。
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