第14話:ツンデレ令嬢の心変わり
魔物襲撃事件の翌日、パーティー最終日の朝を迎えた。
昨日の事件で、王都の街は少なからず被害を受けたが、幸い死者は出なかった。俺たちが迅速に対応できたおかげだ。街の人々は、俺たちに感謝の言葉を惜しみなく投げかけてくれた。
公爵も、朝食の席で何度も礼を述べてくれた。
「レン殿、本当にありがとうございました。あなた方がいなければ、多くの命が失われていたことでしょう」
「いえ、当然のことをしただけです」
「謙虚ですな。だが、あの戦いぶりは見事でした」
公爵は、満面の笑みで俺の肩を叩いた。
朝食を終えると、俺は庭を散歩することにした。昨日の戦闘で少し疲れていたわけではないが、朝の空気を吸いたかった。
広い庭園には、色とりどりの花が咲いている。手入れが行き届いていて、まるで絵画のような美しさだ。噴水の周りを歩いていると、ベンチに座っている人影が目に入った。
シャルロットだった。
彼女は、一人で何かを考え込んでいるようだった。俺の足音に気づいて、顔を上げる。
「...レン」
「おはよう、シャルロット」
「おはよう...」
シャルロットは、少し戸惑ったような表情をしている。昨日までの高圧的な態度は完全に消えていて、むしろどこか不安そうにすら見えた。
「隣、座ってもいいか?」
「...ええ」
俺は、シャルロットの隣に座った。しばらく、沈黙が続く。鳥のさえずりと、噴水の水音だけが聞こえる。
「あの...」
シャルロットが、小さな声で口を開いた。
「昨日のこと...」
「うん」
「本当に...ありがとう」
その言葉は、心の底から絞り出されたような、真摯なものだった。
「どういたしまして」
「私...あなたのこと、誤解してたわ」
シャルロットは、膝の上で手を組みながら続けた。
「最初に会った時、平民だとか、失礼なことを言ったわね」
「気にしてないよ」
「でも、私は気にしてるの」
シャルロットは、俺の方を向いた。その青い瞳には、後悔の色が浮かんでいる。
「あなたは...本当に優しくて、強くて...それに、誰に対しても分け隔てなく接する」
「そんな大したことじゃないよ」
「いいえ、大したことよ」
シャルロットは、強く首を横に振った。
「貴族の中には、平民を見下す者が多いわ。私も、その一人だった。でも、あなたは違う。身分なんて関係なく、困っている人を助ける」
彼女の声が、少し震える。
「昨日、私は民間人を守ろうとした。でも、力が足りなかった。あのままだったら、私も、守ろうとした人たちも、みんな死んでいたかもしれない」
「でも、実際には誰も死ななかった」
「それは、あなたが助けてくれたから」
シャルロットは、俺をじっと見つめた。
「私...あなたともっと一緒にいたい」
その言葉に、俺は少し驚いた。
「一緒に...?」
「ええ。あなたと一緒なら、私はもっと強くなれる気がするの。もっと多くの人を守れる気がするの」
シャルロットは、少し恥ずかしそうに視線を逸らしながら続けた。
「それに...あなたと一緒にいると、楽しいわ。初めて、心から楽しいと思えた」
「シャルロット...」
「だから...お願い」
シャルロットは、もう一度俺を見つめた。その目には、真剣な光が宿っている。
「冒険に、連れて行ってくれないかしら?」
俺は、少し考えてから答えた。
「いいけど、危険だぞ」
「分かってるわ。でも、あなたがいれば大丈夫」
「そこまで信頼してくれるのか」
「...ええ」
シャルロットは、頬を赤らめながら頷いた。
「あなたは、私が初めて心から信頼できると思った人よ」
その言葉を聞いて、俺は微笑んだ。
「分かった。じゃあ、一緒に行こう」
「本当!?」
シャルロットの表情が、パッと明るくなる。
「ありがとう、レン!」
彼女は、嬉しそうに俺の手を握った。その手は、温かくて、少し震えている。
「でも、お父さんには許可をもらわないとな」
「...そうね。父に、話してみるわ」
シャルロットと俺は、公爵の書斎へと向かった。
ノックをすると、中から「どうぞ」という声が聞こえる。
扉を開けると、公爵が机に座って書類を読んでいた。俺たちの姿を見ると、驚いたように顔を上げる。
「シャルロット、それにレン殿。どうしたのかね?」
「父上...お話があります」
シャルロットは、緊張した様子で一歩前に出た。
「私...レンさんと一緒に、冒険に出たいのです」
「冒険に...?」
公爵は、少し驚いたような表情を浮かべた。
「そうです。レンさんたちと共に旅をして、もっと強くなりたいのです」
「...そうか」
公爵は、しばらく黙って考え込んでいたが、やがて穏やかな笑顔を浮かべた。
「良いだろう」
「本当ですか!?」
シャルロットが、驚いたように声を上げる。
「ああ。お前が、そこまで真剣に人を信頼する姿を見たのは初めてだ」
公爵は、俺の方を向いた。
「レン殿、娘をよろしく頼む」
「はい。必ず、守ります」
「うむ。それに...」
公爵は、少し寂しそうな笑顔を浮かべた。
「お前も、もう大人だ。自分の道を選ぶ権利がある。父としては寂しいが、応援しよう」
「父上...」
シャルロットの目に、涙が浮かぶ。
「ありがとうございます、父上」
「いいんだ。ただ、時々は手紙を寄こしてくれよ」
「はい!」
シャルロットは、嬉しそうに頷いた。
こうして、シャルロットは正式に俺たちの仲間となった。
その日の午後、俺たちは王都を出発し、街の屋敷へと戻った。
馬車の中で、シャルロットは少し緊張した様子だった。
「大丈夫か?」
「ええ...ただ、みんなと上手くやっていけるかしら」
「心配しなくても大丈夫だよ。みんな、いい人たちだから」
「...そうね」
シャルロットは、少しだけ安心したように微笑んだ。
屋敷に到着すると、クレアたちが玄関で出迎えてくれた。
「お帰り、レン」
クレアが、笑顔で迎えてくれる。だが、シャルロットの姿を見ると、少し複雑な表情になった。
「...また増えたのか」
「まあ、色々あってな」
「そうか...」
クレアは、少し溜息をついたが、すぐに表情を戻した。
「まあ、仕方ない。レンが決めたことなら、私は従う」
リリエルは、シャルロットを興味深そうに観察している。
「よろしく、シャルロット」
「...こちらこそ」
シャルロットは、少し緊張しながら答える。
ミーナは、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「わーい! シャルロットおねえちゃん!」
「お、おねえちゃん...?」
シャルロットは、少し戸惑っている。だが、ミーナの無邪気な笑顔を見て、表情が緩んだ。
「...ええ。よろしくね、ミーナ」
シャルロットが、ミーナの頭を優しく撫でる。ミーナは、嬉しそうに尻尾を振った。
「みんな、優しいのね...」
シャルロットは、小さく呟いた。
「こんなに...温かい場所、初めて...」
その言葉を聞いて、俺は嬉しくなった。シャルロットが、ここに居場所を見つけてくれたのだと分かったからだ。
その夜、俺は自分の部屋で寛いでいた。
今日も色々なことがあった。シャルロットが仲間に加わり、屋敷はより賑やかになった。これから、どんな冒険が待っているのか。楽しみで仕方ない。
そんなことを考えていると、ノックの音が聞こえた。
「レン...入ってもいい?」
シャルロットの声だ。
「どうぞ」
扉が開き、シャルロットが入ってきた。部屋着に着替えていて、髪も下ろしている。その姿は、昼間とは全く違う柔らかい雰囲気を纏っていた。
「どうした?」
「その...お話ししたくて」
シャルロットは、少し恥ずかしそうに俯いている。
「座れよ」
俺がベッドの端を示すと、シャルロットは少し迷ってから、そこに座った。
しばらく、沈黙が続く。
「あの...レン」
シャルロットが、意を決したように口を開いた。
「来てくれたの...?」
「ああ。話したいことがあるって」
「そうじゃなくて...」
シャルロットは、顔を真っ赤にしながら続けた。
「私のために...来てくれたの...?」
その言葉の意味を理解して、俺は少し驚いた。
「シャルロット...」
「私...ずっと、あなたのことを考えてた」
シャルロットは、俺を見つめた。その目には、真剣な光が宿っている。
「あなたと一緒にいると、心が温かくなるの。こんな気持ち、初めて...」
「シャルロット」
「私...あなたのこと...」
シャルロットは、言葉に詰まる。顔が真っ赤になっていて、視線が泳いでいる。
「好き...かも...」
その言葉は、小さくて、震えていた。だが、確かに俺の耳に届いた。
俺は、シャルロットの手を取った。
「俺も、シャルロットのことが好きだよ」
「...本当?」
「本当だよ」
シャルロットの目から、涙が溢れ出した。
「よかった...私、怖かったの。断られたらどうしようって...」
「そんなわけないだろ」
俺は、シャルロットを優しく抱きしめた。彼女の身体は、少し震えている。だが、徐々に落ち着いていくのが分かった。
「レン...」
「シャルロット」
俺たちは、自然とキスをしていた。
柔らかい唇の感触。温かい吐息。シャルロットの心臓の鼓動が、俺にも伝わってくる。
長いキスの後、シャルロットは恥ずかしそうに俺の胸に顔を埋めた。
「...初めてだったわ」
「俺も、何度目かだけど」
「...何度目?」
シャルロットが、少し不機嫌そうに顔を上げる。
「クレアたちとも...?」
「まあ、ね」
「...むぅ」
シャルロットは、頬を膨らませた。その姿が可愛くて、思わず笑ってしまう。
「笑わないで!」
「ごめん、ごめん。可愛かったから」
「可愛い...」
シャルロットは、また顔を赤くした。
「...もう。あなたって、本当に...」
だが、その表情は幸せそうだった。
「レン、私...ずっとあなたと一緒にいたい」
「俺もだよ」
「これから、色々な場所に行くのよね」
「ああ。楽しみだろ?」
「ええ...とても」
シャルロットは、また俺の胸に顔を埋めた。
「あなたと一緒なら、どこへでも行けるわ」
俺は、シャルロットの髪を優しく撫でた。
こうして、俺たちは長い時間、寄り添っていた。
やがて、シャルロットが眠そうに目を閉じる。
「眠いなら、もう戻った方がいいぞ」
「...もう少し、このままで」
「分かった」
俺は、シャルロットが眠るまで、ずっと抱きしめていた。
穏やかな寝息を立て始めたシャルロットを、俺はそっと自分の部屋まで運んだ。ベッドに寝かせて、毛布をかける。
「おやすみ、シャルロット」
俺が囁くと、シャルロットは寝たまま小さく微笑んだ。
俺も、隣に横になった。
今日も、良い一日だった。
新しい仲間が増えて、屋敷はより賑やかになった。
これから、もっと楽しい冒険が待っている。
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